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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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198  リュウホウの街

 フィン王国を後にしたカリナ達は、神鳥ガルーダの背に乗り、西の空を飛んでいた。眼下には、雄大な山脈や広大な森林、そして蛇行する大河が広がっている。風を切り裂く音と、眼下に広がるミニチュアのような世界。


 かつてゲーム画面で見ていた景色とは比べ物にならないリアルな臨場感が、二人の肌を撫でていく。時折、見晴らしの良い草原や清流のほとりに降りて、フィン王城で持たせてくれたバスケットのお弁当を広げ、ピクニック気分で休憩を挟みながらの旅路。  


 やがて日が傾き、空が茜色と紫色のグラデーションに染まる頃、前方に中華風の城壁に囲まれた一つの街が見えてきた。


「……ふぅ。アーシェラまでは、まだ距離があるな」


 カリナは眼下の景色と、頭の中にある大陸地図を照らし合わせながら独り言のように呟いた。冒険者の腕輪にはマップ機能があるが、フィールド上では詳細は機能しない。頼りになるのは自身の記憶と勘だけだ。


「今日は、あの街で宿を取ろうか」


「そうですね」


 サティアも同意し、風に乱れた黒髪を耳に掛けながら微笑んだ。


「エデンは中央のアレキサンドから少し東寄りにありますから、ルミナスに向かうよりは距離がありますしね。無理をして夜間飛行をする必要はありません」


 彼女は悪戯っぽく微笑み、カリナの手をぎゅっと握った。その掌は温かく、柔らかい。


「今日は宿で、カリナさんをたくさん甘やかしますよ。昨日の疲れも残っているでしょうから」


「……お、お手柔らかに頼むよ」


 カリナは少し顔を赤らめ、視線を逸らした。だが、その握られた手を振りほどくことはしなかった。


 カリナはガルーダの首筋を撫でて指示を出し、街の東門前へと降下を開始する。夕闇に輝く黄金の巨鳥が舞い降りてくる姿に、地上にいる門番達が騒然となるのが上空からも見て取れた。


「何だあれは!? 敵襲か!? 総員構えろ!」「いや待て、あれは魔物じゃない! 召喚体だ、神鳥ガルーダだぞ!」


 ザッ!  


 ガルーダが音もなく優雅に着陸すると、その巨大な翼が巻き起こした風圧で砂埃が舞い上がった。カリナとサティアは顔を見合わせて笑い、軽やかにガルーダの背中から飛び降りた。着地と同時にスカートがふわりと舞い、二人の美しい脚線美が露わになる。


「ご苦労だったな、ガルーダ。また頼むぞ」


 カリナが愛おしげにその黄金の首筋を優しく撫でると、ガルーダは「グルゥ」と満足げに喉を鳴らし、光の粒子となってキラキラと夜空へ溶けるように送還されていった。


 カリナとサティア、そしてケット・シー隊員は、堂々とした足取りで東門へと向かった。門番達は呆気にとられ、構えていた槍を下ろし、口を開けたままその光景を見つめていた。


「あ、あれは召喚体か……。あんな高位の神鳥を召喚できる召喚術士が、まだいたんだな……」「それに、見ろよあの二人……信じられない美人だぞ……」


 畏敬の念と、隠しきれない好奇心の視線を向ける門番に、カリナは懐から金色に輝くカードを提示した。冒険者ギルドのAランクカードだ。夕日を受けて、その金色の輝きがいっそう際立つ。


「Aランク……!? それに、その燃えるような赤髪と美貌……まさか、噂の『紅蓮の召喚姫』カリナと、『聖女』サティアか!?」


 門番の一人が素っ頓狂な声を上げると、周囲の空気が一変した。各地で活躍し、高位の悪魔すら討ち倒すという生ける伝説、英雄が目の前にいるのだ。門番達は慌てて姿勢を正した。


「こ、これは失礼致しました! ここは『リュウホウ』の街、アーシェラ領だよ。ようこそ、英雄殿!」


 門番達は敬礼し、重厚な門をギギギと音を立てて開け放った。


「ありがとう」


 カリナが短く、しかし凛とした声で礼を言うと、サティアが一歩前に出た。


「この街で、お勧めの宿はありますか? できれば広いお風呂と食事が美味しいところが良いのですが」


 鈴を転がすような美声と、聖女の慈愛に満ちた極上の微笑み。門番達は一瞬で頬を染め、デレデレになりながら我先にと口を開いた。


「う、うーん、それなら……『蒼銀の羽亭』がお洒落で風呂も広くて料理も美味いよ! いつも繁盛してるし、お勧めだ!」「そうそう、あそこなら貴賓室もあるし、英雄殿にぴったりだ!」


