315 目覚めと祝宴への装い
カリナの自室。
窓から差し込んでいた午後の陽光はすでに柔らかなオレンジ色へと変わり、静かな寝室を夕刻の光が淡く染め上げていた。
カリナは、ルナフレアの温かい腕の中に抱き締められたまま、ゆっくりと意識を浮上させた。目を開けると、眼前にはルナフレアの透け感のある黒いナイトドレスから大きくはだけた、豊満で真っ白な巨乳があった。その圧倒的な柔らかさと、母性を感じさせる温もりが、カリナの小さな顔を優しく包み込んでいる。
「……ん……」
カリナは小さく寝返りを打ちながら、自身の内側を探った。
意識を失う前、極度の疲労から引き起こされた『精神侵食』による、あのドロドロとした昏く悍ましい感覚。自分が自分じゃなくなっていくような、自我が強制的に塗りつぶされていくような絶望的な衝動は、もう欠片も残っていなかった。
自分が無意識の内に暴走し、彼女達が身体を張って必死にその衝動を受け止め、抑え付けて散らしてくれたのだということが、ぼんやりとした記憶の中から蘇ってくる。
「……ありがとう」
カリナは深い感謝の念と共に、自分を壊れ物のように大事に抱き締めてくれているルナフレアの身体を、細い両腕でギュッと抱き締め返した。そして、彼女の美しい長い銀髪や、まるで精巧な彫刻のような白磁の肌を持つ頬、そして頭を、心からの感謝を込めて優しく撫でてやる。
「ん……」
カリナの細い指先が肌に触れる心地良い感触で、ルナフレアも静かに目を覚ました。ゆっくりとその美しい翠眼を開くと、自分の豊かな胸の谷間にすりすりと顔を埋めているカリナの姿があり、ルナフレアの胸の奥がキュンと愛おしさで一杯になる。
「おはようございます、カリナ様。……お体の調子は、いかがですか?」
ルナフレアは、その素肌の巨乳でカリナの身体をさらにぎゅっと抱き締めながら、気遣うように優しく尋ねた。
「ああ、おはよう。……もう大丈夫だよ」
カリナはルナフレアの胸から顔を上げ、少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。
「お前達には、本当に苦労をかけたみたいだな。すまない……。……今回、あれほどの酷い症状は初めてだったかもしれない。自分が自分じゃなくなっていくような、自我が強制的に塗りつぶされていくような、本当に悍ましい感覚だったよ」
カリナはそう言いながら、まだルナフレアの肌の温もりに触れていたいという、理屈ではない感覚的な本能に従い、甘えるように再びその豊かな胸の間に顔を埋めた。
「大丈夫ですよ、カリナ様。……あなたがどんな状態になろうとも、私達が全力で受け止め、必ず鎮めますから」
ルナフレアは、優しく、深い慈愛の籠った声で耳元で囁き、カリナの美しい赤い髪を愛おしそうにゆっくりと撫でる。
「……ありがとう、ルナフレア」
カリナが、安心しきった声で呟く。
二人の静かな会話が聞こえたのか、隣で、寝ている間に掛け布団を手でどけてしまい、上半身を完全に丸出しにしていたエヴリーヌが、むにゃむにゃと反応した。
「ん……カリナ……目が覚めた?」
エヴリーヌが目を擦りながらゆっくりと上半身を起こす。そして、自身の形の良い胸を丸出しにしたまま、無防備な姿で背中からカリナにピタリと抱き着いた。
「おはよう。……もう、大丈夫?」
エヴリーヌが、カリナの首筋に顔を埋めながら尋ねる。
「エヴリーヌ……お前達にも、本当に迷惑をかけたな……すまなかった。症状が余りにも酷くて、半分意識が飛んでいたけど……エヴリーヌが一番身体を張ってくれたことは、しっかりと覚えてるよ。……ありがとうな」
カリナが、背中から回されたエヴリーヌの細い腕を優しく撫でながら感謝を伝える。
「ん、母乳係の当然のお仕事。……カリナの苦しみは、私がこれからも絶対に全部受け止めてあげる」
エヴリーヌが、カリナの背中に張り付いたまま力強く宣言する。
「ありがとう。でも、あまりにも無理をさせてすまないな」
「ん、カリナのためなら何の問題もない。私は、カリナが大好きだから」
エヴリーヌはストレートな愛情表現を口にすると、カリナの背中に顔を強く押し付け、その甘い匂いを深く吸い込みながら、カリナの華奢な身体をすりすりと撫で回す。
その賑やかなやり取りで、エヴリーヌのさらに奥で並んで寝ていたカグラとサティアも、小さくあくびをして目を擦りながら目を覚ました。
「ふわぁ……カリナちゃん、もう大丈夫なの? 今回は本当に症状が酷かったから、さすがの私も焦ったわよ」
