194 甘えと衝動、聖女の献身と彼方の声
フィン王城の大浴場。午後の穏やかな光が差し込む湯船の中で、カリナは深い安らぎに包まれていた。
前からは、無邪気に戯れるレナの柔らかな人肌。後ろからは、柔らかく包み込んでくれるサティアの肢体。そして横からは、王妃レイラの穏やかな体温が伝わってくる。戦いの緊張も、張り詰めていた糸も、温かい湯の中でほぐれていくようだった。
「ふぅ……」
カリナは長く息を吐き、四人は湯船から上がった。十分に温まった体は、心地良い倦怠感に満たされている。
脱衣所に戻ると、レナがキャッキャとはしゃぎながら走り回っていた。カリナはバスタオルを手に、レナを捕まえた。
「こらこら、風邪を引くぞ」
優しく抱きとめ、小さな身体についた水滴を丁寧に拭いてやる。ふわふわの髪、丸みのある手足、ぷにぷにとしたお腹。どこを触れても愛おしい。
「えへへ、くすぐったいよー」
「よし、綺麗になったな」
次にサティアが、カリナの身体を拭いてくれた。少女の華奢なラインを、慈愛を込めてなぞるように拭いていく。先に身体を拭き終え、寝間着に着替えたレイラが声をかけた。
「さあ、レナ。着替えましょう」
「はーい!」
レナはレイラの方へ駆け寄り、可愛らしい子供用のナイトガウンを着せてもらう。カリナは新しいバスタオルを手に取り、サティアに向き直った。
「さて、次はサティアだな」
目の前には、圧倒的なプロポーションを誇る裸身がある。豊かな胸、くびれた腰、滑らかな太もも。水滴が光を反射して、神々しいまでの美しさを放っている。カリナは丁寧に、その迫力ある肢体を拭き始めた。下乳のラインを拭い、重量感のある巨乳を持ち上げるようにして水滴を吸い取る。
「んっ……ぁ……」
カリナの手が胸に触れるだけで、サティアの口から甘い声が漏れる。
「……子供の前なんだから、我慢しろよな」
カリナが小声で注意する。
「ふふ、ごめんなさい……。カリナさんに触れられると、勝手に声が出てしまうから……仕方ないんですよ」
サティアは頬を染め、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに微笑んだ。長い黒髪も丁寧に拭き上げ、仕上げはPCの国ならではの文明の利器だ。
「これがあるのは助かるな」
カリナは備え付けの『魔導ドライヤー』を手に取り、スイッチを入れた。温風が吹き出し、四人の髪をあっという間に乾かしていく。
さっぱりしたところで、着替えだ。カリナはアイテムボックスから、ルナフレアの趣味の淡い黄緑色の清楚なショーツを取り出し、身につけた。リラックスするため、ブラは着けず、その上から白いワンピースのような寝間着を頭から被る。ふわりとしたシルエットが、少女らしさを引き立てる。
サティアは、セクシーなレースの白いショーツを穿いた。彼女もブラは着けず、透け感のあるブラウンのナイトドレスを纏う。薄い生地越しに肌の色が透けて見え、深く開いた胸元からは、ノーブラ特有の柔らかなラインを描く巨乳の谷間が露わになっている。動くたびに揺れるその様は、同性の目から見ても扇情的だ。
「じゃあ、夜までひと眠りするよ」
カリナはレイラに告げ、レナの前にしゃがみ込んだ。
「また後でな、レナ」
ピンク色の髪を優しく撫でてやる。
「えー! カリナおねえちゃんと、いっしょにおひるねするー!」
レナが駄々をこねるように言う。
「レナ、カリナさんは悪魔討伐で疲れているのよ。ゆっくり休ませてあげないといけません。我が儘を言ってはダメですよ?」
レイラが優しく諭す。
「うぅ……。わかった。……はーい」
レナはしょんぼりと、しかし聞き分けよく頷いた。
「ふふ、好かれちゃいましたね、カリナさん」
