229 強引な姉貴分と解ける心
カシューの執務室で、PC同士ならではの和やかで愉快な会話を夕刻まで楽しんだ後、カリナ、カグラ、サティアの三人は、特記戦力専用の居住区へと戻る長く広い廊下を並んで歩いていた。
窓の外は既に茜色に染まり始めており、白亜の城壁を温かなグラデーションで彩っている。
「ねえカリナちゃん、今日は私の自室に泊まりなさい。心配だからね」
カグラが当然のような顔をして、半ば強引な提案をしてきた。彼女はラフに着崩した和服の袖を揺らしながら、カリナの右腕にぴったりと寄り添い、その豊かな胸の感触を押し付けてきている。
「いや、今は別に落ち着いてるから大丈夫だぞ? そんなに心配しなくても、自分の部屋で普通に寝るし……」
カリナがやんわりと辞退しようとするが、カグラは全く引く気配がない。それどころか、さらに強く腕を絡め取ってきた。
「いいの! それに、旅の間はずーっとサティアがカリナちゃんを独占してたんでしょ? 私はね、圧倒的に『カリナちゃん成分』が足りなくて干からびそうなのよ! 姉貴分としての愛情をたっぷり注がせてちょうだい!」
カグラは子供のように駄々を捏ね、カリナの腕をぎゅっと抱き締めた。柔らかな二つの果実が腕にムニュッと押し潰される感触に、カリナは小さく溜め息を吐く。
「はぁ……、まあ、別に今更だからいいけどさ。ただ、もしもの時の下着とかの替えとか、明日の服とかを取りに、一度自室に寄らせてくれよ」
カリナが呆れ混じりに折れると、カグラは「やったわ!」と花が咲いたように嬉しそうに笑った。その様子を、少し後ろを歩いていたサティアが、どこか羨ましげに微笑みながら見つめている。
「ふふ、カグラさんはカリナさんが本当に好きですね」
「あら、サティア。アンタ、余裕ぶって聖女みたいな顔してるけど、本当は自分だけの『母乳の特権』がルナフレアの出現でなくなって、実は内心すごく焦ってるんでしょ?」
カグラは足を止め、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてサティアを指差した。
「ふふふ……。これで私からも母乳が出たら、アンタとルナフレアの特権は完全になくなるのよ。エデンにおけるカリナちゃんの最大の癒やし枠は、この私が頂くわ」
「うぐっ……! そ、そ、そんなことは、ないですよ……っ! 私は別に、特権だなんて思って……っ」
サティアは図星を突かれ、明らかに動揺した甲高い声を上げた。元々嘘が苦手な彼女は、言葉がしどろもどろになるだけでなく、顔まで真っ赤に染まって見事に焦りが出てしまっている。
「あーらら、顔にも口調にもバッチリ出てるわよ。相変わらず分かり易いわねー」
カグラが意地悪くケラケラと笑うと、サティアは羞恥と敗北感で両手で顔を覆ってしまった。
「うう……、本当は、私だけの特権だったのに……。私だけがカリナさんを一番に癒やせる存在でいたかったのに……」
がっくりと項垂れるサティアの姿に、カリナは深い溜め息を吐きながら頭を掻いた。
「お前らなあ……なんでそんなことで張り合うんだよ。特記戦力なんだから、もっと別のところで競い合えよ……」
そんな生産性のないやり取りをしながら、やがて三人はカリナの自室の前に到着した。
すると、カグラがどこからともなく見慣れたカードキーを取り出し、流れるような手つきで勝手にピッとドアのロックを解除してしまった。
「お前、相変わらず私の部屋のスペアキーを当然のように使いこなしてるなあ……。以前から持ってるのは知ってるけど、ここは私の部屋なのになあ……」
カリナがプライバシーのなさに呆れ果てて呟く中、玄関のドアが開く音を聞きつけ、ルナフレアが小走りでやって来た。銀色のロングヘアがふわりと舞う。
