336 正装と車内の恋心への煽り
各国の王達を乗せた装甲車軍が、歓声に沸くエデンの街並みを王城へと向かって進んでいる頃。カリナの自室では、女性陣達が間もなく始まる玉座での顔合わせに向けて、それぞれの正装へと着替えていた。
カリナはベッドの傍らに立ち、リラックスしていた白いワンピースを脱ぎ捨て、瑞々しくも引き締まった素肌を露わにする。側付きのルナフレアが手際良く、セットになっている清楚なグレーのブラジャーをカリナの胸元に当てた。そして、まだ成長途上の愛らしい双丘を下から優しく寄せ集め、カップの中にしっかりと収めて形を整えてやる。
「ありがとう、ルナフレア」
「いえ、カリナ様。本日は各国の王族の方々がいらっしゃいますから、気合いを入れてお仕度させて頂きますね」
ルナフレアは微笑みながら、事前に用意してあった特記戦力としての正装をカリナに手際良く着せていく。
それは以前、他国の王族との謁見用にも着用したことのある、気品と戦闘的な意匠が同居した特別な衣装だった。首元にボリュームのある紫のファーがあしらわれた、裾の長い純白のコート。その下には、深い紫を基調とし、胸元に愛らしいリボンが飾られたコルセット風のタイトなトップスと、ふんわりと広がる同色のフリルスカートを合わせている。足元には薄手の黒いタイツと、金色の装飾が施された白いショートブーツ。最後に、右腰のベルトに愛用の二振りの剣を佩き、凛とした特記戦力『カリナ』の姿が完成した。
「うん、まあフォーマルな場ではこれだな」
カリナは姿見の前に立ち、くるりと回って衣装の着心地を確かめるように言った。
その隣では、サティアがナイトドレスを脱ぎ去り、圧倒的なプロポーションを曝け出していた。彼女はセクシーな黒い紐パンの上に、セットになっている大きな黒のレースブラを手に取った。自身の豊麗で零れ落ちそうな巨乳を両手で下からすくい上げるように持ち上げ、カップの中に溢れんばかりの肉をたっぷりと詰め込んでホックを留めた。
その上に纏うのは、メイド隊手作りの特記戦力であり神聖術士の彼女の正装。胸元が大きく開き、深い谷間を惜しげもなく強調する純白と赤を基調としたセクシーな法衣だ。肩からは青と金の装飾が施されたケープを羽織り、足元には深いスリットから艶めかしい太腿が覗く。黒に赤いデザインが施された膝下丈のブーツを履き、最後に腰紐に愛用のメイデンロッドを差し込んだ。
さらにその奥では、カグラが既に大きくはだけて巨乳が丸出しになっていた浴衣を脱ぎ捨てていた。彼女は、用意していた新しいセットの黄色のレースの大きなチューブトップブラを手に取り、自身のたわわに実った乳肉を下からぐっと持ち上げてカップに詰め込み、美しい半球の形を整える。
そして、妖艶な和装の衣装へと腕を通した。深い紫に金色の龍の刺繍が施された豪奢な羽織。その下には、豊かな胸の膨らみを強調するような赤いタイトなトップスと、黒いプリーツのミニスカート丈の袴。脚には赤いリボン付きの純白のニーハイソックスを穿き、絶対領域を見せつける。赤い和装の履物に、最後に、腰の帯に愛用の扇子『画龍点睛』をスッと差した。
「ん……おのれ肉め……」
エヴリーヌは、隣で着替えるサティアとカグラの豊満で肉感的なボディを横目で睨みつけながら、ギリッと歯噛みした。
彼女はブラウンのナイトドレスを脱ぐと、セットになっている水色の可愛らしいブラジャーを手に取った。自身のスレンダーな胸元のお肉を、両手で脇から必死にかき寄せてカップに詰め込み、少しでも大きな谷間を作ろうと奮闘しながらホックを留める。結果として、形の良いそこそこの大きさの美乳が完成した。
彼女が纏うのは、鮮やかなエメラルドグリーンと白を基調とした、動きやすい冒険者風のドレス。足元は白いニーハイソックスに紺色の膝下丈のブーツ。今回はフォーマルな場であり、かつ屋内での顔合わせであるため、弓は嵩張るので装備せず、もちろんライトメイルもつけていない。プリーツスカートの腰にファイナル・ダガーのみを佩いた軽装スタイルだ。
「うんうん、カリナちゃん、その格好すごく可愛いし似合ってるわよ」
カグラが着替えを終えてカリナの姿を見ると、嬉しそうに目を細めた。
「はい、カリナさんの可憐さと凛とした雰囲気によく合っています」
サティアも胸の前で両手を組んでうっとりと見つめる。
「ん、カリナは何を着ても似合う。ある意味、反則」
エヴリーヌも深く頷いてカリナを褒め称えた。
