表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/128

59  召喚対決

 翌日の正午過ぎ。太陽が真上に昇り、演習場の砂埃を照らす頃、カリナはルナフレアを伴って騎士団演習場の門をくぐった。


 門番の兵士達は、昨日カリナが見せた伝説級の精霊との戦いを目の当たりにしているため、最敬礼でカリナを出迎える。その瞳には畏敬の念が宿っていた。


 演習場に入ると、円形の闘技場を見下ろす観覧席には、昨日の今日だというのに、またしても主要なメンバーが勢揃いしていた。  


 中央の貴賓席には、面白そうに身を乗り出すカシューと、その隣で扇子を片手に優雅に微笑む、完璧な美女の振りをしたエクリア。その後ろには、胃薬でも欲しそうな顔をしたアステリオンと、エクリアの代行であるレミリアが控えている。  


 騎士団席には、近衛騎士団長のクラウス、王国騎士団副団長のライアンをはじめとする騎士達。そして、戦車隊隊長のガレウスまでもが、「また凄いもんが見れるかもしれん」と最前列に陣取っていた。


「やれやれ、暇人が多いなあ」


 カリナが苦笑すると、隣を歩くルナフレアがくすりと笑った。


「それだけカリナ様の力が注目されているということですよ。……では、私はあちらへ」


 ルナフレアは演習場の端、関係者用の席へ向かう前に足を止め、カリナに向かって深々と頭を下げた。


「カリナ様、あの世間知らずのエルフに、本物の召喚術というものをご教示なさって下さい。御武運を」


「ああ、任せておけ。見ていてくれ」


 ルナフレアの言葉に軽く手を振って応え、カリナは演習場の中央へと歩みを進める。そこには既に、対戦相手であるエルフの召喚士、リーサが待ち構えていた。  


 召喚士特有のローブを風になびかせ、手には身の丈ほどの樫の木の杖を握りしめている。その表情は硬いが、瞳には決して折れない強い意志と、カリナに対する侮りにも似た対抗心が燃えていた。


「お待ちしておりました。逃げずに来たことだけは褒めて差し上げます」


 リーサは杖の先をカリナに向け、挑発的な視線を送る。


「陛下やアステリオン様が何を考えているのかは分かりませんが、召喚術とは長い修練と精霊との対話によってのみ成される神聖な儀式。あなたのような子供に務まるような軽いものではありません」


 彼女の言葉に、観客席の騎士達がざわつく。「おいおい、死に急ぐなよ……」「昨日のあれを見てないからって……」といった同情の声が漏れ聞こえてくるが、リーサの耳には届いていないようだ。


 カリナはそんなリーサの挑発を、柳のように受け流した。


「そうだな。召喚術は奥が深い。だからこそ、見た目で力量を測るのがどれほど愚かなことか、身を持って知るといい」


「減らず口を……! その余裕、いつまで保てるかしら!」


 バチバチと火花が散る(一方的にリーサからだが)中、貴賓席のカシューが立ち上がり、声を張り上げた。


「双方、準備はいいかな? ルールは簡単、自身の召喚体を使役し、相手を降参させるか戦闘不能にすること。ただし、命を奪うことは厳禁だ。……まあ、カリナに関しては心配していないけどね」


