40 前夜の宴
ルミナスアークナイツの面々との食事会は盛り上がっていた。これまでの彼らの冒険話などは面白く、カリナも興味が湧いた。カリナのこれまで召喚体を使役するためにしてきた旅の話なども、彼らには面白い内容だったらしい。
「その歳でそんな修羅場を潜ってきたなんてね。凄いよ、カリナちゃん」
「そうね、どう見ても私達よりも幼いのに。世界中を旅してきたのね。私ももっと外の世界を知らないといけないわ」
「そうですね、この討伐が終わったら私はエデンに行ってみたいです。カリナさんの故郷。きっと新たな発見がありそうです」
「しかも可愛いしな。いやー、あと数年すればもっと美人になるだろうな」
カインだけはカリナの容姿についての感想を述べた。他の3人から「うわぁ……」という言葉が漏れる。こうやって女性達を自然に口説いてきたのかもしれない。カリナはおのれイケメンめと思った。
「アンタねぇ、いくら絶世の美少女でも口に出すことじゃないでしょ。引くわー」
「カイン、確かにカリナちゃんは可愛いが、そういうことは言うべきじゃないよ」
「ロリコン……」
テレサのトドメの一言でカインはテーブルに突っ伏して撃沈した。
「何だよー、本当のことを言っただけだろ」
「こいつはいつもこうなのか?」
カリナは無自覚にイケメンムーブを撒き散らすカインに少し苦手意識を覚える。見た目は絶世の美少女アバターだが、中身は違う。そういう目で見られると寒気がする。
「そうだね」
「そうですね」
「そうよ、爽やかな振りして女の子を振り回すから。カリナちゃん、気を付けなさいよ」
3人共同じ感想を述べた。まあ見た目もそうだが、嫌味がある訳ではない。実際モテるのだろう。
「ああ、私はそういう目で見られると蕁麻疹が出る。カインには気を付けよう」
「褒めたのにそりゃないぜ、カリナちゃん」
一同の笑い声が、客の入りが多くはない金砂の舞踏亭の食堂に響く。
「そう言えばカリナちゃんはあの聖騎士カーズ様の妹なんだってね? 僕は彼を目標にしているんだ。どんな人物だったか教えてくれないかな?」
聖騎士クラスのカーセルにとっては、今やこの世界では伝説的な存在であるカリナのメインキャラの聖騎士カーズ。エデンでの立場などのために、一応そういうことにしているが、実際は謂わばもう一人の自分である。それについて話すのは少々抵抗がある。
「あ、そうだったわね。凄いわねー、伝説の人の妹なんて。私だったらプレッシャーで同じ冒険者なんてできないわ」
「聖騎士カーズ様なら俺も憧れてるぜ。きっとすげー人格者なんだろうな。本で読んだことしかないけど」
「私もそれは興味があります。是非聞かせて欲しいです」
「いや、本は私も読んだけど、かなり誇張表現されてるよ。そんな神聖視するような人物じゃない。がさつなもんだよ。まあ兄の功績の御陰で私はエデンの任務をこなす役目についているんだけどね。いや、寧ろこき使われていると言った方が良いかもしれない」
所詮は廃プレイヤーが称えられる世界になっただけだ。カリナは喋り過ぎるとボロが出る可能性もあると思い、それ以上の言及は避ける。
「そうか、実の妹ならではの意見だね。伝説的な人でもがさつだったりとか人間らしいところがあったんだね」
「カーセルはお人好しが過ぎるんじゃないのか? 少しは人を疑った方がいいぞ」
「まあ、それがウチらの団長だからね。何か問題が起きてもカーセルの御陰で色々と融通が利くのよ」
「ですね。カインではこうはいきませんから」
「それはそうだな。カーセルが団長だからこそ俺達は好きにやれる部分はある」
「そうか、信頼されているんだな」
カリナは優しい目でカーセルを見た。カーセルは照れて頬を搔いている。
「いや僕はいつもこんな感じだよ。それにみんなに支えられているからこそ、団長が務められているんだしね」
できた人間である。自分が彼くらいの年齢の時は夢に破れて荒れていた頃だった。今の自分があるのはこのVAOを紹介してくれた友人の御陰かもしれない。そう言えばあいつもこの世界にいるのだろうか?
