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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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48  賑やかな夜

 豪快な乾杯の後、分厚い肉とエールが次々と胃に収まっていく。酒場は熱気と歓声に満ち、祝勝会のボルテージは一気に高まった。


 カインは骨付き肉にかぶりつきながら、真っ先にカリナに声をかけた。彼の手にはエールで満たされたジョッキが握られている。


「にしても隊長、やっぱすげえな、あの時着てた聖衣(ドレス)! 蠍の光の鎧、あれは本当に実在したのか!?」


「ああ、あれはあの時召喚した精霊カルディアが持つ力だ。召喚体が契約者に力を貸してくれるとき、ああいう姿になるんだ。だが、誰にでも纏えるものじゃない。互いに信頼感がないとな」


 カリナは山賊肉を切り分けながら答える。彼女の目の前には、ルーシーが特別に用意した、特製フルーツジュースが泡立つジョッキに入っている。ユナが、口元をぬぐいながら感心したように続けた。


「光の精霊を纏う鎧だなんて、神話みたいね。カリナちゃんの魔力もすごかったけど、あの荘厳さ……私達も何回か攻撃を受けたけど、あの鎧にはかすり傷一つなかったもの」


「あれがあったから私達も助けられました。本当に心強かったです」  


 テレサも感謝の言葉を口にした。


「それに勿論サティア様もですよ!」  


 今度はカーセルがサティアにジョッキを向けた。


「あの時駆けつけてくださった時の、あの神聖な光……! 悪魔の結界が一瞬で消え去るのを見たときは、本当に聖女様なんだと思いましたよ」


 サティアは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、上質なフルーツワインを一口飲んだ。


「お恥ずかしい限りです。あれは聖女の神聖術ですが、皆さんのお役に立てたなら何よりです。ただ、カリナさんの怪我があまりにも酷かったので、正直焦りましたけどね……」


「いやいや、サティアのお陰で綺麗さっぱり治ったよ。改めて感謝する。お前の回復術は、本当に素晴らしいものだ」  


 カリナはジョッキに入ったジュースを一口飲むと、その爽やかな甘酸っぱさにほっと息をついた。


「それにその悪魔が逃げる結果になったのは、サティア様の術が効いたからこそなのでしょうね」  


 ローザが優雅にフォークを置き、冷静に戦果を分析した。彼女の隣ではエイラが、緊張しながらも興奮した様子で肉を頬張っている。


 会話は自然と、彼らが遭遇した悪魔の強大さへと移る。


「あの影霊子爵ヴァル・ノクタリスとかいう奴、とんでもなかったわ。只の悪魔じゃない、何か上位の存在が背後にいるって感じがひしひしと伝わってきたもの」  


 ユナがシチューを口に運びながら言った。


「そうだな。あの影を操る能力、そして最後の転移術。並大抵の悪魔じゃない。そして、一番ヤバかったのは、あいつが最後に喚んだ影虚竜シャドウ・ヴォイド・ドラゴンだな」  


 カインは興奮気味に身を乗り出し、豪快にエールを飲み干した。


「あの異形の龍、完全にイレギュラーだったわ。カリナちゃんとサティア様がいなかったら、街どころか、私たち全員が跡形もなく消されていたかもしれない」


 ユナの言葉を聞きながら、カリナは静かにジュースを一口飲んだ。ジョッキを傾けると、隊員もカリナの真似をして、専用の小さなジュースのグラスをくいっと傾ける。


「あれは厄介だったな。聖衣(ドレス)の御陰で何とかなったが、ただの召喚体ではなく上位存在の力を借りたものだろう。そして、奴が口を割った情報、深淵公とヴォイド・リチュアル・サンクトゥムの存在が、今後の真の脅威だな」


 この話題になると、組合長であるローザの顔が引き締まる。


「ええ。先程も聞きましたが、悪魔の今の最上位階級である『深淵公』……。そして、精霊を狙う組織。私達も既に各国に情報を送っていますが、これは今までとはレベルが違います」


