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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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211  勝利の凱歌と拳王の帰還

 アーシェラの東門前。そこは先程までの地獄絵図が嘘のように、歓喜の渦に包まれていた。


 災禍六公の一柱ネフロス・オルディナと、彼が率いる悪魔軍の討伐を終え、カリナ、サティア、グラザ、エリック、テレジア、ディード、シャオリン達が、ゆっくりと東門へと歩みを進めていた。  


 戦いの余韻がまだ肌に残る中、彼らを出迎えたのは、東門の守備に当たっていたアーシェラ軍の兵士達と、ドラゴンベイン・オーダーの残留メンバー達による、地響きのような大歓声だった。


「うおおおおおおっ!!英雄万歳!!」「勝った……!俺達は勝ったんだぁぁぁっ!!」「すげぇ……!あんな化け物みたいな連中を、たったこれだけの人数で……!」


 兵士達は武器を空高く掲げ、泥と汗にまみれた顔をくしゃくしゃにして涙を流し、互いに抱き合って喜びを爆発させている。絶望的な状況からの逆転劇。生きて明日を迎えられる喜びが、爆発的なエネルギーとなって空間を震わせていた。


 カリナは、隣を歩くグラザの背中をバシンと叩いた。


「グラザ、お前が守ったんだ。アーシェラと、傷ついた人々を」


「はい! グラザさんが災禍六公を討ち取ったからこその勝利ですよ!」


 サティアも満面の笑みで同意し、グラザの顔を覗き込む。グラザは、歓声を上げる人々を見回し、己の手のひらをじっと見つめた後、少し照れくさそうに頬を掻いた。


「そうか……。俺もまだ、守ることができるんだな」


 その顔には、かつての陰鬱な影はなく、憑き物が落ちたような、秋晴れの空のごとき清々しい笑顔があった。


「いやー、最後の一撃はすごかったな!」


 エリックが豪快に笑いながら、グラザの肩に腕を回して体重をかけた。


「あの悪魔、こっちの動きが先読みできる感じだったってのによ! それをぶち抜くとは、さすがだぜ! 痺れたねえ!」


「はい。あれは長い座禅の果てに辿り着いた、悟りの境地のようでした。武人として、震えが来るほどの感動を覚えました」


 テレジアが感嘆の溜息を漏らし、尊敬の眼差しをグラザに向ける。


「エデンの戦力は、誰もすごいですね」


 ディードがやれやれといった様子で首を振りながらも、口元には笑みを浮かべている。


「カリナさんの黄金の聖衣(ドレス)の技がなければ、あの伯爵相手にあんなに楽勝で勝てはしなかったでしょうし」


 シャオリンも自分の額をぺたぺたと触りながら、安堵の息を吐く。戦いが終わり、彼女の額からは魔人族の力の象徴である角は消えていた。


「聖女様の術も規格外でした! 怪我人を一瞬で治療し、悪魔の魔力場を無効化してしまうのですから! あれがなければ、前線は崩壊していましたよ」


 三人の言葉に、カリナ達は顔を見合わせて苦笑した。


 東門の前では、待機していたケット・シー隊員が、尻尾をピンと立てて飛び跳ねていた。


「さすが隊長にサティア、グラザにゃ! エリック達も凄かったのにゃ! 見てたのにゃ? おいらの応援も効いてたはずだにゃ!」


 隊員の興奮した様子に、カリナは「はいはい、お前も頑張ったな」と頭を撫でてやる。


 すると、一際立派な装備を纏った二人の人物が、兵士達の列を割って進み出てきた。そして、カリナ達の前に片膝をつき、恭しく頭を垂れた。


「この度はアーシェラの危機を救って頂き、感謝致します!」