「お帰りなさいませ、カリナ様。……あら、カグラ様にサティア様ですか? どうかされましたか?」
「ああ、それが――」「ルナフレア、今夜はカリナちゃんを私がお借りするわよ! 長旅でずっとカリナちゃん不足だったし、何より私もカリナちゃんに母乳を出してあげないと、アンタ達に負けてるからね!」
カリナが事情を説明しようとした瞬間、カグラが一歩前に出て、豊満な胸を大きく張って高らかに宣言した。
あまりにも堂々たる宣言に、背後のサティアはさらに深く肩を落とした。
「はあ……、そういうことらしいです。ルナフレアさんからも、母乳が出たんですよね……?」
サティアが恨めしそうに尋ねると、ルナフレアはその素晴らしいプロポーションの大きな胸を誇らしげに張り、慈愛に満ちた満面の笑みを浮かべた。
「はい、そうなのです! これで、いつでもカリナ様を私の胸で存分に甘やかすことができるのです」
ルナフレアの自慢気な言葉が追い打ちとなり、サティアはさらに深く溜め息を吐いた。
「はぁ……、私だけの特権だったのに……。カグラさんまで出たら、私の特別感が完全になくなってしまいます……」
すっかり意気消沈するサティアに対し、ルナフレアは困ったような、しかし優しい微笑みを向けた。
「競うことではありませんよ、サティア様。これでカグラ様も母乳が出れば、もし私達の誰か一人が任務でいなくても、他の誰かがいつでもカリナ様の不安を解消できるのですから。それはカリナ様にとって、とても喜ばしいことではありませんか」
ルナフレアの完璧な正論に、カグラが楽しそうに笑い声を上げた。
「あはは! サティア、聞いてた? ルナフレアの方がよっぽどアンタより『聖女』みたいなこと言ってるわよ!」
「うぅ……反論の余地もありません……」
カリナはようやく口を開き、話を本筋に戻した。
「まあ、そういうことだから、今日はカグラの部屋に行くことになったんだ。もしもの時のために、下着の替えと明日の服、私服と戦闘用のセット両方で準備してくれ。明日は騎士団の鍛錬程度なら参加してもいいらしいからな」
「そうですか、わかりました。では、少々お待ち下さいね」
ルナフレアはテキパキと奥へ戻り、すぐに下着類と二種類の衣装が丁寧に折り畳まれた包みを持ってきた。カリナはそれを受け取り、アイテムボックスへと収納する。
「ありがとう。じゃあ、とりあえず行ってくるよ」
「はい。……その前に、少しだけ」
ルナフレアはカリナに近づくと、その小さな身体を包み込むようにぎゅっと抱き締めた。ルナフレアから漂うフローラルな甘い香りと、柔らかな胸の感触、そして何よりも母性を感じさせる温もりと圧倒的な包容力。カリナはそれらに包まれ、心がホッと安らぐのを感じて、自然と背中に腕を回して抱き締め返した。
「大丈夫だよ、明日はちゃんと自分の部屋に帰るから」
「はい。私も、既にカリナ様成分が不足し始めておりますので、明日は必ず帰宅して下さいね」
ルナフレアは名残惜しそうに身体を離すと、カグラに向かって深く一礼した。
「じゃあ行って来るよ」
「はい、カグラ様、どうかカリナ様をお願い致します」
「ええ! もし朝や夜中に不安になっても、私が責任を持って何とかしてあげるから大丈夫よ!」
カグラはラフに着崩した和服の胸をドンと叩いて請け負った。
「はぁ……ちょっと心配ですが、仕方ないですね。旅の間は、私がカリナさんを独占していたのは確かですから。我慢します……」
三人はカリナの自室を後にした。居住区の広い廊下の途中で、サティアが足を止める。
「私はこちらですので。カグラさん、カリナさんをお願いしますね」
「任せておいてちょうだい!」
カグラが自信満々に答えるのを見送り、サティアは振り返りながら自分の部屋へと帰っていった。
◆◆◆
カグラの自室。
