203 アーシェラの夜と温もりの揺籃
『ドラゴンベイン・オーダー』本部の大浴場。
脱衣所の扉を開けると、そこは近代的な清潔さと、アーシェラ特有の中華風のデザインが見事に融合した空間だった。磨き上げられた床、壁に飾られた水墨画、そして天井から吊るされた柔らかな光を放つ提灯。広々とした空間には、湯上がりの火照った肌を冷ますための籐の椅子が並べられ、洗面台には高級なアメニティが揃えられている。
カリナは一瞬、その豪華さに目を奪われたが、すぐに視線を下げた。目の前には、これから共に湯に入るテレジア、ディード、シャオリンがいる。同性とはいえ、内面が異なる以上、彼女達の肢体を直視するのは気が引けるし、マナー違反だという意識が働くからだ。
「……さすがに人が多いな」
カリナが小さく呟き、自分の衣服のボタンに手をかけようとした、その時だった。
「カリナさん、お世話は私達がしましょう」
淡い水色のセミロングヘアが美しいエルフ、テレジアが微笑みながら近づいて来た。その隣には、淡い浅黄色のミディアムヘアを揺らす、知的な顔立ちのエルフ、ディードもいる。
「えっ……いや、自分でできるから……」
カリナが遠慮しようとするが、二人のエルフは手際よくカリナのコートを脱がせにかかる。
「遠慮しないで下さい。大切なお客様ですから」
ディードが優しく諭すように言い、ブラウスのボタンを外していく。抵抗する間もなく、カリナは下着姿にされた。淡い黄緑色のランジェリーが、少女特有の華奢な身体を包んでいる。
「綺麗な肌ですね……。エルフにも引けを取らない透明感ですよ」
ディードが感嘆の声を漏らしながら、背中のホックを外す。肩紐が下ろされ、慎ましやかながらも形の良い膨らみが露わになる。続いてショーツも下ろされ、カリナは白磁のような全裸となった。
「うう……恥ずかしいな……」
カリナは顔を赤らめ、手で前を隠した。
一方、サティアの方も賑やかだった。
「私がお世話をさせて頂きますね、聖女様」
艶やかな紫色のロングヘアを揺らし、赤い狩衣に身を包んだシャオリンがサティアの法衣に手をかける。
「あら、それはありがとうございます」
サティアはにっこりと微笑み、されるがままに身を任せた。法衣が脱がされ、巨大なブラのホックが外される。
ボロンッ……!
重力から解放された二つの果実が、たぷんっと音を立てて溢れ出し、零れ落ちた。その圧倒的な質量と、雪のような白さ。
「す、すごいですね……! 聖女様なのにこんなに豊満な身体で……羨ましいです」
シャオリンは目を丸くし、自分の小さめの胸を見下ろして溜め息をついた。
「ふふ、肩は凝りませんけどね」
サティアは悪戯っぽく微笑む。カリナは裸のままその様子を横目で見て、ああ、そりゃ慣れてないとああいう反応になるよなと苦笑した。サティアのあれは、規格外なのだ。
テレジアやディードも自身の装備を外し、スレンダーながらも形の良い胸を露わにした。エルフ特有のしなやかな肢体は、無駄な贅肉がなく、引き締まっている。
「聖女様の胸はすごいですね……」
テレジアがまじまじと見つめる。
「胸だけじゃないわ、スタイルも抜群ですよ。ウエストのくびれとか、ヒップのラインとか……芸術品みたい」
ディードも感嘆の声を漏らす。
シャオリンも着ていた狩衣を脱ぎ捨てた。小柄だが、引き締まった健康的な身体つきをしている。
「さあ、行きましょうか」
カリナはテレジアとディードに手を引かれ、サティアはシャオリンにエスコートされて浴室へと向かった。
浴室の扉を開けると、そこは広大な空間だった。高い天井まで届く大きな窓からは、手入れの行き届いた中庭が見える。湯気の中に浮かび上がる竹林や石灯籠が、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「こちらへどうぞ」
カリナとサティアは並んでシャワーの前の椅子に座らされた。
「ふふ、今日は私達が綺麗にしてあげますね」
テレジアが嬉しそうに言い、シャワーのお湯を出す。
「ええ、アレキサンドではできませんでしたから」
ディードも微笑みながらスポンジを手に取る。