「それにしても、サティア様の神聖術が効いて本当に良かったですね! 御陰で、ルミナスアークナイツも明日から安心して仕事ができますね!」  


 エイラが感激した面持ちでサティアに頭を下げた。


「うにゃ。隊長もサティアも凄かったにゃ。おいらもお前達にした指示は的確だったにゃ」


 カリナがその言葉を聞き逃さず、ケット・シー隊員の頭を軽く(はた)いた。


「お前は何もしてないだろう」


「うにゃっ! あれは作戦にゃ。おいらは高いところから指揮するのが役割にゃ」


「只の賑やかしだろ」


 そんな軽妙なやり取りがテーブルを和ませた。ローザはそんな賑やかな光景を眺めながら、満足そうに頷いた。


「ともかく、今日の勝利は揺るぎない事実。そして、この街の未来は守られました。さあ、深く考えるのは明日からにしましょう。今日は祝勝会ですから」


 その一言で、再びテーブルの熱気が高まり、ジョッキとグラスが次々と空になっていった。カリナは肉を噛みしめながら、その賑やかな喧騒を心地よく感じていた。


 料理の皿は次々に空になり、エールの補充が追い付かなくなるほどの盛り上がりを見せていた。カーセルやカインは既に顔を赤くし、ユナとテレサは笑い過ぎて涙ぐんでいる。ローザはフルーツワインを嗜みながらも、時折、組合長としての引き締まった表情に戻る。


 その中で、カリナはジュースを飲みながら、カインの豪快な飲みっぷりを笑って見ていた。


「カイン、飲みすぎると、二日酔いで動けなくなるぞ」


「へへ、大丈夫っすよ、隊長! 今日は勝利の美酒、じゃなくて、勝利のジュースが効いている! それに、隊長を見てると、俺たちも頑張らねぇとって思うんスよ」


 カインはジョッキを置くと、真剣な眼差しでカリナを見た。こいつは相当酔ってるなとカリナは思った。口調が安定していない。


「あのな、隊長。戦ってる時、たまに隊長の背中が、すげえデカく見える時があるんだ。見た目は俺たちよりずっと幼いのに、あの悪魔に一歩も引かなかった。あのギャップが、すげえ格好いいんスよ!」


「そうよ、カリナちゃん!」


 ユナが口を挟む。


「あの戦闘中、ふとした瞬間に、カリナちゃんの顔つきが大人びて見えるの。 普段は可憐な美少女なのに、術を使う時の冷徹な表情とか、もう最高に痺れるわー!」


 ユナの熱のこもった言葉に、サティアが優しく頷く。


「カリナさんは昔からそうでした。外見に惑わされてはいけない。彼女の魂の強さとその実力は、誰にも測れません」


「ふふん! 隊長は世界一可愛いし、世界一強いにゃ!」  


 いつの間にかカリナの膝の上で魚の残りを舐めていたケット・シー隊員が、誇らしげに胸を張った。


「そのくらいにしてくれ、さすがに褒め過ぎだ」


 カリナは謙遜し黙ったので、次第に話題がサティアに移ると、カーセルが真面目な顔に戻り尋ねた。


「サティア様。それで、今後ルミナス聖光国はどうされるのですか? 今回の件で、サティア様がエデンに戻られるという話は、本当なのですか?」


 その言葉に、ローザとエイラも注目する。サティアがこの街の『聖女』として定着していることは、街の人々にとって大きな心の支えだったからだ。


 サティアは静かにグラスを置き、まっすぐ前を見据えた。


「はい。今回の悪魔の件、そしてヴォイド・リチュアル・サンクトゥムの情報。これは、一地域の問題ではありません。私はエデンの最高責任者であるカシュー国王に情報を渡し、聖女として、今後はエデンを拠点に悪魔との戦いに身を投じます」