カグラがカードキーでドアを開けると、和の香がふわりと漂う空間が広がっていた。奥から、紫の髪が美しいルナフレアと同じ妖精族の側付き、リタが静かな足取りで出迎えた。
「お帰りなさいませ、カグラ様。……あら、カリナ様もご一緒ですか」
「ええ、カリナちゃんは今日はここに泊まってもらうから。リタ、とびきりのご馳走をお願いね」
「はい、お任せ下さいませ」
リタが一礼してキッチンへと消えると、カグラは「まあ入って入って!」とカリナの腕を引いて広々としたリビングへと入った。
「先にお風呂にするけど、カリナちゃんも一緒に入りましょう」
「えっ? いや、私はさっき自分の部屋で入ってから執務室に行ったからなあ。別にいいよ」
カリナが断ろうとするが、カグラの行動力は強引だった。
「まあ固いことは言わないの! 折角のお泊りなんだし、汗もかいたでしょう? 一緒に入りましょ!」
抵抗する間もなく、カリナはそのまま脱衣所へと連行されてしまった。
「はあ……、お前は相変わらず強引だな」
カリナは呆れながらも、まあお風呂自体は嫌いじゃないし別にいいかと思い直し、着ていた私服のジャケットに手を掛けた。
「まあまあ、可愛い妹分の着替えは、お姉さんに任せなさい!」
カグラが素早い手つきで、カリナのジャケット、レースのキャミソール、そしてワイドデニムパンツを手際よく脱がせていく。まるで着せ替え人形でも扱うかのようにスムーズだ。少女特有の華奢なラインを残しつつも、女性らしい丸みを帯び始めた白い肢体。そして、淡いベージュのブラジャーに包まれたバストが露わになる。
「じゃあ、お返しにカグラの服は私が脱がせてやるよ」
今度はカリナが、カグラの和服に手を掛けた。
帯の結び目を解き、何重にも重なる複雑な布地を苦労しながら一枚ずつ剥がしていく。和服特有の締め付けが解け、衣装が床に落ちると、そこにはサティアほど暴力的ではないものの、かなりの大きさを誇る巨乳をすっぽりと包み込む、白いレースのセクシーなブラジャーが現れた。
カリナが背中に回ってホックを外すと、ボロンッという重みのある音と共に、その巨大な果実が零れ落ちる。
ショーツも脱がすと、引き締まった腹筋と滑らかな腰のラインを持つ、サティアとはまた違う健康的でありながらも極めてセクシーな肢体が露わになった。
「ふーっ、やっぱり脱ぐと楽だわー」
カグラが両手を上げて大きく伸びをすると、解放された巨乳がたゆんたゆんと大きく揺れた。
「サティアも、服を脱ぐと同じようなこと言ってたぞ」
「まあね。私達くらいの胸になると、ずっと布や下着で締め付けられてると凄く窮屈なのよ。肩が凝るのとはまた違う、息苦しさみたいなものね。脱ぐと本当に呼吸が楽になるの」
カリナは自分の、まるで発育途上にあるようなそこそこの大きさの胸を下から両手で持ち上げてみた。
「……そんなもんか?」
「ふふっ。カリナちゃんの身体も、もしもだけどこれから成長したらねー。きっとその窮屈さと解放感がわかるわよ」
カグラは楽しそうに笑い、カリナの手を引いて浴場へと入った。
◆◆◆
浴場は、カリナの部屋と同じく特記戦力居住区の共通規格である、高級な大理石が敷き詰められた清潔で広々とした造りになっていた。壁面には淡い魔力光が灯り、幻想的な雰囲気を醸し出している。
カグラはカリナをシャワーの前の椅子に座らせ、高級なシャンプーを手のひらでたっぷりと泡立てると、その細くしなやかな指でカリナの赤い髪を丁寧に、マッサージするように洗ってくれた。
「私はそんなに汚れてないし、先にカグラを洗ってやれば良かったな」
「いいのいいの。こういう時は、可愛い妹分の面倒を素直に見させなさい」
カグラはシャワーで髪の泡を流すと、今度はボディソープのきめ細かい泡で、カリナの首筋、肩、そして華奢な背中を洗っていく。
