表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

211/266

210  終末預言と無我の拳

話数の数の表示ミスってました。

その内修正します。

抜けがある訳ではないので気にしないで下さい。

 アーシェラの東門前、戦場の中心。カリナ達が周囲の魔界兵団と悪魔共を殲滅し、光と轟音に包まれる中、ただ一箇所、異様な静寂に包まれた空間があった。


 そこには、二人の男が対峙していた。一人は、黄金の闘気を全身から立ち上らせ、精霊王の加護により七色の輝きを纏った拳王グラザ。もう一人は、豪奢な輿から降り立ち、古き黙示録を手にした災禍六公、『沈黙と終末預言』ネフロス・オルディナ。


 精霊王の加護により、ネフロスの強大な魔力は半減している。だが、彼の口元には不敵な笑みが張り付いていた。


「……その結末は、既に定まっている」


 ネフロスは静かに、しかし絶対的な響きを持って呟いた。


「お前の配下は全て消えた。次はお前の番だ」


 グラザが鋭く言い放つ。その拳は固く握りしめられ、大気が震えるほどの圧力を放っている。


「ククク……これが精霊王の加護か。力が削がれる感覚……不快だが、いいハンデだ」


 ネフロスは目隠しの奥から、値踏みするような視線を向けた。


「さあ、始めようか。お前の『敗北の歴史』を記す作業を」


 戦いの火蓋が切って落とされた。


 グラザの背後では、黄金の聖衣(ドレス)を纏ったカリナと、駆け付けたサティア、そしてエリック達が見守っている。


「手を出すなよ。これは俺の戦いだ」


 グラザは背中越しに語る。


「ああ、お前の力を見せてやれ」


 カリナは腕を組み、信頼を込めて頷いた。


「ですが、危険なときは有無を言わさず介入しますからね!」


 サティアはメイデンロッドを握り締め、いつでも支援できるよう構えている。


「拳王の本気が見られるんだ。お前ら、しっかり見とけよ!」


 エリックがテレジア達に声をかけると、彼女達も真剣な表情で頷いた。


 ダンッ!!


 グラザが大地を蹴った。音速を超え、一瞬でネフロスの懐へと飛び込む。


轟拳(ごうけん)!」


 右拳に全力を込め、ネフロスの顔面へと叩き込む――はずだった。


 ピタリ。ネフロスは動かない。避ける素振りすら見せない。ただ、手にした黙示録のページが、風もないのにパラパラとめくれただけだ。


 ガギィンッ!


 グラザの拳が、見えない壁に阻まれたかのように空中で止まった。いや、止まったのではない。まるで最初から『当たらなかった』かのように、拳の軌道が不自然に逸れ、何もない空間を殴り抜けたのだ。


「なっ……!?」


 グラザが目を見開く。その隙に、ネフロスが指先を動かした。


「……『ラスト(終焉)プロフェシー(預言)』。第一節、愚かなる獣は、自らの勢いで吹き飛ぶ」


 ドォォォォォンッ!!


 グラザの胸に、不可視の衝撃が直撃した。彼はボールのように後方へと吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドして転がった。


