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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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219  雨音の調べと少女の揺らぎ

 しとしとと、屋根を叩く静かな雨音が、朝の眠りを微かに揺らしていた。

 

 エーヴァ温泉街、月冠温泉宿の宿泊室。畳の香りと、昨夜焚かれた微かな香の残り香が漂う室内で、サティアはゆっくりと意識を浮上させた。


 まぶたを開けると、視界のすぐ先に、燃えるような赤色に金色の毛先が混じった、特徴的なツインテールのクセ毛のカリナの頭が見えた。彼女はサティアの胸元に顔を深く埋め、安らかな寝息を立てている。浴衣の隙間から覗く白い指先が、サティアの身体を求めるようにぎゅっと抱き締めていた。


 サティアはそのあどけない寝顔に、どうしようもない愛おしさを覚えた。戦場では凛として、誰よりも頼もしいエデンの特記戦力。だが、こうして眠っている姿は、守ってあげなければならないほどに儚い少女そのものだ。サティアは、自身の浴衣がはだけた裸の胸元に、カリナをより強く引き寄せた。


 しかし、その柔らかな抱擁の中で、異変が起きた。カリナの小さな身体が、小刻みに震え始めたのだ。サティアのはだけた胸の素肌に、温かい雫が点々と落ちる。


「……カリナさん?」


 サティアは即座に察した。これは少女のアバターが持つ、精神的な不安定さの波だ。器である肉体に精神が侵食され、制御不能な不安や孤独感に襲われる兆候。カリナの震えは次第に大きくなり、嗚咽を堪えるような、苦しげな呼吸に変わっていく。サティアはカリナの頭や背中を優しく撫で、その髪に指を通した。


「大丈夫ですよ、カリナさん……。不安な精神状態の波が、また来たんですね……」


 サティアの問いかけに、カリナは顔を埋めたまま、小さく何度も頷いた。目を開けることすらできないほど、深い闇に魂が呑み込まれようとしているのだろう。サティアは慈愛に満ちた表情を浮かべ、躊躇うことなく自らの左胸を、カリナの唇へと導いた。


「大丈夫ですよ、たくさん甘えて下さい。あなたのその不安定さは、この身体で生きる以上、仕方のないことなんですから……。私が、全て受け止めてあげます……」


 はだけた浴衣の間から、淡いピンク色の蕾がカリナの口に含まれる。カリナは無意識のうちに、救いを求めるようにそれに吸い付いた。ちゅぅ、と甘い音を立てて吸い上げると、サティアの身体の奥から、温かく濃厚な母乳が溢れ出し、カリナの喉へと流れ込んでいく。


「ぁんっ……んぅ……っ」


 吸われる刺激に、サティアの口からも熱っぽい溜息が漏れた。静まり返った朝の室内に、嚥下の音と、サティアの微かな艶かしい声が溶け合っていく。サティアは、カリナの左手を自らのもう片方の胸へと導いた。カリナは縋り付くようにその豊かな乳房を掴み、甘えるように何度も揉みしだく。そこからも白い母乳が溢れ出し、カリナの指先や二人の浴衣をじっとりと濡らしていった。


 サティアは荒い息をつきながらも、カリナを落ち着かせるために必死に手を動かし続けた。背中をさすり、髪を撫で、無限の包容力で彼女の魂を包み込む。


「ララバイ・オブ・アエテルナ……」


 サティアは聖なる子守歌を静かに詠唱した。光の粒子が室内を舞い、カリナの心に渦巻く恐怖やネガティブな衝動を優しく浄化していく。やがて、カリナの身体の震えが収まり、吸い付く力も弱まっていった。落ち着きを取り戻したカリナは、そのまま口を離し、再び安らかな寝息を立て始めた。


 サティアはその寝顔を見つめ、複雑な想いに駆られた。カリナはこんなにも幼い少女の身体で、世界を救えるほどの精霊王の加護を背負っている。本人は少女の身体の不安定さを「受け入れる」と言っているが、器の変容に伴う精神的な摩耗は、意識している以上に過酷なはずだ。


 PCは肉体的な成長がなく、ずっとこのままでいなければならない。つまり、この不安定さとは今後もずっと向き合い続けなければならないのだ。サティアは、代われるものなら代わってあげたいと心底願わずにはいられなかった。彼女は、カリナの小さな唇にそっと口づけを落とし、物音を立てないように布団から立ち上がった。



 ◆◆◆



 サティアは部屋の隅へ移動し、耳に装着したイヤホン型の通信機を起動した。エデンの拠点にいるカグラへと連絡を取るためだ。


『もしもし、サティア?  おはよう。どうしたの、こんな朝早くに』


 通信の向こうから、カグラの少し眠たげだが聞き慣れた声が響く。


「はい、すみません。カリナさんのことで、ご相談がありまして」


『……カリナちゃんが?  どうかしたの?  まだ不安定な感じ?』


 カグラの声に緊張が走る。サティアは、先程までの出来事を静かに、しかし詳細に報告した。


「はい……。少女特有の思春期の不安定さ……甘えたい衝動や不安な症状の間隔が、目に見えて短くなってきているんです。最初は数日に一度ほどだったのが、最近は毎朝のように波が来ています。本人も、精神が少女の身体に侵食されていくようで怖い、とこぼしていました」