「ふー……気持ちいいな」
カリナがリラックスして、背中から伝わるカグラの柔らかな胸の感触に身を委ねて息を吐いた、その時だった。
「あっ……!」
カグラの指先が、カリナの脇腹や内股、そして胸の先端といった敏感な場所を、わざとらしく、そしてねっとりとなぞったのだ。
「んっ……」
カリナは急な悪戯と、走るような刺激に、甘い声が漏れそうになるのを必死に両手で口を抑えて我慢した。顔がカッと熱くなる。
「なんでお前もサティアも、洗う時にそうやって必ず悪戯するんだよ……」
カリナが抗議して振り返ると、カグラは全く悪びれる様子もなく、むしろ誇らしげに胸を張った。
「あら、愛よ、愛。これは大切なスキンシップの一環よ。……しかし、サティアもそんなことしてたのね。アイツ、清楚な顔してやってることは聖女じゃなくて『性女』ね!」
カグラは「あははははっ!」と、浴室に響き渡る声で大笑いした。
「はあ……、本当に困った姉貴分達だよ、全く」
カリナは呆れながらも、カグラのその底抜けの明るさと裏表のない態度に、何だか救われたような気分になっていた。
場所を代わり、今度はカリナがカグラを洗ってやる番だ。明るいミディアムヘアを洗い流し、スポンジにたっぷりと泡を含ませて、健康的に引き締まったセクシーな肢体に滑らせていく。
背中を洗い、前に回ってその大きな胸を下から持ち上げるようにして洗う。カリナの指が、豊かな谷間やピンクの蕾、そして秘所の周辺に少しでも触れるたび、カグラはわざとらしい大袈裟な喘ぎ声を浴室に響かせた。
「あぁんっ……! いやぁん、カリナちゃん、そこはダメぇっ……!」
「お前、いい加減にしろよな……」
カリナは呆れたジト目を向けながらも、丁寧に全身を洗い上げ、シャワーで泡を綺麗に流してやった。
――ふと、カリナは自分の内面の変化に気付いた。
この世界に来た当初は、女性の肌に触れること、ましてや裸で触れ合うことなど、強烈な羞恥と抵抗感があった。しかし今はどうだろう。こうして同性として裸で洗いっこをし、冗談を言い合いながら肌を触れ合わせることに、全くと言っていいほど抵抗を感じなくなっている。
カリナ自身はあまり意識していないが、これも精神が女性の肉体に引きずられ、女性に近づいている証拠である。アバターによる精神への『侵食』は、こういった日常の些細な行動の中で、確実に進んでいるのだ。
「ふぅー! カリナちゃんに隅々まで洗ってもらって、最高に気持ち良かったわ!」
カグラが立ち上がり、ご機嫌な声でカリナの手を引いて、お湯がたっぷりと張られた広い湯船へと入った。
ざぶんと肩までお湯に浸かると、カグラは後ろからカリナに密着し、その豊かな巨乳の間にカリナの後頭部と顔の側面を挟むようにして、ぎゅっと抱き締めた。
「ふぅ……やっぱ風呂は気持ちいいな……」
カリナは、温かいお湯とカグラの体温に完全に身を委ねた。サティアの持つ母性的な柔らかさとはまた違う、頼りがいのある『本当の姉』のような慈愛と包容力。背中から伝わるカグラの柔らかな感触と、リズミカルな心音、そしてお湯の温もりに包まれ、カリナは完全にリラックスし、うとうとし始めた。
「ふふっ、今日帰って来たばかりだもんね。いくら昼間寝てたって、そりゃ疲れてるわよね」
カグラは愛おしそうにカリナの頭や赤い髪の毛を優しく撫で、自らの胸元にカリナの顔をすっぽりと抱き寄せて、その額にチュッと愛情のこもった優しい口づけを落とした。
「しっかり温まって、身体の芯から疲れを取りましょうね。カリナちゃん……」
カグラの甘く優しい囁きが、耳元で心地良く響く。湯けむりの中で、二人だけの穏やかで平和な時間が、誰にも邪魔されることなく静かに、そしてゆったりと流れて行くのだった。




