7 悪魔討伐へ
玉座の間の入り口に立つと、衛兵たちが扉を開けてくれた。そのままカシューが座る玉座まで移動する。
「よく来てくれたね。今日はちょっと厄介ごとがあってね」
砕けた口調でカシューが切り出した。王としてのロールプレイはどうしたんだ?
「ほう、厄介ごととは?」
「ここから西の高原に悪魔が出現したという報告があってね、ちょっと行って討伐して欲しいんだ。それと……」
「私も同行する。いかにカーズ様の妹とはいえ、まだ私はその実力を認めたわけではないからな」
王の右隣に立つクラウスがそんなことを言った。それを見て、ヤレヤレという顔をするカシュー。なるほど、召喚士としての力を示せということなのだろう。
「承知した、カシュー王よ。それならば二人で向かえばいいのか?」
「魔物の大軍もいるみたいだから、もう一人従者を付けるよ。エクリアの代行魔法使いのレミリアにも同行してもらう。エクリアには許可ももらってるし、彼女は今東の防衛に向かっているからね。現場まではうちで造った車で向かうといいよ。戦車隊隊長のガレオス、お前には三人を現場まで案内してやってくれ」
クラウスの隣にいた魔法使い然とした衣装にローブを身にまとった茶髪の女性が一礼する。そしてカリナの後ろから黒い軍服を着た黒髪の青年が言葉を発した。
「御意。では城の前に戦車を止めてありますので、そこまで参りましょう」
「ふん、小娘の化けの皮を剥がしてやるからな」
憮然とした態度のクラウス。これはギスギスした旅になりそうだなと、カリナは少々うんざりした。さっさと討伐して帰還しようと思うのだった。
◆◆◆
城を出ると、門の前に近代的な見た目をした黒い車が止めてある。だが戦車というよりは頑丈な造りをした乗用車という感じだ。カシューはこんなものまで開発していたのかと感心するが、世界観ぶち壊しの代物に妙な違和感も覚えた。馬車とかじゃないのかと。まあ早く現場に着くのならそれに越したことはない。
「さあ、こちらが我が国の技術を詰め込んだ最新鋭の戦車です。四人乗りなのでレミリアとカリナさんは後ろに乗って下さい。クラウスは助手席で構わないですよね?」
「私はどこでも構わん。さっさと討伐に向かうぞ」
「では私達も乗り込みましょう、よろしくお願いしますね、カリナさん。エクリア様からお噂は聞いておりますわ」
「私の噂をエクリアから? どうせ碌でもないものなんだろうな……」
ルナフレアとの約束通り、一人称は「私」に変えている。妙な違和感だが、次第に慣れるだろうとカリナは思った。
「さあさあ、どうぞ」
ガレウスがエスコートして、ドアを開けてくれた。そこから後ろの席に乗り込む。席の前にセットされたドリンクホルダーにアイテムボックスから取り出したいちごオレを差し込んで、背もたれに身を沈めた。
「では行きますよー! 揺れますのでシートベルトをお忘れなく!」
ギャギャギャギャギャギャ!!!
