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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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213  アーシェラでの祝宴

 アーシェラ王城の貴賓室。

 

 窓の外はすっかり夜の帳が下り、街には祝宴の明かりが地上の星々のように瞬いていた。戦いの喧騒は遠のき、穏やかな静寂が部屋を満たしている。


 ふかふかのベッドの上で、カリナとサティアが互いの体温を分け合うように抱き合って微睡んでいると、部屋のドアが控えめに、しかし明瞭にノックされた。


「失礼致します。カリナ様、サティア様」


 侍女の澄んだ声が、夢と現の境界に響く。


「祝宴の準備が整いました。玉座の間にて行いますので、お支度が済みましたらおいで下さいませ」


「……ん、もうそんな時間か」


 カリナはゆっくりと目を開け、身体を起こした。隣でサティアも、長い睫毛を震わせて目を覚まし、小さく可愛らしい欠伸をする。


「おはようございます、カリナさん。ふふ、ついウトウトしてしまいましたね。お風呂上がりで気持ちよくて……」


「ああ、風呂上がりの昼寝は最高だったな。疲れもだいぶ取れたよ」


 カリナはベッドから降り、身に纏っていたシルクの寝間着を脱ぎ捨てた。


 露わになったのは、雪のように白い肌と、それを覆う清楚な白のショーツ一枚の姿。引き締まった身体のラインとしなやかな四肢は、戦士としての強さと、少女としての儚さを同時に感じさせる。


「さて、何を着るか……。サキラも自由な格好でいいと言っていたしな」


 彼女はアイテムボックスから、『モード・ド・エデン・セレスト』でルナフレアが「これもお似合いです!」「あれも必要です!」と買い漁らせた私服の山を取り出した。


「これなんかどうだ?」


 取り出したのは、鮮やかな赤のカーディガンと、ブラウンのロングスカートのセットだ。インナーには白のレースがあしらわれたブラウスを合わせる、現代的で上品かつ可愛らしいコーディネートである。


「素敵ですね! では私はこちらを」


 サティアも寝間着を脱ぎ、薄いピンクのショーツ一枚になった。

 

 豊満な胸とくびれたウエスト、そして柔らかな曲線を描くヒップラインが、薄明かりの中で艶めかしく浮かび上がる。聖女としての神聖さと、女性としての成熟した魅力が同居する肢体だ。


 彼女が選んだのは、落ち着いたモカブラウンのカーディガンと、白のレースが幾重にも重なったロングスカートのセット。カリナと色味を合わせた、シミラールックのコーディネートだ。


「じゃあ、着替えるか」


 二人は自然と向き合い、互いの着替えを手伝う。それはもう旅の間に何回と繰り返してきた、日常の光景だ。


 カリナはまず、セットのブラジャーを身に着ける。シンプルな白のデザインだが、レースが繊細で上品である。それを胸に当てると、サティアが流れるような動作で後ろに回り込んだ。


「はい、留めますね」


 サティアの温かい指先が背中に触れ、カチャリという小さな音が響く。カリナは慣れた様子で身を任せた。


「ありがと。……次はサティアだな」


 今度はカリナがサティアの背中に回った。豊かな胸の重みを支えるための、しっかりとした作りのブラジャー。カリナは手慣れた手つきで、そのホックをパチンと留めた。


「ふぅ……相変わらずでかいな」


「ふふ、この世界では、肩凝りは感じませんから便利ですね」


 サティアはくすりと笑った。


「それもそうか」


 続いて、インナーとトップスの着衣だ。サティアはカリナに裾にレースのついたインナーを頭から被せ、丁寧に整える。そして鮮やかな赤のカーディガンに袖を通させ、正面に回ってボタンを一つ一つ留めていく。


 カリナも同時に、サティアにチェック柄のキャミソールを着せ、その上からふわふわとしたモカブラウンのカーディガンを羽織らせた。萌え袖気味になるように袖口を整えてやる。


 最後にスカート。カリナはブラウンのロングスカートを、サティアは透け感のあるレース素材が二重になったティアードスカートを互いに穿かせる。ファスナーを上げ合い、服の乱れを整える。呼吸をするように自然な連携だ。