 一人は、鋭い眼光と歴戦の傷を持つ騎士団長。もう一人は、鋼のように引き締まった筋肉を持つ格闘術士団長だ。


「あなた方はエデンの使いで来ていたはず。このまま王城にいらして下さい。ドラゴンベイン・オーダーのエリック団長と主力の方々も御一緒に」


「私は騎士団長のショウキです」「私は格闘術士団長のコウマです」


 二人が名乗ると、カリナは頷いた。


「私はカリナだ。そしてこの法衣の女性がサティア、そして格闘術士のグラザだ。わかった、よろしく頼む。どの道、王城には戻って来るように言われてたからな」


「では我々の馬車にお乗り下さい。王城まで案内します」


 ショウキとコウマが立ち上がり、城門の中へと手招きする。そこには、豪奢な馬車が待機していた。


「へへ、王城で祝宴だな! 悪魔退治の後の酒は格別だぜ!」


 エリックはニカっと笑い、東門前にいたギルドの残留メンバー達に向かって声を張り上げた。


「おうお前ら! 今日は祝宴だ! 俺達は城に行く! お前らは本部で今日の祝宴と反省会をしとけ! あ、俺のツケでいいから高い酒開けていいぞ!」


「「「うおおおっ!!」」」「さすが団長!!」「一生ついていきます!!」


 メンバー達は一斉に敬礼し、割れんばかりの歓声を上げた。エリックのこういう気風の良さが、彼らを束ねる秘訣なのだろう。


 カリナ達は用意された馬車に乗り込んだ。三頭の白馬が引く、広々とした屋根なしの馬車だ。カリナ、サティア、グラザ、エリック、テレジア、ディード、シャオリン、そして隊員。全員が乗ってもまだ余裕がある広さだ。御者台にはショウキとコウマが乗り込み、先導する。後続には勝利を告げる旗を掲げた騎馬隊が続いた。


 馬車がゆっくりと動き出し、城下町へと進む。するとそこには、圧巻の光景が広がっていた。


 沿道は黒山の人だかりとなっていた。住民達は既に、東の空を覆っていた瘴気が晴れたこと、そして悪魔撃退の報せを聞きつけており、英雄達を一目見ようと大通りに殺到していたのだ。中華風の街並み、赤い提灯が揺れる通りを、馬車は進んでいく。


「アーシェラ軍万歳!!」「サキラ女王万歳!!」「ドラゴンベイン・オーダー最高だ!!」「エデンの英雄様、ありがとう!!」


 二階の窓からも、路地裏からも、人々が身を乗り出して手を振っている。紙吹雪が舞い、歓声がシャワーのように降り注ぐ。子供達が肩車されて手を振り、大人達が勝利を祝う酒杯を掲げる。アーシェラの街は、祭り騒ぎのような熱気に包まれていた。


「へへっ、照れるねえ! もっと呼んでくれよ!」


 エリックは立ち上がり、アイドル歌手のように両手を振って愛想を振りまいている。


「よっ! そこの姉ちゃん、今日も綺麗だね! 俺達が守ったから安心して飲みな!」


 お調子者の彼は、投げキッスまで飛ばして観衆を沸かせている。


「もう、団長ったら……。少しは落ち着いて下さい」


 テレジアが顔を赤らめながらエリックの服の裾を引っ張るが、彼女自身も民衆からの「エルフのお姉ちゃんありがとう!」という声援に、嬉しそうに手を振り返している。


「すごい人気ですね……。みなさん、本当に不安だったんでしょうね」


 サティアが窓の外を見て目を丸くし、安堵の表情を浮かべる。


「まあ、国が滅ぶかどうかの瀬戸際だったからな。助けられて良かったよ」


 カリナは微笑み、控えめに手を振り返した。その堂々とした振る舞いに、市民からは「あの子がリーダーか?」「可愛いのに強そうだ」といった声が漏れ聞こえてくる。


 その喧騒を抜け、馬車は王城の正門をくぐった。城壁に囲まれた城内に入ると、空気は一変して厳かなものになるが、すれ違う兵士達の表情も明るい。城の正面玄関で馬車を降りると、ショウキとコウマが巨大な朱塗りの扉を開けさせた。


