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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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25  セリスの素性

 カリナがシルバーウイングのメンバー達と雑談をしながらセリスの到着を待つこと数刻。急いで戻って来たセリスが本部の二階に姿を現した。その姿を見つけたエリア達が声を掛ける。


「あ、団長戻って来た。もうカリナちゃん来てますよ」


「おはようございます。すいません。待たせてしまいましたか? 急な呼び出しがあったもので……」


「おはよう。いや、大した時間は待ってないよ。それに態々組合とかから使者が来るくらいなのだから、優先するのは当然だ。こっちはここのメンバーと雑談してたし、気にしなくてもいい」


「そうですか、ですが申し訳ありません。では私の執務室に案内します。エリア、お茶を入れてくれるかな?」


「はい、後でお持ちします」


「カリナさん、此方へどうぞ」


「ああ、態々ありがとう」


 セリスに連れられ、三階へ続く階段を昇る。そこは部屋ごとに区切られているフロアだった。ビルの中のオフィスが並んだ通路とでも言うべきだろうか。その通路を一番奥まで進んだ先のドアを開けると、そこにはカシューの執務室を少々小さくした感じの一部屋があった。


「此方へ座って楽にして下さい」


「ありがとう。しかし、立派な建物だな。造りも現代的だ」


 勧められたソファーに腰掛けると、テーブルを挟んで向かい側にセリスが座った。改めて見ると銀髪が美しい整った大人の女性だ。落ち着いた雰囲気も青年であるカリナの内面よりもずっと成熟しているように感じる。


「それでは改めて、この度は色々とお世話になりました。ウチのメンバーにも良い経験になったでしょうし、悪魔から救って頂いたことも感謝しています」


 深々と頭を下げるセリス。謙虚で非常に礼儀正しい。そこまで感謝されるとカリナは逆に申し訳なくなる。


「いやいや、昨日も言ったように私が彼らを巻き込んだようなものだから。そこまで畏まらないで欲しい。何だか逆に悪い気持ちになるよ」


 そんなカリナの様子をくすりと笑いながら見たセリスは、柔和な表情を崩さずに話し始めた。


「では、もう少しメタ的な話をしましょうか? この世界に来てどのくらい経ちますか?」


 カリナはその質問にはっとなる。メタ的な話ということは、恐らくプレイヤー目線でのこのVAOの世界についてであろう。そこまで言われて、これまで抱いていた疑問が正しかったのだという認識に変わった。


「やっぱり、あなたはPCだったんだな。道理で普通のNPCというかこの世界の住人達とは雰囲気が違うと思ったよ」


「ふふっ、それは此方も感じていた所です。悪魔を単独で撃破できる人間など、相当のレベルのPCしか存在しないですからね。最初に話を聞いたときになんとなく思っていたんですよ」


 セリスもカリナからは周囲のNPCだった人々とは異なる雰囲気を感じていた。お互いに元いた現実世界の住人だということが分かって、カリナは少し気が楽になった。


「私がこの世界に来たのはほんの数日前だよ。ちょっと休憩してからログインし直したら、いつの間にか100年経っていることになってて、もう何が何やら。偶然友人のカシューのエデン王国の近くだったから、直ぐにフレンドに出会うことができたのはラッキーだったけどね」


「そうでしたか。その割にはかなり馴染んでいますね。私がインしたのは50年前になります。私もカリナさんと同じで、少々席を外した後に再ログインしたらこの有様です。今でも忘れられませんよ」


「50年か……、それは大変だっただろうな……」


 カリナは100年もずっと姿が変わらずに王を務めているカシューのことを考えながら、セリスの事情についてもそう思った。直ぐにカシューやエクリアに再会できた自分は幸運だった。もし彼らがいなければ、今もこの世界のことが何一つ分からずに右往左往していただろう。


 未だにこの世界については謎ばかりだが、ある程度落ち着いて行動できているのは、エデンという自分が所属している国があったからに他ならない。セリスは一体どのような経験をしてきたのだろうかが気になる。


「私がインしたのは、この近くの辺境の村の様な場所の近くでした。まだまだ剣士としては未熟だったので、色々と初期のクエストをこなしていたところでしたね……」


 

 ◆◆◆



 50年前、まだまだ初心者プレイヤーだったセリスは各地に散らばる小さなクエストを達成しながら、VAOの世界を冒険していた。社会人として仕事をしながら、空いた時間でVAOを楽しむ程度のエンジョイ勢だった。その日も、彼女は休日にいつものようにVAOを楽しんでいた。所用で数時間ログアウトした後に入り直すと、世界が急激に変化していた。


