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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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32  街中探索

 ケット・シー隊員を引き連れて歩くカリナの姿は街中ですぐに噂になっていた。「飼い猫が二足歩行する美少女」「それほどの珍しい猫を飼っている高位の貴族令嬢」などとカリナが隊員を連れ歩くのを見た人々は口々に噂した。


「うーん、どうもいつもより注目されているような気がするなあ」


「それは隊長が強く美しい召喚士のオーラを放っているからにゃ」


「まあ、この見た目が美少女なのは認めるが……」


 アバターボックスという課金アイテムまで使って細部にまで拘って作った己の性癖丸出しの美少女なのである。中身が自分とはいえ、街のウインドウに映るその姿に自分でさえ目を奪われる自作のアバター。性癖を垂れ流しているようなものだが、今の姿は気に入っている。風に揺れるサラサラの髪の毛。ツインテールのようなクセ毛。燃える様な赤髪は毛先が金髪でとても目立つ。


「認めたにゃ。そういうのをナルシストとかいうにゃ」


「うーん、本来の自分自身の姿ではないからナルシストとは違う気がするんだが……」


「本当の姿? どういう意味にゃ?」


「ああ、いや何でもない」


 隊員にとって、いやこの姿で出会う全ての人々や悪魔に魔物さえも今のカリナの姿が真の姿なのである。現実世界の本当の姿などと言っても話が通じないのは当然なのである。中身の本当の自分を知っているのはリアルでもオフ会を開いたカシュー達エデン組。災害級魔法使いエクリアに今は行方不明の聖女のサティアや格闘家のグラザ、相克術士かつ陰陽術使いのカグラと弓術士のエヴリーヌくらいだ。サティアにはもうすぐ会えるだろうが、他の三人は今何処にいるのだろうか。


 東にある神聖術が盛んなルミナス聖光国にサティアがいるのなら、それぞれの得意な術を軸に考えれば、北の陰陽国ヨルシカにはカグラ、西の武大国アーシェラにはグラザやエヴリーヌがいるかもしれない。だが、どいつもこいつも一癖のある連中である。世界中を修行と称して旅をしている可能性も高い。そうなるといよいよ探しようがなくなる。


 100年前に起きたという五大国襲撃事件。その余波は他のプレイヤーが運営している国々にも多くの被害を齎した。悪魔の大軍が原因であるこの事件が再び起きようものなら、今の防衛力が低下したエデンでは壊滅する可能性もある。悪魔が崇拝する主の存在。それを暴かなくてはならない。明日向かう予定の聖光国にも既に悪魔の手が伸びている。


 穏やかな街は、人々が笑いその生を謳歌している。セリスの言ったように、手の届く範囲ならその手を伸ばしたい。まだこの世界が何なのかさっぱりだが、その悪魔の主に辿り着けば何かしらがわかるかもしれない。カリナは漠然とそう思った。


「隊長、お悩みですかにゃ?」


「ん? まあそうだな。この世界が何なのか、分からないことが多くてさ」


「それはにゃんとも哲学的ですにゃ。我思う故に我在りですにゃ」


 短い腕を組んで、隊員はうんうんと頷いた。まあ本来この世界の住人である彼らには理解しがたい問題だろう。そうして二足歩行する猫と会話をしながら歩く姿を注目されながら、カリナは街の書店に辿り着いた。現実世界ではVRで全て完結するため、実際の店舗に本が並んでいるのは新鮮である。扉を開けて中へ入るとそこには小さい店ながら様々な種類の本が並んでいた。