エルフの繊細な指先が、カリナの赤く毛先が金色の髪に触れる。たっぷりの泡で包み込み、頭皮を優しくマッサージするように洗っていく。
「面白い髪型ですよね、このクセ毛は」
テレジアがツインテールの付け根あたりを指先で遊ぶ。
「ここだけ毛がモコっとして可愛いです。それに、このぴょこんと刎ねた毛も愛らしいですよね」
アホ毛をちょんちょんとつつく。
「くすぐったいって……」
カリナが首をすくめると、今度はディードがボディソープをつけたスポンジで身体を洗い始めた。
「この細腕であのエリック団長に勝つのですから、凄いですね」
ディードはカリナの腕を丁寧に洗いながら言った。
「それに肌も透き通るように白くて綺麗です。芸術品のようですね」
スポンジが首筋からデコルテ、そして胸へと滑る。
「それに胸も、その年齢の割には私達くらいの大きさです。これは将来が楽しみですね」
ディードが悪戯っぽく微笑み、カリナの胸を掌で包み込んだ。
「はは、それはどうも……」
カリナは引きつった笑みを浮かべた。PCはアバター設定である以上、身体的な成長はしない。
「PCは成長しないから、私は今困っているんだけどな……」
カリナは小声でぼそりと呟いたが、お湯の音にかき消されて誰にも届かない。
「身体もエルフのマッサージですよ」
ディードはそう言いながら、お腹や脚を労わるようにマッサージしながら洗ってくれた。適度な指圧が凝った筋肉をほぐし、旅の疲れを癒やしていく。
「おお……気持ちいいなあ……」
カリナは心地良さに身を委ね、目を細めた。
隣では、シャオリンがサティアの長い黒髪を洗っていた。
「この世界では珍しいですよね、こんな綺麗な黒髪は」
シャオリンが感心したように言う。
「ふふ、そうですか? 私の故郷ではみんな黒髪でしたよ」
サティアは意味深に微笑み、現実世界の日本のことを思い浮かべた。
シャオリンは髪を洗い終えると、サティアの抜群のプロポーションの身体を洗い始めた。豊かな胸、くびれた腰、滑らかな太もも。同性でも見惚れてしまうほどの完璧な肉体美だ。
「聖女様はスタイルも凄いですね、羨ましいです……」
シャオリンが溜め息交じりに言う。
「シャオリンさんは人族ではないのですか?」
サティアが尋ねると、シャオリンは頷いた。
「私は魔人族です。魔力を解放したら額から角が生えますけど、普段は普通の人間と変わらないんですよね」
彼女は自分の平らな胸元を少し寂しそうに見下ろした。
「それに魔人族は数が少ないですし、成長も遅いので……私が聖女様のようなスタイルになるにはあと何年かかるのでしょうか……」
「このギルドは、エルフや魔人族などの方が多いのですか?」
サティアが話題を変える。
「はい。エリック団長がもう何十年も歳を取らずに若々しいままなので、普通の人族では先に老いてしまいますから」
シャオリンは不思議そうに首を傾げた。
「なので長命の種族が多いですね。不思議なことですが、ああいう人間もいるのですね」
彼女はエリックがPCであり、この世界で生を受けた人間ではないということを知らない。エリックが長命種をギルドに加えているのは、長い時間を共に戦える仲間を増やしていくためなのだろう。自分も歳を取らず、100年も姿が変わらないサティアは、エリックの気持ちが痛いほどよくわかった。
カリナは綺麗に洗ってもらい、シャワーで泡を流してもらった。
「悪いから、私も二人を洗おうか?」
カリナが申し出ると、テレジアもディードも首を横に振った。
「大切なお客様にそんなことはさせられませんよ」
「それにこれは、アレキサンドでの準優勝の労いも兼ねていますからね」
二人は微笑み、カリナの背中を押した。
「お先に湯船に浸かっておいて下さい。私達も洗ってから入りますから」
「……わかったよ、ありがとう」
カリナは素直に従うことにした。
サティアも洗い終わり、シャオリンの方を向いた。
「では、お礼に私がお背中を流しましょうか?」
サティアが提案すると、シャオリンは慌てて手を振った。
「聖女様にそんなことはさせられませんよ! とんでもないです!」
こちらもやはり断られてしまった。サティアは微笑んで頷き、カリナの手を引いて湯船へと向かった。
