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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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212  祝宴前の休息

 アーシェラ王城の大浴場。戦いの喧騒から離れ、湯気が立ち込める空間には、男達の豪快な笑い声が響いていた。


「うらぁっ! 背中流してやるぜ、グラザ!」


 エリックは腕まくりをするようにタオルを構え、グラザの背中に勢いよく擦り付けた。


「ごしごしっ! どうだ、気持ちいいだろ!」


「い、いてててっ! エリック、力強すぎだ!」


 グラザが悲鳴を上げるが、エリックはお構いなしだ。


「いやー、さすがVAOの元トップランカーにエデンの特記戦力だ! カリナとの殴り合いもやばかったが、あの悪魔相手の最後の必殺拳は凄かったな!」


 エリックの声には、純粋な称賛と興奮が混じっている。グラザは苦笑しながら、身を任せた。


「まあ……カリナの拳は効いたな。目が覚めるような一撃だった」


 彼は湯船の方を見つめ、自嘲気味に呟く。


「俺はずっと一人で、うじうじと悩んでいただけだったんだと思い知らされたよ。あいつらは、とっくに先を見据えて動いてたってのにな」


 隣では、ケット・シー隊員が身体を泡だらけにして、小さなタオルでゴシゴシと洗っている。頭の上にはアヒルの玩具が乗っていた。


「そうにゃ。サティアもカグラも、それぞれ一人で抱え込み過ぎなのにゃ」


 隊員は、泡を飛ばしながら力説する。


「でも、グラザの悩みは一番下らなかったのにゃ! 『力が強過ぎて怖い』なんて、贅沢な悩みなのにゃ!」


「ははは、手厳しいな」


 グラザは声を上げて笑った。


「そうだな……俺は無駄なことを考え過ぎていたようだ。お前の言う通りだよ、隊員」


「へへ、いい顔になったんじゃねーのか?」


 エリックは背中を流す手を止め、ニカっと笑った。


「まあ、男は悩むくらいなら動くことだな! 身体動かしゃ、大抵のことはどうでもよくなるもんだぜ!」


「ああ……お前達にも、何度も足を運ばせて悪かったな」


 グラザが真面目な顔で礼を言うと、エリックは照れ隠しのように彼の背中をバシバシと叩いた。


「いいってことよ! 御陰で俺が憧れたVAOのランカーの戦いを見れたんだからよ! 役得ってやつだ!」


「そ、そうか……なら良かったが……痛いぞエリック」


 グラザが背中をさする。その様子を見ていたショウキとコウマは、湯船に浸かりながら顔を見合わせた。


「何やら知らない単語が出て来るが……彼らにしかわからない言葉なのだな」


 ショウキが呟く。VAOやランカーといった単語は、元NPCである彼らには理解できないのだ。


「そうだな。だが、彼らがいなければ危なかった」


 コウマは深く頷いた。


「今後はエデンや他国との対悪魔戦線を築くのだ。我々も鍛えなくてはならんな。彼らにばかり頼ってはいられない」


「うむ。我々も強くなろうぞ」


 二人の団長は、湯の中で固い握手を交わした。


 グラザはふと、女湯の方を気にした。


「そういえば……カリナはカーズのサブキャラのはず。……あいつは女湯に入ってるのか?」


 彼は少し考え込み、


「まあ、あの姿では仕方がないのか……。中身はともかく、見た目は美少女だからな……」


 と、勝手に納得して湯に浸かった。男湯では、戦友としての絆を深める男達の友情と笑い声が、いつまでも木霊していた。



 ◆◆◆



 女湯。  


 こちらは華やかさと甘い香りに包まれていた。広々とした洗い場では、シャオリンがカリナの髪を洗い、ディードとテレジアがサティアの世話を焼いていた。


「カリナさんの髪の毛は変わった色ですね~」


 シャオリンは泡立てたシャンプーで、カリナの豊かな赤髪を優しく包み込む。


「赤くて、毛先が金色……それにこのクセ毛! ここだけもこっとしてて面白いですね!」


 彼女はカリナの特徴的なアホ毛を指先でつついた。


「クセ毛なんだ。勝手にそうなる」


 カリナはされるがままになりながら答えた。


「でも悪いな。みんなも戦って疲れているだろ? 私なんかの世話より、自分の身体を休めた方がいいんじゃないか?」


「いえいえ!」


 シャオリンは首を振った。


「聖女様の浄化に、カリナさんの精霊王の加護……それにあの聖衣(ドレス)の薔薇の影響で、悪魔も弱体化していましたから! 私達の消耗なんて、大したものじゃないですよ!」


 彼女は手際よく泡を流し、今度は背中をスポンジで洗い始めた。


「それに、これは私達なりの感謝の気持ちです! カリナさん達がいなかったら、今頃どうなっていたか……」


 隣では、テレジアがサティアの長い黒髪を丁寧に梳きながら洗っていた。


「この髪は……まるでサキラ女王陛下のようで、本当に綺麗ですね」


 漆黒の濡れ羽色は、湯気の中でも艶やかに輝いている。


「ふふ、ありがとうございます」


 サティアは心地よさそうに目を細めた。


「でも、みなさんもお疲れではありませんか? 無理をなさらないで下さいね」


「いえ、カリナさんの薔薇の影響で悪魔も相当弱体化していましたからね。大したことはないですよ」


 ディードがサティアの豊満な肢体に泡を滑らせながら答える。


「エルフのマッサージです。ここ、凝ってますね~」


 彼女の指先が、サティアの肩や背中のツボを的確に刺激する。


「あぅ……そこ、気持ちいいです……」


 サティアはとろけるような声を漏らした。


「ありがとうございます……。カリナさんのあの聖衣(ドレス)は、ちょっと規格外の奥義のようなものですからね。多用はできないみたいですし」


 彼女はうっとりとした表情で続ける。


「精霊王の加護もありましたから、私達の魔力はあの領域では無制限になりますからね。私もほとんど疲労はありません。……むしろ、カリナさんとグラザさんの殴り合いの方が見てて疲れましたよ」