「カリナちゃん気を付けろよ、こいつはこんな人畜無害な顔して意外とモテるからな」
「そうか、だがカインと比べたらマシに思えるぞ」
「そうね、カインはもうちょっと自重した方がいいわね」
「ですね。カーセルがモテるのは人柄。カインがモテるのは見た目だけです」
「そこまで言わなくてもよくないか?」
一同にコテンパンに言われるカイン。悪魔討伐前の食事会は終始和やかな雰囲気で進んだ。ケット・シー隊員は人間同士の会話には余り興味がないらしく、大人しく並べられた料理を食べていた。
「さて、明日に備えて解散としよう。私は風呂に入って寝ることにするよ」
「あー、もうそんな時間なのね。折角だから私達も此処で一風呂浴びて行こうかな」
「そうですね、そうすれば帰宅して寝るだけですし」
「いいね、俺達も入るか、カーセル」
「ああ、僕は構わないよ。カリナちゃん、二人をよろしく」
またこの展開かと思ったカリナだったが、無下に断ることもできない。仕方なく了承した。
「風呂ですかにゃ? にゃらおいらもご一緒するにゃ」
「お、じゃあ一緒に来るか?」
「ですにゃ」
男衆と一緒にケット・シー隊員は男風呂に向かった。カリナもユナとテレサに手を引かれて女湯へと連れて行かれるのだった。
◆◆◆
脱衣所。かしましく盛り上がる二人を見ないようにしてさっさと衣装を脱ぐ。そしてタオルを持って浴場へと入った。昨日は折角一人だったのに、今日は気を使う羽目になるとは思っていなかったカリナはさっさと洗ってしまおうと、シャワーの前のチェアーに腰掛けた。
「あ、いたいた。もう、速いよカリナちゃん」
「今日は私達が洗って差し上げます」
「……やっぱりこの展開か」
なぜ女性陣は何処でも自分の身体を洗いたがるのだろうかと、カリナは不思議に思った。だが他者から見ればまるで彫刻の様に美しく整った容姿が自然と魅了するのである。アバターボックスで細部にまで拘ったその姿は、誰もが目を奪われるのだ。
「おおー、サラサラの髪の毛なのにここの両サイドだけもこっとしたくせ毛で面白いわ。髪留めもしてないのにここだけツインテールになってるの気になってたのよね」
髪の毛を洗いながらユナがくせ毛をもこもこと触る。自分でも原理はよくわからないが、そういうパーツを使っただけである。
「それにこのアホ毛もぴょこんとして可愛いわ。濡れてもしなってならないのね」
「そうなのか? 自分だと余り気にしてなかったんだけど」
「うーむ、肌も白くてすべすべできめ細かいですね。これが真の美肌ですか……。何か特別な化粧品とか使ってますか?」
「いや、特には何もしてないよ。そういうのよく分からないからさ」
テレサはカリナの透き通るような肌を優しく洗いながら、そこに興味を持ったようである。洗いながらもじっくりと肌を見られるのは何とも居心地が悪い上に、目を閉じるのも不自然だ。そのせいで鏡に映る二人の裸体がどうしても目に入る。
「うーん、えい!」
「ひゃうっ!?」
突然ユナに胸を後ろから鷲掴みにされた。変な声が漏れる。
「うむむ、スレンダーで幼いながらC、いやDの手前ってところかしら? これは将来大きくなりそうね」
胸をもみもみと触りながらユナが奇妙な分析をする。
「ちょ、や、やめて、くすぐったい!」
「まあまあ、えーではないかー」
「やめなさい。さすがにそこまではダメでしょう」
テレサのチョップがユナの頭に炸裂した。「ごめんごめん」と言って手を放すユナ。そうして気が済むまで二人に洗われ、3人で湯船に浸かった。
「いよいよ明日か。カリナちゃんもいるし、絶対に勝とう」
「そうですね。ここでいい加減蹴りを着けましょう」
「ああ、大丈夫だ。お前達は私が絶対に守る」
カリナには鉄壁のホーリーナイトがいる。それを彼ら一人一人に守護の命を与えて側に付ける予定だ。
「いやー、男前な言葉だねー。カリナちゃんが男なら惚れてたかも」
「そうですね。今のは少々キュンときました」
「そうか? 味方、しかもパーティーメンバーを守るのは当然だろう?」
カリナは従妹の忍に言われる程、そういったことに疎い。女性の身体で行動することで少しはそういう自覚ができたかと思われたが、やはり鈍い。
