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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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207  災禍の進軍と英雄達の応戦

 アーシェラの東門。  


 そこは今、この世の終わりのごとき地獄の様相を呈していた。空を覆い尽くすのは、太陽の光さえも遮る分厚く黒い瘴気の雲。大地を埋め尽くすのは、おぞましき魔物の軍勢。  


 災禍六公の一柱、『沈黙と終末預言』ネフロス・オルディナが魔界の深淵より喚び出した魔界兵団が、黒い津波となって押し寄せていた。


「怯むな! ここを死守するぞ! 我等が退けば国が滅ぶ!」


 アーシェラ騎士団長が、血と泥に塗れた剣を掲げ、枯れんばかりの声で叫ぶ。


「ここが破られれば、城下に被害が及ぶ! 一歩も引くな! 気合を入れろぉっ!」


 格闘術士軍の団長も、砕けた拳甲を構え直し、必死の形相で檄を飛ばす。


 アーシェラの精鋭部隊、そしてドラゴンベイン・オーダーの残留メンバー達が、必死の防衛戦を繰り広げていた。だが、戦況はあまりにも絶望的だった。


 グオオオオッ!


 前衛に立ちはだかるのは、漆黒の重鎧に身を包んだ『影狼兵』と『影霊騎士』。彼らは影で作られた不定形の剣と槍を振るい、騎士達の盾を、鎧を、そして肉体を容易く打ち砕く。兜の中は空洞で、蒼い霊紋だけが死神の瞳のように不気味に光っている。


 ガギィッ!  ズシャアッ!


 ヒャアアアッ!


 その重装兵の隙間を縫うように、『影喰犬』が疾走する。黒狼の姿をした狩猟魔獣は、音もなく気配を消して忍び寄り、兵士の死角から鎧ごと肉を食いちぎる。その口には光を喰らう漆黒の焔を宿し、戦場の光源である太陽の光さえも噛み砕き、周囲を闇に染めていく。


 ヒュンッ!  ヒュンッ!  ドスッ!


 後方からは『影霧弓兵』が、影の粒子で形成された長弓を引き絞る。放たれる霊矢は鉛のように重く、城壁の石組みすら貫通し、兵士達を次々と射抜いていく。


 キキキキッ!


 空を埋め尽くすのは、無数の『幽影兵』。影の淀みから生まれた彼らは、黒い霧のように群れとなって兵士に襲いかかり、その視界を奪い、精神を恐怖で蝕んでいく。


 ズシーン……!  ズシーン……!


 そして、門の前には巨塔の如き『影霊甲冑』が立ちはだかる。中身のない巨体の鎧は、打撃も斬撃も通さない圧倒的な防御力を誇り、その丸太のような剛腕を振るうだけで、数十人の兵士達が木の葉のように薙ぎ払われていく。


「ぐわああっ!」「だ、だめだ……! 数が多すぎる……!」「攻撃が通じないぞ……!」


 アーシェラ軍の防衛線が、徐々に、しかし確実に崩されていく。その背後には、男爵、子爵、伯爵レベルの悪魔が無数に控えているのが見える。絶望的な戦力差。死の足音が、確実に近づいていた。


「……その結末は、既に定まっている」


 魔軍の最後尾。宙に浮く豪奢な玉座のような輿の上で、ネフロス・オルディナが静かに呟いた。目隠しをした細身の男。側頭部からは二本の角が生え、背中にはコウモリのような翼がある。手には古き黙示録を携え、その佇まいは戦場にあって不気味なほどに静謐だ。


「さあ、お前達。アーシェラを落とせ」


 彼は感情のない、だが絶対的な強制力を持った声で命じた。


「さすれば、精霊王の加護を持つ小娘に、聖女、そして拳王が現れる……。手を緩めるな。全てを闇に沈めよ」


 予言めいた言葉と共に、魔軍の攻勢がさらに激化する。東門が破られるのは、もはや時間の問題かと思われた。その時だった。


 ヒヒィィィンッ!  キュイィィィンッ!


 天空から、絶望を切り裂くような高らかな嘶きと鳴き声が響き渡った。黒く染まった雲を突き破り、二つの神々しい影が舞い降りる。純白の翼を持つ天馬ペガサスと、黄金の神鳥ガルーダだ。


「怪我人は下がれ! ここからは私達が引き受ける!」


 ペガサスの背から、戦場に響き渡る凛とした少女の声が轟いた。赤髪の美少女、カリナだ。彼女はサティアとケット・シー隊員と共に、戦場の最前線へと飛び降りた。続いて、ガルーダからエリック、テレジア、ディード、シャオリンが降り立つ。


 ダンッ!