「あー……あれは確かに……」


 テレジアが苦笑する。


「あの伝説の拳王と互角に打ち合うなんて、カリナさんは剣技以外も凄いですね」


 ディードも感心したように言う。


「召喚体を使役するスタイルになるまでは、剣技と魔法剣技、格闘術を中心に鍛えていましたからね、彼女は」


 サティアは誇らしげに語った。


「それに、ここまでの上位悪魔との死闘を経験して、実力も大幅に上昇しているのでしょうね。……今のカリナさんは、本当に頼もしいですよ」


 やがて洗い終えると、カリナとサティアは立ち上がり、お礼に三人の背中を流そうとした。しかし、シャオリン達は慌ててそれを制した。


「滅相もありません! エデンの特記戦力で、この戦いでも最大の功労者の方々に、そんなことはさせられませんよ!」


「そうですよ! 私達は自分達でやりますから!」


 三人に固辞され、カリナとサティアは顔を見合わせた。


「それは何だか……申し訳ないな」


「そうですね……。では、お言葉に甘えましょうか」


 二人は湯船へと向かった。檜の香りが漂う広大な浴槽には、なみなみと湯が張られている。西向きの大きな窓からは、午後の夕刻前の陽光が差し込み、湯気を黄金色に染めていた。まだ夜には早いが、戦いの疲れを癒やすには丁度いい時間だ。


 サティアが先に湯に入り、カリナの手を引いた。


「カリナさん、こちらへ」


 カリナは大人しく従い、湯船に身を沈めた。すると、いつものようにサティアが後ろから抱きついてきた。カリナの背中に、サティアの豊満な胸の感触が押し当てられる。


「……ふぅ、気持ちいいな」


 カリナは力を抜き、サティアに身を預けた。お湯の温もりと、サティアの体温が心地良い。


「何だか洗ってもらうだけは悪いな」


「まあ、彼女達なりの感謝なのでしょうから、素直に受け取りましょう」


 サティアはカリナの耳元で囁き、その身体を優しく抱き締めた。


「あの数の悪魔が相手だったからな……。ピスケスの聖衣(ドレス)じゃなければ危なかったよ」


 カリナは天井を見上げながら呟く。


「召喚体を世界を巡って集めた甲斐がありますね。戦況に応じた召喚体に聖衣(ドレス)がありますから、味方としては頼もしいですよ」


「まあ、ゲーム時代に集めておいて良かったよ。……何度も負けたけどな」


 カリナは懐かしそうに目を細めた。


「でも、御陰で今、現実のこの世界で役に立ってるからな。多用するのは負荷が大き過ぎるのと、手加減ができないのが難点だけどな」


 洗い場の方からは、テレジア達が楽しそうに洗いっこしながら、今日の戦いの話をしている声が聞こえてくる。


「でも……私一人で何でもできる訳じゃない」


 カリナは静かに言った。


「サティアやカグラ、エクリアにカシュー……そしてグラザ。みんながいてくれるから戦えるんだ」


 彼女は自分の手を見つめた。


「後はエヴリーヌだけだな。あいつはどこにいるんだろうか……」


「はい。でも、きっと見つかりますよ」


 サティアはカリナを胸の中に強く抱き締めた。


「カリナさんが私達を見つけてくれたように……きっと」


 カリナはサティアの胸の柔らかさと、トクトクという心音を背中に感じた。


「そうだな……、必ず見つけよう。そして悪魔の親玉を討つんだ。エデンの戦力が揃えば、きっとできるさ」


 カリナは目を閉じ、サティアの存在を感じながら、決意を新たにした。


 やがて、テレジア達も湯船に入ってきた。女湯は華やかなお喋りの場となり、戦いの疲れを癒やす穏やかな時間が流れた。



 ◆◆◆



 十分に温まった後、一行は風呂から上がった。脱衣所には、上質な肌触りの寝間着が用意されていた。中華風のデザインを取り入れた、シルクのような滑らかな生地の寝間着だ。ゆったりとした作りで、リラックスするには最適だ。


「わあ、素敵な寝間着ですね!」「肌触りが最高です!」


 女性陣は嬉々として着替え、身だしなみを整えた。髪を乾かし、火照った身体を冷ますと、彼女達は侍女の案内で貴賓室へと戻った。


 通された部屋は、朱塗りの柱と精緻な彫刻が施された、中華風の豪華な内装だった。天蓋付きの大きなベッドには、ふかふかの布団が敷かれている。窓からはアーシェラの夕景が一望でき、空は茜色から群青色へと移ろい始めていた。街には明かりが灯り始め、これから始まる祝宴への期待が高まっている。


「祝宴まで少し時間がありますね」


 サティアが窓の外の夕焼けを見ながら言った。


「ああ、少し休もうか」


 カリナはベッドに腰掛けた。ふわりと身体が沈み込む。戦いの緊張が解け、心地良い眠気が襲ってくる。


「では、少しだけ……」


 サティアも隣に座り、そのまま横になった。カリナも並んで横になる。自然と、サティアがカリナを抱き寄せる形になった。


「……あったかいな」


「はい。カリナさんも……」


 サティアの腕の中で、カリナは安心しきった表情を浮かべた。英雄達の束の間の休息。部屋の中は静寂に包まれ、二人の穏やかな寝息だけが響いていた。

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