「うおおおおおぃ!!!」
荒い運転でガレウスが発進する。急激なGがかかり、身体がシートに押し付けられる。そのままのペースでガレウスは目的地まで爆速で運転を続けた。
「もうちょっと安全運転はできんのか?! 危ないし気分が悪くなる!」
カリナがそう言うとガレウスは「あはは」と笑うだけだった。こいつはハンドルを握らせてはいけないタイプの人間である。現実世界でもこういった輩は存在するため、カリナは気が気ではなかった。
「ガレウス様の運転はいつもこんなものですよ、早めに慣れることをお勧めします」
平然としているレミリア。この女性もなかなかに癖が強そうである。あのエクリアの代行を務めているのだから。
「カーズ様の妹ともあろう者が、この程度の運転で音を上げるとは何とも情けないな」
クラウスは相変わらず悪態をついて来る。
「慣れていないのだから仕方ありません。クラウス失礼ですよ」
「ふん」
ガレウスに注意されて拗ねた様な反応をするクラウス。こいつは何がそんなに気に食わないのか、カリナにはさっぱりだった。
「まあいいさ、多少の悶着はパーティプレイにはよくあることだしな」
と、少々大人びた発言をしてみる。
「カリナさんはそんな幼い見た目なのに大人なのね。クラウス隊長とは大違いね」
レミリアがそんなことをわざとクラウスに聞こえる様に言った。「ふん」と不機嫌そうな反応を示すクラウス。
「それにしても召喚士なんて、珍しいですね。今ではほとんど目にすることもありませんよ」
ガレウスが素朴な疑問を口にした。
「そうなのか……。まあ確かに召喚獣を従えさせるのは結構大変だからそうなっているのかもしれないな」
召喚獣を従えさせるには、術者が一人でその対象の体力を全て削り切る必要がある。そのため、何かしらの他の技量がないとかなり苦労する。
カリナは剣術と体術をかなり鍛えているため、そこまで苦労することはなかったが、普通のプレイヤーがそれを実行するのはかなりの難易度である。VAOが現実世界となった今、そういうリスクを犯す人間が減ったと言うことなのであろう。
「まあ、この討伐任務で召喚術の神髄を見せてやるよ」
「それは頼もしいわね。楽しみにしてるわ」
レミリアの期待の言葉を受け取り、カリナはこれからまた戦いが経験できるとなってワクワクしていた。
◆◆◆
数時間後、現地から少し離れた場所に到着した。カリナは目を閉じて探知スキルを発動させる。高原には数百のコボルドという小型の犬型の二足歩行をする魔物が溢れかえっている。そしてその一番後方に悪魔がいることを捉えた。
「私はここで待機していますので、終わったら戻って来て下さいね」
ガレウスにそう言われて、カリナ達三人は車外へと飛び出した。少し小高い地形に陣取って敵の配置を確認する。
「俺がまずは飛び出して的になる、二人は援護を任せる」
そう言うと、クラウスは独りで魔物の大軍に大盾を構えて飛び出した。どうやらこちらの戦力は初めから当てにしてないかのような猛進である。
「あのバカ、独りで飛び出すなんて。私も続くわ」
「なら私は召喚術でサポートするよ。さあ、顕現せよシャドウナイトの軍勢よ!」
黒い甲冑に身を包んだ黒騎士の大軍が魔物の群れの中心に召喚される。さらに大盾を構えた白い甲冑のホーリーナイトを召喚する。
「ホーリーナイトは二人の防御に徹しろ」
そう指示されると、二体の白騎士がクラウスとレミリアのすぐ近くに移動した。
「受けろ、騎士の剣を!」
クラウスは近衛騎士団長の名に恥じない力で迫り来るコボルド達を抜刀した片手剣で斬り伏せる。
「ほほう、やるじゃないか」
「風よ、敵を斬り裂け、ウインド・カッター!」
レミリアの杖から放たれた風の鎌鼬がコボルドを斬り裂く。だが、敵の数が多い。そこで黒騎士の出番である。
数に物を言わせて、次々に雄たけびを上げて向かって来るコボルド共を叩き斬っていく。
「このまま騎士達に任せても良さそうだが、やっぱり私も前線に出るとするか。返り血を浴びるのは気が進まないから、魔法剣士の力を見せてやろう」
鞘から抜いた聖剣ティルヴィングに魔力を集中させる。
「吹き荒れる嵐よ、剣に宿れ! 魔法剣ブリザード!」」
凍結の特殊効果を付与した剣を左手に持ち、敵陣に切り込む。次々と押し寄せて来るコボルドを斬ると、その特殊効果で魔物は凍りつき粉々になった。
「よし、これで返り血は浴びないな」
それを見ていたレミリアとクラウスは驚き、声を上げる。
「すごい、あれが魔法剣士の魔法剣」
「くっ、見事だな」
油断した二人に斬りかかったコボルドの攻撃をホーリーナイトの盾が弾き返す。
「油断するな! まだ敵の数は多いぞ!」
我に返った二人は落ち着いて目の前の魔物を剣と魔法で捌いて行く。そのとき後方で待機していた悪魔が姿を現した。
目の前には大軍だったコボルドの死体が大量に転がっている。
「おのれ人間風情が、ならばこれを使わせてもらう!」
悪魔が手にしていたダーククリスタルに魔力を籠めると、巨大な魔法陣から石化の魔眼を持つ巨大な蜥蜴、バジリクスが姿を現した。
「まずい、あれはバジリスク! 目を見るな!」
そうクラウスが注意をしたのと同時に近くにいた黒騎士が一瞬でその両眼を斬り裂いた。
グギャアアアアアアアアアアア!!!
