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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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220  雨の温泉街と偽りなき休息

 しとしとと、絶え間なく屋根を叩く雨音が、静かな宿泊室に響いていた。

 

 エーヴァ温泉街、月冠温泉宿の朝。カリナは二度寝の深い微睡みから、ゆっくりと意識を浮上させた。


 目を開けると、すぐ目の前には眩しいほどに白い、そして圧倒的な質感を伴った肉の壁があった。サティアの豊満な胸元だ。寝返りを打った拍子に浴衣が大きくはだけてしまったのだろう。カリナの顔のすぐ先には、露わになったサティアの裸の巨乳が鎮座し、その先端には美しいピンク色の蕾が、朝の微かな光を浴びて艶やかに輝いていた。


 カリナは、先程までの自分を支配していたあのドロドロとした精神的な不安定さが、綺麗に霧散していることに気づき、安堵の息を吐いた。今は、自分を自分として保てている。あの幼児のように縋り付き、母性を求めて泣きじゃくっていた自分は、どこか遠い他人の出来事のようにも思えた。


 カリナはそっと手を伸ばし、サティアの胸元にかかった浴衣の襟を直してやった。その指先が、サティアの陶器のように滑らかな肌に触れる。そのまま、まだ夢の中にいるサティアの、穏やかで美しい頬を優しく撫でた。


「ん……」


 サティアは心地良さそうに身をよじり、ゆっくりと茶褐色の瞳を開いた。視線の先で微笑むカリナを見て、彼女の表情がパッと明るくなる。


「おはようございます、カリナさん」


「おはよう、サティア」


 サティアは、カリナの碧眼に宿るいつもの凛とした光を見て、すぐに察した。


「カリナさん、もう大丈夫なようですね。いつもの、格好良いあなたに戻っています」


「ああ、もう大丈夫だ。……心配をかけて悪かったな。この旅の間、お前には苦労をかけてばっかりだ。本当にごめんな」


 カリナはサティアの瞳を真っ直ぐに見つめ、心からの謝罪を口にした。その真摯な言葉に、サティアは胸を熱くしながらも、どこか楽しげに微笑んだ。


「ふふ、大丈夫ですよ。カリナさんを落ち着かせるための母乳が出せるのは、今のところ世界中で私だけですからね。……なんだか、特別な役目を貰ったみたいで、少し誇らしいくらいですよ」


 サティアは隠しきれない優越感を込めて言った。彼女にとって、カリナの脆い部分を独占できることは、この上ない悦びなのだ。


「……っ、それは、その……恥ずかしいから言わないでくれ。あの状態の私は、私だけど私じゃないんだ……」


 カリナは耳まで赤くして目を逸らした。いつもはエデンの特記戦力の英雄として称えられる自分が、赤子のように胸を吸っていたという事実は、正気に戻れば戻るほど耐え難い羞恥心となって襲ってくる。


 そんなカリナの初々しい反応を見て、サティアの愛しさは限界を超えた。この、世界を救う力と、少女の未熟さを同時に抱えた愛しい存在。


「もう……! カリナさんは本当に可愛いんですから!」


 サティアは溢れ出す愛おしさを抑えきれず、カリナを胸元に強く引き寄せ、抱き締めた。


「く、苦しいぞサティア……! ……でも、ありがとうな」


 カリナは顔を埋められながらも、サティアの温もりに包まれて、改めて感謝を伝えた。その時、二人の密着したお腹から、ぐーっという可愛らしい音が重なって響いた。


「……お腹が空いたな。朝食にしようか」


 カリナの提案に、サティアも大きく頷いた。


「そうですね。今日はこの雨ですし、移動は無理ですから、浴衣のままこの街をのんびり散歩しませんか?」


「そうだな。この雨じゃガルーダ達を出すのも忍びないし、彼らを濡らしたくもない。下着をちゃんと着て、上着を羽織って、傘を借りて街を歩こう」


 二人は布団から起き上がると、名残惜しそうに離れた。


 カリナは浴衣を脱ぎ、アイテムボックスから、ショーツと同じ清楚なデザインのブラジャーを取り出した。


 一方のサティアも浴衣を脱ぎ捨て、濡れてしまったショーツを脱ぐ。そして新しい、セクシーな水色のレースがあしらわれたショーツと、お揃いの大きなブラジャーを手に取った。


「ああ……、私のせいだな。お前の下着まで濡らしてしまって……すまない」


 カリナが申し訳なさそうに言うが、サティアは気にする風もなく、むしろ艶然とした微笑みを向けた。


「ふふ、構いませんよ。カリナさんの方は大丈夫ですか?」


 カリナは自分のショーツを確認し、がっくりと肩を落とした。


「ああー、私もだ……。替えなきゃ」


 カリナは観念して濡れたショーツを脱いだ。サティアは部屋に備え付けられていたティッシュを数枚取ると、カリナの前に膝をついた。


「拭いてあげますね」


「あ、いや、自分で……っ」


「いいえ、私がやりたいんです」


 サティアは拒絶を許さず、カリナの股間の湿った部分を優しく、丁寧に拭き取っていく。指先を通して伝わる、ねっとりとした愛液の感触。カリナは顔を真っ赤にし、身体を強張らせた。


