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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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54  一時の別れ

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、瞼を焼く。カリナは重い瞼を擦りながら、ゆっくりと身体を起こした。


「ふあ……。よく寝たな……」


 大きく伸びをすると、ふくらはぎと足首に鈍い痛みが走った。昨日のパーティでの無理が祟ったらしい。あの殺人的な高さのピンヒールで数時間、セラフィナに連れ回された代償は大きかった。王城で一緒に寝ることまでせがまれたが、何とか逃げ出して、宿に戻ったのだ。


 脳裏に浮かぶのは、煌びやかな王城の光景と、美味しいスイーツ、そして「妹」と呼んで離さなかった天真爛漫な王女の笑顔。なんだか夢のような、それでいて嵐のような一日だった。悪魔との死闘よりも、昨日のパーティの方がよほど精神力と体幹を使った気がする。


「おはようにゃ、隊長。もう朝だにゃ」


 ベッドの隣では、ケット・シー隊員が既に起きて毛繕いならぬ身支度を整えていた。


「おはよう、隊員。昨日はお前も疲れただろう」


「うーんにゃ。おいらは執事さん達に美味しい魚料理をたくさん貰って、静かな部屋で食べてたから快適だったにゃ。隊長の方が大変そうだったにゃ」


「……見てたのか?」


「セラフィナに人形みたいに抱っこされてたにゃ」


 隊員はニヤニヤと笑っている。どうやら昨日の自分の奮闘ぶりは、しっかりと隊員に見られていたらしい。カリナはバツが悪そうに頭を掻くと、ベッドから降りた。


 今日はエデンへの帰還日だ。いつものフリフリの衣装に着替え、愛刀を腰に差す。やはりこの格好が一番落ち着く。ドレスも悪くはなかったが、あれはあくまで戦場(パーティ)用の装備だ。


 身支度を済ませ、荷物をアイテムボックスに放り込むと、二人は部屋を出て一階の食堂へと降りた。


 朝の『金砂の舞踏亭』は、出発前の冒険者や商人達で適度な賑わいを見せている。香ばしいパンとスープの匂いが胃袋を刺激した。


「おや、おはようカリナちゃん! 昨日はお疲れ様だったねえ」


 カウンターの奥から、若女将のルーシーが元気な声を掛けてくる。彼女は手際よく湯気の立つカップを二つ用意してくれた。


「おはよう、ルーシー。ああ、本当に疲れたよ。王城のパーティってのは、戦場より気を使うな」


「ははは、そりゃあね。でも、あんたなら堂々としてたんじゃないかい? 街じゃ『悪魔討伐の英雄は、深紅のドレスを纏った絶世の美少女だった』って噂で持ちきりだよ」


「……勘弁してくれ。誰だそんな噂を流したのは」


 カリナがげんなりしてコーヒーを啜ると、ルーシーは楽しそうに笑いながら、焼き立てのパンとベーコンエッグ、それに野菜のスープを運んできた。王城の豪華絢爛な料理も美味だったが、こういう宿屋の気取らない朝食もまた格別だ。


