5 災害のエクリア
「お、マジでいるじゃんー! しっかしすごく可愛らしい格好させられたもんだな。似合ってるぜ、ぷくくっ!」
笑いながら入室して来たエクリアはそのままカリナの向かいにあるソファー、カシューの隣に腰掛けた。
「うるさいな。ってお前もいたんだな、ネカマのエクリア」
「まあな、でも俺が戻って来たのは30年前くらいかな。カシュー一人でてんてこ舞いだったからなぁ、今は国の復興やら各地に湧く魔物討伐とかしてるんだよ」
この一人称「俺」の女性は旧知の仲であると共に、初期から女性キャラでエンジョイしている生粋のネカマである。今の状況は彼、いや彼女にとっては願ったりかなったりの状況であるかもしれない。ずっと女性姿で過ごせるのだから。
「世界が変わっちまったから俺はずっと女のままだ。まあ部下の前ではちゃんと女言葉使ってるから安心しな」
「心配なんかしてないぞ。喜んでロールプレイしてるんだろ?」
にししと笑いながらテーブルに置いてあったポットからカップに紅茶を注ぐ。一飲みしてから、また喋り続ける。
「で、今まで何してたんだよ? こっちは色々大変だったってのに」
「ついさっきログインしたらこの状況だったんだってさ。さっき聞いたよー」
カシューが口を挟む。彼にとっても友人達3人と過ごす時間は和やかなもので心地良い。
「で、幹部はエクリアだけなのか? それに各地に魔物がそんなに大量に湧くなんてそうそうなかっただろ? それをエクリアが討伐してるのか……、毎回地形が変わって大変そうだな」
エクリアの戦いは特に派手な魔法を連発する。そのせいで周囲は毎回地面が抉られ、クレーターが出来上がる。そのせいで付けられた二つ名は「災害」。自然環境を崩壊させるその戦いぶりは周囲の仲間も巻き込みそうになる程のものだった。
「しかし、サブキャラでインしたところに巻き込まれるとはついてねーな。女だと色々大変だぞー」
「大変って、まさか……。これが現実ならゲームでは起きなかった体の生理現象が……?」
カリナは嫌な汗が背筋を伝うのを感じた。そこまでの覚悟はさすがにできていない。
「にしし、ご名答。アレは大変だぞー。痛いのなんのって、なあ?」
自分のお腹を押さえながらカシューの方を見る。
「僕に振らないでくれないかな? わかるわけないでしょ。でもエクリアが月一で使い物にならなくなるのは知ってるけどね」
「マジかよ……、そんな生理現象があるってことはまさか出産もできてしまうってことじゃないのか? うへー、想像するだけで怖くなる」
現実世界ならば当然の摂理である。だが、自分の身の上にそれが起こるとなると恐ろしくて仕方がない。
「まあまあ、そういうことしなければ問題ないって。でも月一は覚悟しろよ。想像を絶するぞー。まあ対人で悪い奴に負けて、くっ殺展開になったら後は自己責任だな、ははは」
「そういう輩は容赦なく燃えカスにしてやるから大丈夫だよ。でもとりあえず状態異常だけは気を付けないとだな」
自分の今の姿が女性であるのだと思い知らされた。今後はより一層注意しなければいけない。
「そうだぞー、こんなに可愛いんだからなー!」
近づいて来たエクリアにもみくちゃにされる。匂いを嗅がれて全身を撫で回される。
「やっぱ可愛いなー、可愛いってことはめちゃくちゃに可愛がっても良いってことだぜー」
「やめろバカー!」
何とかエクリアの拘束から抜け出し、息も絶え絶えにソファーに沈み込む。そして自分とカシューの分の紅茶をカップに注ぐと、ぐいっと飲んだ。
「で、他の連中はここには帰って来ていないのか?」
それを聞いてカシューとエクリアは渋い顔をして向き合った。