「ありがとう、行ってみるよ」


「ご親切に、ありがとうございます」


 二人の美女に丁寧にお礼を言われ、門番達は魂を抜かれたように立ち尽くした。


「は、はい! どうぞこの街でごゆっくりして下さい!」


 直立不動で見送る彼らの前を、三人は通り過ぎていく。カリナ達の姿が街の雑踏に消えてしばらくした後、門番達の興奮した話し声が響いた。


「おい見たかよ……すっげえ美人だったな……」「ああ、赤髪の子のあの太もも、見たか? ニーハイの食い込みが最高だったぞ……」「俺はあの聖女様の巨乳に釘付けだったよ、歩くたびに揺れてて……たまんねえな」「それにいい匂いがしたなあ……あれが英雄か、住む世界が違うぜ」


 だが彼らの言葉は虚しく響くだけだった。


 サティアから差し出された手を、カリナは自然と握り返した。三人は教えられた宿へと歩き出した。


「そうか、ここはリュウホウの街か。……空からだと、やっぱりわかりにくいな。それにしても『紅蓮の召喚姫』って何だよ、噂とは怖いな」


 カリナが街並みを見回しながら言う。


「ふふっ、そうですね。VAO時代は召喚体に乗ることなんてできませんでしたから、移動は基本徒歩でしたしね。空からの景色は新鮮ですが、地理感覚が少し狂いますね」


 サティアも懐かしそうに頷く。


 リュウホウの街は、アーシェラ領特有の中華風の街並みが続いていた。  


 朱塗りの柱に緑色の瓦屋根、軒先に吊るされた無数の赤い提灯が、夕暮れの空に幻想的な明かりを灯している。通りには様々な露店が所狭しと並び、八角や花椒などの香辛料の刺激的な香りや、蒸籠から立ち上る蒸したての点心の白い湯気が漂っている。  


 行き交う人々も、チャイナドレスやカンフー着のような衣装を身に纏い、活気に満ちている。そんな異国情緒あふれる街中でも、カリナとサティアの美しさは際立っていた。


「おい、見ろよあの子……」「うわ、すげえ可愛い……お人形さんみたいだ」「隣の黒髪の人もすっげえ美人だぞ、何だあのスタイル」「冒険者か? どこかの国のお姫様じゃないのか?」


 すれ違う人々が皆、足を止めて二人に見惚れ、溜め息を漏らす。男達は鼻の下を伸ばし、女達はその美しさと洗練された衣装に憧れの眼差しを向ける。だが、カリナ達はそんな視線にはもういい加減に慣れっこだ。気にする素振りもなく、堂々と、しかし楽しげに街を歩く。


「うう……お腹が空いたにゃ……いい匂いがするにゃ……」


 隊員が腹をさすりながら、露店から漂う匂いに鼻をひくつかせ、情けない声を上げた。


「もうすぐ宿だ、我慢しろ。ちゃんとした美味しい料理を食べさせてやるから」


 カリナが宥めると、前方にひときわ立派な建物が見えてきた。


『蒼銀の羽亭』。


 その名の通り、月光を受けて蒼く輝く銀色の瓦屋根が特徴的な、三階建ての巨大な木造建築だ。  


 入り口には一対の昇り龍の彫刻が施された朱塗りの柱があり、高級感と威厳を漂わせている。暖簾をくぐり中に入ると、そこは外の喧騒とは隔絶された、洗練された異国情緒あふれる空間だった。磨き上げられた床、朱色と金を基調とした内装、天井から吊るされた巨大な飾り提灯、そして壁に飾られた水墨画や書画。


