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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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28  情報収集

 宿の大衆浴場で、本日も若い女性達に「可愛い」と絶賛世話を焼かれたカリナは、薄手の白いワンピースの寝間着に着替えてから部屋のベッドに寝転んだ。女性達からすれば幼く見え、絶世の美人であるカリナには何かとちょっかいをかけたくなるものなのであろう。


「はぁ、これが今後も続くのはしんどいな……」


 長い髪をタオルで乾かしながら、カリナは独り言ちた。まだ寝るには時間がある。長時間の飛行はそれなりに疲労感があったが、すぐに寝てしまう程のものではない。部屋に設置された本棚を物色する。するとそこに、「聖騎士カーズのエデン王国防衛戦記」という本を見つけた。


「おいおい……、これは私のメインキャラのノベライズなのか?」


 興味が湧いたのでそれを手に取って捲ってみる。そこにはエデンの防衛戦で大軍を相手に単独で立ち回り、大活躍する自分のメインキャラの姿が書かれている。その他にも邪龍を討ち取った話や、エデン建国までのカシューとの友情話。王国の特記戦力とのやり取りなどがかなり誇張して書かれていた。


「いくらなんでも盛り過ぎじゃないだろうか……」


 そう思いながらもその物語にのめり込み、夜更かしをしてしまった。明日本屋でこの手の本があるか探してみたくなったカリナは、自身の活躍を描いた英雄譚に興奮しながら眠りに就いた。


 翌朝目覚めると、時計は既に10時を回っていた。さすがに夜更かしが過ぎたと思いながら、朝の支度を済ませて階下の食堂へと降りて行った。


 カウンターに腰掛け、女将に朝食を頼む。


「おはよう、カリナちゃん。随分とお寝坊さんだね」


「うん、ちょっと読書に夢中になってしまってね。まさかあんな本が出回っているとは思わなくて」


 サラダやトースト、目玉焼きにベーコンといった定番の朝食を出してくれた女将が、尋ねてくる。


「へぇ、ウチにそんな面白い本があったのかい?」


「ああ、エデンのカーズ騎士団長の本だった。誇張表現も多かったけど面白かったよ」


「なるほどねぇ、彼は今や伝説の聖騎士様だから。行方不明と言われてるけど、何処かで元気にしてるんじゃないかね」


「ははは、伝説なんて大袈裟だな。まあ今でも無茶な修行してそうだけど」


「へぇ、詳しいんだね。カリナちゃんの憧れの人だったりするのかい?」


「いや、実の兄なんだよ。今は私が代わりにエデンの任務をこなしてるところだけど」


 勿論嘘であるが、こういう設定にしている以上はそう言うしかない。それにメインキャラのカーズはトップランカーでもある。そう言っておけば色々と情報も集まり易いだろう。


「まあまあ、そうだったのかい。じゃあカリナちゃんもエデンの騎士にでもなるのかい?」


「いや、私は召喚士で魔法剣士だから、戦闘スタイルがまるで違う。騎士の戦い方はできないよ。ただ剣技は受け継いでる。それに身動きが取り易い私がカシュー王の指令で色々と動いてるってわけ」


「なるほどねぇ、まあ私も伝承でしか知らないけど、そんな有名人の妹さんだったとはね。サティア様を探すのもその任務の一つってことかい?」


「まあ、そういうことだね。他の行方不明になっているエデンの戦力を探すのも任務だよ。どれだけかかるかわからないけど」


 聖光国に聖女サティアがいるのはある程度目星がついたが、他のメンバーはどうしているのか全くわからない。その内初期五大国は全て回らなければならなくなるだろう。だが、この現実となったVAOの世界を冒険するのは一つの醍醐味である。悪魔の動向も気になるし、なるべく多くの場所を巡る方がいいだろう。


「ああ、そう言えばサティア様のことだけど、どうやら聖光国にいる実力のある僧侶は女性らしいよ。昨日冒険者達がそんなことを言ってたからね。名前まではわからないけどさ。後は、悪魔についての情報はなかったねぇ」


「そうか、でも色々調べてくれてありがとう。少しは希望が見えてきたかもしれない」


「うんうん、それなら良かった。さあ冷めない内に食べてしまいな」


「それじゃいただきます」


 空腹だったカリナは朝食を食べると、宿代を払ってから翠風(すいふう)の木陰亭を後にした。日差しが心地良い。カリナはぐいっと伸びをしてから、情報を得るためにこの街の総合組合へと足を運んだ。



