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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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78  陰陽国国王ソウガとの連携  

 人払いを済ませるや否や、ソウガ王は堅苦しい威厳をかなぐり捨て、親しげに身を乗り出した。


「久しぶりね、ソウガ君。……いえ、陛下とお呼びすべきかしら?」


「よしてくれ。貴女と私の仲ではないか。私がまだ鼻垂れ小僧だった頃から、貴女には世話になりっぱなしだ」


 ソウガは苦笑しながら手を振った。彼は幼少期、お忍びで城下を飛び出したところを魔物に襲われ、当時この国を訪れていたカナミに助けられた過去がある。以来、彼はカナミを実の姉のように慕っていた。


「して、今日は大事な話があるのだろう? わざわざ貴女が足を運ぶほどだ」


 ソウガの表情が、王のそれに戻る。カナミは頷き、扇子を閉じて居住まいを正した。


「ええ。単刀直入に言うわ、ソウガ君。……私、これからは『エデンのカグラ』として、前線に復帰することにしたわ」


「なっ……! カグラとして、再び戦うと言うのか!?」


 ソウガが驚きに目を見開く。


「ええ。事態はそれほど切迫しているの。……紹介するわ。こちらはエデンの特記戦力、カリナちゃん。今回の作戦の、正真正銘の『鍵』となる人物よ」


 カナミに促され、カリナが一歩前に出た。紫と白のコントラストが美しい衣装に身を包み、精霊王の加護による淡い光を纏ったその姿。凛とした青い瞳が、まっすぐにソウガを見つめる。カリナは王族に対する礼儀を弁え、恭しく一礼した。


「エデンより参りました、召喚術士のカリナと申します。お初にお目にかかります、国王陛下」


 その瞬間。ソウガの動きが、ピタリと止まった。瞬きすら忘れたかのように、カリナを凝視している。


 ドクン。  


 若き王の胸が高鳴った。可愛い。ただ可愛いだけではない。神秘的で、力強く、それでいてどこか儚げな……まさに天から降りてきた仙女のような美しさ。しかも、その可憐な唇から紡がれる凛とした敬語の響きが、彼の心を撃ち抜いた。


「……ッ!!」


 ソウガの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。彼は口元を震わせ、カナミに向かって裏返った声で叫んだ。