「ええっ!?」  


 エイラが驚きの声を上げた。


「ですが、サティア様がいらっしゃらないと、この街の人々は……」


「大丈夫よ、エイラさん」


 サティアは優しく微笑む。


「この街には彼らルミナスアークナイツに、他にも頼れる冒険者達がいるでしょう? そして、私が不在だとしても、神聖術を使える司祭達は残ります。何より、帰るべき故郷が脅威に晒される可能性がある今、私はもう座っているわけにはいきませんから」


 彼女の決意に満ちた瞳を見て、ローザは深く息を吐いた。


「わかりました。聖女様がそこまで決意されているのなら、組合としても全力でエデンへの情報協力を約束します。……しかし、寂しくなりますね」


「また、何かあればすぐに戻ってきますよ。この街は、私にとって大切な第二の故郷ですから」


 深刻な話が一段落すると、カインが再び陽気な雰囲気へと引き戻した。


「そっか、じゃあ、俺たちがもっと強くなって、サティア様が戻ってきた時に『俺たちがこの街を守り抜きました』って胸張って言えるように頑張らないとな!」


「そうよ。サティア様に見劣りしないように、私たちも頑張るわ」  


 ユナはそう言いながら、カーセルにシチューをよそってやる。


「それにしても、カリナさんって本当に不思議ですね。こんな美少女なのに大人びた口調だし、飲むのはジュース。今まで見たことがある冒険者の中では最強と言ってもいいのに、お菓子も好きなんでしょう?」  


