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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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36  ルミナス聖光国

 門を潜り抜けて街の中へ入る。辺りはもう暗くなり始めている。組合やサティアに会いに行くのは明日にした方がいいと思ったカリナは宿を探すことにした。街中の雰囲気はどこか重く沈んでいるように感じた。恐らくは悪魔の出現が原因なのだろうか。道行く人々も大都市にしては少ない。誰かにお勧めの宿を聞こうかと思ったが、話しかけられる雰囲気でもなさげである。


 カリナは仕方ないと思い、門番の所に戻って宿の情報を聞くことにした。


「おや、さっきのお嬢ちゃんじゃないか? もう帰るのか?」


「いや、もう遅いし何処か近くのお勧めの宿を教えてもらおうと思ってね」


「おお、そうか。そうだなあ、此処の近くなら金砂の舞踏亭ってのが料理も美味くてお勧めだ。それに今は悪魔騒動のせいで旅人も少ないからな。空いてると思うぞ」


「金砂の舞踏亭はここから真っ直ぐ道なりに行けばすぐ見つかるよ」


「ありがとう、行ってみるよ。じゃあおやすみ」


「おう、おやすみ」


「気を付けてな」


 背を向けてケット・シー隊員を引き連れて歩いて行くカリナを見ながら、門番達は話し始める。


「可愛かったなぁ……」


「俺としてはあと5年ってとこだけど、今でも充分美人だよな」


「世の中にはいるんだな、あんな美人が……」


「まあ俺達には縁のない話だな」


「それを言うなよ……」


 門番達の会話は虚しく響くのだった。



 ◆◆◆



 門番達の言う通り、道なりに進んでいるとT字路になっている突き当りに探していた金砂の舞踏亭はあった。歴史を感じさせる造りで、中から漏れる灯りが温かみを感じさせる。カリナは扉を開いて中に入って行った。


「あら、いらっしゃい。これは可愛らしいお客さんね。ようこそ、金砂の舞踏亭へ。食事? 宿泊?」


 給仕の女性が出迎えてくれた。黒髪にツインテールでメイド服を着た女性はカリナと隊員を不思議そうな顔で見つめている。


「宿泊と、夕食も頼む。で、こいつは猫だがケット・シーという私の召喚体だ。ペットではないし喋れるからこいつの分の食事もお願いするよ」


「へぇー、召喚士なんて珍しいわね。分かったわ、今は悪魔のせいでお客さんも減っていてねー。どこでも好きな場所に座ってね」


「ありがとう」


「ありがとうにゃ」


「うわ、本当に喋るんだ。2名様ご案内しますー!」


 カウンター近くの小さなテーブルに腰掛ける。隊員には子供用の椅子を用意してくれた。メニューと一緒に宿泊する部屋の鍵を渡してもらい、さて何を頼もうかとメニューを広げる。今日は体調を崩して大変な目に遭った。こういう時はガツンと元気が出る肉料理に限る。隊員もカリナと同じメニューに決めた。給仕の女性を呼んで注文する。


「このボアステーキを2つ。それとサラダの盛り合わせも。後はアップルジュースを2つお願い」


「はいはーい、しっかり食べて行ってね。注文承りました。少々お待ち下さいね」


 他の客が食べている料理や調理中の匂いが流れて来る。それに合わせて小さなお腹がくるくると鳴った。隊員はナイフとフォークを持って既に料理が来るのを待っていた。しかも涎を垂らしている。


「おい、まだ時間が掛かるぞ。行儀悪いからナイフとフォークを置いて待っとけ。あとその涎を拭きなさい」


「うにゃ、しまったにゃ。空腹で理性が飛んでいたにゃ」


 テーブルにあるペーパーナプキンで涎を拭く隊員。宿の内部も木造の柔らかな温かみのある雰囲気で、普段なら多くの人で賑やかなのだろう。だが、今は悪魔騒動のせいで空席が目立つ。さっさと討伐してやらないといけない。それが自分の手が届く範囲の守れるものだ。そしてサティアのことも気にかかる。この現状を彼女はどう思っているのだろうか。