「あ、姉上……いや、カグラ殿! こ、この美しい方は……! あ、あまりに……その、私の理想と申しますか、どストライクというか……!」


「あらあら、まあまあ」


 カナミがニヤニヤと扇子で口元を隠す。


「一目惚れ? ソウガ君も隅に置けないわねぇ。でも残念、カリナちゃんは高嶺の花よ?」


「そ、それは! いや、しかし……ゴホン!」


 ソウガは慌てて咳払いをし、必死に威厳を取り繕おうとしたが、耳まで真っ赤だ。当のカリナは、そんな王の様子を不思議そうに見ているだけだ。


「……顔が赤いようですが、お加減でも悪いのですか?」


「い、いえ! 健康そのものです! カリナ殿! よ、よろしく頼む!」


「? はい、よろしくお願い致します」


 カリナは色恋沙汰に疎い。華麗にスルーされる。ひとまず場が和んだところで、カナミは真剣な話に戻した。


「ヴォイド・リチュアル・サンクトゥムの本拠地が判明したわ。場所は『ビィタールの谷』よ」


「ビィタールの谷……! あのような不毛の地に……」


 ソウガが表情を険しくする。さらに、災禍伯メリグッシュとガリフロンド公国のドゥーカス公爵の繋がり、そして敵が使う『反転精霊装備』と『虚無』の力の脅威を伝える。


「だが、希望はあるわ。カリナちゃんは精霊王に認められ、その加護を授かった唯一の召喚術士。彼女の力があれば、敵の虚無を無効化できる」


「……なるほど。すべての命運は、カリナ殿の双肩にかかっているというわけか」


 ソウガの瞳に、恋心とは別の、敬意と決意が宿る。


「さらに、既に『ルミナス聖光国』がエデンと連合軍を組み、まずはそのビィタールの谷を叩く予定よ。そしてその連合作戦は『対魔連合戦線』」


「ルミナスまで……! エデンが中心となって動いているのだな。確か騎士王カシューが建国したと言われる……。しかしその国王『カシュー』とはどのような人物なのだ?」


 ソウガが興味深そうに尋ねる。カナミは「ふふ」と笑うと、左耳からイヤホン型の通信機を取り外した。


「なら、直接話してみるといいわ。……もしもし、カシュー? 今、ヨルシカのソウガ王と一緒にいるの。貴方に興味があるみたいだから、繋ぐわね」


 カナミは起動した通信機をソウガに差し出した。


「ソウガ君、これを左耳につけて。魔力を通せば声が聞こえるわ」


「こ、こうか?」


 ソウガはおっかなびっくり通信機を受け取り、自身の左耳に装着した。


「初めまして、ヨルシカ国王陛下。エデン国王のカシューです。突然の非礼をお許しください」


 耳元から響くカシューの声は、理知的で威厳のある、一国の王としての重みがあった。ソウガも居住まいを正し、王としての顔で応える。


「うむ、初めましてカシュー殿。ソウガ・ヨルシカである。……声を聞くだけで分かる。貴殿は若くして優れた指導者であるようだな」


『恐縮です。陛下こそ、若くして陰陽の国を統べる英主と伺っております。……単刀直入に申し上げます。ビィタールの谷に巣食う闇と、ガリフロンド公国の闇を祓うために、ヨルシカの陰陽術と結界術の力、どうかお貸し願えないでしょうか』


「ふっ、礼儀正しい男だな。……良かろう!」


 ソウガは力強く頷いた。


「この世界の危機に、ヨルシカが黙って見ているわけにはいかぬ。それに、我が憧れのカグラ殿と、我が国の客人であるカリナ殿が命を懸けているのだ。ヨルシカもその『対魔連合戦線』に参加しよう!」


『感謝します、ソウガ王。貴国が加われば、まさに百人力です』


「うむ! 詳細な詰めは後ほど行おう。まずは熱き盟約をここに!」


「はい、ではまた後日にでも打ち合わせを行いましょう」


 通信を終えると、ソウガは通信機を外してカナミに返そうとした。


「いやぁ、便利な道具があるものだ。……返すぞ、カグラ殿」


「いいえ。それはソウガ君が持っていて」


 カナミは首を横に振り、通信機を押し戻した。


「えっ? しかし、これはエデンとの連絡に必要なものでは……」


「これからの戦い、各国のトップ同士がリアルタイムで連携を取る必要があるわ。カシューとのホットラインは、私が持っているより、貴方が持っているべきよ。それに……」


 カナミは懐から一枚の式神符を取り出し、ひらひらと振ってみせた。


「私にはこれがあるもの。これからはこの式神をエデンに飛ばしてやり取りするわ。その方が私らしくて、風情もあるでしょ?」


「なるほど、流石はカグラ殿だ。……承知した。この通信機は、エデンとの絆として、私が責任を持って預かろう」


 ソウガは大切そうに通信機を握りしめた。そして、晴れやかな顔で宣言する。


「さあ、良き盟約には良き酒が必要だ! これより城の大広間にて、対魔連合戦線の結成と、エデンからの客人への歓迎を祝して宴を開くぞ! 皆のもの、準備にかかれ!」


 ソウガの号令一下、城内が慌ただしく、しかし活気を持って動き出した。



 ◆◆◆



 その夜、ヨルシカ王城の大広間にて、盛大な祝宴が催された。舞台では雅楽が奏でられ、美しい舞姫たちが舞を披露する。テーブルには山海の珍味が所狭しと並べられ、最高級の日本酒が振る舞われた。


