225 朝の陽光と別れの約束
フィン王城の貴賓室。
窓から差し込む清々しい朝の光が、重厚なカーテンの隙間から漏れ、室内を黄金色に染め上げていた。
カリナはいつものように、サティアのベッドの中で目を覚ました。背中を包み込む柔らかな感触と、首筋にかかる温かい吐息。そして何より、目の前に広がる光景が、彼女にここが安全な場所であることを教えてくれる。
目の前には、黒いナイトドレスが大きくはだけ、サティアの暴力的なまでに豊かな巨乳が露わになっていた。白磁のように滑らかな肌、重力に逆らうようなハリと弾力、そして先端で艶やかに色づくピンク色の蕾。サティア特有の甘い匂いと、女性特有のふわりとした香りが鼻腔をくすぐる。
「……ふぅ」
カリナは安堵の息を漏らした。今朝は、あのドロドロとした精神的な不安定さ――少女のアバターに自我が侵食されるような恐怖や孤独感――がない。サティアの包容力と温もり、そして無限の柔らかさに包まれて眠ったことが、不安定さを和らげてくれたのかもしれない。
もう少し、この温もりを感じていたい。カリナは無意識のうちに、サティアの柔らかな胸に顔を埋めた。
「ん……。おはようございます、カリナさん」
サティアがその感触に目を覚まし、愛おしげにカリナの頭を撫でた。カリナが自分のはだけた胸に顔を埋め、その温もりを求めている姿が、たまらなく愛らしい。彼女はカリナの背中に回した腕に力を込め、より深く抱き締めた。
「今朝は、不安定さはないみたいですね。昨日は一日中レナちゃんと過ごしていたので、精神的な疲労が出ていないか少し不安でしたけど……大丈夫なようで良かったです」
サティアの優しい声に、カリナは顔を上げた。
「ああ、おはようサティア。お陰様で、今日も不安定さはないみたいだ。……あれは苦しいからな。来ないのなら、それが一番いいよ」
カリナは自分をずっと抱き締めていてくれたサティアの背中に腕を回し、抱き締め返した。
「ふふ、それは良かったです。……でも、私のおっぱいを吸っても構わないんですよ? カリナさんがしたいなら、いつでも」
サティアは悪戯っぽく微笑み、豊満な胸をカリナに押し付けた。
「あのなあ……。あんなのは、本当はしちゃいけないんだぞ」
カリナは少し顔を赤らめ、困ったように眉を下げた。
「あの状態の時は、自分が自分じゃないような感覚に支配されるから、どうしようもなくてそうなってしまうだけで……。それに、下着も汚れるから嫌なんだ。側付きが洗濯するのも大変だろ?」
「うふふ、そうですね。でも……あの時のカリナさんは無防備で可愛いので、私としてはずっと甘えて欲しくなるんです」
サティアは全く気にした様子もなく、むしろ嬉しそうに言う。
「……本当にお前、カグラみたいなことを言うようになったな」
カリナは呆れたように天を仰いだ。
「あーあ……帰国したらカグラが突撃してきそうで怖いな」
「カグラさんなら、理由もなく『私のも吸って』とか言って突撃してきそうですよね」
サティアがくすくすと笑う。
「まあな。……帰国したらルナフレアにも、また色々と世話を焼かれて迷惑を掛けそうだな。困った身体だよ、全く」
カリナは自分の胸元を見下ろし、小さく溜め息をついた。そして、ふと真面目な顔つきになる。
「さて……今日からはエデンに帰らないとな。レナが泣きそうで怖いけど」
幼い王女の顔を思い浮かべ、カリナは考え込んだ。サティアは、そうやって他者を思いやるカリナをますます愛おしく感じ、柔らかい巨乳の中に彼女を強く抱き締めた。
「んぐっ……ど、どうしたサティア、苦しいぞ」
「カリナさんのそういうところが、溜まらなく愛おしいんですよ……」
サティアはカリナの額に、慈愛を込めて口づけを落とした。
「まあ、よくわからないけど……子供の心配をするのは当然じゃないのか?」
「ふふ、そうですね。……そういうところです」
サティアは聖母のような微笑みを向けた。カリナは「?」と首を傾げるばかりだが、その鈍感さすらもサティアにとっては愛おしい要素の一つだった。
「さて、起きて着替えようか。このままずっとこうしてしまいそうだからな」