「……参ったな。この身体は、本当に不便だ……」


 カリナが自嘲気味に顔をしかめる。サティアは自分の股間も手早く拭き終えると、慣れた手つきで新しいショーツを穿いた。


「それが女性の身体なのですから、仕方がありませんよ。さあ、カリナさんも」


 サティアは、抵抗を諦めたカリナに清楚な薄いピンク色のショーツを穿かせ、ブラジャーを装着してやる。そして浴衣を羽織らせ、丁寧に着付けた後、部屋に備えてあった厚手の羽織を重ね、前で紐を結んでやった。


「よし、次はサティアの番だ」


 カリナはサティアの大きなブラジャーを手に取り、格闘するようにして、その溢れんばかりの乳肉をカップに詰め込み、ホックを留めた。


「ふぅ……。いつものことだが、こいつは重労働だな」


「ふふ、ありがとうございます」


 サティアはカリナに浴衣を着付けてもらい、羽織まで整えてもらうと、上機嫌で鼻歌を歌い始めた。


「なんか、凄く嬉しそうだな」


「はい。今日は雨ですけど、こうしてカリナさんを独占できて、一日中デートできるのですから。最高に幸せです」


「……一緒に出掛けるくらいいつでもできるだろうに」


 カリナは呆れたように肩をすくめたが、その鈍感な言葉さえも今のサティアには心地良かった。


 用を足し、顔を洗った後、サティアはカリナの髪をブラシで丁寧に梳いてやった。自分の髪は今日は結ばず、そのまま背中に流すスタイルにする。


 準備が整ったところで、カリナは畳の隅で丸くなっているケット・シー隊員をしゃがみ込んで指で軽く突いた。


「おい、隊員。朝食だぞ、起きろ」


「んにゃ……。ごはん……肉……。もっと寝るのにゃ……」


 隊員は寝惚けながらも、食欲の誘惑には勝てず、ふらふらと起き上がった。マントを羽織り、シルクハットを被って、いつもの赤いブーツを履く。カリナとサティアも宿の草履を履き、三人は一階の食堂へと降りていった。