 暫く物思いに耽っていると、木皿の上の熱々の鉄板に乗せられたボアステーキにサラダ、ジュースが運ばれて来た。


「はい、お待ちどうさま。ウチのステーキは美味いよー。しっかり食べて活力にしてね。それじゃごゆっくり」


 給仕の女性が運んで来た料理を目の前にすると、またしてもお腹が鳴った。


「さて、しっかり食べておこう。明日は多分悪魔討伐だからな」


「はいにゃ。いただきますにゃ!」


「いただきます」


 厚みのある木皿と鉄板に、どんと置かれたボアステーキは迫力満点だった。表面には香ばしい焼き色がしっかりと入り、肉汁がきらりと縁に溜まりながら、湯気とともに濃厚な香りを立ち上らせている。フォークを当てれば、外側の焦げ目は軽くパリッと割れ、中からは柔らかく弾力を帯びた赤身が顔をのぞかせる。ナイフで分厚い肉を切り、フォークを突き立てる。


 一口齧った瞬間、肉の繊維がほろりとほどけ、野性味のある旨味と、丁寧に焼き締めた香ばしさが舌の上で一気に広がった。噛むほどに肉汁が溢れ、胡椒と山のハーブが香りを引き締め、豪放さの中に驚くほどの深いコクがある。


 二人のステーキの間には、彩り豊かなサラダも盛られている。緑の葉野菜に、ルビーのようなトマト、薄切りのラディッシュが爽やかに重なり、上からかかった柑橘のドレッシングが光を受けてつやめいている。シャキッとした歯ざわりが心地よく、噛むごとに清涼感が立ち上がり、濃厚なボア肉のあとに口の中を軽く洗い流してくれるようだ。


 脂の旨味と野菜の爽やかさ。その対比が絶妙で、食べ進めるほど食欲を刺激する。旅の疲れなど一瞬で吹き飛び、まるで身体に火が灯るような満足感が胸に広がっていく。カリナと隊員は無言でガツガツと食べ進めた。


 そうして無言で齧りつき、あっという間に平らげた。鉄板の上には湯気、香り、彩りが溢れ、まるで食堂の温かさそのものを凝縮したような一皿だった。


 皿の上には、まだ肉の香りがほのかに残っていた。骨付きのボアステーキはきれいに削ぎ落とされ、焦げ目のついた骨が名残惜しそうに横たわっている。肉汁を吸ったソースが皿の底に薄く広がり、フォークでなぞると、香ばしさの余韻がふっと立ちのぼった。


 サラダの皿には、彩り豊かな野菜の欠片がいくつか残り、瑞々しいドレッシングの光沢がまだ新しい。レタスの端が少しだけしんなりして、満腹感に満ちた静けさを物語っている。


 温かな満足が腹の底に広がり、身体の力がゆっくりと抜けていく。食堂の僅かなざわめきが心地よく耳に流れ、食後の幸福感とともに、深い息が自然とこぼれ落ちた。


「……美味かった」


「美味かったにゃ……」


 そう呟いた二人の声が、空になった皿の静けさに、そっと溶けていった。カリナはタイトなワンピースのぽっこり膨らんだお腹を撫でた。隊員はまだ骨についた肉片を齧っている。


 食後にまだ残っていたジュースを啜る。口内に残っていた油が流されていくような爽やかさを感じた。そうして暫く微睡んでいると、給仕の女性が声を掛けて来た。


「どうだったかい? 絶品だったでしょ? これだけガッツリ食べてくれると嬉しくなるね」


「ああ、美味しかったよ。疲れが吹き飛んだ気がする」


 給仕の女性は他にも何人かいるが、この女性の衣装だけ少し豪華である。バイトリーダー的な存在なのだろうか?


「女将さんにもお礼を言っておいて欲しい」


「あら、それは嬉しいね。私がここの女将だよ」


「そうだったのか、まだ若いのに凄いな」


 黒髪ツインテールの女性はまだ10代後半から20代前半に見える。女将と言うには若く可愛らしい。


「まあね、でも先代、私の母親から受け継いだばかりだからね。まだまだこれからだよ」


「そうか、でも料理も美味しいし、いつもはもっと混んでいるんじゃないのか?」


「最近は悪魔騒動のせいで人が減っちゃってね。いい加減冒険者が退治して欲しいもんだよ」


「大丈夫。そいつをぶっ飛ばしに私はこの街に来たんだ。数日中にそいつは討伐するから、心配しないでくれ」


 カリナの言葉に若女将は大声で笑った。


「あっはっは、そいつは頼もしいね。でもお嬢ちゃん、無理はしちゃいけないよ。でも実は凄腕の冒険者だったりするのかい?」


 カリナはギルドカードを見せた。そこにはでかでかとAランクと書かれてある。それを見て若女将は驚く。


「おいおい、Aランクの冒険者だったのかい。そいつは大したもんだ。しかも珍しい召喚士。この街にもAランクの冒険者はいるんだけど、まだまだ頼りなくてねー」


「悪魔討伐には本来大人数で挑むものだからね。でも私はここ最近、ソロで4体の悪魔を討伐してきた。今この世界に何が起きているのか分からないけど、私の手が届く範囲のものは守っていこうと決めたんだ」