「そうですね。離れるのが名残惜しくなりますから」
二人は抱き合ったまま身体を起こし、名残惜しそうに離れた。
カリナはベッドから降りると、着ていた寝間着を脱ぎ捨てた。紺色のショーツ一枚になった少女の身体は、朝日を浴びて白く輝いている。華奢な肩、くびれた腰、そしてまだ成長途中ながらもそこそこの大きさを見せる胸。彼女はアイテムボックスを開き、今日着る衣装を取り出した。
アレキサンドの剣術大会で着用した、あの勝負服だ。
リボンとフリルがふんだんにあしらわれた紫のタイトなロングコート。淡いカーキ色を基調とし、高貴な青色のリボンと内側の純白・ピンクの生地がアクセントになったミニスカートの冒険者風ドレス。
太ももまでの長さがある、リボン付きの白と黒のデザインのロングニーハイソックスと、それを留めるガーターベルト。長袖でフレアなデザインの袖、紫の花の髪飾り、そして紺色に黄色のラインが入ったブーツ。
「よし」
カリナは準備を整えると、サティアも薄手のナイトドレスを脱ぎ捨て、白いレースのセクシーな紐パン一枚になっていた。その肢体は、まさに「暴力的なまでのプロポーション」と言うに相応しい。豊かな胸、くびれたウエスト、肉感的なヒップライン。動くたびに揺れる巨乳は、同性の目から見ても圧巻だ。
「手伝いますね、カリナさん」
サティアはカリナに近づき、紺色のショーツに合わせたブラジャーを着けてやった。丁寧にカップに胸を収め、形を整える。続いて、複雑な構造のドレスやロングコートの着付けを手伝う。
「ありがとう。……じゃあ、次はサティアの番だな」
今度はカリナが手伝う番だ。サティアはアイテムボックスから、セットのセクシーな大きなブラジャーと、水色の法衣、青いポンチョのようなマント、スリットの入ったスカート、カチューシャ型のサークレット、そしてブーツを取り出した。
カリナはサティアの背後に回り、大きなブラジャーを手に取った。両手で溢れんばかりの乳肉を掬い上げ、カップの中にずっしりと詰め込む。その重量感と柔らかさに、指が沈み込む。
「ふぅ……。この旅の間は毎日手伝って来たけど、やっぱり大変だな」
ホックを留め終えたカリナは、その感触が残る両手を見つめて呟いた。
「ふふ、もっと触ってもいいんですよ?」
サティアが悪戯っぽく振り返る。
「はあ……、カグラが二人に増えた気分だ。これでエヴリーヌも加わったらどうなるんだ……」
カリナは頭を抱えた。想像しただけで胃が痛くなりそうだ。
「まあいい、バカなことを言ってないで着替えるぞ」
カリナは気を取り直し、サティアに法衣やマントを着付けてやった。
「ありがとうございます。脱いでると楽ですけど、着ると気持ちが引き締まりますね」
サティアは身なりを整え、凛とした表情になった。
「そうだな」
二人は用を足し、冷たい水で顔を洗って目を覚ました。鏡の前で、サティアはブラシを手に取り、カリナの髪を梳いてやった。燃えるような赤色に、毛先の金色のアクセントが混じる特徴的な髪。ツインテールの根元のもこっとしたクセ毛も、丁寧に整えていく。自分の黒髪は、今日は後ろで三つ編みに括り、活動的なスタイルにした。
準備が整ったところで、カリナはエキストラベッドで丸くなって寝ている「毛玉」に近づいた。
「おい隊員、朝だぞ。そろそろ朝食だし起きろ。今日はエデンに帰るぞ」
カリナが指でつつくと、ケット・シー隊員は「むにゃ……」と声を漏らし、目を擦りながら起き上がった。
「おはようにゃ、隊長、サティア……。帰るのにゃ?」
「ああ、さっさと着替えろよ」
隊員はあくびをしながら、いつものシルクハットとマント、ブーツを身に着けた。
やがて、侍女達が朝食を運んできた。内陸の国らしく、川魚の塩焼きや山菜の煮物、根菜たっぷりの味噌汁、そして炊きたての白米といった和食メニューだ。
「いただきます」
三人はしっかりと朝食を摂り、エネルギーを充填した。
最後に、カリナは『女神刀』と『聖剣ティルヴィング』を右腰に佩き、サティアは『メイデンロッド』を腰紐に差した。
