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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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51  聖光国国王ジラルド・ルミナス

 視界を白く染め上げた光の奔流が収まると、カリナは数度瞬きをして、ようやくその空間の全貌を認識した。


 そこは、『玉座の間』というよりは、巨大な神殿の内部と呼ぶにふさわしかった。天井は遥か高く、見上げるほどのドーム状になっており、そこに描かれた無数の天使や聖人たちのフレスコ画が、魔法の加護を受けて自ら発光するように煌めいている。


 壁も床も、これまでの回廊と同じ白大理石だが、その純度は桁違いだ。磨き抜かれた床面は鏡のように全てを反射し、どこが床でどこが壁なのか、空間の境目が曖昧になるほどの浮遊感を覚える。


 そして、深紅の絨毯が導く遥か彼方。数十段の階段の上に設けられた祭壇のような場所に、その『玉座』はあった。 背後に嵌め込まれた巨大な円形のステンドグラスから差し込む太陽光を一身に浴び、黄金と水晶で形作られた玉座は、直視できないほどの輝きを放っている。


 その光の中心に、一人の男が座していた。


 ルミナス聖光国国王、ジラルド・ルミナス。  


 齢は五十代半ばほどか。白髪の混じる金髪をオールバックに撫で付け、刻まれた皺の一本一本が、彼が背負ってきた国の歴史と責任の重さを物語っている。  


 豪奢な王衣の下からでも分かる屈強な肉体と、鷲のように鋭い眼光。彼はただそこに座っているだけで、周囲の空気を支配するほどの圧倒的な覇気を纏っていた。


 あまりに神聖なその光景に、隣を歩くルミナスアークナイツの面々が息を呑む音が聞こえた。カリナは随分と場違いな場所に来てしまったことを後悔しながらも、かつてのメインキャラ、聖騎士カーズの英雄としての仮面が剥がれぬよう、腹に力を入れてジラルドを見据えた。


 赤い絨毯の上を進む。左右にはこの国の重臣達や、高位の貴族とおぼしき人々が並んでいた。彼らの視線を全身に浴びながら歩く。


「あれが悪魔を討伐した少女か? まだ幼いのに大したものだ」


「いや、しかし幼いが何とも美しい少女だ」


「今回は聖女様も参加されたのか?」


「ほう、あれがルミナスアークナイツか。さすが我が国の名をギルド名に刻むだけのことはある」


 ひそひそと交わされる会話が耳に届くが、今はまず謁見である。王の手前の絨毯に引かれた黒いラインまで進み、そこで全員が跪く。すると、王の傍らに控えていた宰相らしき年配の男が、厳かに告げた。


「陛下。この度の悪魔討伐の功労者、カリナ殿に聖女サティア様、そしてルミナスアークナイツの四名、到着致しました」


 その言葉を受け、ルミナス国王が口を開く。


(おもて)を上げ、楽にするがよい。私がこのルミナス聖光国の現国王、ジラルド・ルミナスである。此度は遺跡に居座る悪魔の討伐、大儀であった。まずは感謝の言葉を送らせてもらおう。礼を言う」


 放つ威厳からは思いもよらないほど、ジラルドの声には真摯な感謝が込められていた。隣のサティアが「ね? 言った通りでしょう?」と目で訴えてくる。カリナは姿勢は崩さず、しかし内心少し気が楽になった。


「勿体無きお言葉、恐悦至極に存じます」


 演技のスイッチが入ったカリナは王に告げる。これまで散々エデンで国王と配下のロールプレイをしてきたのだ。この程度の口上は造作もない。


「こちらこそ、態々ご招待いただき感謝致します」


「「「「ありがとうございます!」」」」


 サティアの言葉に合わせてカーセルたちも声を揃えた。


「まあ、そう固くならずともよい。かつて我ら五大国は強大な軍事力を誇っていたが、100年前の襲撃事件で多くの力ある兵を失った。今では悪魔一匹満足に討伐できぬことを恥じている。そのような重荷をそなたらに背負わせてしまい申し訳ない。感謝するのはこちらなのだ」


 やはり五大国の軍事力は低下しているのか。カリナは状況を再認識した。かつての力量なら、あの程度の悪魔など物の数ではなかったはずである。


「やはり、襲撃事件の影響は後を引いているのですね」


「うむ。なればこそ、力ある冒険者の出現は嬉しい限りだ」


 カリナの問いにジラルドが頷く。


「それで本日はどのようなご用件でしょうか? 王城に呼ばれるなど中々あることではありませんので」


 サティアは慣れているのだろう、物怖じせずに召集の理由を尋ねた。ルミナスアークナイツのメンバーは、ジラルドの覇気と王城の空気に飲まれ、一言も発せずにいる。


「おお、そうであったな。この度は今回の功労者に何かしら報酬を渡したいと思ってな。それと、ささやかながら祝宴を開きたい。各自何か所望するものはあるか? ……まあ、いきなり言われても難しいかもしれん。そこでこちらで、そなたらのクラスに応じた装備などを準備させてもらった。近衛兵たちよ、各自に渡す報酬を彼らに」