「ふふふ、隊長は凄い召喚士なんだにゃ。しかも剣技も格闘術も一流にゃ。期待しておくといいにゃ」


「そうか、その歳で大したもんだね。じゃあ期待して待つことにするよ。さあ長旅で疲れただろう? 今日はゆっくり風呂に入って休むようにね」


「ありがとう。体調は大事だからね。そうさせてもらうよ。ごちそうさま」


「ごちそうさまですにゃ」


 女将にお礼を言って、二人は浴場へと向かった。隊員は男湯へ、カリナは今日は誰にも絡まれませんようにと祈りながら女湯へと入った。脱衣所でややこしい作りの衣装を脱ぐ。タオルを持って浴場に入ると誰もいない。どうやら今日は女性客はいないらしい。


「今日は独りでのんびりできるな」


 身体を洗って湯に浸かる。久しぶりの一人風呂である。この身体になってしまっても風呂の気持良さは変わらない。長時間騎乗していると身体がバキバキに凝ってしまう。湯船で身体を伸ばして、リラックスした。お湯に旅の疲れが溶けていくようである。この日は逆上せてしまう前に上がり、備え付きのチェアーに腰掛けて汗が引くのを待った。


 シャワーを浴びて風呂から上がる。身体を拭いてからアイテムボックスから寝間着を出して着替える。そして乾いたタオルを頭に巻いてから浴場を出た。


「遅かったにゃ、隊長」


「何だ、待ってたのか」


「部屋の鍵は隊長が持ってるにゃ」


「それもそうか、待たせてすまないな」


「全く、女の風呂は長くて困るにゃ」


 生意気なことをいう隊員の頭を(はた)く。好きでこの姿ではないのだが、どうしても髪の毛の長さなどから時間が掛かる。自分でも女性の風呂は長いと思っていたのだが、言われると何だか無性に腹が立つ。


「まあいいか、部屋に行こう」


「ですにゃ」


 宿泊客も少ないせいか、窓際の景色が良い部屋を宛がってくれたようだ。ベッドに腰掛け、タオルで髪を拭く。そう言えば今日の隊員はびしょ濡れではない。ちゃんと拭いたのだろう。


「偉いな、ちゃんと乾かしてきたのか」


「ふふん、同じミスはしないにゃ」


「まあその調子で頼む」


「任せるにゃ」


 ベッドに寝転んで、カリンズで買ったノベライズを読む。出て来る内容に「こんなこともあったなあ」などと思いながら、自分の廃プレーが記録に残っていることに何だか恥ずかしさも感じる。そうして読書をしている内に、いつの間にかカリナは眠りに落ちて行った。



 ◆◆◆



 目覚めると、隣に隊員が丸くなって眠っていた。また知らない内に潜り込んだのかと思いつつ、その気持ち良さそうに眠る猫の頭を撫でた。


 ベッドから出て軽くストレッチを済ませると、今日着る衣装を選ぶ。白に裏地や襟が金色のコートに白を基調とした紫や黒のデザインが施されたワンピース。昨日と同じデザインのニーハイソックスと白に黒いデザインがあしらわれたショートブーツを履く。頭にはふわふわの毛皮でできた紫のヘッドドレス。今日はこんなものだろう。姿見で自分の姿を確認してから、他の朝の準備を済ませる。


 まだ眠っている隊員を起こして、準備させる。それから階下で朝食を取ってから、カリナと隊員は朝の街に繰り出した。先ずは書簡を渡すために総合組合に向かう。マップを展開し、位置を確認。どうやらこの街の主要な建物や施設は街の中心部に集中しているらしい。VAOの時代の記憶とは異なる。100年前の五大国襲撃事件で建物も損害を受けた。そのため、カリナが知っている当時とは街の造りが変わっているのだ。東に王城があるのは変わらないが、今は別段気にするところではない。


「さて、行こうか隊員」


「はいにゃ、お供致しますにゃ」


 金砂の舞踏亭を出た二人は、明るくなった街中を歩き始めた。

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