「ぐはっ……!」


 グラザはすぐに受け身を取り、立ち上がる。だが、胸には鋭い痛みが走っていた。攻撃を受けた覚えはないのに、ダメージだけが刻まれている。


「何が起きた……? 俺の拳は、確かに奴を捉えていたはずだ」


 カリナが眉をひそめる。


「……未来は、既に記された」


 ネフロスは黙示録を開いて見せた。そこのページには、既に文字が刻まれている。『グラザの攻撃は空を切り、不可視の衝撃を受けて吹き飛ぶ』と。


「これが私の固有災禍能力、『アポカリプス(黙示の)レコード()』。この書に記された未来は、確定した運命となる」


 ネフロスは淡々と語る。


「攻撃が当たる未来が書かれれば当たり、致命傷を受ける未来が書かれれば、必ずそこを斬られる。お前がどう動こうと、結果は変わらない」


「未来を……書くだと!?」


 エリックが驚愕する。


「そんなデタラメな能力があるかよ!」


「あるさ。災禍六公とは、(ことわり)そのものを捻じ曲げる存在だ」


 カリナが低い声で言った。


「グラザ……! 相手のペースに乗るな!」


「分かってる!」


 グラザは再び構えた。闘志は衰えていない。


「なら、書かれる前に叩き潰すまでだ!!」


 グラザは神速拳(しんそくけん)で姿を消し、四方八方から高速の連撃を浴びせた。


烈風掌(れっぷうしょう)! 迅雷掌(じんらいしょう)! 鬼砕拳(きさいけん)!!」


 風、雷、そして破壊の拳。回避不能のラッシュがネフロスを襲う。だが……。


「……無駄だ」


 ネフロスは一歩も動かず、ただ黙示録を見つめていた。ページがめくれる音が、戦場の轟音の中でも鮮明に響く。


 『全ての拳は届かず、挑戦者は自らの無力さを知る』


 その一文が刻まれた瞬間。グラザの拳は全て、ネフロスの黒衣を掠めることさえできずに空を切った。足がもつれ、バランスを崩し、あるいは謎の突風に阻まれる。まるで世界そのものが、グラザの攻撃を拒絶しているかのようだ。


「くそっ……! なんで当たらねぇんだ!!」


 グラザが焦りを滲ませる。


サイレンス・ドゥーム(沈黙領域)


 ネフロスが指を鳴らすと、周囲の空気が重く淀んだ。グラザの動きが鈍る。身体に鉛を詰め込まれたような重圧。


「この領域では、叫び、闘志、気合、魔力詠唱が封じられる。意志が弱まるほど、黙示録の未来はより強固に固定される」


 ネフロスの声が、直接脳内に響く。


「沈黙の鎖」


 ジャララララッ!  


 黒い言霊の鎖が虚空から現れ、グラザの手足を拘束した。物理的な鎖ではない。闘志と集中力を吸い取る、呪いの鎖だ。


「ぐぅぅ……っ!」


 グラザはその場に膝をついた。


「グラザさん!」


 サティアが叫ぶ。


「させません! オーロラ・セイント・シャイン!」


 サティアが杖を掲げると、虹色の光がグラザを包み込んだ。仲間の弱体化を全解除し、士気を高める聖女の祝福。黒い鎖が光に溶かされ、消滅していく。


「……チッ、小賢しい真似を」


 ネフロスが初めて不快そうに眉を寄せた。


「サティア……すまん、助かった!」


 グラザは鎖から解放され、再び立ち上がった。だが、状況は変わらない。どんな攻撃を繰り出しても、先に『失敗する未来』を書かれてしまう。これは、完全な「詰み」だ。


「……あがくほど、書は完成する」


 ネフロスは冷酷に告げた。


ドゥーム・クロック(審判の刻)


 黙示録のページが、一枚、また一枚と、ひとりでにめくられていく。最後のページが開いた瞬間、『書かれた敗北』が現実になるという宣告だ。


「終わりだ、拳王。お前の死に場所は、このページに記されている」


 ネフロスが最後のページを開こうとした、その時。


 フッ……!


 グラザの身体から、荒々しい闘気が消えた。彼は拳を下ろし、脱力したように立ち尽くした。


「……?」


 ネフロスの手が止まる。諦めたのか? 絶望したのか?  いや、違う。


「……なら、俺が『未来を作らなきゃ』……負けるってことか」


 グラザは静かに目を閉じた。闘志も、恐怖も、勝ちたいという欲すらも消し去る。思考を止め、自我を薄め、ただ『在る』だけの存在へと回帰していく。


 100年の隠遁生活。来る日も来る日も滝に打たれ、座禅を組み、己の内面と向き合い続けた日々。その果てに辿り着いた、究極の精神領域。


 『無我の境地(むがのきょうち)』。


「……何をする気だ?」


 ネフロスが怪訝そうに黙示録にペンを走らせようとする。だが……。


「……書けない……?」


 ペンの先が止まる。未来が見えない。定まらない。グラザの行動には意志も選択も伴っていないため、『予言する対象』として認識できないのだ。


 ゆらりとグラザが動いた。予備動作のない、幽霊のような動きだ。


「来るか……! ならば、強制的に書き込むまで!」


 ネフロスは焦り、適当な死因を書き殴ろうとした。しかし、その時にはもう、グラザは目の前にいた。


 ドンッ!!!


 グラザの拳が、ネフロスの腹部に深々と突き刺さった。


「がはっ……!?」


 ネフロスは目を見開いた。防げなかった。読めなかった。これは攻撃ではない。ただの『現象』だ。風が吹くように、川が流れるように、グラザの拳がそこにあっただけだ。


 グラザは目を開いた。その瞳は澄み渡り、一切の感情を映していない。


無心(むしん)天破拳(てんはけん)


 ドゴォォォォォォォォォッ!!


