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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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88  合流・作戦開始

 魔法工学の粋を集めた黒塗りの車列は、荒野を切り裂く黒い矢となって疾走していた。  


 エデンの舗装された道路とは異なり、国境付近の道は凸凹とした悪路だ。しかし、車内は驚くほど静かで、振動一つ感じさせない。


 後続の車両に乗ったシルバーウイングの面々は、窓の外を飛ぶように過ぎ去る景色と、あまりにも快適な乗り心地のギャップに目を白黒させていた。


「おいおい、すげぇなこりゃ……。外じゃ砂利が跳ね回ってるはずなのに、まるで高級宿のソファに座ってるみたいだぜ」


 ロックが、ふかふかのシートをバンバンと叩いて感嘆の声を上げる。


「ああ、それにこの広さだ。俺の図体でも足が伸ばせるなんてな……快適過ぎて、まるで戦場に向かってる気がしないな」


 巨躯のアベルも、窮屈さを感じさせない車内にご満悦だ。


「揺れないのはいいことです。酔うのは嫌ですからね」


 魔法使いのセレナが安堵したように言うと、副団長のエリアが窓の外を指さして笑った。


「大丈夫よセレナ。見て、この景色。揺れるどころか滑るように走ってるわ。……それにしても速いわね。これならあっという間に着くわ」


「ええ。速度も尋常ではありませんね。馬なら泡を吹いて倒れる距離を、一瞬で駆け抜けています……。これがエデンの最先端技術なのですね」


 団長のセリスもまた、丁寧な口調で感心しつつ、手元の地図と窓外を見比べて舌を巻いていた。PCの彼女にとっては現実世界の再現とも呼べる技術である。


 一方、先頭を行く一際大きな指揮車両。  


 ハンドルを握るのは戦車隊隊長のガレオスだ。瞳は鋭く前を見据え、その厳つい風貌に似合わず、今回は極めて繊細かつ安全なハンドル捌きを見せている。助手席にはカシューが座り、ダッシュボードに広げたモニター地図で現在地と到着予定時刻を確認していた。


「到着まであと十分といったところか。ガレオス、揺れは?」


「問題ありません、陛下。路面状況を常時スキャンし、サスペンションを最適化しております。後部座席の皆様の紅茶も零れないレベルを維持中です」


「うむ、流石だ」


 そして、広々とした後部座席。その中央にはカリナが座り、その右側にはカグラ、左側にはサティアが密着するように座っていた。


「……おい、二人とも寄り過ぎじゃないか? 席は広いんだぞ」  


 両側から柔らかい感触に挟まれ、カリナが呆れたように言う。


「いいじゃないの。決戦前のエネルギー充填よ、充填。カリナちゃん成分を吸っておかないと力が出ないもの」  


 カグラがカリナの腕に頬を擦り寄せる。


「ふふ、揺れないとはいえ、こうしてカリナさんに触れていると安心しますから」  


 サティアもまた、反対側の腕にそっと手を添えて微笑んでいる。


「まったく……」  


 カリナは溜息をついたが、その表情には微かな笑みが浮かんでいた。二人の温もりから伝わるのは、絆と絶対的な信頼だ。彼女は心地良さを感じ、二人に身を任せた。



 ◆◆◆



 やがて車列は速度を緩め、目的地である「ビィタールの谷」の南端へと到着した。  


 そこには既に、白銀の輝きが満ちていた。ルミナス聖光国の精鋭、聖騎士団だ。整然と並ぶ白銀の鎧は陽光を反射し、眩いばかりの光景を作り出している。  


 そしてその最前列には、聖騎士団とは異なる装備を纏った四人の姿があった。ルミナス最強の冒険者パーティ、『ルミナスアークナイツ』だ。


 エデンの黒い車列が停止し、ドアが開く。カシュー、カリナ、カグラ、そしてサティアが降り立つと、ルミナスの陣営から一人の男が歩み寄ってきた。壮年の威厳と、歴戦の戦士だけが持つ覇気を纏った王――ジラルドだ。