「悪魔の大軍が攻めて来たときに、幹部達はみんな迎撃してくれたんだけどね、その後皆行方不明さ。今は彼らの捜索も任務の内だね。リストの名前は光っているから生存はしてるはずだよ」
「災害のエクリア、魔法使いがいるということは、残りは……」
フレンドリストを展開しながらログイン状態であるかつての同僚達を検索していると、カシューが口を開いた。
「いないのは格闘家のグラザ、相克使いのカグラに弓術士のエヴリーヌ、僧侶のサティア、そして聖騎士のカーズだよ。まあカリナになって戻って来たからそれは良しとしよう、召喚士は今やほとんどいないから貴重な戦力になるし。ま、今他国から攻められても大変なんだけどね。初期五大国の事件以来、各地では様子見が続いてる。PvPでも下手したら死ぬかもしれないからね。他国に攻め込んで悪戯に戦力を削る訳にはいかないんだろうね」
「なるほど、俺とエクリア以外はみんな行方不明か。どうするんだよ? 次に悪魔の大軍が来たらエデンは崩壊するかもしれないぞ」
今名前が挙がったのはVR時代にカシューの下で建国に関わったランカー達である。彼らがいないのは戦力的にかなりの痛手である。
「で、俺も防衛の為に動けないって訳だ。そこに身動きが取りやすそうな奴が帰って来たと」
エクリアがニヤニヤと笑う。
「ま、まさか……」
その瞬間カシューが立ち上がり、キリリとした表情となって言葉を紡ぐ。
「召喚魔法剣士カリナ、エデン国王直々の命を伝える。行方不明の特記戦力を探し出して欲しい。それと平原にも悪魔が出現したのは何かの前振りかもしれない。悪魔の動向を探って来るのだ!」
ふぅと一息を吐き、これはカシューの王としてのロールプレイだと理解したカリナも立ち上がり、手を胸に当てて一礼をして答えた。
「承知した。我が敬愛なるカシュー王よ」
◆◆◆
旅立ちの為のアイテムや資金を受け取り、執務室を後にした。ソロでお金はたくさん稼いで来ていたが、これはカシューなりの気遣いであろう。
ドアの前のアステリオンと不機嫌そうなクラウスに一礼をしてから自室へと戻る。しかし、捜索するとしても手がかりがまるでない。さらにVAOのオープンワールドは隅々まで旅をしたとは言え、果てしなく広大である。その中から数人の者達を探し出すのは困難を極めるだろう。
しかし、この新しい世界にカリナの心は踊っていた。まだ見ぬ新しいVAOが現実となって眼前に広がっている。それはカリナの冒険心を駆り立てるのには十分であった。ワクワクが止まらない。
その前にやはり本当のことを話さなければならないと、カリナは決心した。100年もの間本当の主を待っている彼女に、今の自分のことを伝えなくてはいけないと。そうしなければ、気がかりを残したまま旅立たなくてはならなくなる。
自室に向かいながら、どう切り出そうかと考えを巡らせたが、正直に伝えるしかないという結論に辿り着く。
そうして意を決して自室の扉をキーで開けた。帰りを待っていてくれたルナフレアは、ドアのところまで急いで駆けて来て、笑顔でカリナを出迎えた。
「お帰りなさいませ、カリナ様。陛下とのお話はどうでしたか?」
「ああ、うん、昔に会ったときと同じように気さくな人だったよ。それから行方不明の配下を探す使命を受けた。だから明日からまた旅に出ることになるかもしれない」
「そうですか……。貴女も行ってしまうのですね。折角お仕えできると思っていたのに、残念です」
寂しそうな顔をするルナフレア。その寂しさを与えてしまっているのが自分であると考えると、カリナは胸が苦しくなった。伝えるしかない。ずっと待ってくれていた彼女に。
そう思い、カリナは口を開いた。
お読み頂きありがとうございます。
気軽にいいねコメントなどして頂けると嬉しいです。