「「「「「ははっ!!!」」」」」


 近衛兵達によって、豪華な装飾が施された宝箱が各自の目の前に置かれる。


「遠慮せずに開けてみるがよい。気に入らなければ他のものと交換しよう」


 促され、各々が目の前の宝箱を開ける。そこには各自のクラスに合った武器や防具が納められていた。


「これは、凄い剣だ……。それにこの盾も。今使っているのよりも相当上のランクのものだ……」


「ああ、このスピアに鎧もかなりの業物だ。すげえ……」


「私のは陰陽服の上に羽織れる衣装ね。凄い魔力を感じるわ」


「このロッドもです。魔力の循環が遥かにスムーズにできます。そしてこのローブも。防御性能がかなり高いです」


 カーセル達は差し出された逸品に目を輝かせている。


「私のは……おや、これはローブの上から纏えるマントですね。性能も高そうです」


 サティアには聖女の装束に合う、ポンチョのようなマント。彼女も気に入ったのだろう、柔らかい笑顔を見せている。


 カリナは全員の反応を見てから、自分の前にある箱を開けた。中には厳重に封印された小さな壺が一つ、入っていた。


「何だ、これ? 壺?」


 カリナの素の反応を見て、ジラルドはふふっと笑った。


「カリナ、そなたは召喚士と聞いた。それに既に一流の剣を持っているともな。これはこの国に保管されていた、召喚獣を封じた壺だ。そなたなら使役できるであろう。中身は開けてみるまではわからぬがな」


「なるほど。召喚士なら屈服させて使役させてこそ、一番の褒美になります。ありがとうございます。どこか被害が出ない場所で開けてみます」


 何が出るのかはランダムだというのが、カリナのゲーマーとしての好奇心をくすぐった。それに使役できる召喚体のバリエーションは多いに越したことはない。


「他の者たちへの品は、かつてこの国に仕えていた猛者たちが使用していた装備だ。宝物庫に眠らせておくくらいなら、これからの未来ある若者達に託す方がよいだろう」


「はい、ありがとうございます陛下!」


「お心遣い感謝します」


「有効利用させてもらいますよ!」


「ええ、これ程の装備。これからの活動に生かします」


 カーセル、テレサ、カイン、そしてユナが順に礼を言った。


「私もこのマントは気に入りました。お心遣いありがとうございます」


 サティアも優雅に礼を述べる。


「後は各自にそれなりに色をつけさせてもらった。箱の奥を見るがよい」


 ジラルドの言葉に従い箱の底を確認すると、そこには大量の通貨『セリン』が入っていた。


「皆を代表して、私、ルミナスアークナイツ団長のカーセルが感謝を述べさせていただきます。ありがとうございました」


 皆がその言葉に合わせて深々と一礼をした。


「さて。組合からは、カリナ、そなたからの情報も伝達があった。悪魔達の主の復活のために蠢く存在、深淵公。そして悪魔と結託して精霊を襲い、その力を悪用しようとする組織のことだ。そなたや聖女サティアの故郷エデンでは、既に対策をしていると聞いた。この国の国王としてエデンへの協力は惜しまぬ。即刻エデン国王に書簡を送ろう」


 さすがジュリアだ。話が早い。五大国が味方になってくれれば問題解決も早まる。


「ルミナス王よ。エデンの国王となら今すぐ連絡を取ることが可能です。私の耳に通信機があります。魔力を注げばすぐにカシュー王に繋ぐことが可能です」


「何と、そのような技術があるとは……。エデンは発展した国だとは聞いていたが、そこまでとはな。分かった、是非繋いでくれぬか?」


「わかりました。少々最初は失礼なことを口走るかもしれませんが、ご容赦下さい」


「構わんよ、急に繋がれば私でも面食らうだろうからな」


 カリナは「では」と言って左耳の通信機に魔力を注いだ。


「カシュー聞こえるか?」


「うん、聞こえてるよ。どしたの?」


「今ルミナスの王城でジラルド国王と話している。エデンと交流がしたいとのことなので、上手く話してくれ」


「ええ? いきなりだな。大丈夫かな? ……ってもう聞こえてるよね?!」


「聞こえておるぞ、エデン王国国王カシュー陛下よ。私はルミナス聖光国国王のジラルド・ルミナスだ。急に繋ぎ申し訳ない。気にしないでくれ。此度はここにいるエデン出身の召喚士カリナと聖女サティアに救われたのだ。そして背後にいる巨大な存在と闇の組織……できれば貴国と今後も情報交換などの友好を結びたい。いかがであろうか?」