「よくぞ参られた、カシュー王。そして……」


 ジラルドの厳格な瞳が、カリナを捉えて父のような温かさを帯びた。


「久しいな、カリナ。我が国を救ってくれた英雄に、再びこうして会えて嬉しいぞ」


「お久し振りです、ジラルド王。お元気そうで何よりです」


 カリナが敬意を込めて臣下の礼をとる。王と一介の冒険者という立場でありながら、そこには確かな信頼と絆があった。ジラルドはにこやかに頷くと、ふと思い出したように付け加えた。


「そう言えば、娘のセラフィナがそなたに会いたがっていてな。『どうしてカリナを連れてきてくださらないのですか!』と、城を出る時に詰め寄られて難儀したものだ」


「えっ、セラフィナ様ですか……?」


 ルミナスの姫君からの熱烈なラブコールに、カリナは困ったように頬を掻いた。


「この戦いが終わったら、ぜひ顔を見せてやってくれ。あの子も喜ぶ」


「は、はあ……善処します」


 タジタジになるカリナの背後から、爽やかな笑顔の青年騎士が歩み出てきた。『ルミナスアークナイツ』の団長、聖騎士のカーセルだ。その横には槍術士のカイン、陰陽術士のユナ、神聖術士のテレサも並んでいる。かつて悪魔討伐の際に共闘した、気心の知れた友人達だ。


「元気そうだな、カーセル。カイン、ユナ、テレサも」


「カリナちゃんも元気そうで何よりだね。また一緒に戦えるなんて嬉しいよ」


「へへっ、相変わらずちっこくて可愛いな、カリナちゃんは」


「もう、カインったら失礼でしょ。でも本当に、また会えて嬉しいわ、カリナちゃん」


「ご無沙汰しております、カリナさん。あなたの背中は私たちが守りますから」


 カーセルの実直な笑顔、カインの軽口、ユナの親愛、そしてテレサの慈愛。再会を喜ぶのも束の間、カシューがイヤホン型の通信機に手を当てる。その瞬間、通信機越しにノイズ交じりの報告が入った。


「――こちらヨルシカ軍、ソウガだ! ガリフロンド公国全域への結界展開、完了した! 『天蓋封縛(てんがいふうばく)』発動……これより、奴らの退路を断つ!」


「了解した、ソウガ王。こちらも作戦を開始する」


 カシューが頷くと同時に、全員の視線が谷の入り口へと向けられた。そこには、禍々しい紫色の霧が渦巻き、物理的・魔法的な侵入を拒む強力な結界が張られている。ヴォイド・リチュアル・サンクトゥムの本拠地を守る最後の砦だ。


「サティア」


「はい」


 カシューの合図で、サティアが一歩前に進み出る。彼女は一本の杖を取り出し、両手で恭しく構えた。柄の部分が鮮やかな空色をした、ターコイズブルーのメイデンロッドだ。彼女は静かに瞳を閉じる。


「――エピファニー・オブ・セイント・メイデン」


 凛とした詠唱と共に、サティアの背中に幻の光翼が出現する。それは彼女の魔力を極限まで高め、神聖術の出力を跳ね上げる自己強化術式。周囲の空間が清浄な光に満たされ、ルミナスの聖騎士達すらも息を呑む神々しさを放つ。


 サティアは目を見開き、メイデンロッドを谷へ向けて掲げた。


「穢れし理を断ち、清浄なる光をもたらさん――」


 空気が震える。それは、この世界において「神の花嫁」と呼ばれる聖女にのみ許された、伝説級の究極儀式。


「――カノン・オブ・ザ・ディヴァイン・ブライド!」


 サティアを中心に、純白の波紋が広がった。  


 それは攻撃ではない。世界規模で癒し、祝福し、浄化をもたらすとされる絶対的な「祈り」の具現化だ。光の波紋が紫色の霧に触れた瞬間、霧は悲鳴のような音を立てて蒸発していく。禍々しい結界は、聖女の圧倒的な浄化の光によって中和され、ガラス細工のように砕け散った。