カグラが、寝返りを打った拍子に完全にはだけてしまった浴衣から、その豊満な巨乳を零れさせながら、二人にサンドイッチされているカリナの下へとずりずりと移動してくる。
「ああ、もう大丈夫だよ。お前にも、色々と世話をかけたな」
カリナが、カグラの顔を見てホッと微笑む。
「何言ってるのよ。可愛い妹分を救うのは、私達の当然の使命よ」
カグラが、カリナの鼻先を指でツンと突いてウインクする。
「おはようございます……」
サティアもゆっくりと身体を起こす。彼女もまた、薄手のナイトドレスの胸元が大きくはだけ、そこから零れ落ちそうなほどの巨乳が露わになっていた。サティアは、その無防備な胸を揺らしながらカリナの下へと移動してくる。
「良かったです……。今回は症状が今までにない程激しかったので、私達の術がしっかりと効いて安心しました。……もう、侵食の症状は残っていませんか?」
サティアが、カリナの顔を覗き込んで心配そうに尋ねる。
「お陰様で、もう今はスッキリしてるよ。不安な症状もないし、あのどす黒い嫌な感覚も完全になくなってる。……全部、お前達の御陰だ。毎回毎回、迷惑を掛けてすまない……」
カリナが、自分の身体の不安定さを呪うように、少しだけ申し訳なさそうに視線を落とす。
「迷惑だなんて、絶対に思わなくていいのよ。カリナちゃんのその『少女の身体』の精神的な不安定さが問題なだけで、カリナちゃん自身は何も悪くないんだからね」
カグラが、カリナの頭をポンポンと優しく撫でて慰める。
「ええ、その身体の不安定さの問題なんです。カリナさんの人格の問題じゃないんですから。……私達がいつでも傍で支えます。だから、絶対に自分を責めたらダメですよ?」
サティアも、カリナの手を両手で包み込んで力強く言う。
「……わかったよ。そう考えるようにする。みんな、本当にありがとう」
カリナは、三人の優しさに触れ、憑き物が落ちたような清々しい笑顔を見せた。
「ん、カリナも元気になったし、そろそろ祝宴の準備をしないと。……それに、股間がすごくぬめぬめしてるから、早くパンツを替えないといけない」
エヴリーヌが、シリアスな空気をぶち壊すように、ストレート過ぎる事実を口にした。
「あっ……」
カリナも、あの激しい症状の発作の後の影響で、自身の下着がひどく濡れていることに気付いた。
「ああー……私もだ。早く下着を替えないとな……」
カリナが顔を赤くして、モジモジと内股を擦り合わせる。
「では、皆様お着替えにしましょうか」
ルナフレアはそう言うと、カリナを優しく抱き締めたまま一緒に身体を起こした。エヴリーヌも、胸を丸出しにしたままスッと起き上がる。
一行は広いベッドから降り、身支度を始めた。
「こうなるから嫌なんだよな……」
カリナは、酷く濡れて色が変わってしまった清楚なレースの黄色のショーツを脱ぎ捨て、恥ずかしそうに呟く。
「大人になっていく女性の身体ですから、生理的な反応は仕方ありませんよ」
ルナフレアは微笑みながら、部屋の備え付けのティッシュでカリナの股間のぬめりを優しく丁寧に拭き取ってやる。そして、大きなクローゼットの中から、新しい清楚な純白のショーツとセットのブラジャーを取り出し、カリナの細い脚に穿かせ、ブラジャーも、そこそこの大きさの胸の形を綺麗に整えながら後ろのホックを留めて着けてやった。
「ん、ぬめぬめ。……カリナの吸い方がすごく激しかったから、こんなになった」
エヴリーヌも、ぐしょぐしょになって変色した淡い緑のショーツを脱ぎ捨て、濡れた股間をティッシュで拭き取る。そして、透け感のある黒いナイトドレスを脱いで完全に全裸になると、アイテムボックスから可愛らしいピンクのショーツを取り出して穿き、セットのブラジャーを形の良い胸にしっかりと着ける。
カグラとサティアも、はだけた寝間着を脱ぎ捨て、それぞれのアイテムボックスから新しいショーツとセットの大きなブラジャーを取り出した。
二人は、互いに手伝いながら、カップの中に豊かな乳肉をたっぷりと寄せ集めて詰め込み、美しい形を整えてから背中のホックをパチンと留め合った。
「さて、祝宴には何を着ようかな」
下着姿になったカリナが、クローゼットの前でルナフレアに尋ねる。
「ふふっ、では、こちらから選びましょうか」
ルナフレアは、クローゼットの大量の私服セット中から一着の衣装を取り出した。それは、以前エクリアの行きつけの高級ブティック『モード・ド・エデン・セレスト』で、ルナフレアがカリナのために買い漁ったものだった。