「よし、これで完璧だな」


 カリナが満足気に頷くと、サティアは鏡台の前で手招きをした。


「カリナさん、髪を整えましょう。こちらへ座ってください」


 カリナが椅子に座ると、サティアはブラシを手に取り、カリナの燃えるような赤髪を梳き始めた。サラサラと心地良い音が響く。特徴的な毛先の金色の部分も、丁寧に整えられていく。


「カリナさんの髪は、いつ見ても綺麗ですね。このクセも可愛らしいです」


「そうか? 自分じゃよくわからないが……サティアにやってもらうと気持ちいいな」


 カリナの髪を整え終えると、サティアは自分の長く艶やかな黒髪にもブラシを通した。黒曜石のように輝く髪が、背中に流れる滝のように美しく整えられる。


「よし、行こうか」


 二人は足元にそれぞれの服に合わせた靴を履いた。カリナは黒のメッシュ素材のローヒールパンプス。サティアは黒の厚底ショートブーツ。


 準備を整え、部屋を出ると、隣の部屋からディード、テレジア、シャオリンが出て来た。


「あら、お二人共素敵なお召し物ですね!」


 テレジアが目を輝かせた。彼女は淡いブルーのイブニングドレスを纏っていた。背中が大きく開いたデザインで、エルフ特有の透明感のある肌を際立たせている。足元は銀色のハイヒールだ。


「なるほど、エデンは発展していると聞いていますから、これがその最先端のファッションなのですね。いつか行ってみたいです」


 ディードは深紅のドレスを着こなしている。スリットが深く入っており、歩くたびに美脚が覗く大胆なデザイン。黒のピンヒールが大人っぽさを演出している。


「普段の戦闘のための衣装とは雰囲気が違って素敵です!」


 シャオリンは相克術士らしく、鮮やかな翡翠色の和服姿だった。生地には蓮の花の刺繍が施され、帯は黄金色。活動的でありながら、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。


「そうか? まあ確かにエデンの流行りの店の服だし、そう見えるのかな」


 カリナは自分のカーディガンの袖を軽く引っ張りながら言った。


「ふふ、ありがとうございます。みなさんもとても素敵ですよ」


 サティアが微笑む。


 その時、向かいの部屋のドアが開き、エリックとグラザ、そしてケット・シー隊員が出て来た。


「おおっ! 女性陣、みんなめかしこんでるじゃねーか!」


 エリックは純白のスーツに身を包んでいた。普段の雰囲気とは違い、元来のイケメンの風格が漂っている。


「似合ってるぞ」


 グラザは黒の燕尾服を着こなしていた。鍛え上げられた肉体がスーツのラインを美しく見せ、まるで執事のような洗練された佇まいだ。隊員はいつも通りのシルクハットに青いマント、赤いブーツだ。


「へえ、お前らそんな服持ってたのか」


 カリナが感心したように言う。


「お二人共素敵ですよ」


 サティアも微笑む。


「まあな、一応こういう場に呼ばれる時もあるからな。一張羅だけどよ!」


 エリックは襟を正して得意気に言った。


「俺は……過去のクエストの景品があったから、着てみただけだ」


 グラザは少し居心地が悪そうに襟元を触った。


「いいんじゃないか? 就職活動してるみたいだぞ」


 カリナがニヤリと笑う。


「ほっとけ! それにリアルでは俺も学生だったんだしな……」


 グラザはぼそりと呟いた。


「よし! じゃあ行くか! 腹減って死にそうだぜ!」


 エリックが先頭に立ち、手招きをした。


「玉座の間だろ? 案内は任せな! 鼻が利くんだよ、旨い飯の匂いにな!」


 エリックの先導で、全員は城内の廊下を歩き始めた。


 道中、グラザがカリナに近づき、周囲に聞こえないようひそひそ声で話しかけた。


「おい、カリナ。お前はカーズのサブキャラだろ? ……女湯に入って大丈夫なのか?」


「ああ……、もういい加減この身体じゃ仕方ないと諦めてる」


 カリナは小声で答えた。


「それに表向きは『聖騎士カーズの妹』って扱いにされてるから、他言するなよ? ややこしいことになるからな」


「そうか……お前も苦労してるんだな」


 グラザは同情の眼差しを向けた。


「ああ、してるぞ。特に生理がやばいからな」


 カリナは乾いた笑いを漏らした。


「そ、そうか……それは大変そうだな……」


 グラザは顔を引きつらせた。男性には想像もつかない苦労だ。


「ああ、地獄だぞ。ネカマのエクリアはよく平然としてられると、尊敬できるレベルくらいにな」


 二人の会話を聞いていたサティアが、すっと間に割って入った。


「聖騎士カーズの妹というのは、エデンではもう当たり前になっていますから、他言無用ですよ? エリックさんにも」


 彼女は笑顔だが、目は笑っていない。


「あ、ああ、わかったよ。それにその姿じゃ、誰もお前がメインキャラのカーズと同一人物だとは思わないだろうしな」


 グラザは慌てて頷いた。


 やがて一行は『玉座の間』に到着した。巨大な扉が開かれると、中から割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こった。