 着地と同時に、カリナは叫んだ。


「――精霊王の加護よ、発動しろ! レグナ・スピリトゥス!!!」


 カリナの身体から、虹色の波動が爆発的に広がった。それは戦場全体を包み込み、傷つき倒れかけていたアーシェラ軍とドラゴンベイン・オーダーのメンバー全員に降り注ぐ。


 精霊との同調率が常時最大化される『魂の共鳴』。精霊への干渉・反転・汚染に対する『完全耐性』。契約精霊の消耗を肩代わりする『王の循環』。そして――悪魔に対する、絶対的な『存在特攻』。それが敵の力を半減させる。


 これら全ての加護が付与され、味方全員の身体が七色のオーラに包まれる。疲弊しきっていた兵士達の瞳に、再び闘志の灯が宿る。


「エピファニー・オブ・セイント・メイデン!」


 続いてサティアが祈りを込めて詠唱する。彼女の背中に、光り輝く幻の翼が顕現した。聖女としての力を極限まで高める、自己強化特別儀式だ。


「カノン・オブ・ザ・ディヴァイン・ブライド!」


 さらに、世界規模で癒しと浄化を広げる究極儀式を発動。戦場に満ちていた重苦しい瘴気が一瞬で払拭され、清浄な空気が満ちる。悪魔達の動きが鈍る。魔力場が無効化されたのだ。


「そして……ブレスド・メイデンズ・グレイス!」


 サティアが慈愛に満ちた微笑みを向けるだけで、奇跡が起きた。傷ついた兵士達の傷が塞がり、断裂した筋肉が繋がり、体力が瞬く間に回復していく。


「お、おお……! 傷が消えた……!?」「凄い、力が溢れてくる……! これが聖女様の神聖術か……!」「凄まじい効力だ……!」


 兵士達から驚嘆と歓声が上がる。


「ここからは俺達に任せな!」


 エリックが背中から、自身の背丈ほどもある魔剣バルムンクを抜き放った。その巨大な剣身が、太陽の光を反射して輝く。


 テレジアも片手剣を抜き、ディードも連接剣ライトローズウイングを構える。シャオリンは扇状に広げた護符を構え、臨戦態勢に入った。


「アーシェラ軍とドラゴンベイン・オーダーの残りのメンバーは、東門の前まで撤退しろ! サティアが支援する!」


 カリナの的確な指示に従い、兵士達は整然と後退した。サティアは門の前に立ち、メイデンロッドを掲げて強固な聖なる結界を展開する。


「来い! 私の軍勢よ!」


 カリナが右手の掌を天に掲げ、叫んだ。足元に巨大な召喚魔法陣が展開される。


 ズズズズズ……!


 大地から、漆黒の甲冑に身を包み、身の丈ほどある大剣を構えたシャドウナイト。そして、白銀の甲冑に輝く大盾と片手剣を携えたホーリーナイト。その数、数百。精強なる騎士の軍勢が、召喚に応じて姿を現した。


 さらに空からは、七色の光と共にワルキューレの七姉妹が降臨する。長女ヒルダは炎を纏う片手剣。次女フルンドは雷を帯びた槍。三女カーラは風を操る弓矢。四女ミストは水を司る二刀流。五女エルルーンは大地を揺るがすバトルアクス。六女ロタは氷に両手剣。そして七女エイルは、癒しの光を放つチャクラムを手にしている。


 彼女達はカリナの前に跪いた。


「召喚に応じました、我等が主様!」


 さらに、エメラルドグリーンの風を纏う巨狼、神狼フェンリル。蠱惑的な衣装と翼を持つ、セイレーン。青白い炎のような輝きに包まれた、透き通るように美しい精霊、ウィル・オー・ウィスプも現れた。


「我が力が必要なようですね、主様」


「来たよーご主人!」


「主様、出番ですね!」


 最強の布陣が整った。


「お前達の力を借りるぞ! 殲滅しろ!」


 カリナが命を下すと同時に、軍勢が一斉に動き出した。


 オオオオオッ!


 シャドウナイトとホーリーナイトが魔界兵団に突撃する。影と光の刃が、兵団達を次々と薙ぎ払っていく。


「はぁぁぁっ!」


 ワルキューレ達が空を舞い、各属性の強力な攻撃を雨のように降らせる。ヒルダの炎剣が『影喰犬』を焼き尽くし、フルンドの雷槍が『影霊騎士』を貫く。ロタの氷剣が『幽影兵』を凍てつかせる。


「ヘヴンリー・コンチェルト~♪」


 セイレーンが美しい歌声を響かせ、味方の士気を極限まで高める。


「喰らえ、クソ悪魔共! セイクリッド・ライト!」


 ウィル・オー・ウィスプが眩い聖なる光を放ち、戦場を照らし出す。光を苦手とする影の軍勢は、その光を浴びただけで悲鳴を上げて霧散していく。フェンリルも敵陣を牙と爪で切り裂いていく。


「いくにゃーっ! やっちまえーっ、なのにゃ!」


 隊員はサティアの後ろでポンポンを振って応援している。


「行くぞ!」


 カリナ自身も女神刀を抜き放ち、敵陣の只中へと飛び込んだ。


 ザシュッ!