「さあさあ、カリナ殿! こちらの酒は我が国の秘蔵で……」


 ソウガ王が自ら徳利を持ち、カリナの盃に酒を注ごうとする。その顔はデレデレに緩みっぱなしだ。


「申し訳ありません、ソウガ陛下。私はまだこの見た目ゆえ、お酒は頂けないのです」


 カリナは申し訳無さそうに、しかしきっぱりと断った。その幼さが残る容姿を見れば、それは当然の返答だった。


「お、おおっ、そうでしたか! これは大変失礼した! あまりに美しいので、つい……! では、こちらの特製果実水を!」


「ありがとうございます」


 ソウガは慌てて果実水の入った硝子の杯を差し出した。 カリナはそれを受け取り、喉を潤した。甘酸っぱい果実の香りが広がる。


「ふふっ、ソウガ君ったら張り切っちゃって。でも、これで三国同盟は盤石ね」


 カナミはそんな二人を微笑ましく眺めながら、満足そうに自分の杯を傾けた。エデン、ルミナス、そしてヨルシカ。頼もしい仲間達と共に、いよいよ反撃の狼煙が上がる。


 ――待っていろ、ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム。    


 古都の夜空に響く雅楽の音色は、来たる決戦への序曲のように、力強く鳴り響いていた。



 ◆◆◆



 ヨルシカ王城で一夜を過ごした翌朝。空は突き抜けるような青さに包まれていたが、城門の前には少しばかり湿っぽい空気が流れていた。


「……本当に行ってしまうのか、カリナ殿。もう少し、いや、あと一週間ほど滞在してもバチは当たらぬと思うのだが」


 ソウガ王が、未練たっぷりの様子でカリナに詰め寄っていた。昨日どこへやら、今の彼は恋する少年の顔をしている。


「お気持ちはありがたいですが、一刻を争う事態です。持ち帰った『反転精霊装備』の解析を急がねばなりません」


 カリナはまた別の可愛らしい衣装に身を包み、毅然と答えた。その瞳には、来るべき決戦への意志が宿っている。


「それに、カシュー国王とも調整が必要です。私が一度エデンに戻り、情報を統合しなければ」


「うぐぐ……正論だ。王として引き止めるわけにはいかぬ。だが、私の心は張り裂けそうだ……!」


 大袈裟に胸を押さえるソウガに、横にいたカナミが苦笑しながら扇子で肩を叩いた。


「はいはい、そこまでよソウガ君。カリナちゃんは遊びに行くんじゃなくて、戦いの準備に行くの。男ならドンと構えて送り出してあげなさい」


「わ、分かっている! 分かっているとも、姉上……いや、カグラ殿!」


 ソウガは居住まいを正すと、真剣な眼差しでカリナを見つめた。


「カリナ殿。我が国も直ちに準備を整え、約束通り『対魔連合戦線』に参加する。必ずや貴女の力になってみせよう」


「はい。頼りにしております、ソウガ陛下」


 カリナが丁寧に一礼すると、ソウガは再び顔を赤らめて「うむ!」と大きく頷いた。


「カグラも、世話になったな。ヨルシカの協力が得られたのは、お前のおかげだ」


「いいのよ。私も久しぶりにここの空気を吸えてリフレッシュできたわ」


 カナミは優しく微笑むと、カリナの手を握った。


「私はこれから、自身の組織『相律鎮禍連(そうりつちんかれん)』の手練れを招集するわ。陰陽術と相克術のエキスパート達よ。彼らを連れて、必ずエデンへ向かう。……だから、先に行ってて」


「ああ、待っている。戦場で背中を預けるのを楽しみにしているぞ」


「ふふ、任せておいて。伊達に100年生きてないわよ」


 二人は固い握手を交わした。カリナは頷くと、空に向けて右手を掲げた。


「来い、ペガサス!」


 嘶きと共に、純白の翼を持つ天馬が空から舞い降りた。  輝く鬣と、穢れのない白い馬体。それは希望を運ぶ使者のように美しい。カリナは隊員を抱え、軽やかにその背に跨った。