「はい、失礼致しました。此方としては願ってもいないことです。五大国の一つである貴国と友好を結べれば今後の活動もよりスムーズに行えます。此方こそよろしくお願い致します、ジラルド王よ」


 さすがはカシュー。咄嗟に国王モードに切り替わった。


「して、この後は宴にしたいが、私はそなたと今後のことについて色々と話をしたい。カリナからその通信機を借りてもよいだろうか?」


「はい、構いません。これは我が国では既に大量生産が可能です。今カリナの使っているもので良ければ使って下さい」


「ありがたいことだ。カリナよ。その通信機を私に着けてはくれぬか?」


「はい、構いません。私が使用していたものですが宜しいですか?」


「構わぬよ。そなたのような気品ある美少女が使っていたものだ。嫌なわけがあるまい。さあ、傍に来てくれ」


 ジラルドは少し茶目っ気を含んだ笑みで手招きする。


「では失礼致します」


 カリナは立ち上がり、周囲の近衛兵に目配せで許可を取ってからジラルドに近づき、その左耳にイヤホンをセットした。


「ここに魔力を注げばいつでも通信可能です」


 カリナが王の傍から離れると、彼は左耳に魔力を注いだ。


「聞こえておるか、カシュー王よ」


「はい、問題ありません」


「うむ。ではこれから我等は今後のことについて打ち合わせをする。そなたたちはパーティの準備も兼ねて衣装を整えよ。大臣、使用人たちを手配してやってくれ。着替えたら城の中庭で行うので案内させよう。ではこの場は解散とする。大儀であった」


「「「「「「はっ!」」」」」」


 ジラルドはカシューと今後のことについて話し合うために奥へ向かって行った。カリナたちは再び一礼をし、褒美の品をアイテムボックスに仕舞い込んだ。


「では、これから王城のパーティの準備をさせていただきます。メイド隊、前へ」


「はい!」


 宰相らしき男の指示で、奥で控えていた侍女達が静かに、しかし迅速にカリナたちを取り囲む。


「では、パーティに相応しい衣装に着替えましょう。衣装室へご案内します。男性陣には執事をお付けしますので、彼らに案内してもらって下さい」


 メイドの隊長らしき女性がテキパキと指示を出す。そしてカリナ達女性陣はメイド達、カーセルとカインは執事達に連れられて衣装室へと案内された。



 ◆◆◆



 衣装室。  


 カリナたちは今着ている衣装の代わりに、パーティのためのフォーマルなドレスを着せられることになった。女性陣それぞれに一人ずつ専属の侍女がつき、着替えやメイクまでしてくれるという。互いの間には見えないようにカーテンで仕切りがされていた。


「うんうん、元が良いからこれなら何を着せても似合いますね。これは腕が鳴ります。あ、私はメイド隊の隊長をしておりますカレンです。以後お見知りおきを」


「ああ、うん、よろしく。私はカリナだ」


「ではカリナ様、今からメイクとドレスの着付けをさせていただきますね」


「ああ、頼むよ」


 カレンはカリナの着ている衣装を脱がせると、手際よく採寸をし、奥から数着のドレスを持って来た。カリナはもうプロに任せようと思い、成すがままになった。


 着付けが終わり、鏡の前で座り、軽くメイクを施される。何とも言えないくすぐったい気分である。そして暫く目を瞑って身を委ねていると、やがてカレンの声が掛かった。


「出来ました。この姿見で全身をよく見て下さいね。いやー、我ながらいい仕事をしました。パーティに参加する貴族や城の上役の方々も大満足でしょう。求婚されるかもしれませんね?」


「いや、さすがにそれは……。まだやるべき冒険や任務があるしな」


「まあまあ、それくらい素敵だってことですよ」


 カレンに肩を掴まれ、姿見の前に立たされる。そこに映っていたのは、見知らぬ美女だった。


 鮮やかな真紅を基調とした、大胆なスリットの入ったチューブトップドレス。胸元には繊細な花の飾りやリボンが施され、裾には幾重にも重なるフリルやレースが揺れている。歩くたびに、スリットから健康的な白い脚が覗くデザインだ。  


 首元にはドレスに負けない色鮮やかな宝石のネックレスが輝き、後ろ髪は優雅に纏め上げられて白いうなじが露わになっている。足元を引き締めるのは、黒いストラップ付きのハイヒールサンダルだ。


 薄く化粧を施された自分のその姿に、カリナは目を奪われた。普通にしていても美少女のアバターだが、ここまで変化するのか。暫く自分の姿に魅入ってしまい、言葉が出なかった。


「どうですか? 女は化けるんですよー」


 そう言って悪戯っぽく笑うカレン。カリナは新たな自分を発見したような、不思議な高揚感に包まれた。その後、残りの女性陣の準備が整うのを待って、中庭のパーティ会場へと案内されることになったのだった。


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