「ほら、隊員も。今日は魚のスープだよ」


「ありがとにゃ! ルーシーの料理は最高だにゃ!」


 隊員が嬉しそうにスープに顔を寄せる。昨日は別室で大人しくしていた褒美だ、存分に味わうがいい。カリナもパンをちぎって口に運ぶ。素朴な小麦の味が染み渡る。


「今日、エデンに発つんだろ? 寂しくなるねえ」


「ああ。ここでの用事はあらかた済んだからな。また来る機会はあると思うよ。王女様にも捕まってるしな」


「あはは、セラフィナ様かい? あのお姫様にお気に召されたら、もう逃げられないよ。覚悟しな」


 ルーシーはウインクをして、他の客の注文を取りに戻っていった。


 ゆっくりと朝食を平らげ、支払いを済ませる。宿を出る準備を整え、ルーシーに挨拶をしてからカリナと隊員は金砂の舞踏亭の扉を開けた。


 外の空気は澄んでいて、今日も良い天気になりそうだ。そして、宿の前には見慣れた顔ぶれが待っていた。


「あ! 来た来た! おはようカリナちゃん!」


 一番に手を振ってきたのはユナだ。昨日のドレス姿とは打って変わり、いつもの陰陽術士の衣装の上に褒美の上着を羽織っている。


「おはよう、みんな。わざわざ見送りに来たのか?」


「当然だろー。命の恩人であり、戦友なんだからな」


 カインが笑う。彼も新たに貰った輝く青銀の鎧を身に着けているが、昨日の黒礼服姿を見た後だと、どこか育ちの良さが隠しきれていないように見える。


「カリナちゃん、昨日は本当にお疲れ様だったね。足は大丈夫かい?」


 カーセルが心配そうにカリナの足元を見てくる。昨日のよろめき具合を覚えられていたようだ。


「ああ、問題ない。やっぱり普通のブーツが一番だよ」


 カリナが爪先をトントンと地面に叩いてみせると、カーセルは安堵の表情を浮かべた。


「今日はもう発たれるのですか? もう少しゆっくりしていけばいいでしょうに」


 テレサが名残惜しそうに言う。


「エデンでもやる事があるからな。それに、あまり長居すると本当に王城に軟禁されそうだ」


「あはは、セラフィナ様が放さなそうだしねー」


 ユナの言葉に全員が苦笑する。そして、見送りの王国騎士達の後ろから、聖女サティアが進み出た。彼女もまた、いつもの白い聖職者のローブに褒美のマントを纏っている。


「カリナさん。昨日はお疲れ様でした。楽しかったですね」


「ああ。サティアもな。……お前は、まだ暫く残るんだろ?」


「ええ。教会の引き継ぎや、昨日の国交の話に関する事務手続きが少し残っていますので。今日もこれから彼ら騎士団に連れられて王城です。多分あと2、3日したらエデンに戻りますよ」


 サティアは穏やかに微笑む。彼女はPCプレイヤーキャラクターとしての秘密を共有する、この世界で数少ない背中を預けられる同胞。


「わかった。エデンで待ってるよ。あいつら……カシューもエクリアも、お前の帰還を待ってるだろうしな」


「ふふ、そうですね。カシューさん達にもよろしくお伝え下さい。……くれぐれも、道中はお気をつけて。変な組織や悪魔に目を付けられているかもしれませんから」


 サティアの声色が少しだけ真剣なものになる。影霊子爵の言った『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』の話だ。


「ああ、肝に銘じておく」


「それとこれは私が調合したポーションです。実際の肉体で戦う今、出血や突然の衝撃は大きなショックを受けます。特に身体に穴が開くような怪我は呼吸困難などの症状が起きる可能性があります。これはそういう症状を抑える物です。この箱にありますので、アイテムボックスに入れて、戦いに臨む前に飲む様にして下さい」


 渡された箱入りのポーションは赤い液体だった。肉体を使って戦う以上、現実的な問題がある。HPの数字だけでは計れないものがあるのだ。カリナはポーションを箱ごとアイテムボックスに入れた。


「ありがとう、気を付ける。それじゃあ、みんな。また会おう」


「うん! またねカリナちゃん! 絶対また遊びに来てね!」


「元気でな!」


「カリナちゃん、気をつけて。いつでも連絡してくれ」


「神のご加護がありますように」


 ルミナスアークナイツの四人と、サティアの迎えの騎士団に見送られ、カリナは隊員と共に歩き出した。背中越しに聞こえる声援に軽く手を挙げて応える。


 ルミナス聖光国。悪魔との戦いに、王女との遭遇。短い期間だったが、濃密な時間だった。新たな縁と、少しの懸念を抱え、カリナは帰るべき場所、エデンへの帰路に就いた。


 西門に着くと、来た初日に会った門番達がいた。


「おお、英雄のお嬢ちゃんじゃないか。これから帰還か?」


「ああ、悪魔の討伐も済んだし、サティアも見つかった。ここでの任務は終わりだからな」


「そうか、まさかあの日見たお嬢ちゃんが本当に悪魔討伐をしてしまうなんてな」


「そうだな、国中で噂になってるからな。御陰でまたここを訪れる人も増える」


「そうか、なら良かった。でも私は為すべきことをしただけだよ。それじゃ、元気で」


「お嬢ちゃんも元気でな」


「またいつでも来てくれよ」


「またなのにゃ」


 門番達と会話を済ませ、門を潜る。そして下り道の街道を歩く。坂道を歩くと、昨日のピンヒールの痛みがぶり返して来る。キツイ。これは困ったということで、乗れる召喚体を喚ぶことにした。高地なのでペガサスはまずい。ユニコーンでもいいが、もう少し毛皮がふわふわで腰やお尻に衝撃が少ない者がいい。