両目を潰されてのたうち回るバジリスク。そこへ数体の黒騎士の大剣からの一閃でバジリスクは肉片へと切り刻まれた。
「まさか、これほどまでは……」
「召喚術とはなんてすごい……」
驚きを隠せない二人。しかもかなりの数の召喚体を同時に使いこなすなど並の使い手ではない。
「くそが、ならば悪魔の子爵であるこの俺自ら葬ってやる!」
手にした黒い瘴気を帯びた剣を振りかざしながら、この戦力の要であるカリナに向け、翼を羽ばたかせながら迫って来る。
ガィイイイイイィン!!!
魔法剣で受け止めると、悪魔は後ろへと弾き飛ばされた。
「力を示せってことだったな。ならば見せてやるよ。召喚術の真の力を! 嘶けユニコーン! その姿を現せ!」
カリナの展開した魔法陣から一角獣が姿を現す。
「なにぃ、あれだけの数を召喚しておきながら、まだ呼び出せるというのか?!」
クラウスが驚愕の声を上げる。そして召喚されたユニコーンが輝く鎧へと姿を変え、カリナの身体に装着される。前回のペガサスと違い、背中から翼は生えていないが、頭部のサークレットにはユニコーンの象徴である鋭い一本の角が生えている。
「見せてやるよ。これが真に召喚獣と心を通わせた者だけが纏うことを許される聖衣という鉄壁の鎧だ」
そのまま悪魔の目の前まで一瞬で移動すると、目の前で右足を軸に一回転、そのままの勢いで左脚から強烈な蹴りが炸裂する。
「ユニコーン絢舞脚!!!」
ドゴオオオオオオオオオォッ!!!
「ガハアアアアアアッ!!!」
強烈な一撃をお見舞いされた悪魔は吹き飛び、そのまま爆発して四散した。最早コボルド達は数匹を残して壊滅状態だったが、主の最後を見て、尻尾を巻いてその場から退散していった。
「す、すごい……」
「ああ、俺の考えが間違っていた……。召喚術をあそこまで高度に使いこなし、攻撃でなく我々のサポートまで。しかもあれが召喚術を極めた者だけが身に纏うことができるという伝説と言われる聖衣……。ライアンが言っていたことは本当だったのだな」
召喚を解き、ユニコーンに礼を言うと、ユニコーンはカリナの顔に人懐っこそうにすり寄ってから光の粒子となって消えて行った。そして後方で戦っていた二人の下に帰還する。そこではレミリアとクラウスがその場に跪いてカリナの凱旋を待っていた。
「終わったぞ、って、どうしたんだ二人共?」
「数々の御無礼をお許し下さい。俺はあなたの力を認めようとはしなかった。白騎士に命を救って貰いました。あなたは素晴らしい召喚士だ」
「ええ、それにさきほどの輝く紫の鎧。あれが真の召喚士にしか纏えない聖衣。初めて目にしましたわ。これからはあなたがカーズ様の代わりとなって下さいませ」
突然の態度の豹変に面食らうカリナだったが、召喚士の力を示すというミッションは達成されたのだった。
「あ、そういえば悪魔から情報を聞き出すのを忘れてた、いやー失敗失敗。まあ討伐任務は果たしたことだし、さっさとエデンに報告に戻ろう」
「「はい!」」
情報収集には失敗したが、カリナの初任務は無事終了した。




