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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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56  エデン帰還

 チェスターの街でシルバーウイングの面々と再会を果たし、カリナは『鹿の角亭』を後にした。街を出て、ここからもう少しでエデンに到着する。


 ここまで多くの召喚体に乗ってきた。空を駆けるガルーダ、雷光のごとく大地を疾走するヴァジュラ。ペガサスにユニコーン。しかし、カリナにはどうしても叶えたい一つの夢があった。


 ――ドラゴンの背に乗りたい。


 ドラゴン、それはゲーマーにとっては最強の敵であり、伝説的な強さを体現した存在。そしてカリナには、その頂点に立つ最強の召喚体、カイザードラゴンのアジーンがいる。  ルナフレアには「ドラゴンはさすがに騒ぎになりますから」と釘を刺されていたが、カリナは湧き上がるその衝動を抑えきれなかった。


 街から離れた広い平原で、かの召喚体との再会を果たしたい。そしてその背に乗って、凱旋するようにエデンに帰還したい。心がうずうずして止まらなかった。


「隊員、アジーンの背に乗ってみたいと思わないか?」


「うにゃ、アジーンですかにゃ? そうですにゃ、おいらもドラゴンの背には乗ってみたいにゃ」


「だよなー。じゃあ久々に喚ぶとしよう」


「はいですにゃ」


 カリナは周囲に誰もいないことを確認すると、両手を広げ、巨大な魔法陣を展開した。幾重にも重なり合う光の輪が、平原の草を薙ぎ倒すほどの魔力を放つ。  


 そして、厳かに祝詞を唱えた。


「雷鳴よ、王座を照らせ 天穹よ、

極光の道を拓け 黒き天を裂き、

白銀の腹に力を宿す 覇を戴く龍王、

万雷を統べし者 我はその名を呼ぶ

畏れではなく、覚悟をもって

契約は今、魂と魂を雷で繋ぐ

降臨せよ、天災の化身

――顕現せよ

カイザードラゴン・アジーン!!」


 カッ!!!


 巨大な魔法陣が天と地を繋ぐ光の柱となり、空気が張り詰めた瞬間、世界を貫くような轟雷が鳴り響いた。暗雲を引き裂いて現れたのは、夜そのものを具現化したかのような黒龍。


 全身を覆う鱗は深淵の闇を思わせる漆黒。だが腹側だけは、月光を凝縮したかのような白銀の装甲鱗が連なり、神々しい輝きを放っている。  


 巨躯の周囲には常に雷のオーラが渦巻き、その一振りの翼で空は裂け、その咆哮一つで大地は震える。  


 黄金とも白光ともつかぬ双眸が開かれた瞬間、空間そのものが威圧に押し潰され、見る者の本能に「抗うな、ひれ伏せ」と告げる。


 やがてアジーンは大きく首をもたげ、胸奥に極光を集束させる。


 次の瞬間――


 白と金が混じり合った極光の龍の息吹(ドラゴンブレス)が空に向かって放たれ、雷鳴と共に一直線に雲を散らし、世界を貫いた。  


 それは炎でも雷でもない。天災そのものの光だった。


 アジーンは静かに翼を畳み、召喚者カリナの眼前に降り立つ。  


 その姿は無言で語っていた。


 ――この龍が在る限り、カリナの前に立つ敵は、すべて滅びる、と。


 巨大な顔をカリナに近づけ、親愛の情を示すかのように鼻先を擦り寄せる。そして重厚な声を発した。


「お久し振りでございます、母上。100年もの間何をしていらしたのですか?」


 カリナは擦り寄って来る巨体に押され、たたらを踏みながら答えた。


「すまないな、アジーン。私にも何が何だかわかっていない。気が付けばいつの間にかそんな時間が経っていたんだ」


 龍の頂点に立つカイザードラゴン。このアジーンを使役するためにカリナはゲーム時代、東のルミナス聖光国と北の陰陽国ヨルシカの間にある『龍の谷』へと赴き、その長と死闘を繰り広げた。何度も負け、リスポーンを繰り返しながら、最後には漸く屈服させることができたのだ。


 その時託された『アジーン』と名付けられた卵。カリナはその状態から根気強く育成し、ここまでの存在に成長させた。そのため、彼はカリナを『母』と呼んで慕っている。  


 現実世界となった今、召喚体との会話は非常にスムーズに進む。しかし、あまりの巨体にカリナは押し潰されそうになる。


「すまん、その巨体で擦り寄られると潰されそうだ。小さくなれたりはしないのか?」


「これは失礼しました。ではこれでどうでしょうか?」


 アジーンの身体が眩い光に包まれる。それが次第に収束し、人型となった。  


 輝く銀髪に浅黒い肌、金色に輝く瞳。その姿は途轍もなく整った美形で長身の青年。ギリシャ神話に出て来る神のような白い衣装、キトンと呼ばれるチュニックと、上着として羽織るヒマティオンやクラミュスといった布を優雅に纏っている。