「こちらへどうぞ」


 二人の案内で、カリナ達は長い回廊を進み、再び『謁見の間』へと足を踏み入れた。高い天井、龍の彫刻が施された柱、そして部屋の最奥に鎮座する玉座。そこには、美しい女王サキラが座っていた。朝の謁見時よりも、その表情は晴れやかだ。


 彼女の前の赤い絨毯に引かれた黒い線の前で、ショウキとコウマが跪く。カリナ達もそれに続き、後ろで臣下の礼を取った。


「女王陛下、東門に襲来した悪魔の討伐、完了致しました!」


 ショウキが張り詰めた声で報告する。


「そうか、よくやってくれた」


 サキラは満足気に頷き、玉座の肘掛けに手を置いた。


「あの西の空を覆っていた黒い瘴気が完全に消えたのだ。ここからも見ていたぞ。……凄まじい激戦だったのだろう。損耗は?」


 女王の声に、わずかな緊張が混じる。あれだけの大軍だ。勝利したとはいえ、多くの血が流れたことを覚悟しているのだろう。


「いえ! それが……彼らの活躍の御陰で、死者は出ていません!」


 ショウキが声を震わせて、奇跡のような事実を告げた。


「死者が、ゼロだと……?」


「はい! 聖女様の神聖術で怪我人も全て癒え、カリナ様の召喚体を身に纏う見たこともない奥義と技で悪魔は壊滅! そして敵の大将は、このグラザ様が討ち取りました!」


「ドラゴンベイン・オーダーのエリック殿達の戦いも見事でした! 結果、アーシェラは守られました! これは、アーシェラの歴史に残る大勝利です!」


 コウマも興奮気味に続ける。


「なんと……!」


 サキラは目を見開き、驚愕の表情を隠さなかった。


「悪魔の軍勢を、その少人数で全て討ち取った上に、死者ゼロとは……。ドラゴンベイン・オーダーの実力は確かだが、エデンの特記戦力……噂に違わぬ、いや、噂以上の凄まじさじゃな」


 彼女は玉座から立ち上がり、階段を数段降りてカリナ達を見据えた。


「カリナ、サティア、そして拳王グラザよ。我が国を救ってくれて感謝する。そなた達はアーシェラの真の友だ」


「はっ、勿体なきお言葉です」


 カリナ達は深く頭を下げた。


「エリックよ、お前達も今夜は城内で祝宴に参加するがよい。ギルドへの報奨金も弾ませてもらうぞ」


「へへっ、さすがサキラ女王陛下! 太っ腹だぜ! 期待してますよ!」


 エリックは顔馴染みらしい気安さで、ウインクまでして返事をした。周囲の重臣達が苦笑するが、サキラは楽しそうに笑っている。


 サキラは視線をグラザに移した。


「グラザよ、迷いは晴れたようだな」


「……はい」


 グラザは顔を上げた。その瞳には、強い意志の光が宿っている。


「長年、アーシェラの北の滝で座禅を組み、己の内面と向き合ってきたのであろう。……その拳、再び守るために使うと決めたか」


「はい。仲間の拳が、俺の目を覚ましてくれました」


「そうか、だが、エデンではお主を待っている者達がいるのだ。それを忘れないようにな」


「はい。ありがたいお言葉、感謝致します」


 グラザは深く一礼した。カリナとサティアは顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。


「今日は悪魔撃退のめでたい日じゃ! 国を挙げて祝宴を開こうではないか!」


 サキラは高らかに宣言し、懐から魔法マイクを取り出した。魔力を込めると、その声は城下全体に響き渡る拡声魔法となった。


『愛すべきアーシェラの民達よ! 聞け! 今日、悪魔の大軍が我が国を襲った! だが、我が国の軍にドラゴンベイン・オーダー、そしてエデンの英雄達によってこの国は救われたのだ!』