広々とした浴槽には、並々と温泉が満たされている。肩まで浸かると、温かいお湯が全身を包み込んだ。
「ふぅ……温まるな。いい湯加減だ」
カリナが息を吐くと、背後でお湯が跳ねる音がした。当然のように、サティアがカリナの後ろに座り込んだのだ。
「失礼しますね」
サティアはカリナの背中に密着し、その柔らかい巨乳でカリナの顔を左右から挟むようにして抱き締めた。後頭部に当たる圧倒的な弾力と、包み込まれるような安心感。
「……まあ、いつものことだしな」
カリナは抵抗することなく、サティアの体温と柔らかさ、そしてお湯の温もりに身を委ねた。リラックスした空気が二人を包む。
「ええ、いい湯加減で温まりますね」
サティアも心地良さそうに目を閉じた。
「なんかマッサージまでしてもらって、至れり尽くせりだったよ。……なんかいつもは交代で洗い合うのが癖になってるから、悪い気がするな」
カリナがぽつりと漏らす。
「ふふ、彼女達なりのもてなしなのですから、素直に受け取っておきましょう」
サティアは優しく諭した。
「それに剣術大会で、彼女達はカリナさんの強さを目にして、敬う気持ちもあるのでしょうからね」
洗い場の方を見ると、テレジアとディード、シャオリンが楽しそうに洗い合いをしている姿が見える。
「そうか……。まあそれなら、素直に受け取っておこう。その分こうして、サティアとのんびりできるんだしな」
カリナは口元を緩めた。その素直な言葉に、サティアの胸が熱くなる。愛おしさが込み上げ、抱き締めているカリナの濡れた赤髪にそっと口づけを落とした。
カリナはそんなサティアの気持ちなど露知らず、お湯とサティアの温もりでうとうとし始めた。瞼が重くなり、意識がまどろみの中へと沈んでいく。
やがて、洗い終えたテレジア達が湯船に入ってきた。
「あら、カリナさん、眠ってしまったのですか?」
テレジアが小声で尋ねる。
「はい、旅の疲れが出たみたいで」
サティアが微笑んで答える。
テレジアとディードは、左右からうとうとしているカリナを囲むように座った。
「ふふ、可愛らしいですね。……これですごい剣技を使うのですから、凄いです」
テレジアがカリナの寝顔を覗き込み、愛おしそうに呟く。
「はい。女神相手にも一歩も引かずに、三属性までの魔法剣技を使いこなし、最後の抜刀術は全属性を乗せていました。……このあどけない顔からは信じられないですね」
ディードも感嘆の声を漏らす。
「私はあの大会は見ていないのですが、カリナさんはそんなに凄かったのですか?」
サティアが興味深そうに尋ねると、テレジアは熱を込めて語り始めた。
「ええ、刀とソードでそれぞれの高等剣技を使いこなし、あのエリック団長にも勝ったのです。……それにあの女神との戦い。私は相対するだけでプレッシャーで足がすくんだくらいですが、彼女は何度倒されても立ち向かっていました。素晴らしい闘志ですよ」
「はい、できれば私もカリナさんと剣を交えたかったものです。その前に負けてしまったので叶いませんでしたけどね」
ディードが苦笑する。
側で話を聞いていたシャオリンも、羨ましそうに溜め息をついた。
「やっぱり私も見学に行けば良かったかなあ……」
「またいつかアレキサンドで開かれたときには、シャオも行きましょう。私達は長命種ですからね、時間はたっぷりありますよ」
ディードが笑って慰める。
「カリナさんは、行く先々で多くの人と仲良くなりますね。……それも彼女の魅力なのですね」
サティアは微睡んでいるカリナを抱き締め直し、また赤い髪の毛の頭に口づけをした。
「ふふ、ではこれは私達からの準優勝のお祝いです」
テレジアが悪戯っぽく微笑み、カリナの右頬にチュッと口づけをした。
「私も便乗しちゃおうかしら」
ディードも左頬に口づけを落とす。
「むにゃ……くすぐったい……」
カリナは夢現の中で身をよじったが、起きる気配はない。サティアの胸に抱かれ、旅の疲れとご馳走で満腹になり、ディードやテレジアのマッサージの影響で、完全に夢の中へと旅立ってしまったようだ。
湯気の中で響く女性達の笑い声。アーシェラでの最初の夜は、こうして温かく、そして賑やかに更けていくのだった。