 拳から放たれた衝撃波が、ネフロスの体内を駆け巡り、背中から突き抜けた。予言されていない一撃。書かれていない終焉。


 パリィインッ……!


 ネフロスの手から黙示録が滑り落ち、空中で粉々に砕け散った。運命支配の崩壊だ。


「……沈黙せよ、預言……」


 グラザが静かに呟く。


「ば、馬鹿な……、未来を持たぬ拳だと……!?」


 ネフロスはよろめき、膝をついた。その身体が、端から崩れ去っていく。彼はグラザを見上げ、震える声で問うた。


「お前は……運命に抗ったのではない……運命の外へ出たというのか……?!」


 グラザは答えなかった。ただ、静かに拳を収めた。


「……見事だ……」


 ネフロスの身体が完全に崩壊し、後には漆黒の闇の魔力結晶だけが残された。勝負はついた。


「ふぅ……」


 グラザは大きく息を吐き、その場にどさりと座り込んだ。『無我の境地』が解け、一気に疲労が押し寄せてきたのだ。全身傷だらけで、体力は空っぽだった。


「グラザさん!」


 サティアが駆け寄る。


「セイントリー・ミラクル・アマリア!」


 彼女がグラザの肩に触れると、温かな光が溢れ出した。触れた者の傷と苦痛を瞬時に消し、疲労すら洗い流す奇跡の治癒術。グラザの顔色が、みるみるうちに戻っていく。


「……ありがとな、サティア」


 グラザは苦笑しながら礼を言った。そして、地面に落ちていた闇の魔力結晶を拾い上げ、歩み寄ってきたカリナに放り投げた。


「ほらよ、お前の戦利品だ」


 カリナはパシリとそれを受け取り、ニヤリと笑った。


「さすがだな。お前こそが『拳王』だ」


「……その呼び名はやめてくれって言っただろうが」


 グラザは照れくさそうに頭をかいた。


「これで……俺もまた、お前達の仲間になれたかな」


「何を言っている」


 カリナは呆れたように肩を竦めた。


「お前はずっと仲間だ。100年前から、何も変わっちゃいない」


「……そうか」


 グラザは安堵の表情を浮かべ、満面の笑みを見せた。


 その時、東門の方から爆発的な歓声が上がった。


「うおおおおおっ!! 勝ったぞぉぉぉっ!!」「アーシェラは守られた!! 英雄万歳!!」「ドラゴンベイン・オーダーも最高だぁっ!!」


 兵士達が武器を掲げ、互いに抱き合って喜びを爆発させている。長きに渡る防衛戦の勝利。そして、伝説の英雄達の帰還を祝う声だ。


 カリナはふと自分を見下ろした。黄金の聖衣(ドレス)が、午後の陽光を受けて輝いている。


「……さて、そろそろ戻すか」


 彼女が念じると、聖衣(ドレス)が光の粒子となって解け、元の双魚の姿に戻った。


「お見事でした、主カリナよ」  


 アルバフィカがヒレを揺らして賞賛する。


「無粋な悪魔に、主が負ける訳がなかろう」  


 アフロディーも満足気に同意する。


「ありがとう、お前達。助かったよ」


 カリナが礼を言うと、双魚は光となって天へと昇り、消えていった。


 続いて、ワルキューレ七姉妹、セイレーン、ウィスプ、フェンリルも次々と現れた。


「主様、またいつでもお喚び下さい!」「楽しかったよー!」「お疲れ様でした!」「我が力は主様のために」


 彼らもそれぞれ一言告げ、光の中に消えていった。静けさが戻った戦場に、心地良い風が吹き抜ける。


「さて……戻ろうか」


 カリナが伸びをしながら言うと、エリックが魔剣を背負い直して豪快に笑った。


「おう! とりあえずウチのギルド本部で風呂と飯だな! 今日は朝から働き詰めだったからな!」


「賛成です! 汗を流したいですね」  


 テレジアも笑顔で同意する。


「祝勝会もやりましょう!」  


 シャオリンがはしゃぐ。


「ああ、王城に戻ってくるように言われてたが、まあ後でいいか……」


 カリナはぽつりと言う。


 こうして、アーシェラを襲った災禍六公からの侵攻は、英雄達の活躍によって完全に阻止されたのだった。新たに拳王グラザが復帰し、カリナ達の旅はさらに続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