 ◆◆◆



 ここカリンズには街の下に地下迷宮が存在する。入り口は街の外にあるのだが、初期五大国の近くにあるだけあって、初心者の経験値稼ぎ場所だ。現実となった今、どのように変化しているか楽しそうだと思ったが、今のカリナにとっては雑魚モンスターしかいない。態々訪れる必要もないかと思い、到着した組合の扉を開ける。


 小さい街だけあって、こじんまりとしている。中の造りは変わらないので右奥のカウンターの方へ歩み始める。組合に集まっていた冒険者達はカリナの姿を見ると、「あんな子供が何の用なんだ?」「まだ幼いけどかなりの美人だ」「あのなりで冒険者だったりするのか?」などと話始めるが、カリナは気にも止めずカウンターへと直行した。


「いらっしゃいませ、可愛いお嬢さん。今日はご依頼かな?」


 カウンター越しに受付の事務服を纏った女性が声を掛けて来る。確かにこの見た目では冒険者には見えないだろうが仕方ない。カリナは自分のギルドカードを見せた。


「私はAランクのカリナという。ここの組合長と話がしたいんだけど、構わないか?」


「え、Aランク?! こんな美少女が? ああ、ちょっと待ってね、ギルマスに確認を取って来るわ」


 バタバタと奥へ走って行く事務員。その会話を聞いていた冒険者達がざわつき始める。「Aランクだって?」「あんな少女が信じられんな……」「世の中は広いもんだ」などだ。受付嬢を待つ間に、後ろを振り返ったカリナは、まだ駆け出しぽい彼らが注目しているので、軽く笑顔で応えてやった。


「うおっ、可愛い……」


「あの見た目でAランクかよ」


「今のは俺に笑いかけてくれたんだ」


「バーカ、お前じゃねえだろ」


 などと彼らが盛り上がっていると、受付の女性が戻って来た。


「ギルマスがお会いになるそうです。此方へどうぞ」


 内側から鍵を開けてくれたので、そのドアを開けて中に入る。中では若いスーツ姿の執務服に身を包んだ、赤いロングヘアの女性が待っていた。


「カリナさんですね、私はここの組合長(ギルドマスター)を務めています、ジュリアと申します。以後お見知りおきを」


「ああ、よろしく」


「では此方の執務室にどうぞ」


 促されて入室した執務室は綺麗に片付けられていた。勧められてソファーへと腰掛ける。その向かいにジュリアが座った。


「チェスターの街を救った美少女召喚魔法剣士。噂は既に聞いております。パウロから今朝書状が届きましたから」


「そうか、早いな……。なら私の用件はわかっているんじゃないか?」


「ええ、悪魔の動きですよね。今のところこの街ではまだこれと言った情報は入って来ていませんね。お役に立てず申し訳ございません。ですが、聖女サティア様についてなら少しお聞きしています」


「サティアが? やはり聖光国にいるというのは本当なのか?」


「ええ、聖光国からの組合の書状によると、国の北にある古代遺跡に悪魔の集団が現れたとか。あの国は過去悪魔達の襲撃を受けています。100年前の五大国襲撃事件ですが」


 100年前に初期五大国が悪魔の軍勢に襲われたことは聞いている。しかしあれらの国の防備は半端ないレベルだ。被害はあったものの撃退したはずである。


「あのときの被害で五大国の有力な騎士達が多くの損害を受けました。今では過去と比べてその防衛力は格段に低下しています。彼女は悪魔との戦いで傷ついた者達の治療の激務に追われていると聞いています。悪魔が撃退されない限りはそこを動くことはできないかもしれませんね」


「なるほど……、五大国の一つであるルミナス聖光国に悪魔が」


 VAO時代に鉄壁を誇っていた五大国のNPC達も、今現実となったこの世界では普通に歳を取るに違いない。100年も経てば老死する者もいるだろう。その後継が育っていないとなれば防衛力が極端に落ちるのも仕方ない。


 だがサティアの存在は確認ができた。自分が悪魔を斃してしまえば問題はなくなる。聖光国にある古代遺跡は所謂チュートリアル的なクエストが受けられる初心者用のダンジョンである。カリナも初心者時代にそこでのクエストを受けているし、内部も把握している。さっさと行って悪魔をぶっ飛ばせばいいだけの話である。しかしサティアは神聖術のエキスパートだ。その彼女が討伐に行けばあっさりと片が着きそうなものだが、それができない理由でもあるのだろうか?