 後半の言葉を小声で呟きつつ、カシューは右手を高く掲げた。


「では、エデン筆頭召喚術士決定戦……始め!!」


 カシューの手が振り下ろされると同時に、リーサが素早く祝詞を叫んだ。


「風よ、刃となりて敵を切り裂け! 我が声に応えよ、ウィンド・ホーク!」


 緑色の魔法陣が展開され、そこから鋭い嘴と鉤爪を持つ、風を纏った大鷹が召喚される。ウィンド・ホークは甲高い鳴き声を上げ、上空からカリナ目掛けて急降下を開始した。


「さあ、どうするのですか!?」


 勝利を確信したように叫ぶリーサ。対するカリナは、迫りくる猛禽を前にしても、一歩も動かなかった。ただ静かに、右手を前方にかざしただけだ。


「遅いな。――来い、ケット・シー」


 カリナの前に小さな魔法陣が一瞬で展開され、そこから黒いシルクハットを被った二足歩行の猫が飛び出した。


「お呼びですかにゃ、隊長!」


 ケット・シー隊員は空中で回転すると、長靴を履いた足で、迫りくるウィンド・ホークの顔面を強烈に蹴り飛ばした。


「ギャゥッ!?」


 リーサの召喚獣が悲鳴のような声を上げ、無様に地面へと叩きつけられる。一瞬の攻防。静まり返る演習場の中で、着地したケット・シーが帽子を直しながらニヤリと笑った。


「鳥遊びはおしまいですにゃ?」


「ああ、ご苦労様。お前は後ろで見物してろ」


「そうしますにゃ」


「なっ……! 私のウィンド・ホークが一撃で!?」


 リーサは信じられないものを見る目で、帽子を直しているケット・シーを凝視した。猫の妖精ケット・シーは、通常であれば愛玩用や、せいぜい簡単な雑用をこなす程度の精霊という認識だ。それが戦闘用のウィンド・ホークを蹴り落とすなど、前代未聞である。


「くっ……、まだです! 低級精霊が少し強いからといって、勝ったと思わないで下さい!」


 リーサは気を取り直し、杖を掲げてより強力な魔力を練り上げる。


「闇の淵より来たれ、彷徨える武具の精霊よ! シャドウナイト!」


 彼女の影が伸び上がり、そこから漆黒の鎧一式と長剣が現れた。中身は空洞だが、意志を持って動く基礎の召喚武具精霊だ。黒い鎧は堅牢そうで、無機質な殺気を漂わせている。  


 観客席の騎士達からも「おお、シャドウナイトか。基礎だが使い手の魔力が反映される堅実な召喚体だ」「あいつも中々やるな」と感心の声が上がる。


 だが、カリナは涼しい顔で頷いた。


「なるほど、シャドウナイトか。武具に宿る基礎の精霊……召喚士の基本だな。なら、条件を同じにしてやろう」


 カリナが短く指を鳴らす。


「出ろ」


 ズゥゥゥン……。


 重苦しい地響きと共に、カリナの影からせり上がってきたのは、同じシャドウナイト――のはずだった。


 しかし、その「武具」の威圧感が別次元だった。リーサの騎士が量産品の鉄鎧だとすれば、カリナの騎士は神話級の重装甲だ。禍々しい装飾が施された分厚いフルプレートメイル、肩には巨大な棘、そして手に持つのは長剣ではなく、身の丈を超える巨大な黒鉄の大剣。全身から立ち昇る魔力は、湯気のように濃密で、周囲の空間を歪ませている。


「な、何ですかそれは……!? 同じ武具精霊のはずが……装備の等級が違いすぎます!」


「行け」


 カリナの短い号令と共に、重装の黒騎士が大剣を横薙ぎに一閃した。


 ドガァァァァンッ!!


 リーサのシャドウナイトが剣で受け止めようとした瞬間、その剣ごと鎧を粉砕され、黒い鉄屑と霧となって消し飛んだ。一撃である。あまりのパワーと質量の差に、暴風が巻き起こりリーサのローブが激しく煽られた。


「装備の差というより、精霊が纏う器のレベルが桁違いだな……」


 観客席でライアンが呆れたように呟く。


「ええ、あんな重装備のシャドウナイト、ダンジョンの最奥でしかお目に掛かれませんわ」


 レミリアも同情するように首を振った。


「ば、馬鹿な……。単体での質が違うというのなら、数と属性で攻めるまで!」


 リーサは唇を噛み締め、両手を広げた。額に汗を浮かべながら、最大級の集中力を発揮する。


「灼熱の息吹よ! 極寒の牙よ! 我が魔力を糧に顕現せよ! 二重召喚! サラマンダー! アイスリザード!」


 左右に展開された魔法陣から、二体の精霊が現れる。右には炎を纏った赤い蜥蜴、サラマンダー。左には冷気を放つ青い蜥蜴、アイスリザード。どちらも全長三メートルほどの流線型の体躯を持ち、しなやかで素早そうだ。同時召喚は高度な技術であり、リーサの実力の高さを証明している。


「はぁ、はぁ……どうですか! 相反する属性の同時攻撃、防げますか!」


「へえ、二体同時か。器用だな」


 カリナは感心したように頷くと、またしても軽く手を振った。


「じゃあ、こっちも同じので」


 ドスン! ドスン!