「そうかな? お前達もすごく似合ってるぞ」
カリナは少し照れくさそうに頬を掻き、三人の姿を順番に見回した。
「サティアは抜群にスタイルがいいから、そういう露出の多いセクシーな衣装でもいやらしくならずに、綺麗に着こなせるしな。カグラも、やっぱりその和装がすごく似合ってる。どこかの高貴なお姫様みたいで綺麗だぞ。エヴリーヌも、鎧を着てないけど、そういうスマートで可愛らしい衣装もよく似合うな。凄く綺麗だよ」
相変わらず乙女心など微塵も理解していないカリナは、裏表の一切ない、純度百パーセントのストレートな褒め言葉を三人に向けて放った。
「はうっ……!」「ああんっ……!」「んっ……!!!」
その瞬間、三人の美女達はまるで強烈な魔法攻撃を食らったかのように、一斉に顔を真っ赤にして背後のベッドに倒れ込んだ。
「え? どうしたんだ!? 何か変なこと言ったか!?」
カリナが驚いて駆け寄るが、三人はベッドの上ではあはあと荒く呼吸を繰り返し、身悶えしている。
「あ、危なく……卒倒するところでした……」
サティアが熱を持った頬を押さえながら震える声で言う。
「ええ……なんて殺傷力のある褒め言葉なの……」
カグラも扇子で顔を仰ぎながら荒い息を吐く。
「ん、カリナは裏表がないから、本心の素直さが心の一番柔らかいところに突き刺さる……」
エヴリーヌも胸元を強く押さえて天を仰いだ。
「はあ……。よくわからないけど、もうお前達に感想言うのやめとこうかな」
カリナが呆れ顔で溜め息を吐くと、三人はガバッと身を起こした。
「それはダメです!!」「ええ! もっとこれからも言ってちょうだい!」「ん、カリナの褒め言葉は私の栄養。絶対にやめないで」
三人はものすごい剣幕で声を揃えた。
「……? よくわからないなあ」
カリナは首を傾げ、相変わらず乙女心など知る由もない様子だった。ルナフレアは、そんな彼女達の微笑ましいやり取りを見守りながら、優しく微笑んで手を叩いた。
「皆様、お仕度も整いましたし、そろそろ玉座の間に急いで下さいね。陛下がお待ちかねですよ」
「ああ、じゃあ行こうか」
カリナの掛け声と共に、四人の特記戦力達はルナフレアに見送られ、歴史的な顔合わせの舞台となる玉座の間へと向かうべく、自室を後にするのだった。
◆◆◆
エデン城下町。ガレオスがハンドルを握る先頭の大型装甲車は、歓声に沸く大通りをゆっくりと進んでいた。
エデンの街並みは、近代的な高層建築と魔法の光が融合した美しい景観を誇っている。その大通りには、昼間に魔軍四天王を討伐した凱旋パレードの熱狂と余韻が未だに色濃く残っており、沿道を埋め尽くす国民達は、他国の王族を乗せた装甲車軍に向かっても熱狂的な歓声と拍手を送っていた。
「おお……! こんな鉄の塊が、馬もなしに自走するとはのう! エデンの科学力は本当に凄まじいものじゃな!」
装甲車の広い助手席に座るサキラ女王が、窓の外の景色と車内の計器類を交互に見比べながら感嘆の声を上げた。彼女の膝の上に座るシリュウ王子も、「すごいね、お母さま! 魔法みたいだよ!」と目を輝かせている。
「ええ、本当に驚きですわ! こんなに快適な乗り物があるなんて……!」
シャーロット女王もサキラの隣で興奮気味に周囲を見回していた。
「ハッハッハ! 我等も、最初にこれに乗せられた時は同じように驚いたものだな」
後部座席に座るレオン王が過去の驚きを思い出して豪快に笑う。隣のジラルド王とソウガ王も、深く頷いて同意した。
「それにしてもガレオス殿。エデンの街並みが洗練されて発展しておるのはよくわかるが……この国民の尋常ではない盛り上がりは、一体どういうことなのじゃろうな。祝宴は明日であろうに」
サキラは窓の外で熱狂する群衆を見ながら不思議そうに尋ねた。
「うむ、確かに前日にしてはやけに盛り上がっておるな。何かあったのか?」
ジラルドもガレオスに問いかける。
「はい。実は……、昼間に魔軍四天王の最後の一柱が、我が国の南西の砦を襲撃して来たのです」
ガレオスが前を向いたまま、落ち着いた声で答える。
「四天王だと!?」「なんと……!」「以前と似たようなタイミングだな……」
後部座席の王達が、一斉に息を呑む。
「ですがご安心下さい。それを、カシュー陛下と特記戦力の方々が、数千の魔界兵団と共に既に完全討伐致しました」
ガレオスが誇らしげに告げると、車内にどよめきが走った。