「うむむ……、誰にするかな」


「乗り物にゃ? あいつはどうにゃ? 霊装虎王(れいそうこおう)ヴァジュラにゃ。あの毛皮ならフカフカにゃ」


「ああ、確かにあいつなら会話もできるしな。ナイスだ隊員、喚ぶか」


「ですにゃ」


 街道の広い場所で両手に魔法陣を展開し、祝詞を唱える。


「雷鳴よ、王の道を拓け

大地よ、獣王の足跡を刻め

誇り高き白銀の虎よ

蒼雷を纏いし霊装の王よ

我は命ずるにあらず、願うにあらず

盟約を胸に、共に駆ける者

契りは今、雷と共に結ばれん

ここに顕現せよ

――霊装虎王(れいそうこおう)ヴァジュラ!」


 合わせた魔法陣が重なり合って地面に降りると、雷の輝きと共に5m以上はある巨大な白虎が顕現した。


「召喚に応じ馳せ参じました。我が主よ。お久し振りでございます」


「ああ、お前も100年も放置したことになるのか、ヴァジュラ。すまなかった、いつの間にかそれ程の時が流れていたとはわからなくてな」


「問題ありません。我が爪と牙、そして雷は敵を討つためいささかも錆び付いておりませぬ。そして我が背にある霊装鞍は主を乗せて地を駆るためのものです」


「そうか、変わりないならそれでいい。これからエデンに帰還する。お前のその背に乗せてくれないか? 因みにこの隊員も一緒だ」


「うにゃ、久し振りにゃ、ヴァジュラ」


「ケット・シーか、お主も久しいな。いいでしょう主よ。我が背に乗るがいい」


 霊装虎王(れいそうこおう)ヴァジュラは、巨大な虎型召喚獣で、引き締まった四肢としなやかな胴体を持ち、走れば大地が低く唸る。体毛は白銀を基調とし、虎特有の縞模様は淡く光る蒼雷色の紋様として浮かび上がる。


 魔力が高まると、その紋様が脈打つように輝き、雷光がたなびく。瞳は黄金色で、理知と威厳を併せ持つ獣王の眼差し。額には短く尖った霊晶角が一本生えており、これは契約者の魔力と共鳴する媒介器官である。


 背には自然に形成された騎乗用の霊装鞍があり、鎧のような魔力装甲が自動的に展開され、落馬や衝撃から騎手を守る。だが、この霊装鞍はゲーム時代にはなかったものだ。この世界が現実となり、主を乗せることができる新たな機能なのだろう。


 屈んだ虎の背に隊員と一緒に飛び乗ると、その毛皮は柔らかく強靭で、自動的に紋章の様な鞍が浮かび上がる。そこにある手綱を掴むと、周囲を薄っすらと魔力の壁が遮断する。


「おお、これは凄いな。自動防御の魔力壁が形成されるのか?」


「はい、例えバランスを崩そうともその壁が落下から主を守ります。安心して我が背での旅をお楽しみ下さい」


 もっと早く喚ぶべきだったかもしれない。そう後悔しながらも、カリナはヴァジュラに命じる。


「よし、先ずは道中のカリンズ、チェスター、そしてエデンだ。行け、ヴァジュラ!」


「行くにゃー!」


「ハッ!」


 掛け声と共に駆け出した虎の速度はまるで雷に跨っているかのようだ。すれ違う人々が何事かという表情で此方を見るが、その速度に目が追い付かない。あっという間に山道を降り終え、カリンズへの街道に出た。


「凄いな。まるで風圧を感じない。この魔力障壁の御陰だな。もっと早くお前を召喚するべきだった」


「うにゃー、速いにゃ!」


「ハハハ、主よ。そう言って頂けるのは光栄だ。これからはいつでも我を呼び出すがいい!」


 偶に遭遇する魔物も虎王の雷によって近づく前に黒焦げになる。カリナ達は数時間置きに休憩を取りながら、夕刻前にはカリンズに到着した。



「いやー、速かった。さすがだヴァジュラ。また明日も頼むよ。ゆっくり休んでくれ、お前を連れ歩いてもいいが、街の住民に驚かれては困るからな」


「そうですな。ではここで。明日を楽しみにしております」


「またなのにゃ」


 光の粒子となって消えて行くヴァジュラを見送り、カリナ達はカリンズの街の東門から中に入った。


「さて、まだ明るいし、組合に寄ってジュリアに報告しておこう。既に討伐の噂は届いているかもだが、直接出向いておく方がいいだろう」


「はいにゃ。ジュリアに会ったらまたお菓子が貰えるにゃ」


「意地汚いぞ」


 二人は宿に泊まる前に先ずはカリンズの総合組合を目指して歩き始めた。

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