「本屋に何か探し物でもあるのにゃ? 隊長」


「まあな」


「おやいらっしゃい。これはこれは可愛らしいお嬢さんだ。しかも立って歩く猫とは、それはひょっとしてケット・シーかい?」


「こんにちは。へぇ、ケット・シーを知っているんだな」


 店の店主らしき中年男性が声を掛けて来た。さすが本屋を開くだけあって色々な書物を目にしているのだろう。


「有名な幻獣というか精霊だからね。まさか本物を目にするとは思わなかったけどなあ」


 店内は数人の客が目ぼしい本を探している。彼らも店主の声に気付いて、カリナと隊員の方を見た。


「私の召喚体だ。こんな見た目だが役に立つ」


「ふふん、隊長は凄い召喚士なんだにゃ」


「それは珍しい。召喚士はこの十数年でぐっと数が減ってしまったからねぇ」


 まあそれについては散々言われて来た。そのせいで過小評価されるのがカリナは気に入らないのだが、今は冒険中ではない。事実絶対数が少ないのは確かなのだろう。


「今日はどんな本をお探しかね?」


「そうだな、悪魔についての情報と、聖騎士カーズの本があれば欲しいんだけど」


 悪魔については自分でも調べる必要がある。カシューやアステリオンにだけ任せる訳にもいかない。そして敵を知ることで戦略の幅も広がる。


「悪魔についての本か……。ちょっと調べてみよう。聖騎士カーズ様の本ならたくさん置いてあるよ。ほら、そこの棚にも」


 店主が指差した方向の棚には、自分のメインキャラの活躍を記した本が何冊も並んでいた。シリーズものになっているものもあれば、一冊にまとめられた冒険譚もある。カリナは店主が悪魔についての本を探す間に、それらの本を物色することにした。


「ほうほう、色々とあるんだな……。今や伝説の存在とか、廃プレーをしてきただけあってこの世界では有名人になってるとは」


 どれも過剰に誇張されているような気がするが、自分のメインキャラが有名人だというのは何とも言えない気持ちになる。何種類かあったシリーズの中から気に入ったノベライズを数冊手に取った。それを持ってカウンターへと向かう。


「悪魔についての本はこれくらいだね。これでいいかい?」


 渡された小さな辞典のようなその本をぺらぺらと捲る。取り敢えず今はこの本で構わないかと思い購入することにした。


「じゃあそれを貰うよ。それとこれも一緒にお願い」


 棚から持って来た「聖騎士カーズ英雄譚」というシリーズもののノベライズをカウンターに乗せる。


「ほう、彼のことが好きなんだね。今もファンが多い伝説の人だからなあ」


「いや、私の兄なんだ。どんな冒険をして来たのか気になってね」


「なんと、そうだったのかい? 聖騎士カーズ様にこんな可愛い妹さんがいたとはね。じゃあ兄の様な騎士になるつもりかい?」


「いや、戦闘スタイルが全然違うから騎士は無理かな。でも今はエデンのカシュー王の下で任務をこなしてるよ」


「ほうほう、そうなのかい? こんな店に未来の英雄候補が来てくれるとは、こいつはめでたいことだ」


 店主の言葉を聞いた客達もカリナがあの聖騎士カーズの妹だと知って驚いた。支払いを済ませた彼女に握手を求めて来た者もいた。


 買った本をアイテムボックスに仕舞うと、お腹が鳴った。もう昼過ぎである。店主から近くのお勧めのレストランを聞いて、そこへ向かうことにした。本屋から徒歩数分の場所にあったそのレストランは歴史を感じさせる木造の老舗だった。窓から見える店内は客で随分賑わっている。


 解放されている扉から入店すると、給仕の女性がすぐに声を掛けてくれた。隊員も含めて二名だと告げると、店員は隊員を不思議な目で見ながら、テーブル席に案内してくれた。


 案内された席に隊員と向かい合って腰掛ける。低めのテーブルだったので、隊員でも腕から上が台の上に届く。渡されたメニューを開きながら、出発前にルナフレアがエデンの城下町で頼んでいたキッシュを思い出し、それを頼むことにした。隊員は魚の姿焼きである。


「やっぱり猫なんだな。普段はどんな食事をしているんだ?」


「そうですにゃー、おいらの国では湖で取れた新鮮な魚料理が有名ですにゃ。でもちゃんと野菜や肉も食べますにゃ」


「へぇ、そうなのか。そう考えると他の召喚体達もそれぞれ故郷があってそこで生活しているんだな」


 ゲーム時代にはただ呼び出して使役するだけの存在だったが、現実世界となった今は、彼らにもそれぞれの生活があるのだと実感する。そうして隊員と話をしている間に、料理が運ばれて来た。


「はい、此方がウチの特製キッシュに、近くの湖で取れた新鮮なレイクバスの塩焼きです。ごゆっくりどうぞ」


「ありがとう。じゃあいただきます」


「いただきますにゃ」


 テーブルに置かれた瞬間、ほんのりと立ちのぼる湯気が、焼きたてならではの温もりを告げる。表面はきつね色に焼き上がり、端のタルト生地は細かな層が幾重にも重なり合い、フォークを近づけるとサクッと小さな音を立ててほろりと崩れる。切り分けた断面には、ふっくらと膨らんだ卵の生地の中からとろけるチーズがゆっくりと糸を引き、ほうれん草の緑とベーコンの淡い赤が彩り良く浮かび上がる。蒸気にのって漂う香りは、バターの芳醇な甘さと軽く焼き目のついたベーコンの旨みが溶け合い、食欲を優しく刺激する。