「いらっしゃいませー!」


 元気な声と共に、チャイナドレス風の給仕服を着た女性店員が駆け寄ってきた。身体のラインにフィットしたドレスと、深いスリットから覗く健康的な脚が眩しい。


「二人と、召喚体のケット・シーだけど……部屋は空いてるかな? 同じ部屋でいい」


 カリナが尋ねると、女性は二人の美貌に一瞬見惚れた様子を見せたが、すぐにプロの笑顔に戻り、にっこりと微笑んだ。


「はい、空いてますよ。ようこそお越しくださいました」


 彼女は手際よく手続きを済ませ、重厚な木製の鍵を持って来てくれた。


「お部屋は三階の『桃源の間』になります。一番眺めの良いお部屋ですよ。……一階が食堂、奥が大浴場となっておりますので、ごゆっくりどうぞ」


 内部の構造は一般的な宿屋と同じだが、手すりの彫刻や、廊下に置かれた壺など、至る所に中華風の装飾が施されており、旅の雰囲気を盛り上げている。


「先に夕食にしたいのですが、テーブルは空いていますか?」


 サティアが聞くと、女性は「はい、ご案内しますね」と元気よく答え、三人を食堂へと誘導した。


「三名様、ご案内しまーす!」「いらっしゃいませー!」


 厨房や他のスタッフからも威勢の良い声が返ってくる。食堂内は多くの客で賑わっていたが、カリナ達が入ってくると、一瞬ざわめきが止まった。


「おい……見ろよ、あの二人」「すげえ美人だな……」「お姫様みたいだわ」「いや、あの装備……かなりの手練れだぞ」


 客達の視線を一身に浴びながら、案内されたのは窓際の景色の良いテーブル席だった。隊員には子供用の椅子が用意され、彼はちょこんと座って足をぶらつかせた。


「お先にドリンクはどうしますか?」


 店員からメニューを受け取り、カリナとサティアはページをめくった。


「うーん……」


「悩みますね……」


 アーシェラ領だけあって、メニューには本格的な中華料理がずらりと並んでいる。どれも美味しそうで目移りしてしまう。


「とりあえず、私はアイスウーロン茶で」


「私はグァバジュースをお願いします」


「おいらも、そのグァバジュースに何だか惹かれるにゃ」


 隊員がサティアの真似をして注文する。


「畏まりました、ではお先にドリンクをお運びしますね!」


 店員が去った後、二人は再び料理のメニューに見入った。周囲の客達も、食事の手を休めてチラチラとこちらを見ているが、二人は料理選びに夢中だ。


「さすがアーシェラ領だな……中華料理がメインだけど、品数が多すぎて決めきれないな。麻婆豆腐に、点心に、麺類……どれも美味そうだ」


 カリナが真剣な表情で眉を寄せる。


「そうですね。……いつも通り、店員さんのお勧めにしましょうか。地元の美味しいものは地元の方に聞くのが一番です」


 サティアが提案する。


「そうだな。それが一番間違いない」


「おいらは魚と肉なら何でもいいにゃ……早く食べたいにゃ……」


 隊員は空腹のあまり、テーブルに突っ伏してしまった。


 すぐに店員がドリンクを持って戻ってきた。キンキンに冷えた琥珀色のウーロン茶と、鮮やかなピンク色のグァバジュース。乾いた喉を潤した後、店員が尋ねた。


「お料理はお決まりですか?」


「いや、初めてだからどれがいいのかわからなくて……決めかねてるんだ。どれも美味しそうだからね」


 カリナが正直に言うと、サティアも続いた。


「門番の方々に、ここがお勧めの宿と聞いて来たので……この宿のお勧めの料理をお願いします。あと、この猫ちゃんには魚か肉料理で」


「あはは……、まあ最初はそうですよね、わかりました」


 店員は自信満々に胸を張り、ウィンクしてみせた。


「では、このお店のお勧めの、ボリュームたっぷりの料理をお出ししますね、任せて下さい! 後悔はさせませんよ!」


 彼女が厨房へオーダーを通すと、すぐにジャアアッ! と中華鍋を強火で振るう小気味良い音と、ニンニクや生姜、油の焦げる食欲をそそる香りが漂ってきた。


「まあ、もう恒例だな」


「そうですね。でも、これが一番ですよ」


 カリナとサティアは顔を見合わせて笑った。


 やがて、次々と料理が運ばれて来た。湯気と共に運ばれてくる皿の数々に、周囲の客からも「おお……」と声が漏れる。


「お待たせしました、当店の自慢料理です」


 テーブルに並べられたのは、まさに中華のフルコースだった。


 まずは『アーシェラ風・激辛麻婆豆腐』。  


 使い込まれた黒っぽい土鍋の中で、グツグツと音を立てて煮えたぎる真っ赤な餡。大量の唐辛子と花椒が使われており、刺激的な香りが鼻を突き、食欲中枢を直接刺激する。絹ごし豆腐は形を崩さず、しかししっかりと熱を帯びており、表面にはラー油の赤い膜が張っている。  


 レンゲで掬い、一口食べれば、舌が痺れるような強烈な辛さと花椒の爽やかな香り、その奥にある甜麺醤で炒められた挽肉の濃厚な旨味、そして豆腐の滑らかな甘みが渾然一体となって口の中に広がる。