「これでいかがでしょう、母上」


 人型に姿を変えたアジーンの声は爽やかで、その巨体だったときのような空気が震えるような威圧感を感じない。これなら話もしやすい。


「おお……! まさか本当にそんなことができるとはな。成長したんだな、アジーン」


「ええ、龍の谷でずっと過ごしていたのですが、巨大な龍の姿ではどうしても場所を取ってしまいます。それに身体が大きければそれだけ食料などの問題も起こるのです。私達龍の一族がそういった問題に直面していた頃、女神と称する女性が現れました。その姿は母上に似た赤い髪が特徴的でした。彼女は自らをアリアと名乗り、私達にこの人化の術を教えてくれました。今では私達は皆、人の姿で過ごしております」


 『女神』という言葉にカリナは反応した。死者の間の鏡で彩が自分を探していると言っていた、彼女を別世界へと転生させた存在。それがもしかしたらその女神を名乗るアリアという女性なのではないだろうか?


「なるほど……、女神アリアか。今その女性は何処にいるんだ?」


「数年前に谷を出て行きました。何でも『この世界は架空の世界で、現実ではない』と。この現象を引き起こした存在を探して旅に出ると言い、私達の前から姿を消しました。彼女の言葉は謎な部分が多かったのですが、あの力は正しく神でした」


「なるほど……。この世界が虚構の存在だと知っている女神を名乗るアリアという女性。私もいつか会ってみたいものだ。もしかしたら私が探している女神なのかもしれないからな」


「そうなのですか? それなら行き先を聞いておくべきでした。……それで、母上。お願いがあるのですが、聞いて頂けますか?」


「お願い? 何だ、何でも言ってみろ。長い間お前を放置してしまったんだ。多少の我が儘くらい幾らでも聞いてやるぞ」


 カリナは召喚体達を知らない間に100年放置したことになっている。多少の要望は可能なら叶えてやりたい。


「抱き締めてもよろしいでしょうか? 全身で母上の愛を感じたいのです」


「は? ま、まあ、そのくらいなら別に構わないぞ」


 両手を広げて迫って来るアジーンに強く抱き締められる。長身の圧倒的イケメンに抱き締められる美少女という構図は、端から見れば、乙女ゲームのスチルのような何とも贅沢な状況だろう。


 だが、その逞しい身体に抱き締められたカリナは何とも言えない気分になった。妙に心臓が高鳴る。……精神が肉体に引っ張られているのだろうか? いや、単にイケメンの圧が強いだけだ。そう思いたい。


「ああ、こうして母上の愛らしい身体を抱き締められて嬉しいです。ああ、母上……」


「あ、ああ、そうか……? く、苦しいぞ……」


「あー、アジーンだけずるいのにゃ。おいらもくっつくのにゃ!」


 隊員も負けじと足元にしがみついて来る。どうにも落ち着かないカリナだったが、アジーン達の気が済むまで抱き締められたのだった。


 長い抱擁の末、漸く彼らはカリナを解放してくれた。だが、これはどうも心臓に悪い。今後は止めておこうとカリナは固く誓った。心まで乙女に傾くとさすがにマズイ。


「それで母上、こんな何もないところで私を喚んだ理由は何でしょうか? 倒すべき敵がいるようには思えませんが」


「ああ、それはだな……。実はお前の背に乗ってエデンまで帰還したいと思ってな。もしかしたら大騒ぎになるかもしれないが、どうしてもその龍の背に乗ってみたいんだ」


「そうにゃ。おいらも一緒にゃ」


「なるほど、そうでしたか。母上を乗せて空を飛べるなど光栄の極み、感激です。是非私の背にお乗りください。ケット・シー、お前も特別に乗せてやろう」


「おお、いいのか? だが余りにも高い高度は飛ばないでくれ。もう高山病になるのは御免だ」


「やったにゃ! はやく乗るにゃ!」


「では、龍の姿に戻ります」


 そう言うとアジーンは再び光に包まれ、巨龍へと戻る。カリナは身体を屈めたアジーンの背に隊員を掴んで空歩で宙を駆け、飛び乗った。巨大なその鱗の間に座り、膝に隊員を乗せると、目の前の黒い鱗の縁をしっかりと掴む。


「いいぞ、飛んでくれ!」


「承知しました」


 巨大な翼が羽搏き、轟音と共に身体が浮き上がる。その羽搏きだけで突風が巻き起こり、平原の草が波打つ。


 そして上空へと舞い上がったアジーンは「行きますよ」と言い、エデンに向けて空を飛んだ。しかし、そのスピードは凄まじく、強烈なGが掛かったカリナは空中に放り出された。


「おおおおっ?!」


 一緒に投げ出された隊員を空中で掴み、とっさに『空歩』を発動してその場に留まった。そこへ旋回してアジーンが慌てて戻って来る。


「申し訳ありません、母上! つい嬉しくてスピードを上げてしまいました! 次はできる限りゆっくり飛びます!」


「ああ、頼む、そうしてくれ。さすがに空歩がなければ死んでいたぞ……」


 カリナは冷や汗を拭いながら、目の前に来たアジーンの背に再び乗り込んだ。今度は先程よりは緩やかな速度でアジーンは飛翔した。それでもその速度は風を切り裂くような感覚で、眼下の景色がみるみる後ろへ流れていく様は、カリナにとって最高に刺激的だった。