 一口含めば、外側は香ばしく軽やかに崩れ、内側はしっとりとなめらか。卵とクリームのコクが舌の上でふわりと広がり、チーズが重厚さではなく、まろやかな深みを添えていく。噛むほどにベーコンの塩気がアクセントとなり、野菜の柔らかな甘みと一緒に、口の中で一つの円を描くように調和する。


 最後の余韻には、バター生地の甘やかな香ばしさがほんのり残り、ついもう一口、もう一切れと手が伸びてしまう――

そんな魅力に満ちた、上質なキッシュであった。これは帰還したらルナフレアに作って貰おうとカリナは思った。


 魚に夢中になっている隊員にも少し切り分けてやった。


「ほほう、これは……。人間の料理も侮れませんにゃ」


 キッシュを頬張りながら、それを美味しそうに食べる隊員の姿にほっこりした。15㎝ほどの大きさの皿に盛られたキッシュだったが、カリナの小さなお腹には充分な量だった。食後の紅茶を啜りながら、隊員が食べ終わるのを待つ。こういったささやかな幸せを守っていかなければならないと、カリナは思うのだった。


「ふう、ごちそうさまですにゃ」


「綺麗に骨だけになったな。しかし上手いことフォークもナイフも箸まで扱えるとは。意外と器用じゃないか」


 肉球がついた短い指で器用に食べる隊員に驚いた。だが口の周りに魚の身がたくさん付いている。カリナは身を乗り出して、備えられていた紙ナプキンで隊員の顔を拭いてやった。


「ありがとうにゃ、隊長」


「どういたしまして。さて、まだ早いけど宿に戻ろうか。部屋の予約もしたいし、さっき買った本も読みたいしな」


「了解にゃ。お供致しますにゃ」


 カウンターで支払いを済ませ、店を出る。食後の運動がてらに街中を歩きながら、翠風(すいふう)の木陰亭へと向かう。小さな街だけあって、既にカリナが地下迷宮に現れた悪魔を退治したことは広まっていた。道行く人々や冒険者達から感謝の言葉を掛けられる。それらに応えながら、カリナ達は宿屋に到着した。



「おや、カリナちゃんじゃないか。早かったね。何でも地下迷宮の悪魔をやっつけたそうじゃないか。小さいのに大したもんだ。でもまだ子供なんだから無理しちゃいけないよ」


「うん、ありがとう女将さん。ところで今日も宿泊したいんだけど、空いてる部屋はあるかな。ちょっと疲れたし、一休みしたい」


「ああ、空いてるよ。昨日と同じ部屋がいいかい?」


「うん、あの部屋は外の景色も見れて良かったから、空いてるならお願いしたい」


 女将はカウンターの後ろに掛けられている鍵の中から、カリナの部屋の鍵を取ると、それを渡してくれた。カリナは鍵を受け取ると、隊員と一緒に今朝いた部屋へと向かう。


 ブーツを脱いで、ベッドに倒れ込む。そして纏っていたコートを脱ぐと、身軽な格好になってアイテムボックスから買った本を取り出した。隊員は部屋にあるテーブルの椅子に腰かけ、腕を投げ出してのんびり寛いでいる。カリナは先ずは悪魔についての情報を知っておくかと思い、悪魔辞典を開いてみた。


「ふむふむ、著者は悪魔研究家ゼピュロスと言うのか……。さてさて内容はっと……」


 そこにはこれまでの公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の下に準男爵、騎士爵、下級悪魔というこれまで知らなかった下の階級があることが書かれていた。それ以外に、総裁、大総裁、大伯爵、大侯爵、大公爵、君主、大君主、皇帝といった中世の封建制度を模した様な階級までが紹介されている。カリナは中々に興味をそそられて読み進めた。


「そしてそれらを統べる王が存在すると言われているが、その存在は未だ謎に包まれている。……うーん、この作者の創作かもしれないな。大公爵やら大伯爵なんてのもVAOの世界だと聞いたことないしな。でもそれぞれの能力などは中々厨二心を擽る設定が書かれてあって面白い。これはいつかこの著者に会ってみたいものだ。まあカシューへの土産にするか」


 いつの間にか隊員はテーブルに突っ伏したまま寝息を立てている。悪魔との戦闘やその後の食後の散歩などで自分も眠気を感じたので、カリナは夕飯の時間までひと眠りすることにした。

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