「んっ、辛いけど美味い!」


 カリナが目を丸くする。辛さで身体が内側からカッと熱くなるのがわかる。額に滲む汗さえ心地よい。


 続いて『黄金チャーハン』。  


 米の一粒一粒が卵で均一にコーティングされ、店内の照明を受けて黄金色に輝いている。具材はシンプルに刻んだネギと自家製チャーシューのみだが、強火で一気に炒められた米はパラパラとしており、噛むほどに香ばしさとラードの甘みが広がる。塩加減も絶妙で、麻婆豆腐の辛さを中和するのに丁度いい。


 そしてメインは『皇帝エビのチリソース煮』。  


 大人の拳ほどもある巨大な皇帝エビが、艶やかなチリソースをたっぷりと纏って鎮座している。殻付きのまま調理されており、香ばしさがソースに移っている。プリプリとした弾力のある身を殻ごと噛み切ると、バリッという音と共に、中から熱々のジュースが溢れ出し、甘辛いチリソースと絡み合って至福のハーモニーを奏でる。ソースには細かく刻んだネギと生姜が効いており、後味は意外にもさっぱりとしている。


 隊員の前には『白身魚の甘酢あんかけ』が置かれた。  


 一匹丸ごと飾り切りされてカリッと揚げられた白身魚に、パプリカや玉ねぎ、人参などの彩り野菜が入った、照りのあるトロトロの甘酢餡がかかっている。揚げたての衣が餡を吸って少ししんなりとした部分と、サクサクの部分の食感のコントラストが楽しい。中の白身はふっくらとして淡白だが、濃厚な甘酢餡が絡むことで極上の味わいになる。  


 隊員は「はふはふ」と言いながら、夢中で魚にかぶりついている。


「これは……『黒酢豚』か?」


 カリナが箸を伸ばしたのは、艶やかな黒光りする肉塊だ。  


 外はカリッと、中はジューシーに揚げられた豚肉に、コクのある特製黒酢ソースがたっぷりと絡んでいる。噛むとジュワリと肉汁が溢れ出し、熟成された黒酢の芳醇な酸味と深い甘みが脂っこさを完璧に中和して、いくらでも食べられそうだ。


「ん~、美味しいです」


 サティアも頬を緩ませる。彼女は蒸籠に入った『小籠包』をレンゲに乗せ、薄い皮を箸で少し破って中のスープを啜った。濃厚な肉汁の旨味が口いっぱいに広がり、思わず吐息が漏れる。生姜の千切りと黒酢を少しつけて食べると、肉の甘みがさらに引き立ち、いくつでも胃に収まりそうだ。


「はぐはぐ……うみゃい、うみゃいにゃ! このお店最高にゃ!」


 隊員も大満足のようだ。


 三人は会話もそこそこに、目の前の御馳走に没頭した。  


 旅の疲れも吹き飛ぶような、力強い味わい。アーシェラの食文化の豊かさを、胃袋で実感するひとときだった。周囲の客達も、そんな美少女二人が豪快かつ上品に料理を平らげる姿を、微笑ましく、あるいは羨ましげに眺めている。


 最後はデザートの『杏仁豆腐』。  


 白く滑らかな豆腐の上に、赤いクコの実がちょこんと乗っている。スプーンを入れると、ぷるんとした弾力があり、口に入れると滑らかに溶けていく。杏仁の爽やかな香りと上品な甘さが、脂っこくなった口の中をさっぱりと洗い流してくれる。


「ふぅ……食った食った」


 カリナは満足気に腹をさすり、最後のアイスウーロン茶を飲み干した。


「美味しかったですね。……お腹いっぱいです」


 サティアも幸せそうに微笑む。


「さて……空の旅の埃を落とすか」


 カリナは立ち上がり、隊員に部屋の鍵を渡した。


「ほら、いつものだ。先に行っていいぞ」


「ありがとなのにゃ、おいらはお先に男湯に行くにゃ。泳ぐのにゃ!」


 隊員は鍵を受け取ると、とことこと元気よく大浴場の方へ歩いて行った。


「じゃあ、私達も行こうか」


「はい」


 カリナとサティアは手を繋ぎ、女湯の暖簾をくぐった。宿自慢の浴場を楽しみに、二人は奥へと進んでいく。  


 リュウホウの街の夜は、まだ始まったばかり。提灯の灯りが揺れる平和で温かい時間が、二人を優しく包み込もうとしていた。

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