「これにしましょう、カリナ様」
ルナフレアは手際良く、カリナにその衣装を着せていく。
それは、純白を基調とした、清潔感と可憐さを兼ね備えた美しいワンピースだった。首元は少しドレープのかかった上品なデザインで、肩口から二の腕にかけては、ふわふわとした白いファー素材のボレロ風の羽織りがセットになっている。スカート部分はふんわりとしたティアードデザインで、カリナの細い足首の少し上までを優雅に覆い隠す。
足元には、衣装の白さを際立たせる、落ち着いたベージュカラーのシンプルなショートブーツが合わせられた。
「へえ……。動きやすくて、なかなかいいな」
カリナは、全身が映る大きな姿見の前でくるりと回り、自身の姿を確認して満足そうに感想を言う。
「ん、カリナは元が可愛いから、何を着てもすごく似合う。……ルナフレア、とてもいい趣味」
エヴリーヌが、下着姿のままカリナの背中にピタリと抱き着き、絶賛する。
「ありがとうございます。では、私も着替えさせて頂きますね」
ルナフレアも、自分の私服用のクローゼットから、上品で落ち着いた衣装を取り出し、手早く身に着けた。それは、側付きとしての品格を保ちつつも、彼女の美しさを引き立てる見事なコーディネートだった。
トップスは、上品な透け感のあるアイボリーのシフォンブラウス。袖口には繊細なパフスリーブがあしらわれ、手首の長いカフスには小さなパールのボタンが並んでいる。
ボトムスには、細かいプリーツが施された漆黒のロングティアードスカートを合わせ、足元には黒のフラットな足袋パンプスを合わせている。透き通るような肌と銀髪を持つルナフレアの神秘的な美しさが、シックな色合いによって完璧に引き立てられていた。
「さすがルナフレアはスタイルがいいから、そういう落ち着いた服でも何でも似合うな」
カリナが、感心したように素直な感想を述べる。
「あ、ありがとうございます……」
ルナフレアが、カリナからのストレートな褒め言葉に頬を赤らめ、嬉しそうに照れる。
「ん、じゃあ、私はこれ」
エヴリーヌは、アイテムボックスの中から、VAO時代に手に入れていたお気に入りのドレスを取り出した。
それは、漆黒を基調とし、随所に豪華な金糸の刺繍があしらわれた、非常に豪奢でセクシーなデザインのドレスだった。
大きく開いた胸元はバストの渓谷を強調し、首元にはチョーカー風の装飾。腕には、肩から切り離された長いシフォンのフレアスリーブが垂れ下がっている。そして何より目を引くのが、腰の高さから左右に大胆に深く入ったスリットであり、動くたびにエヴリーヌの長く美しい白い脚が露わになる構造だった。足元には、華奢なゴールドのストラップサンダルを合わせる。
ルナフレアが、その独特な構造のドレスの背中の編み上げや、腰の金のチェーン飾りの着付けを手伝う。
「ん、久々に着てみたけど……悪くない」
エヴリーヌが、姿見の前でポーズをとって確認する。
「へえ凄いな、よく似合ってるよ。その黒と金のデザイン、エヴリーヌのクールでミステリアスな雰囲気に凄く合ってるな」
カリナが、ドレスの露出度には全く気付かずに、純粋な感嘆の声を上げて無自覚な殺し文句を放つ。
「んっ……!」
エヴリーヌは、カリナからの不意打ちの褒め言葉に、顔をカッと真っ赤に染め上げた。
「……カリナに真っ直ぐ褒められて、顔が熱い……」
エヴリーヌが、両手で自分の赤い頬を覆って俯く。
「ふふっ、エヴリーヌ、カリナちゃんは無自覚に人を殺しに来るからね。アンタもついに、その洗礼を真っ向から食らったわね」
カグラが、エヴリーヌの珍しい反応を見て面白そうに笑う。
「? 普通に似合ってるって褒めただけだろ?」
当のカリナ本人は、相変わらずの鈍感ぶりで不思議そうに首を傾げている。
「さて、私達も着替えましょうか」
カグラとサティアも、以前『モード・ド・エデン・セレスト』で買い揃えていた最高級のドレスを取り出した。カリナは、カグラのドレスの背中のファスナーやリボンなど、着付けを手伝ってやる。
「ん、サティアは巨乳が邪魔で、すごく着せにくい」
エヴリーヌが、文句を言いながら、サティアのドレスの着付けを手伝う。
「では、私は祝宴の前に、皆様に温かいお茶を淹れますね」
ルナフレアはそう言うと、静かにキッチンへと向かった。
カリナはカグラの着付けを手伝い終えると、ベッドの側のチェアーに腰掛けながら、サティアの着付けが終わるのを見学していた。