 突然降り出した雨。それが肌や髪の毛に絡みつくような感触。濡れて重くなっていく装備。村の外でゴブリン共に襲われかけていた女性が上げたリアルな悲鳴。ただ事ではないと感じたセリスは、彼女を助けようと魔物に斬りかかった。肉を斬り裂くリアルな感触と飛び散る血液。噴き出した返り血が装備にかかり、それが衣服に滲み込んでいく。


 女性を守ろうとしたとき、ゴブリンが射った弓矢の矢じりが剣を握る右手に突き刺さった。そこから溢れ出る生々しい血液と激しい痛み。まだまだ未熟なプレイヤースキルで、傷を負いながらもその場のゴブリン共を何とか掃討したが、右手から流れる血液が止まらない。助け出した女性NPCを連れて、何とか近くの村へと避難したところで、セリスは気を失った。


 目覚めたのはその女性の自宅のベッドの上だった。傷口には包帯が巻かれており、その女性が手当てをしてくれたのだと理解できた。滲み出る血とリアルな痛覚。身体に感じる疲労感と、先程までの戦闘を思い出して嫌な汗が背中を伝う。


「あの、大丈夫ですか……? 助けて頂きありがとうございました」


 NPCである女性がまるで生きているかの様な反応をする。


「ええ、手当をして下さったのですね。ありがとうございます。でもあなたはなぜあんな危険な場所に……?」


「薬草を摘みに行っていたんです。そうしていたら急に雨が降って来て、急いで帰ろうとしていたときにゴブリンの群れに遭遇してしまって……」


 そう説明する女性は赤ん坊を抱いていた。これまでそんなNPCは見たことがない。突然実装されたのだろうか。だが、そのような公式からのアップデートの告知などなかった。そして自分の状態を確認しようにもステータスなどのコマンドが開けない。セリスを更に混乱の最中に追い込んだのは、ログアウトすらできないという現実。左腕の冒険者の腕輪を色々と操作して、漸くマップやギルド、フレンドリストなどの機能だけは使用可能なことが分かった。何とか開いたアイテムボックスからライフポーションを取り出して、それを飲み干すと、漸く右手の痛みが引いて血が止まった。


「御主人はいらっしゃらないのですか?」


「はい、旦那は2年前に魔物に襲われて……。今はこの子と何とか二人で暮らしています。ですが、見ての通り貧しい村です。ここは一番近くのエデン王国からもかなり離れていますので、まだ開発も進んでいませんから」


 セリスはエデンの名を聞いて、それが有名な騎士王カシューというPCが創立した国だということは知っていた。そこへ行けばこの今の世界について、何かしらの情報を得られるかもしれない。だが、この貧しい村を放って旅立つのは気が引けた。まだプレー経験は浅いが、NPCの村人達よりは戦うこともできる。


「そうでしたか。そこに行けば今の現状がわかるかもしれませんが、この村の状態を聞いてそれを放って行くことはできません。怪我の治療をして頂いた恩もあります。村のために私ができることがあるなら、役に立ちたいと思います」


 セリスは薬学の知識や、社会人として身に付けた交渉術などを駆使して、その女性、リフィアが経済的に独り立ちできるように指導した。そして品不足の村のために、他の街や村と商売ができるように働きかけた。そして最低限の防衛ができる程度に住民達を鍛えたのだった。


 数年後、ある程度豊かになったその村がエデンの傘下に加えられることになる。国からの援助で、今はそれなりの大きさの街に成長した。


 セリスはその後、現実となったこのVAOの世界で人々を助けながら旅を続け、魔物との戦いで腕を磨き、今こうしてシルバーウイングのギルドの団長を務めるまでになったのである。



 ◆◆◆



「それから数年経って、漸くフレンドにも再会できました。気付けばもう50年の時が流れてしまいましたけど。でも私の姿はずっと変化しません。噂によればエデンのカシューさんも未だに若々しいままらしいですね。私のフレンドもですが、PCは見た目が変わらないし、恐らく寿命の概念がないのかもしれません。そのため奇妙な目で見られることもあります」


 カリナはセリスの話を聞きながら、彼女の人間性を理解した。もし自分ならそこまでのことができただろうか。否であろう。突然独りで現実世界となった状況の中、自分の明日もわからないのだ。そんな時に何の縁もない人々のために、行動できるセリスを心底尊敬した。