 テレサがくすくすと笑いながら、可愛らしいカリナのギャップを指摘した。ローザの部屋で食べたくらいだが、そんな風に思われていたのだろうか。


「うるさいな。ジュースが美味いんだ。それにこんな見た目なんだから、当然だろ。それにお菓子は勧められたら食べるくらいだ」  


 カリナは拗ねたように唇を尖らせる。彼女のPCとしての中身の意識と、目に映る美少女の姿のズレは、周囲の者にとっては不思議な魅力があり、尽きない話題の種だった。


 サティアはそんなカリナを見て、くすりと笑う。


「カリナさん、その『当然』の意識を、あなたは100年前に学んでいたら、もう少しいろいろ違ったのにね」


 サティアはオフでもエデンのメンバーとは交流があった。現実世界の和士(ナギト)とカーズというPCのこれまでのズレた行動のことを言っているのだ。


「うぐ……、ゲーム時代の話を掘り返すな」


 二人の古馴染みらしいやり取りに、ルミナスアークナイツのメンバーやローザ達は、細かいことは分からずとも顔を見合わせて笑った。


「やっぱり、この二人は只者じゃないわね」


「ああ、ユナの言う通りだよ。だが、この二人のお陰で、この世界の未来が少し明るくなったのは確かだと僕は思う」


 カーセルが答える。大衆食堂の片隅で、彼らの未来と、悪魔の脅威、そして友情が複雑に絡み合いながら、夜は更けていった。


 祝勝の宴は円もたけなわとなり、テーブルには空になった皿とグラスが残されていた。


 ローザが優雅にグラスを置き、静かに口火を切った。


「さて、楽しい時間もあっという間ね。今日は皆、死闘の疲れもあるでしょう。そろそろお開きにしましょうか」


「そうですね。私も今夜はすぐに休みたいです」


 サティアが同意すると、カリナも立ち上がりかけた。


「ああ、じゃあ私も──」


「ちょっと待った、カリナちゃん!」


 ユナが手を叩いて、解散ムードを打ち破った。


「せっかく皆で集まったんだから、締めにお風呂に入ってからにしようよ! 英雄特権で、広いお風呂に皆で入るの」


「いいですね、賛成です。今日は本当に緊張しましたから、広いお湯に浸かって、皆で疲れを取りたいです。」


 テレサも目を輝かせた。この二人は先日もカリナと入浴しており、カリナがそこでは極度の人見知りで恥ずかしがり屋だと思っているので、躊躇がない。


 その流れに乗って、エイラが興奮したように両手を握りしめた。


「わ、私もご一緒していいですか!? 聖女様と、カリナさんと、ルミナスアークナイツの皆さんと……! そんな贅沢、夢みたいです!」


「あら、良いわね。どうせなら私もご一緒させてもらいましょう。私も汗を流したい気分だったの」  


 組合長のローザまでが同意し、カリナの周りの女性陣が一気に合同入浴の方向にまとまっていく。


 カリナの顔は、血の気が引いたように青ざめた。勘弁して欲しい。今回はユナ、テレサ、ローザ、エイラ……四人も相手にするだけでもキツイ。これ以上は無理だ。しかも今回は、聖女まで誘う流れになっている。


 しかし、カリナは外見上女性として振る舞わねばならない。同性なのにここで拒否すれば、あまりにも不自然である。またかと思い、大きく溜息を吐く。


「え、ええと……、ま、まあ、そこまで言われたら仕方ないか……」  


 カリナはぎこちなく了承の言葉を絞り出す。そのとき、カリナと最も親しく、秘密を知るサティアに、みんなの視線が集まった。


「サティア様はどうですか? ぜひご一緒に! 聖女様がいらっしゃったら、きっとお湯も清らかになります」  


 エイラがサティアを熱心に誘う。


 サティアは、カリナの内心で響き渡る「助けてくれ」という悲鳴と、周囲の純粋な期待の視線を受け止め、一瞬、目線を下に落とした。


 カリナの焦りは痛いほど伝わって来る。中身のことを考えると、これほど多くの女性達と入浴するのは、どれほど精神的にキツイのか。しかし、サティアがここで断れば、この場は収まっても、カリナの友人として助けてあげられなくなる。道連れになるしかない。


 サティアは自らの倫理観と、カリナの『美少女アバターとしての平穏』、彼女が女性達に万が一変なことをしたら守らないとという使命との間で、一瞬にして葛藤を終わらせた。そして、優雅に、だが少しだけ諦めたように微笑んだ。


「ふふ。皆様の熱意に負けました。昼に済ませましたが、せっかくの祝勝の機会ですもの。ご一緒させていただきますね」


 サティアはそう言うと、カリナにだけ一瞬、「私もあなたの心の葛藤という罪を背負います。諦めてください」とでも言うような、同情と覚悟の入り混じった目配せをした。


 カリナは「マジかよ」という表情をした。サティアまで加わって来た。現時点のここでは最大の理解者であり、最後の砦が崩壊した。五対一である。しかもサティアはカリナの『中身』を知っているからこそ、最も警戒しなければならない。心の平穏はどこにいくのだろうか。カリナの顔は、もはや悪魔に致命傷を負わせた時よりも、遥かに悲壮な色に染まっていた。


「やったー! 聖女様もご一緒だなんて、本当に贅沢な宴の締めくくりね!」  


 ユナが歓声を上げる。


「よっしゃ! じゃあ俺達男共も向かうか! 先に浴場に乗り込むぞ!」  


 頭の軽いカインは深く考える様子もなく立ち上がった。


「隊長、男湯は温めておくにゃ。 隊長は女達に囲まれてゆっくりするといいにゃ」  


 ケット・シー隊員はさっさと男湯の方へ駆け出す。


「ははは、君の隊長は人気者だな。聖女様まで一緒とは、ある意味羨ましいかもしれない」  


 カーセルは笑いながら、カインと隊員を追った。彼ら男性陣は、カリナが幼い見た目の美少女だという表面的な情報しか持たないため、その場に流れる微妙な緊張とカリナの内心の叫び、そしてサティアのカリナを監視するという自己犠牲的な覚悟には気づく由もなかった。


「さあ、カリナさん! 行きましょう!」  


 エイラに腕を組まれ、テレサとユナに挟まれ、ローザとサティアという大人な美人に見守られながら、カリナは半ば引き摺られるように女湯へと向かうことになった。彼女の足取りは、まるで断頭台に向かうかのように重かった。



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