「私が知っている情報はこのくらいですね。お役に立てたかどうかはわかりませんが……」


「いや、助かったよ。ありがとう。要は私が行って悪魔を片付ければ済む話だからね」


「その年齢で何とも勇ましいですね。さすがは単独で二体の悪魔を斃した召喚魔法剣士です。これからは召喚術の普及も組合の方で勧めて行く必要がありそうです」


「是非そうして欲しい。召喚士が絶滅危惧種だと何処へ行っても聞かされるからね。まあ確かに習得と言うか、使役対象を手に入れるまでが大変だからな、召喚術は」


「そうなんですよね、冒険者達が二の足を踏んでいる理由はそこにあるんです。これは今後の課題ですが、色々とやり甲斐はありそうです」


 そう力説するジュリアにカリナは頼もしさを覚えた。若くして組合長に抜擢されるだけの能力があるのだろう。そうして二人でお茶をしながら今後の召喚術のことやこの街のことについて話していたとき、執務室のドアがノックされた。


「ギルマス、大変です! 地下迷宮が!」


 どうやら受付で話した女性のようだ。だがかなり焦っている様子である。


「落ち着いて、先ずは入りなさい」


「すみません」と言いながら入室して来た女性は、相当に慌てた様子である。カリナもただ事ではないのかもしれないと思い、話を聞くことにした。


「何があったのですか?」


「地下迷宮の配置が急に変わって、中から凶悪な魔物の姿も確認されたようです。何とか脱出した冒険者達から話を聞きましたが、まだ中に取り残されている者達もいるとのこと。何でも壁が生き物の様に動いて、内部は迷路の様になっているとのことです。どうしたら良いのか、指示を仰ぎに来たところです」


 初心者の経験値稼ぎ場である地下迷宮は迷宮とは名ばかりの広い通路で一本道である。地下3層まであるが、広いだけで迷うようなことはない。先日訪れた死者の迷宮の方が余程難易度が高い。


「わかりました。先ずは帰還した冒険者達から詳しい話を聞いてちょうだい。救出に向かうためにもこの街の高ランクの冒険者達を集めるように」


「はい、わかりました!」


 ジュリアの的確な指示を聞いた受付嬢は、急いで退室して行った。


「どう見ますか? カリナさん」


「そうだな、ただの魔物にそこまでできる知能や能力はないだろう。だとしたら……」


「悪魔が絡んでいる可能性が高いと……?」


「ああ、その可能性は高い。しかも空間を操作するのは並の能力じゃない。それに悪魔には聞きたいことが山ほどあるからな」


「出撃されますか?」


 地下迷宮はこの街の水源とも繋がっている。何とかしなければこの街の存続自体が危なくなる。カリナは次々と厄介なことが起こるものだと思いながら、かつて自分も挑んだカリンズの地下迷宮に乗り込む決意を固めた。人間を贄と呼んでいた悪魔ならば、取り残された冒険者達の安否も気になる。


「ああ、召喚士を敵に回すとどうなるのか目に物を見せてやる。それにこの街の料理は気に入っているんだ。水源にも関わる問題だから、さっさと解決してしまおう」


「分かりました。ですが気を付けて下さいね。御武運を」


 立ち上がって一礼をしたジュリアを残して、カリナは部屋を飛び出した。組合の内部は騒然としている。傷ついて戻って来た冒険者達に話を聞いている受付嬢の下に行き、情報を聞く。


「突然壁が動き出して、何人かとは分断されちまった。そして奥からはここらじゃ出てこないような魔物まで現れたんだ。逃げ帰るのがやっとだったよ……」


「そうか、まあ任せておけ。召喚士の力を見せてやろう」


「おいおい、お嬢ちゃん一人で行く気なのか? やめとけ、しかも召喚士なんて戦力になるのか?」


「どんな状況にも対応できるのが召喚術の強みだ。お前達は傷をしっかり癒しておくといい」


 そう言ってカリナは街の外にある地下迷宮の入口へと走り出した。


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