「うーん、この鈍感さんめ」
ユナに額を突かれる。だがカリナには頭に?が回っている。
「まあまあ、いいではないですか。頼りにしていますよ」
「? ああ、任せてくれ」
窓から見える夜空を見上げながら時間が過ぎていく。その頃男湯ではカーセルとカイン、ケット・シー隊員が並んで湯に浸かっていた。
「いやー、いいお湯にゃ」
「猫ってお風呂嫌いじゃなかったっけ?」
「ははは、お前も中々面白いな、ケット・シー隊員。明日はよろしく頼むぜ」
「うむ、任せるにゃ」
こうして友好を深めた彼らは、風呂から上がると「また明日」と言って宿を後にして行った。カリナは彼らを見送ると、翌日に備えて寝床に着くのだった。
◆◆◆
しっかりと睡眠を取ったカリナは飛び起きると、身体をグイグイと動かして調子を確認する。もう高山病の影響もない。万全の状態で悪魔に挑むことができる。時間を出発に合わせるために長めに睡眠時間も確保した。時計は9時半を回ったところだ。今から準備をして朝食を済ませれば丁度待ち合わせの時間になる。
来ていた寝間着を脱いで、アイテムボックスから衣装を取り出す。黒に赤の裏地のロングコート。紫を基調とした白と黒のデザインのワンピース。黒に白いデザインが施されたニーハイソックスをガーターベルトで留める。そして黒に白のデザインのショートブーツを履いた。
トイレで未だに慣れない用を足し、顔を洗って髪を梳く。歯磨きを済ませて準備完了である。隊員は既に起きて準備を済ませていた。
「おはよう。早かったんだな」
「おはようにゃ、隊長。準備は万端ですにゃ」
「よし、じゃあ朝食をしっかり食べて悪魔討伐に向かうか」
「はいにゃ」
忘れ物がないか確認してから、部屋を出る。階下の食堂でカウンターに腰掛け、若女将のルーシーに朝食を頼んだ。
「おはよう、カリナちゃん。いよいよ今日なんだね」
「ああ、これからルミナスアークナイツのメンバーと討伐して来る。多分祝勝会はここになるかもだから、席を用意しておいて欲しい」
「あいよ。でも気を付けて行くんだよ。それと頼りない連中だけど、あれでも私の友人なんだ。死なないように守ってやっておくれ」
「大丈夫だよ。私には鉄壁の守護者がいるからね」
「ですにゃ。大船に乗ったつもりでいるといいにゃ」
「ははは、こいつは頼もしいや。さあ、たっぷり食べて力を付けて行っておくれ」
出された朝食は朝からボリューム満点だった。カリナと隊員はしっかりと食べ、支払いを済ませてから宿を後にした。
太陽が眩しい。これなら以前の悪魔のように影を媒体とした攻撃は無効化できるだろう。二人は北門へと向かった。
「まだ来ていないな」
「遅いにゃ。隊長を待たせるとはふてえ奴等なのにゃ」
「いや、彼らはこの街のAランクギルドだ。恐らく人混みに捕まっているんだろう」
以前のシルバーウイングがそうだったように、高ランクのギルドの冒険者はその街の人気者である。周囲の人々から声を掛けられているのだろう。それに今日悪魔討伐に赴くことくらい、教会にいた人間が耳にしている。噂が広まっていても不思議ではない。
11時前頃、人混みを連れてルミナスアークナイツのメンバーが到着した。
「ごめん、カリナちゃん。待たせたかい?」
「いや、私もついさっき到着したところだよ。それにそっちの方が大変だっただろう?」
それぞれが謝罪の言葉を口にする。それを遠巻きに見ている街の住人から声や激励の言葉が掛けられる。
「頑張れよー、ルミナスアーク!」「今日こそ悪魔を討伐してくれ」「カーセル頼むぞ」「ユナちゃん今日も可愛い」「カインこっち向いてー!」「テレサちゃんに罵倒されたい」「あの女の子は誰だ? 新規メンバーか?」などと次々に声が聞こえる。中にはとても応援しているようには聞こえないものもあるようだが、出発の準備は整った。
「ここから遺跡までは30分程だ。じゃあ行こうみんな」
「「「おおー!!!」」」
カーセルの言葉に一同が声を揃える。それを見たカリナは、気負った様子もないし大丈夫かと思い、北門を開けてもらい、歩き出した。
「さあ、さっさと討伐してしまおう」
「「「「おおー!!!」」」」
「おうにゃ!」