 地面が揺れた。現れたのは、リーサと同じサラマンダーとアイスリザード――という名目の、怪物だった。全長は優に五メートルを超え、全身は岩盤のように分厚い鱗と筋肉の塊。流線型などというスマートな言葉は似合わない。それはまるで、翼のないドラゴンのような凶悪な姿をしていた。


「……嘘、でしょう?」


 リーサが呆然と呟く。観覧席ではカシューが腹を抱えて笑っていた。


「あはは! あれリザードってレベルじゃないよ! 恐竜だよ!」


「にしし、ドーピングし過ぎだろ。野生味が溢れすぎてるぜ」


 エクリアも扇子で顔を隠しながら肩を震わせている。


「い、行けぇぇっ! フレイムブレス! アイスブレス!」


 リーサが半ば悲鳴に近い命令を下す。彼女の精霊達が口から激しい炎と冷気を吐き出した。しかし、カリナの召喚体達は、それを避ける素振りすら見せない。炎を浴びても欠伸をし、冷気を浴びても涼しい顔で平然としている。


「効いて……ない……?」


「悪いな、私の召喚体は魔法耐性も鍛えてある。――終わりだ、焼き尽くせ、凍らせろ」


 カリナの無慈悲な指令が下る。翼なきドラゴンの如き巨体を持つ二体が、大きく息を吸い込んだ。


 ゴオオオオオオオオッ!!!  パキキキキキキキッ!!!


 放たれたのは、まるで火炎放射器と液体窒素の奔流だった。  圧倒的な火力がリーサのサラマンダーを飲み込む。炎の精霊であるはずのサラマンダーが、より強大な炎に焼かれ、悲鳴を上げて消滅する。一方では、氷の精霊であるアイスリザードが、強烈な凍気に包まれ、カチンコチンに凍り付いた後、粉々に砕け散った。


「火が火に焼かれ、氷が氷に凍らされた……?」


 アステリオンが信じられない光景に眼鏡をずり落とす。


「なんという理不尽な暴力……。属性相性など関係ない、純粋な出力の差ですわね」


 レミリアが戦慄する中、リーサはその場にへたり込んだ。  自分の手札が、同じ種類の召喚体によって、子供扱いされて蹂躙されたのだ。もはや彼女の心はポッキリと折れていた。


「そんな……あんなのが、サラマンダーとアイスリザードだなんて……認めません……」


 涙目になるリーサを前に、カリナの召喚体達は勝利の咆哮を上げ、演習場を揺るがした。


「くっ……うぅ……!」


 自慢の手札を完封されたリーサは、膝をつきながらもまだ諦めてはいなかった。エルフとしての誇り、そして召喚士としての意地が、彼女を突き動かしていた。


「まだ……まだです! 私の魔力は尽きていない! ならば、制御が難しくとも……これならどうですか!」


 リーサは懐から魔力を増幅させる触媒を取り出し、それを握り潰すと、悲痛な叫びと共に最後の祝詞を唱えた。


「冥府の(とばり)より出でよ! 彷徨える紫煙の亡霊、呪われし魂を喰らう者! スペクターよ!」


 空間が紫色に汚れ、そこから不定形の影が滲み出す。現れたのは、ボロボロのローブを纏い、紫色の虚影で構成された亡霊、スペクターだった。その手には呪いを帯びた曲刀が握られ、周囲に精神を蝕む瘴気を撒き散らす。


 精神攻撃、魂吸収、そして傷つけた者を腐らせる呪われた剣技。極めて危険な闇属性の上位召喚体だ。


「お、おい! あれはマズいですよ!」


 観客席のアステリオンが立ち上がる。闇の精霊、特に亡霊系は術者の精神力が精霊を上回っていなければ制御できない。今の消耗したリーサには荷が重すぎる。


「行け、スペクター! あの生意気な子供を……ひっ!?」


 命令を下そうとしたリーサの言葉が凍り付く。スペクターはカリナを見向きもせず、虚ろな眼窩で召喚者であるリーサを見下ろしていたのだ。


『魂ヲ……ヨコセ……』


 スペクターが不気味に嗤い、呪われた曲刀をリーサへと振り下ろした。制御不能による暴走。弱い魂から喰らおうという本能だ。


「いやっ……!」


 死を覚悟したリーサが目を閉じた、その瞬間。


 ガギィィィンッ!!!