「結界、消滅確認!」


「今よ、カリナちゃん!」


 カグラの叫びに、カリナが続く。彼女は谷の奥、敵の本拠地から漂う異質な魔力の気配を感じ取っていた。精霊の力を強制的に捻じ曲げ、汚染し、無効化する「反転精霊兵器」の波動だ。


「精霊達よ、我が声に応えよ――」


 カリナの声が戦場に響き渡る。それは単なる魔法の詠唱ではない。世界の理そのものにアクセスする、王の権限。


「――精霊王の加護よ、発動しろ! レグナ・スピリトゥス!!」


 刹那、カリナの体から虹色の波動が爆発的に広がり、エデン、ルミナス、その場の全ての友軍を包み込んだ。


 精霊との同調率が常時最大化される『魂の共鳴』。精霊への干渉・反転・汚染に対する『完全耐性』。契約精霊の消耗を肩代わりする『王の循環』。


 そして何より――悪魔とヴォイド・リチュアル・サンクトゥムに対する、絶対的な『存在特攻』。


 これら全ての加護が、味方全体に付与されたのだ。


「こ、これは……力が、溢れてくる……!?」「僕達に精霊の加護がかけられたのか……!?」


 セリスやカーセル達が、自身の体に宿った圧倒的な力と温もりに驚愕する。同時に、谷の奥底に設置されていた反転精霊兵器群や装備が、カリナの覇気と、全軍に満ちた精霊の光を受けた瞬間にショートし、爆発四散していく。敵が用意していた切り札は、戦う前に無力化されたのだ。


「よし、丸裸だ」


 カリナが目に魔力を集中させる。千里眼発動。視界が一気に拡大し、谷の奥にある施設の内部構造、敵の配置、罠の有無までもが手に取るように透けて見えた。


「構造確認。……本丸は中央のタワー。左右の研究棟にも多数の反応あり」


 カリナは即座に情報を共有し、作戦を伝達する。


「カグラ、セリス! 私と共に中央へ突っ込むぞ! 敵の中枢を叩く!」


「了解よ、相棒!」


「承知しました! 全力でお供します!」


 カグラが懐から霊力を込めた護符を取り出して構え、セリスが剣を抜く。


「左右の研究室は、シルバーウイングの残りのメンバーとカーセル率いるルミナスアークナイツ、それに相律鎮禍連の精鋭で分担して制圧してくれ! 中の研究資料と、捕らわれている精霊がいれば保護を頼む!」


「ええ! 任せて!」


「了解だよ、カリナちゃん! 精霊達の解放、僕達に任せてくれ!」


 エリアとカーセルが力強く応える。


「カシューとジラルド王は、本隊を率いて谷を包囲! 一匹たりとも逃さないでくれ! 精鋭達は谷内部の敵軍を殲滅、捕縛だ!」


「分かった。背後は任せてくれ!」


「うむ、任せよ!」


 全ての準備は整った。カリナはフリルのついたロングコートと冒険者風のドレスを翻し、敵地を指差した。


「行くぞッ! 作戦開始!!」


 号令と共に、カリナが地を蹴った。いや、蹴っていない。彼女は重力を無視し、空中を足場として駆け降りたのだ。


 上級ランクの歩方技術、空歩。


 カリナ、カグラ、そしてセリスの三人は、空を駆ける神速の影となって、谷底の中央タワー目掛けて一気にダイブした。


「遅れないで! 私達も続くわよ!!」


「ああ、僕達も行くぞ!!!」


 エリアやアベル達シルバーウイング、そしてカーセル率いるルミナスアークナイツ、相律鎮禍連の精鋭達もそれに続く。  


 彼らは断崖の段差を軽やかに飛び降り、あるいは壁面を蹴って駆け降りる。まるで雪崩のように、エデンやルミナスの精鋭達も谷底へと殺到していく。


 英雄達の突撃が、静寂を破った。エデン、ルミナス、そしてヨルシカの想いを乗せ、最後の戦いが幕を開ける。

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