「エデンの英雄達の到着だ!!」「ドラゴンベイン・オーダー万歳!!」


 広間には大きな円卓がいくつも設置され、中央の主賓席には、アーシェラの食材をふんだんに使った豪華な料理が所狭しと並べられていた。スパイシーな香りと、食欲をそそる甘い香りが入り混じり、鼻腔をくすぐる。


 前菜には『アーシェラ産クラゲの冷製・龍神の涙和え』。透き通るようなクラゲが、特製のタレを纏って輝いている。隣には『北山麓の蒸し鶏・特製胡麻ソースがけ』があり、しっとりとした鶏肉に濃厚な胡麻の香りが絡みつく。


 スープは『黄金フカヒレと蟹の卵のロワイヤルスープ』。とろりとした琥珀色のスープの中に、ほぐしたフカヒレと鮮やかなオレンジ色の蟹の卵が踊っている。


 主菜には『アーシェラ牛の黒胡椒炒め・季節の野菜添え』。サイコロ状にカットされた牛肉は、表面が香ばしく焼かれ、中はレアなピンク色。噛むたびに肉汁が溢れ出すのが見て取れる。『大エビのチリソース煮・炎の舞』は、プリプリとした大エビが真っ赤なソースに絡まり、食欲を刺激する。


 そしてメインディッシュには、飴色に輝く皮が美しい『アーシェラダック』が、丸ごと一羽、堂々と鎮座している。パリパリに焼かれた皮からは、芳醇な脂の香りが立ち上っている。


 点心は『小籠包』や『翡翠餃子』が湯気を立てている。セイロの蓋を開けた瞬間の、あの白い湯気と共に広がる小麦と肉の香りがたまらない。


 締めには『アーシェラ特製・五目あんかけ焼きそば』と、パラパラに炒められた黄金色の『海鮮チャーハン』。


 デザートには、プルプルと揺れる『マンゴープリン』と、ふっくらとした『桃饅頭』。まさに山海の幸のオンパレードだ。


 全員にグラスが配られた。カリナと隊員には果汁100%のフレッシュジュース、それ以外には最高級の酒やワインが注がれる。


 玉座に座るサキラ女王が立ち上がり、魔法マイクを手にした。


『皆の者! そして愛すべきアーシェラの民達よ!』


 その声は、城内だけでなく城下全体に響き渡る。


『我等武大国アーシェラは、エデンを中心としたヨルシカ、ルミナス、アレキサンド、そしていずれはマギナも含め、対悪魔戦線の連合に参加し、この世界の平和のために共に戦う!』