 女王の力強い声が、城壁を超え、街の隅々まで響き渡る。


『今宵は国を挙げて大いに飲み食いし、盛り上がろうではないか!! 今日は無礼講じゃ!!』


 ドワアアアアッ!!  城下からは、城の窓ガラスが震えるほどの大歓声が返ってきた。


「さて、準備の間に戦いの埃を落とすが良かろう」


 サキラはマイクをしまい、カリナ達に慈愛に満ちた笑みを向けた。


「大浴場を使うが良い。祝宴も堅苦しいドレスコードなどない。各々自由な格好で参加すればよいからな。英雄達には、最高の酒と料理を用意させる」


 彼女はパンと手を叩き、控えていた侍女達を呼んだ。


「彼らに貴賓室と大浴場を案内してやれ」


「畏まりました」


 侍女達が一礼し、カリナ達の前に進み出る。


「準備ができたら部屋まで使いを寄こそう。それまではゆっくり疲れを癒すがいい。……では後ほどな。大儀であった!」


「はっ! ありがとうございます!」


 カリナ達は一礼し、侍女に案内されて謁見の間を後にし、大浴場と貴賓室に案内された。


 通されたのは、城内でも最上級の貴賓室エリアだった。廊下にはふかふかの絨毯が敷かれ、壁には名画が飾られている。カリナとサティアは同室。エリックとグラザは同室。テレジア、ディード、シャオリンは三人部屋へと割り振られ、それぞれの鍵を渡された。


 荷物を部屋に置いた後、一行は大浴場へと向かった。アーシェラ王城の大浴場は、ギルドのものよりもさらに広く、床は大理石、浴槽は檜という豪華絢爛な造りになっていた。


「じゃあ、俺達はこっちだな。グラザ、背中流し合いっこでもするか?」


 エリックがグラザの背中をバシッと叩き、男湯の暖簾をくぐった。


「おう、手加減しろよ?」


 グラザも笑って続く。ショウキ、コウマ、そして隊員も男湯へと消えていった。


「私達はこちらですね」


 サティアが微笑み、カリナの手を引いて女湯へと入った。テレジア達も、楽しそうにお喋りしながら後に続く。


 脱衣所に入ると、カリナは大きく息を吐き、肩の力を抜いた。


「ふぅ……」


 魔力を解き、『換装』を解除する。光と共に現れたのは、ボロボロになった衣装だった。


「……これはまた、修繕してもらわないとだな」


 リボンはちぎれ、フリルは泥にまみれ、生地はあちこち裂けている。グラザとの殴り合いの痕跡だ。


「あれはさすがに寿命が縮みましたよ」


 サティアがカリナの衣装を脱がせながら、頬をぷくっと膨らませた。


「もう、いつもカリナさんは無茶をするんですから! グラザさんと殴り合ってる時なんて、心臓が止まるかと思いました」


「まあ、ああでもしないとあいつは動かなかっただろうしな。仕方ないさ」


 カリナは全く反省していない様子で肩をすくめ、悪戯っぽく笑った。


「あの拳王相手に格闘術で互角にやりあうなんて、無茶苦茶でしたね」


 テレジアも服を脱ぎながら苦笑する。エルフの白い肌が露わになる。


「でも、あれでグラザさんの目が覚めたのでしょう。……それでも冷や冷やしましたけどね。カリナさんが吹き飛ばされた時は悲鳴を上げそうになりました」


 ディードも呆れたように笑いながら、髪をまとめた。


「カリナさんの拳、凄かったです! 見てるだけで痛そうでしたもん! やっぱりエデンの人はみんな規格外ですね!」


 シャオリンが身振りを交えて興奮気味に話す。


「はは、まあ結果オーライだろ」


 カリナは全裸になり、タオルを手に取った。


「さあ、汗を流そう! その後は祝宴だ! 今日は楽しむぞ!」


「はい! 楽しみですね!」


 女性陣は賑やかに浴室へと向かった。湯気の中に、戦いの疲れを癒やす笑い声が響く。


 一方、男湯の方でも、男同士の裸の付き合いが始まろうとしていた。戦いを終えた安堵感と、勝利の余韻に浸りながら、アーシェラの午後は過ぎていく。

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