「よし、準備完了だな」
カリナは装備を確認し、二人を見た。
「さて、ドルガンやレイラに挨拶をしてから帰ろう」
「はい、大変お世話になりましたからね」
一行は貴賓室を出て、玉座の間へと向かった。
◆◆◆
玉座の間では、ドルガンとレイラが待っていた。レイラの膝の上には、まだ少し眠そうな目を擦っているレナの姿があった。
「ドルガン、レイラ。これからエデンに帰るよ。本当にお世話になった」
カリナが切り出すと、サティアも深く頭を下げた。
「はい。フィンでの一日は、とても長閑で素敵でした。ありがとうございました」
ドルガンは玉座から立ち上がり、寂しげに微笑んだ。
「そうか、もう別れなのだな……。まあ、魔導列車が開通したら、俺達もエデンに行かせてもらうよ」
「ええ、カリナさん達が帰ってしまうと、レナが寂しがりますね。……でも、その内必ずエデンに遊びに行きますから」
レイラが言うと、話を聞いていたレナが膝から降り、トテトテとカリナの元へ駆け寄ってきた。カリナの脚にぎゅっとしがみつき、見上げてくる。そのくりっとした碧眼には、涙が溜まっていた。
「カリナおねえちゃん……もう、かえっちゃうの?」
震える声。カリナは胸が締め付けられるような思いでしゃがみ込み、レナを抱き上げた。
「ああ、帰らないとな。……でもな、レナ。魔導列車が開通したら、フィンからエデンまでは数時間で来れるようになるんだ。だから、しばらくの辛抱だ」
「……ほんと?」
「本当だ、約束するよ」
カリナの真剣な眼差しに、レナは涙を拭いて笑顔を見せた。
「うん! エデンにいくね!」
「ああ、待ってるよ」
ドルガンが頷き、言った。
「では、城門まで送ろう」
ドルガンとレイラは玉座を降り、カリナ達を伴って城門へと向かった。廊下ですれ違う城仕えの者達や侍女達が、恭しく「おはようございます」と挨拶をしてくる。
城門に到着すると、門番達が重厚な扉を開け放った。朝の光が差し込み、外の世界へと続く道が照らされる。
「いってらっしゃいませ!」
門番達が敬礼する中、カリナは抱いていたレナをレイラに渡した。
「じゃあ、世話になった。また今度はエデンで会おう」
レイラの腕の中で、レナが再び寂しさに耐えきれず、ぐすぐすと泣き出してしまった。
「うぅ……ぐすっ……おねえちゃん……」
カリナは優しくレナの頭を撫でた。
「すぐにまた会えるから。王女様が泣いたらダメだぞ? 笑って送ってくれ」
レナは必死に涙を堪え、小さな手で顔を拭った。
「う、うん……! もうなかない! またね、カリナおねえちゃん!」
精一杯の笑顔で手を振るレナ。カリナも微笑み返し、一歩下がった。
「レナ、今回はこいつを見せてやるよ」
カリナは空を見上げ、詠唱した。
「来い、ペガサス!」
ヒヒィィィンッ!
高らかな嘶きと共に、空から純白の翼を持つ天馬が舞い降りてきた。その神々しく美しい姿に、レナは目を丸くした。
「わあ……! すごい! すごい!」
涙も忘れ、その神秘的な姿に目を奪われている。
ペガサスが着地すると、まずはケット・シー隊員が軽やかに先頭に飛び乗った。続いてカリナが跨り、最後にサティアがその後ろに腰掛けた。サティアは慣れた様子でカリナの腰に手を回し、背中にしがみつく。
「じゃあ、また!」
カリナが手を振る。
「ああ。通信機はあるが、カシューによろしくな!」
ドルガンが力強く答える。
「お二人共、レナがお世話になりました! 今度はエデンで! それに、いつでもいらして下さいね!」
レイラも大きく手を振る。
「ばいばーい! おねえちゃん!」
レナの声が響く。
「ああ、またな!」
カリナは前を向き、手綱を握った。
「行け、ペガサス!」
バサァッ!
ペガサスが大きく翼を広げ、力強く羽ばたいた。一気に高度を上げ、空高く舞い上がる。眼下には、手を振り続けるレナ達や、近代的な美しさを持つフィンの街並みが小さくなっていく。
風が頬を撫でる。カリナ達は、この世界での故郷――東のエデンに向けて、青空の中を飛び立っていった。フィンでの平和で温かい休日は、こうして幕を閉じたのだった。