「その討伐を終えた凱旋の時に、カシュー陛下が『祝宴は明日だが、この戦勝を祝うのは悪いことではない。大いに盛り上がれ』と仰られまして。恐らく、その陛下のお言葉の影響もあって、国民はかつてないほどに盛り上がっているのでしょう」
「ほう……! カシュー殿自ら、前線に出て四天王と戦ったのか。それは是非、この目で目にしたかったものじゃ」
サキラは感心したように言った。
「うむ! さすがは今や世界最強を誇る、エデンの騎士王だ! 何とも勇猛果敢な男よ!」
レオンも我が事のように嬉しそうに膝を叩いて絶賛した。そして、この話題に誰よりも強く食いついたのは、もちろんマギナの若き女王だった。
「まあ……! カシュー殿は、あの恐ろしい魔軍四天王を相手に、ご自身で戦われたのですか!? なんて、なんて勇敢で素晴らしいお方なのでしょう……!」
シャーロットは両手を頬に当て、完全に夢見がちな顔をして熱い吐息を漏らす。他の国王達は、既に通信での様子からシャーロットのカシューに対する並々ならぬ想いに気付いていた。そのため、彼ら特有の悪戯心がここで一斉に火を噴いた。
「ガレオスよ。カシュー殿の戦い振りは、一体どうであったのだ? 詳しく聞かせてくれんか」
ジラルドがニヤリと笑いながらガレオスに水を向ける。
「はい!」
ガレオスは自国の敬愛する国王がいかに素晴らしいのかを他国の王達に存分に語る最高のチャンスだとばかりに、声を弾ませた。
「カシュー陛下は最近、激務の合間を縫って騎士団の鍛錬にも積極的に参加され、常に先頭に立って指揮を執ってらっしゃいます。あの神速の二刀流の剣技には、我が国の精鋭騎士団でさえ、触れることすらできません。今回の討伐でも、私は装甲車の車内から一部始終を見ておりましたが……それはもう、圧巻の一言でした」
ガレオスが熱を込めて語り始めると、シャーロットの目がさらにキラキラと輝きを増した。
「聖剣エクスカリバーと魔剣レーヴァテインの二刀流が、悪魔の強靭な肉体を、まるで舞い踊るかのような華麗な剣技で次々と切り裂いておられました。そして、カリナ様が凄まじい力を持つ聖衣を纏って敵を追い詰めた後……特記戦力全員の究極技に合わせ、陛下は全ての防御を無効化し、存在そのものを斬り裂く奥義『ヴォイド・エクスキューション』を二刀で放ち、四天王に完全にトドメを刺されたのです!」
「存在ごと斬り裂く奥義……! 素敵ですわ……!」
シャーロットはうっとりととした声で反芻した。
「今は行方不明となっておられる伝説の聖騎士カーズ様と、かつては『最強の聖騎士コンビ』として数々の最前線で戦って来られたお方です。国王となられた今も、その圧倒的な剣技は微塵も錆びついておりません!」
ガレオスが誇らしげに語り終えると、サキラは隣のシャーロットをチラリと見て、芝居がかった口調で言った。
「ほう、聞いたかシャーロット殿? カシュー殿は、この凄まじく発展したエデンを治める優れた頭脳を持つだけでなく、個の武力も世界最高峰のようじゃのう。まさに完璧な王と言えるじゃろう」
「あの忌まわしき『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』との大規模な戦いでも、災禍伯相手に必殺の剣技を見舞っていたからな。さすがはカシュー殿だ」
ソウガもわざとらしく大きく頷いて煽る。
「そうだな! あれ程の器と武勇を持ち合わせておきながら、未だに奥方がおらんとは、全くもって勿体無いものだ! 各国の姫君達が放っておかんであろうに!」
ジラルドがさらに燃料を投下する。
「ハッハッハ! 私も是非一度手合わせしたいものだが、この老骨では全く相手にもならぬだろうな! さすがはカシュー殿だ。……なあ、シャーロット殿?」
レオンはニヤニヤと笑いながら助手席のシャーロットの後ろ姿を見た。
「はあぁ……。カシュー様に、早くお会いできるのが……本当に楽しみですわ……」
シャーロットは最早周囲の煽りなど気にする余裕もなく、完全に目がハートマークになり、『カシュー様』と呼び、両手で頬を包み込んでとろけそうな表情を浮かべていた。
その完全に出来上がってしまった様子を見て、後ろを振り返ったサキラと後部座席の三人の王達は顔を見合わせ、「……これは少し、煽り過ぎたかもしれんな」と、互いに苦笑いしながら眉をひそめた。
しかし彼らの後悔など露知らず、ガレオスはすっかり上機嫌になり、王城に到着するまでの間、ずっとカシューの武勇伝と素晴らしさを熱く語り続けるのだった。