 サティアは一呼吸置き、少しだけ誇らしげな響きを声に含ませた。


「さっきも、寝起きに不安定になったので、私の母乳を吸わせて落ち着かせたところです。……私がいて、本当に良かったですよ」


『……。ちょっと、サティア。アンタ今、自分だけが母乳を出してカリナちゃんを救えてることに、猛烈な優越感を感じてるでしょ』


 カグラの鋭いツッコミに、サティアは思わず肩を揺らした。


「ぎ、ぎくっ……!  い、いえ、そんなことはないですよ?  聖女として、義務を果たしているだけで……!」


『嘘おっしゃい、声がニヤけてるわよ。……まあいいわ、でも、それはちょっとマズいわね。カリナちゃん、思ったより深刻じゃないの?』


 カグラは溜め息を吐き、真面目なトーンに戻った。


『一人旅は絶対にさせられないわね。帰国したら次は恐らくマギナへ向かうことになるでしょうけど、その時は私が同行するわ。エクリアも来るでしょうけど、あのナルシストネカマと二人きりにさせるなんて、カリナちゃんの精神が持たないわよ。……とりあえず今はサティア、アンタがしっかり甘えさせてやりなさい。エデンのためにも、カリナちゃんのためにもね』


「はい、もちろんです。たくさん母乳を飲ませて、安心させてあげますから」


『……やっぱアンタ、優越感感じてるわよね?』


「ふふ、だって、母乳をカリナさんに飲ませてあげられるのは、私だけですからね」


 サティアの隠しきれない優越感に、カグラは呆れたような声を漏らす。


『はあ……私もカリナちゃんにおっぱい吸わせてあげて、母乳が出たらいいんだけどなあ……。わかったわ、カリナちゃんが不安定なのはエデンにとっても大問題よ。カシューにも上手いこと話しておく。帰国したら、私とルナフレアで思いっきり甘えさせてあげるから。……それまでは、頼んだわよ、サティア』


「はい、任せて下さい。カリナさんの不安は、私が全て受け止めます」


『ええ。グラザのバカも見つかったことだし、早く帰りなさいよ。……って、今どこにいるのよ?』


「激闘続きで疲労も溜まっていましたので、湯治を兼ねてリュウホウの街の南にある、エーヴァ温泉街にいます。和風の街並みが美しくて、温泉もとても気持ちが良い場所です。カグラさんなら、きっと気に入ると思いますよ」


『ああー、あの火山地帯の近くの街ね。現実になったら本当に温泉街になってるのね……。いいわね、私も行きたいわ』


「ええ、今度一緒に来ましょう。……ただ、今日は雨なので移動は難しそうです。晴れるまではここに滞在して、帰りにフィンに寄ってから帰国する予定です」


『フィン?  行きがけに寄ったんじゃなかった?』


「ええ。ですが、フィンのPCであるドルガンさんとレイラさんのお子さん、NPCのレナちゃんにカリナさんが凄く懐かれてしまって。帰りに寄ると約束したんですよ」


『へえ……。PCの子はNPCなのね。でも、そんな子に好かれるなんて、さすがカリナちゃんね。あの純真さは、邪気のない子供には真っ直ぐ伝わるのかしら』


「ええ、アーシェラのサキラ女王のお子さんにも懐かれていましたからね。カリナさんには、不思議な魅力があるんですよ」


『そうね、あの子はどこに行っても愛されるわ。まあ、そんなところが可愛いんだけど……。わかったわ、とにかく無事に帰って来なさい。不安定な時は、しっかり支えてあげるのよ』


「はい。では、また帰国してから」


 通信を終えたサティアは、安堵の溜息をついた。カグラに状況を共有できたことで、心なしか重荷が軽くなった気がした。



 ◆◆◆



 サティアは布団に戻り、寝息を立てるカリナの隣にそっと横たわった。腕を回して彼女を抱き寄せ、その頬に自分の顔を寄せる。


「カリナさん……。あなたの不安な心は、私達全員で受け止めて支えますから。自分を責めないで下さいね……」


 サティアは囁き、カリナの耳元に唇を寄せた。外はまだ、しとしとと雨が降り続いている。今日は移動を諦め、このまま温もりの中で過ごすことに決めた。サティアはカリナを胸に抱いたまま、心地良い眠りの誘惑に身を委ね、二度寝へと落ちていった。


 ――数時間後。


 次にカリナが目を覚ました時、室内の光は少しだけ明るくなっていた。頭の中にあった、あの霧のような不安や孤独感はすっかり晴れ、平常通りの精神状態に戻っている。カリナは、自分の顔をはだけた胸に抱いているサティアの寝顔を見つめた。

 

 サティアの穏やかな表情を見ていると、自然と感謝の念が湧いてくる。カリナはそっと手を伸ばし、サティアの綺麗な頬を優しく撫でた。


「……んぅ」


 サティアはくすぐったそうに身をよじり、うっすらと目を開けた。


「おはようございます、カリナさん。……気分は、どうですか?」


「ああ、おかげさまで、もう大丈夫だ。……いつも、すまないな、サティア」


 カリナの素直な謝辞に、サティアは蕩けるような微笑みを返した。彼女の包容力に触れ、カリナは深い安心感を覚え、再び目を閉じた。


 目覚めた時には、遅めの朝食を摂ろう。外の雨音はまだ止まない。カリナは、自身の召喚体達を雨で濡らすことさえも嫌う。もし移動するならばヴァジュラの魔法障壁で雨を防ぐこともできるが、彼女にとって召喚体は単なる駒ではなく、心を通わせた仲間なのだ。彼らを大切に想う心があるからこそ、彼女は『聖衣(ドレス)』を纏い、その力を引き出すことができる。


 そんなカリナの優しさを、サティアは誰よりも深く理解していた。


「今日はのんびりしましょうか」


「ああ、そうさせてもらうよ」


 雨音が静かに響く宿の一室。二人の乙女達は、温かな布団の中で再び抱き合い、安らかな眠りへと就いていった。エーヴァ温泉街の朝は、雨と共に穏やかに過ぎていく。

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