カグラの衣装は、妖艶な魅力を際立たせつつも気品のあるドレスだった。
全体は落ち着いたグレーがかったブルーの生地で、その上から、大ぶりな黒い花柄の刺繍が全面に施されたシアー素材のオーガンジーが重ねられている。袖はふんわりとした五分丈のパフスリーブ。ウエストには太い黒のベルベットリボンが巻かれ、カグラの豊かな胸をさらに強調しつつ、そこから下は足首までふわりと広がる美しいAラインのシルエットを描いていた。足元には、シックな黒のパンプスを合わせている。
一方、サティアの衣装は、聖女としての気品と大人の色気を見事に融合させた深いネイビーカラーのワンショルダードレスだった。
右肩には大ぶりな同色のフラワーコサージュがあしらわれ、左肩は大胆に露出している。身体のラインに沿って美しくドレープが入り、サティアの豊満なバストとくびれたウエストを強調。そして、左太ももの付け根から下へと深く入ったスリットが、彼女の艶かしい脚線美を露わにしていた。足元には、シンプルな白のストラップサンダルを合わせている。
「おお……カグラはすごく気品があってすごく綺麗だし、サティアは大人っぽくて色気があるな。二人共、本当に見惚れるくらい似合ってるよ」
カリナが、チェアーに座ったまま、またしても一切の邪気がない真っ直ぐな瞳で、二人に向かって無自覚な褒め殺しを放った。
「くっ……!」「ひゃぅっ……!」
カグラとサティアは、その威力の高過ぎる言葉を正面から浴び、互いの肩を支え合いながらよろめいた。
「この……邪気のない素直過ぎる誉め言葉は、本当に殺傷力が高すぎるわね……」
カグラが、顔を真っ赤にして扇子で口元を隠す。
「はい……。気をしっかり持っていないと、危うくこの場で卒倒するところでしたね……」
サティアも、茹でダコのように顔を赤くして胸を押さえる。
「……なんか、私が素直に褒めたら、いつも問題があるみたいだなあ」
カリナが、二人の大げさな反応を見て「?」を頭に浮かべて呟く。
「ん、カリナのそういう、裏表のない真っ直ぐなところ……すごく好き」
エヴリーヌが、チェアーに座るカリナを背後から優しく抱き締める。
「ふぅ……なんとか持ち直したわ」
カグラが、パタパタと扇子で火照った顔を扇ぐ。
「はい、危うく腰が抜けるところでした……」
サティアも、両手でパタパタと顔を扇いで熱を逃がす。
「変なやつらだなあ……」
カリナは、未だに事の重大さを理解しておらず、不思議そうに首を傾げている。
「ん、カリナのそういう鈍感なところも、みんな大好き」
エヴリーヌが、カリナの柔らかい頬にチュッと可愛らしく口づける。
「皆様、温かい紅茶が入りましたよ」
ルナフレアの声に、一行はリビングの広いソファーへと移動し、それぞれが美しい衣装に身を包んだまま、香り高い紅茶でホッと一息ついた。
「さて、全員完璧に着飾ったところで、そろそろ祝宴の会場に行こうか。どうせカシューのことだから、いつものように玉座の間をぶち抜いて、豪華なビュッフェ形式にしてるだろうしな」
カリナはティーカップを置き、立ち上がった。
◆◆◆
カリナ達は居住区の自室を出て、王城内の広い廊下を連れ立って歩き出した。城内は、すでに祝宴の準備や移動で忙しく行き交う城仕えの重臣達や、リア率いるメイド隊達で活気に溢れていた。
「おお! これはカリナ様にカグラ様、サティア様にエヴリーヌ様まで! 皆様、本日は一段と美しい衣装でございますな!」
すれ違う老臣が、四人のあまりの美しさに足を止めて感嘆の声を上げる。
「ルナフレアさんも、いつもに増してお綺麗ですね!」
若いメイド達が、ルナフレアのシックな装いを見て頬を染める。
「ふふっ、ありがとうございます」
ルナフレアが微笑んで応えると、リアが忙しい中にも関わらず、完璧なカーテシーをして笑顔で声を掛けてきた。
「今宵はメイド隊総出で、腕によりをかけて最高のご馳走を準備致しましたから、皆様、どうかお腹いっぱいしっかり食べて、楽しんで下さいね!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
「ええ、ありがとう」
カリナ達は、次々と掛けられる祝福と称賛の声に笑顔で応えながら、王城の中心へと進んでいく。
やがて一行は、すでに大勢の人々で賑わう、眩い光に包まれた玉座の間に到着した。開け放たれた重厚な扉を抜け、華やかなその空間に堂々と足を踏み入れる。
エデンの悪魔討伐を盛大に祝う、熱狂と歓喜の祝宴が、今まさにその幕を開けようとしていた。