 やがて眼下にエデン周辺の街並みが見えてきた。上空を飛ぶ巨大な影。地上では人々が空を見上げ、指をさして騒然としているのが分かる。


「おい、あれ見ろよ! ドラゴンだ!」 「でかい……! こっちに来るぞ!?」 「避難しろ!」「いや待て、あれは……!」


 王国の入口近くの平原で、アジーンは着地した。これ以上は王国内の上空を飛ぶことになる。降りるにしても騎士団の演習場くらいしか広い場所はない。さすがにそれはマズイと判断し、カリナはここで降りることにした。


「ご苦労だった、アジーン。また喚んだときは力を貸してくれ」


「はい、母上との空の散歩は格別でした。それではまた」


「またにゃ、アジーン」


 光の粒子となって送還されていく姿を見送り、カリナは王国内に入る門の前に出た。そこには先程の巨大な龍を見た門番達が、槍を取り落とすほど驚き、腰を抜かしていた。


「やはり目立つか……。おい、通らせてくれないか?」


「カ、カリナ様……でしたか……。いやはや、腰が抜けるかと……」


「あんなドラゴンまで使役していらっしゃるとは……。さすがはカーズ様のご令妹……」


 彼らは震えながらも、敬意を込めて門を開けてくれた。アジーンのおかげで予定よりかなり早く着いた。ここからは白馬のユニコーンを召喚し、城門までの道を優雅に駆けた。王城まで辿り着いてからユニコーンを送還し、「おかえりなさいませ」と門番の兵士からの最敬礼を受けて城内に入った。


 城内で出会った近衛兵に帰還を伝え、後でカシューの執務室に向かうことを告げる。  


 先ずは自室だ。ルナフレアに帰ったらすぐに顔を見せると約束している。カリナは階段を昇って自室へと急いだ。


 カードキーを取り出し、扉を開ける。その音を聞いたルナフレアが、キッチンの方から飛んでくるように駆け付けて来た。その顔には安堵の色が浮かんでいる。


「おかえりなさい、カリナ様。お待ちしていました」


「ああ、ただいま。約束通りちゃんと一番にここに戻って来たよ」


「ただいまなのにゃ!」


「ケット・シー? ああ、一緒に旅をしていたんですね」


「まあな。こんなんでも役に立つ。だが、暫くはエデンにいるから、こいつには一旦帰ってもらう。またな隊員。また旅に出る時には喚ぶから、暫く休んでいろ」


「はいにゃ。約束にゃ、隊長」


 光の粒子となって送還されていく隊員。カリンズの地下迷宮では助けられた。今後も旅のお供として連れ回すことになるだろう。


「改めてただいま、ルナフレア」


「はい、おかえりなさいませ、カリナ様……」


 そう言って抱き締めてくるルナフレアを、カリナは優しく抱き留めた。彼女の温もりに触れ、旅の緊張が解けていくのを感じた。


 しばらくそうして再会を噛みしめていると、部屋の通信機がけたたましく鳴った。ルナフレアはハッとして身体を離すと、少し困惑した顔で受話器を取り、応答する。


「はい、こちら王国騎士団長室です」


 カリナは何事だろうかと思いながら、通信機のあるリビングのソファーに腰掛けた。


「はい……。近隣の街の上空を黒いドラゴンが通過した? ……住民がパニックになっている? ……ああ、大丈夫です。恐らくそれはカリナ様の召喚体ですから、襲われる心配はありません。はい、そのように伝えて下さい。失礼します」


 通信を切ると、ルナフレアは受話器を置き、ゆっくりと振り返った。その顔は、先程までの慈愛に満ちた表情とは打って変わり、笑顔だが目の笑っていない、静かな怒りを湛えた表情になっていた。


「カリナ様? ……ドラゴンに乗って来ましたね?」


「う、あ、ああ……、つい、どうしてもアジーンに乗ってみたくなって……」


 カリナの視線が泳ぐ。


「近隣の街は大騒ぎになっているそうですよ。あれほど『ドラゴンはやめて下さい』と申し上げたではないですか」


「すまん、まさかそんなに大騒ぎになるとは……」


「空をそんな巨体が飛べば大騒ぎにもなります! もし王国の防衛隊が攻撃でも仕掛けたらどうするおつもりでしたか!」


「はぁ、それもそうか……。次からは気を付ける」


「お願いしますよ、本当に……。もう、カリナ様は……」


 その後暫く、ルナフレアに正座させられ、こってりとしぼられるカリナだった。そして心の中で、「すまない、アジーン。暫くは召喚できないかもしれない」と、遠い空の子に謝るのだった。


 何にせよ、こうしてカリナは無事エデンへの帰還を果たした。

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