 ◆◆◆



 食堂では、和装の給仕の女性が笑顔で出迎えてくれた。


「おはようございます。ゆっくりとしたお目覚めでしたね。朝食のご用意を致しましょうか?」


「ああ。今日はこの雨だし、もう一泊することにしたよ。とりあえず朝食を頼む」


 カリナの言葉に、給仕の女性は「畏まりました」と深く一礼し、景色の良い畳の席へと案内した。


 掘りごたつ式のテーブルには、滋味溢れる和の朝食が並べられた。熱々の土鍋で炊かれた白米、具沢山の味噌汁、焼きたての川魚、出汁巻き卵、そして地元の山菜を使った小鉢。


「いただきます」


 三人は箸を動かし、素朴ながらも贅沢な朝の味覚を堪能した。朝食を終えた後、一行はフロントで番傘を借りた。


「おいらは雨は苦手なのにゃ。部屋で寝ておくのにゃ。隊長、お土産の饅頭を忘れないで欲しいのにゃ」


 隊員はそう言って、早々に部屋へと戻っていった。


「まあ、猫だしな。傘を差しても足元が濡れるのが嫌なんだろう」


「ふふ、そうかもですね。では、二人で行きましょうか」


 サティアが大きな番傘を差し出し、カリナを招き入れた。二人は一つの傘に寄り添うように入り、雨の街へと踏み出した。


 雨に濡れた石畳が鈍く光り、提灯の赤が水溜りに反射して揺れている。日本の温泉街そのものの街並みを歩きながら、二人は自然と手を繋いだ。


「懐かしく感じるな……。現実の日本にも、こういう場所があるよな」


「そうですね。なんだか、本当に旅行に来たみたいです」


 街中には雨でも営業している店が数多くあり、二人は興味を引かれるままに覗いて回った。


 やがて、弓矢を使った『射的屋』の看板が目に入った。


「弓矢か。この世界らしい射的だな」


 カリナが興味を示すと、店主の男性が景気良く声をかけてきた。


「へい、お嬢ちゃん達! 雨の中ご苦労さん! 可愛いお嬢ちゃんには一本サービスしてやるよ、どうだい?」


「なら、やらせてもらおうかな。……エヴリーヌなら、全部簡単に当てるんだろうけどな」


 カリナはふと、どこかにいる仲間に思いを馳せながら、一本の矢を番えた。キリリ、と弦を引き絞る。少女の細い腕だが、そこには確かな力が宿っていた。


 放たれた矢尻が丸い矢は一直線に飛び、景品棚の奥にいた『うさぎのぬいぐるみ』の眉間に当たり、叩き落とした。


「わあ! 凄いです、カリナさん!」


 サティアが手を叩いて喜ぶ。


「へへ、お見事! 約束通りサービスの一本だ、ほらよ!」


 カリナは手に入れたぬいぐるみを、サティアへと差し出した。


「やるよ。この旅の間、ずっと世話になったお礼だ」


「……っ! ありがとうございます! 大切にしますね!」


 サティアは幼い少女のように瞳を輝かせ、ぬいぐるみを胸に抱き締めた。


「そんなに喜んでくれたなら、良かったよ。……まあ、現実世界には持って帰れないのが残念だけどな」


「いいえ、エデンの私の部屋に飾っておきます。見るたびにこの日のことを思い出せますから」


 サティアが愛おしげにぬいぐるみを撫でる様子を見て、カリナはふと意地悪な質問をした。


「自室は綺麗にしてあるのか? お前の部屋、VAO時代はいつも酷い有様だったろ」


 サティアはぎくっとして視線を泳がせた。


「も、もう! 今は側付きのマリナがしっかり掃除してくれていますから大丈夫です! 彼女、NPC時代は全然働かなかったのに、今は凄く優秀なんですよ」


「そうか。今はNPCも命を持って仕事をしてるからな。……マリナに感謝しろよな」


 カリナは笑いながら、サティアの手を引いて再び歩き出した。


 その後も二人は、湯気の上がる店先で買った温泉饅頭を半分こにしたり、アツアツの温泉卵を頬張ったり、名所の源泉を眺めたりして過ごした。


 昼過ぎには、地元で評判の和食処に入った。


「お嬢ちゃん達、二人きりで旅行かい? 仲が良いねぇ」


 気さくな女将さんが運んできたのは、新鮮なヤマメの塩焼きと、旬の山菜の炊き込みご飯。


「うふふ、お姉ちゃん、これ美味しいわよ」


 サティアが茶目っ気たっぷりに『妹』のフリをして食べさせてやると、カリナは顔を赤くして「やめろ」と囁きながらも、出された料理を口にした。


 何気ない会話、何気ない食事。その全てが、戦いの中に身を置いていた彼女達にとって、極上の癒やしとなった。



 ◆◆◆



 夕刻、宿に戻る頃には雨が上がり、雲の間から黄金色の夕陽が差し込んでいた。濡れた街並みがキラキラと輝き、虹が遠くの火山の方角に架かっている。


「お帰りなさいませ!」


 給仕の女性に迎えられ、二人は一度部屋に戻った。お土産の饅頭を受け取った隊員は、寝起きの顔でそれを頬張り、満足気に喉を鳴らした。


「ちょっと歩き疲れたな」


「そうですね。でも、楽しかったです」


 二人は自然と吸い寄せられるように、敷かれたままの布団に横になった。どちらからともなく腕を伸ばし、互いの温もりを確かめるように抱き合う。雨上がりの湿った空気と、サティアの甘い香りが混ざり合い、心地良い眠気を誘う。


 二人はそのまま、静かな仮眠に落ちた。


 ――目が覚めた時、外はすっかり日が暮れ、紺碧の夜空が広がっていた。


「よく寝たな……」


 カリナは身体を起こし、隣でまだ微睡んでいるサティアを揺り起こした。三人は一階へ降り、今夜のディナーを頂くことにした。


 今夜の献立は、宿自慢の『最高級猪鍋御膳』。味噌仕立ての濃厚なスープに、新鮮な猪肉と地元の野菜がたっぷりと入った鍋を中心に、川魚の刺身や季節の天ぷらが並ぶ。


「猪の肉、全く臭みがないな。脂が甘くて美味い」


「野菜も味が濃くて最高ですね。……あぁ、幸せです」


 豪華な食事を終え、カリナは満足気に息をついた。


「今日一日は、本当の意味でのんびりできたよ。こういうのも、たまにはいいものだな」


「ええ、何も考えずに、ただ今を楽しむ時間。私達にはそれが必要だったのかもしれません」


 サティアは優しく微笑み、カリナの手を握った。


「さて、じゃあ最後にもう一度、温泉を楽しんでから寝るか」


「はい! 夜の温泉もまた格別ですからね」


 隊員は「おいらも行くにゃ!」と駆け出し、男湯の暖簾をくぐった。カリナとサティアは、再び女湯の赤い暖簾の向こうへと消えていった。


 雨上がりの夜空には、満月が皓々と輝いている。エーヴァ温泉街の静かな夜は、英雄達の心を優しく溶かしながら、更けていくのだった。

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