「じゃあ、また会おう!」


「気をつけてな、カリナ殿ーッ! 私のことは忘れないでくれーッ!」


 ソウガの叫びとカナミの笑顔に見送られ、ペガサスは力強く羽ばたいた。風を切り、ぐんぐんと高度を上げていく。眼下に広がる和の都が、次第に小さくなっていく。


 ――次は、エデンでの決戦だ。


 カリナは前を見据えた。その背中は、以前よりもひと回り大きく、頼もしく見えた。



 ◆◆◆



 カリナの姿が彼方に消えるのを見届けると、カナミは表情を引き締めた。扇子を懐にしまい、懐から数十枚の式神符を取り出す。


「さて……私も働きますか」


 彼女は指に魔力を込め、祝詞を詠唱した。


急々(きゅうきゅう)如律令(にょりつりょう)――飛びなさい、我が言葉を伝える翼たちよ!」


 放たれた札は、次々と光を帯びた小鳥へと姿を変え、四方八方へと飛び去っていった。それらは大陸各地に散らばる『相律鎮禍連』の支部や、隠棲している手練れの術士たちの元へ向かう。カグラ復活の報せと、エデンへの集結命令を携えて。


「災禍伯メリグッシュ……そしてドゥーカス公爵。私の可愛い妹分とその世界を脅かすのなら、容赦はしないわ」


 ヨルシカの風に長い黒髪をなびかせ、伝説の相克術士は静かに、しかし激しい闘志を燃やしていた。



 ◆◆◆



 一方その頃、エデン。その都市の西部にある『エデン王立学園』の一室では、重苦しい空気が流れていた。


「え、えー……と。ですから、召喚術というのは、単に魔物を呼び出すだけではなくてですね……その、精霊や異界の存在と心を通わせ、契約を結ぶことで……」


 教壇に立っているのは、召喚術士代行、エルフのリーサだった。明るいオレンジの髪を後ろで束ね、学園の講師服の上からローブを羽織っている彼女は、手元のメモを握りしめながら、震える声で講義を行っていた。


 彼女はカリナの活躍に感銘を受け、召喚術の可能性を広めるために学園の特別講師として教壇に立っていた。だが、現実は厳しかった。


「ねえ、召喚術って結局、魔物使いと何が違うの?」 「詠唱も長いし、契約とか面倒くさそうじゃね?」 「普通に火魔法で焼いた方が早くない?」


 階段教室に座る生徒たちの反応は冷ややかだ。私語が絶えず、あからさまに退屈そうな顔をしている者もいる。この世界において、魔法使いは自身の魔力で現象を起こすのが主流だ。他者の力を借りる召喚術は、「他力本願」「手間がかかる割に地味」という偏見が根強かった。


「ち、違います! 契約精霊との連携は、一人では不可能な戦術を可能にしますし、高位の精霊ならば天候さえも……!」


 リーサは必死に声を張り上げるが、生徒達の視線は冷たいままだ。


「でもさー、リーサ先生。その『高位精霊』とやらを呼べるのって、あのカリナ様くらいなんでしょ?」 「俺たちには無理だよなー」 「才能ある奴だけの特権じゃん」


「うっ……」


 リーサは言葉に詰まった。確かにカリナは規格外だ。彼女のようになれるかと問われれば、リーサ自身も自信を持って「なれる」とは言えない。それでも、召喚術には無限の可能性がある。精霊との絆は、孤独な戦いを温かいものに変えてくれる。それを伝えたいのに、言葉が空回りする。


 カリナ様……。私にはダメかもしれません……。リーサの心が折れそうになる。


 カリナが精霊の塔へ向かい、留守を預かっている間、少しでも召喚術士の地位を向上させようと努力してきた。だが、壁は厚く、高い。リーサは悔しさに涙を堪えながら、黒板に書かれた魔法陣の図を見つめた。


 彼女はまだ知らない。そのカリナが精霊王の加護を得て、召喚術の歴史を覆すほどの力を手に入れ、今まさにエデンへ帰還しようとしていることを。  


 そしてその帰還が、リーサの教室にも劇的な変化をもたらすことになることを。

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