 すれ違いざまに、『影霊騎士』の首が飛ぶ。


霞斬(かすみぎり)!」


 カリナの身体が霞のように揺らぐ。軌道を読ませぬ斬撃で、『影狼兵』の堅固なガードをすり抜け、胴を両断する。


風裂(ふうれつ)!」


 横一文字に風を裂く鋭い切り払いが、周囲を取り囲んだ『影喰犬』の群れをまとめて吹き飛ばす。


(しずく)落とし!」


 上段から、雫が落ちるように静かに、しかし致命的な速度で刃を振り下ろす。迫りくる『影霊騎士』の兜を真っ二つに断ち割る。


月影突(げつえいづ)き!」


 月光のごとく細く鋭い直突きが、『影霊甲冑』のわずかな隙間を貫き、核を破壊する。


月輪天衝(がちりんてんしょう)!」


 カリナは高く跳躍し、空中で大きく円を描きながら、落下と共に強烈な斬り下ろしを放った。


 ズドォォォォォンッ!


 衝撃波が広がり、周囲の敵が一掃される。『影霊甲冑』の堅固な装甲さえも粉々に砕け散る。


 一方、エリックも魔剣バルムンクを片手で軽々と振り回し、暴れまわっていた。


「うおおおおっ! グランド・クレイモア!」


 大剣を大きく振りかぶり、地面ごと叩き割る基本技。衝撃波が前方に走り、複数の『影狼兵』を吹き飛ばす。


「アース・スプリッター!」


 地面を薙ぎ払うことで裂け目を作り、足元から敵の体勢を崩す。


「クリムゾンブレイカー!」


 赤く残像が走るほどの大振りが、複数の『影霊騎士』をまとめて薙ぎ払う。


「タイタン・スマッシャー!」


 渾身の一撃を地面に叩きつけ、衝撃波で敵を吹き飛ばす。


「アイアン・テンペスト!」


 重剣を嵐のように振り回し、防御を固めた敵集団を次々と粉砕していく。


「団長、相変わらず派手ですね!」


 テレジアはソニックセイバーダンスで、音速の如く戦場を駆け抜け、すれ違いざまに敵を切り刻んでいく。


「グレイシャーディバイダー!」


 彼女が剣を振るうと、巨大な氷の剣が展開され、『影霊甲冑』を一刀両断にする。


「アクアクレセント!」


 水の月輪斬が飛び、水圧で『影霧弓兵』達を切り刻む。


「私達も負けてられませんわ!」


 ディードはスネア・カーネージで『影霊甲冑』の四肢を連接剣で絡め取り、引き裂いて破壊する。


「チェイン・スラッシュ!」


 刃を鞭状に解放し、広範囲を薙ぎ払う。予測不能な軌道で複数の『影喰犬』を斬り裂く。


「ヴォルテックス・エッジ!」


 高速回転で刃を渦状に展開し、巻き込んだ敵を細切れにする。


「魔力解放!」


 シャオリンの額から白い角が生え、魔力が奔流となって溢れ出す。彼女は護符を展開し、叫んだ。


沸衝(ふっしょう)!」


 瞬間加熱と冷却による衝撃波が、敵の集団を吹き飛ばす。


影返照(えいへんしょう)!」


 光と闇を反転させ、敵を幻惑の渦に叩き込む。


「逆理の陣!」


 属性反転陣を展開し、火を凍らせ、水を燃やす理不尽な現象で敵を混乱させる。


双極爆(そうきょくばく)!」


 正負エネルギーを同時に放ち、中心で小規模な空間破裂を引き起こし、『影霊騎士』の集団を消滅させる。


 サティアも後方から強力な支援を行う。


「ホーリー・セイント・ハルモニア!」


 聖なる歌声が悪魔の魔力場を無効化し、浄化の光が戦場を包む。


「ランス・オブ・ザ・セイクリッド・メイデン!」


 純白の光槍が雨のように降り注ぎ、悪魔達を正確に貫いていく。


「す、凄い……! これがエデンの英雄と、ドラゴンベイン・オーダーの主力か……!」「圧倒的だ……! これなら勝てるぞ!」


 アーシェラ軍の兵士達は、その光景に希望を見出し、歓声を上げた。そんな激戦の中。一人の男が、風のような速度で戦場を駆け抜けていた。拳王グラザだ。


 彼は戦場を疾走し、邪魔な雑兵には目もくれない。立ちはだかる『影霊甲冑』がいれば、ただの一撃で粉砕し、道を開く。


 グラザは瞬歩で一気に敵陣深くまで切り込み、大将であるネフロスの目の前に躍り出た。


 ダンッ!


 着地の衝撃で周囲の護衛悪魔達が吹き飛ぶ。


「お前が、この軍の指揮官か」


 グラザは鋭い眼光で、輿の上の男を睨みつけた。


「……ふむ」


 ネフロスは静かに顔を向けた。目隠しをしていても、その視線を感じる。


「私は災禍六公の一柱、『沈黙と終末預言』、ネフロス・オルディナです」


 彼は優雅に一礼し、名乗った。その態度には、微塵の焦りもない。


「俺はグラザだ」


 グラザは拳を固く握り締めた。その拳に、黄金の闘気が集束していく。バチバチと大気が爆ぜる音が響く。


「今度こそ、俺の拳で全てを守る!」


 魂の咆哮と共に、グラザはネフロスに向かって踏み込んだ。アーシェラ防衛戦、その更なる激戦が幕を開ける。

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