 彼女がギルドの団員達から信頼されるのもよくわかる。そして彼女がメンバーを大切に思っていることも。エリア達を見つめる姿は子供達を思う保護者のようであったからである。


「そうだったのか……。しかし凄い行動力だな。普通はそこまでできないよ。突然世界が変わってしまって、そこから抜け出すこともできなくて困り果てているというのに、他者のために行動することができるセリスは素晴らしい人だと思う。私はあなたと知り合うことができてラッキーだよ。ぜひフレンドになって欲しい」


「私なりにこの世界に来てしまった理由を探した上での結果ですよ。ええ、私もあなたのような力あるプレイヤーと知り合えたのは幸運でした。此方こそ、私でよければフレンド登録して下さい」


 互いに冒険者の腕輪を操作し、フレンド登録を済ます。


「ありがとう、現実世界のことを話せる友人ができたのは嬉しい。私もあなたみたいに、この世界のために自分ができることを探そうと思う」


「ええ、ですが、それでもこの手が届かないことはたくさんあります。救えないことだってありました。まだまだこの世界について知らないといけないと思っています。カリナさん、良ければウチのギルドに入って頂けませんか?」


 PC同士なら連携も取り易いだろうし、共感できることも多いだろう。カリナにとっても嬉しい申し出だったが、今はエデンに待たせている人達が大勢いる。


「すまない。これでもエデンの重要な任務を色々とやらないといけない立場なんだ。帰りを待ってくれる者もいる。でも、手が届く限りはその理想を手助けさせて欲しいし、何かあったら駆け付けることを約束するよ」


 断るのは非常に申し訳なかったが、互いの心は通じ合ったようだ。二人は自然と右手を伸ばして、硬く握手をした。


「失礼します、団長。お茶が入りましたよ。何か結構良いのが手に入ったとかで、あとお茶菓子も用意してたら時間がかかりました」


 エリアがトレイにお茶とカップ、お茶菓子を乗せて入室して来た。そして握手している二人を目にした。


「あー、何か友情が芽生えたって感じですかー?」


「ありがとうエリア。そうだね、色々と共感できることがあったんだよ」


「ああ、お前達の団長は素晴らしい人物だ」


 テーブルにトレイを置いて、お茶を注いでくれたエリアに、二人はそう答えた。


「実力者にしかわからない世界かー、私も頑張らないと。では失礼します。カリナちゃん、ゆっくりしていってね」


 そう言ってエリアは退出して行った。


「ふぅ、メタな話を聞かれずに済んだか」


「ふふっ、まあ聞かれても彼女達には何のことか分からないと思います」


 それもそうかと思うカリナにセリスが質問して来た。


「そう言えばカリナさんはエデンのカーズ王国騎士団長の妹さんだと聞きましたが、リアルの妹だったりしますか?」


 何とも答えにくい質問をされた。いや彼女の表情からはもう全てを見抜かれているかのような印象を受ける。実に鋭い女性である。


「ま、まあ、そうだね。兄から勧められて始めたんだけど、その兄はインしていないんだから、困ったもんだよ」


 そう言ってごまかすが、乾いた笑い声が出てしまう。


「そうでしたか。しかし、その割に女性言葉が苦手な感じがしますね。もしかしてがさつな兄の影響だったりとか?」


「あ、ああ、そうだな。いやー、リアルではがさつな兄なもので……。変な影響を受けたのかもしれないな」


「なるほど、わかります。私にも兄がいるのですが、何ともがさつで困っているんですよ」


 そう言って笑うセリスにはもう嘘は通用しないと観念したカリナは正直に話すことにした。彼女は信用できる。他言することはないだろうし、NPC達にとって、アカウントやサブキャラなどという概念は理解できないからである。


「参った。お手上げだ。そう、俺がカーズ本人だよ。うっかりサブキャラでインしたところをこの惨状に巻き込まれたんだ。私と言っているのは、側付きのNPCにこの見た目で俺口調はやめろと厳しく言われてね。それにやっぱり不自然だから、一人称は私にしてるだけだよ。このことを知っているのはその側付きとエデンのカシューにエクリアとかのフレンドだけなんだ、できれば口外しないで欲しい」


 なるほどと頷くセリス。これが女性の勘というものだろうかと思ったが、単純に彼女の洞察力が優れているからであろう。


「わかりました。今後もカリナさんとして接していくことにしますから。それにしてもあの有名なトップランカーのサブキャラですか、見た目といい思い切りましたね」


 くすくすと笑うセリスにカリナは只々苦笑いをするしかなかった。

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