 おおおおっ! と歓声が上がる。


『魔導列車でこの国と他国が繋がる日も近い! そしてここに、今日の悪魔討伐の功労者が揃った!』


 サキラはカリナ達の方へ手を差し伸べた。


『今夜は大いに飲み食いし、国を挙げて盛り上がろうではないか! グラスを掲げよ! 乾杯!!』


『『『乾杯!!!』』』


 城内外から、大地を揺るがすような乾杯の声が響いた。カリナ達も笑顔でグラスを合わせ、祝宴が始まった。


「カリナ、サティア、エリック、テレジア、ディード、シャオリンよ。こちらへ」


 サキラ女王に手招きされ、カリナ達は玉座の前へと進み出た。彼女の夫である宰相の男性が、ビロードの台座に乗せた勲章を恭しく差し出す。


「これは、この国を救ってくれた者に与える最高の『アーシェラ護国勲章』じゃ」


 サキラは一人一人の首に、黄金に輝く勲章を掛けていった。アーシェラの象徴である、天に昇る龍の紋章が精緻に刻まれた、重厚な勲章だ。


「そなた達は既にそれなりの武具を持っておるからの。このくらいしかできんが、妾からの礼じゃ」


 彼女は上機嫌で笑った。カリナ達はその場に跪き、臣下の礼を取った。


「ありがとうございます。これからも世界のために戦います」


 カリナが代表して答えると、他のメンバーも深く頭を下げた。


「よいよい、今夜は大いに楽しめ!」


 サキラは満足げに頷き、立ち上がったカリナの服をしげしげと眺めた。


「ふむ……それがエデンの最新のファッションか。お洒落じゃな! 妾もエデンに行った時には、エデンの最先端の流行の服を買いに行かねばならんな!」


「はい、きっとお似合いになると思います」


 カリナが答えると、足元に何かがぶつかった。見下ろすと、黒髪の男の子がカリナの脚にしがみついていた。年の頃は、フィンのレナと同じくらいだろうか。


「ん?」


「ほう……人見知りのシリュウが懐くとは」


 サキラが驚いたように目を丸くした。


「カリナよ、お主には不思議な魅力があるのであろうな」


 カリナはしゃがみ込み、シリュウの頭を優しく撫でた。


「カリナさんは純真な人ですからね。フィンのレナ王女にも懐かれていましたよ」


 サティアが微笑ましそうに言う。


「ほう、あの小国のフィンか。エデンとこの国の間にある王国じゃな」


 サキラは頷き、息子に声をかけた。


「シリュウよ、カリナは大事な客人ゆえ、迷惑を掛けるでないぞ?」


「……うん」


 シリュウは恥ずかしそうにカリナを見上げた。


「そうか、シリュウか。いい名前だな」


 カリナは目線を合わせて聞いた。


「お母さんとお父さんは好きか?」


「うん、好き!」


 シリュウは即答した。


「そうか……。両親の言うことをよく聞いて、立派になれよ」


「うん、なる!」


 力強く頷くシリュウに、周囲の大人達から温かい笑みが漏れる。


「シリュウよ、こちらで食事にしなさい」


「はい、おかあさま」


 シリュウは名残惜しそうにカリナから離れ、サキラの元へと戻っていった。


 その後カリナ達は席に移り、エリック達と共に豪華な料理を楽しんだ。隊員は『北山麓の蒸し鶏』を頬張り、「柔らかくてジューシーだにゃ!」と目を輝かせている。グラザも『アーシェラ牛の黒胡椒炒め』を口に運び、その濃厚な旨味に自然と笑顔がこぼれていた。


 円卓には次々と料理が運ばれてくる。

 

 特に『アーシェラダック』は絶品だった。シェフが目の前で切り分けた飴色の皮は、口に入れるとサクッという音と共に砕け、中から濃厚な脂の甘みがジュワリと広がる。それを薄餅(バオビン)に包み、甘辛い味噌とネギを添えて食べると、食感と味のハーモニーが口の中で爆発した。


「……美味いな」


 カリナも思わず声を漏らす。


「はい、このフカヒレスープも絶品ですよ。濃厚なのに後味がすっきりしていて……」


 サティアはスープを口に運び、うっとりとした表情を浮かべた。


「やっぱ、平和が一番だな」


 カリナはジュースを飲みながら、隣のサティアに言った。


「ええ、このために私達は戦っているのですからね」


 サティアはワイングラスを傾け、優しく微笑んだ。


「そうだな……。この平和を守れたことを、誇りに思うよ」


 グラザも深く頷き、紹興酒を煽った。


 宴はまだまだ続き、会場の熱気は冷めることを知らない。そんな中、カリナはふと思い出したように言った。


「そうだ、グラザ。お前に……いや、エリックにも伝えておくことがある」


 彼女の表情が、少しだけ真剣なものに変わる。


「はい。グラザさんは当然として、エリックさんは信頼できる方ですからね。伝えておくべきでしょう」


 サティアも同意した。


「何のことだ?」


 グラザが怪訝そうに尋ねる。


 カリナは少し離れた席で、ギルドメンバー達と豪快に酒を飲んでいるエリックの方をちらりと見た。今はまだ、勝利の美酒に酔いしれている最中だ。


「後でエリックも呼ぼう。……この世界のことについての、『女神の言葉』だ」


 カリナの声は静かだが、そこには重大な秘密の重みが込められていた。グラザは息を呑み、真剣な眼差しで頷いた。


 煌びやかな祝宴の賑わいの中で、英雄達は真実へと足を踏み入れようとしていた。

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