 硬質な金属音が響き、リーサへの衝撃は訪れなかった。恐る恐る目を開けると、そこには輝く白銀の盾を構えたホーリーナイトが、スペクターの刃を受け止めていた。そしてその背後には、呆れた表情のカリナが立っていた。


「馬鹿が。自分の技量で御せないものを喚ぶな」


「カ、カリナ……様……?」


「闇の精霊は術者の心の隙を突く。今の消耗したお前では餌になるだけだ」


 カリナは一歩前に出ると、スペクターを鋭く睨みつけた。


「そして貴様もだ、下級亡霊風情が。私の目の前で味方に牙を剥くとはいい度胸だな」


 カリナの覇気に、スペクターが怯んだように後退る。カリナはホーリーナイトを送還すると、天に向かって手を掲げた。


「格の違いというものを見せてやる。――天翔ける翼よ、星の輝きを纏い、我が元へ!」


 高らかな嘶きと共に、空から純白の翼を持つ天馬、ペガサスが舞い降りた。そしてカリナの身体が光に包まれる。ペガサスが光の粒子となってカリナを包み込み、次の瞬間、彼女は背中に純白の翼と、星々のような輝きを放つ白銀の鎧を纏っていた。


「な……あれは……召喚獣が、鎧に……?」


 リーサが呆然と呟く。これが……、召喚術の到達点。心を通わせた召喚体と一体となる究極の秘儀、聖衣(ドレス)なのか。


「消えろ。――ペガサス流星脚(りゅうせいきゃく)!!」


 カリナが翼を広げて跳躍し、空中からスペクターに向けて左足を突き出す。放たれたのは、ただの一撃の蹴りだった。  だが、その蹴りから放たれたオーラは、視認できないほどの速度で無数に分裂した。


 ドガガガガガガガガガガガッ!!!


 まるで流星群だ。数百発にも及ぶ青白く輝く浄化の流星の如き衝撃波が、雨あられとスペクターに降り注ぐ。神聖な光を帯びたその蹴りの連打に、スペクターは悲鳴を上げる間もなく浄化され、跡形もなく消滅した。


 圧倒的な光の奔流が収まると、カリナはふわりとリーサの前に着地し、聖衣(ドレス)を解除した。


「そこまで!! 勝者、カリナ!」


 カシュー王の声が演習場に響き渡る。だが、観客席は静まり返っていた。あまりにも圧倒的で、神々しいまでの力の差を見せつけられたからだ。


「こ、これが……召喚術の、真髄……」


 リーサは震える手で自身の杖を握りしめた。悔しさなど微塵もなかった。ただ、目の前に広がる遥かな高みへの感動と、自分の未熟さを痛感していた。彼女は、カリナに向かって深く頭を下げて跪く。


「……私の完敗です。いえ、勝負にすらなっていませんでした。自分の未熟さを恥じ入るばかりです」


「いや、最後のスペクター召喚、あれだけの魔力を練り上げたのは見事だったぞ。制御こそできなかったが、その根性は評価する」


 カリナが手を差し伸べると、リーサはおずおずと、しかししっかりと、その小さな手を握り返した。


「カリナ様、いえ、師匠。……これからはあなた様の代行として、いえ、一番の弟子として、側で学ばせて頂けませんか?」


「師匠はやめろ。代行としてなら歓迎する。これから忙しくなるからな、頼りにしているぞ」


 カリナの言葉に、リーサは瞳を潤ませながら大きく頷いた。その光景を見て、ようやく観客席から爆発的な拍手が巻き起こった。


「すげえ……ペガサスの鎧なんて初めて見たぞ!」「いや、俺達はカリナ様に出会ったときに見てるぜ」 「あんな技、人間業じゃねえ……」 「流石はカリナ様だ」


 騎士達が興奮気味に語り合う中、エクリアも扇子を畳んで満足げに頷いた。


「にしし、最後のは派手だったなー。あの子、また強くなってるんじゃない?」


「まったくだよ。ここが壊されなくてよかった」


 カシューも苦笑いしつつ、安堵の表情を浮かべた。そして、観客席の端で一部始終を見守っていたルナフレアは、胸の前で手を組み、うっとりとした表情で呟いた。


「流石です、カリナ様……。あの凛々しいお姿、慈悲深い御心。やはり貴女様こそが至高の主です」


 彼女の瞳には、揺るぎない忠誠と崇拝の光が宿っていた。  こうして、エデンに新たな優秀なそしてカリナ信者になりそうな召喚術士が加わることとなったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