サティアが微笑ましそうに見守る。カリナは軽く手を振って脱衣所を出た。
「また後でな」
「祝宴の準備ができましたら、部屋に侍女を迎えに行かせますね」
レイラの言葉に見送られ、二人は貴賓室へと戻った。
部屋に入ると、エキストラベッドの上でケット・シー隊員が丸くなって眠っていた。幸せそうな寝息を立てている。
「こいつはよく寝るなあ」
カリナは苦笑しながら、その毛並みを軽く撫でた。
「カリナさん、こっちです」
サティアは天蓋付きのキングサイズベッドに入り、シーツをめくってカリナを招いた。ふかふかの枕と、高級な羽毛布団。
「まあ、一緒に寝るのはいつものことだな」
カリナは躊躇いなくサティアのベッドに潜り込んだ。すぐにサティアの柔らかい腕が伸びて来て、カリナを引き寄せる。豊かな胸元に顔が埋まり、サティアの体温と、湯上がりの石鹸のような良い匂い。それに混じって、彼女特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「……ふぅ」
カリナは全身の力を抜いて、その心地良さに身を委ねた。だが、安らぎと共に、心の奥底から奇妙な渇きが湧き上がってくるのを感じた。先ほどのレナとの触れ合い。無邪気に甘える幼子の姿。それが引き金となったのか、あるいは十代半ばというアバターの不安定なホルモンバランスの影響か。無性に、甘えたい。誰かに全てを委ねて、守られたい。そんな幼児退行にも似た衝動が、理性を侵食していく。
「……カリナさん?」
サティアは、腕の中のカリナの異変に気づいたようだった。震える体、荒くなる呼吸。
「レナちゃんを見て……自分も甘えたくなったのではありませんか?」
図星だった。サティアは慈愛に満ちた声で囁き、ナイトドレスの胸元を寛げた。露わになる、豊満な巨乳。その頂点には、愛らしいピンク色の蕾が咲いている。
「私なら、いつでも大丈夫ですよ。……さあ」
その言葉が、理性の堤防を決壊させた。
「……んっ」
カリナは吸い寄せられるように顔を埋めた。左の胸の先端を口に含み、吸い付く。同時に、右手で右の胸を揉む。指が柔らかい肉に沈み込み、形を変える。
「ぁ……っ! んっ、ぁぁ……っ!」
午後の静かな貴賓室に、サティアの甘美な喘ぎ声が響き渡る。彼女は拒絶することなく、むしろ積極的にカリナを受け入れた。性の葛藤や、アバターに精神を引っ張られる苦悩。そんなカリナの全てを愛おしく感じ、強く抱き締める。
部屋には衣擦れの音と、甘えるような水音だけが満ちていく。カリナは無心で吸い続けた。母を求める赤子のように。あるいは、愛を乞う子供のように。カリナの意識は朦朧としていた。英雄としての重圧も、大人のプライドも、この瞬間だけは溶けて消えていく。ただ、サティアという母なる海に溺れていたかった。
「ぁっ……っ!」
サティアの体がビクンと跳ねた。カリナの口の中に、温かく甘い液体が流れ込んでくる。母乳だった。出産経験のないサティアから母乳が出るはずはない。だが、この世界では精神的な結びつきや、あるいは聖女としての奇跡が、肉体に影響を及ぼすこともあるのかもしれない。カリナはその甘露を喉に流し込み、味わってしまった。
しばらくして、ようやく衝動の波が引いていった。カリナはハッと我に返り、口を離した。目の前には、乱れた呼吸を整えようとしているサティアの、紅潮した顔があった。
「はぁ……はぁ……」
カリナは両手で顔を覆った。羞恥と自己嫌悪で、涙が溢れてくる。
「……ごめん。すまない……」
震える声で謝罪する。
「こんなことをしちゃいけないのに……抗えなくなるこの身体が嫌になる……。私は……どうしてしまったんだ……」
中身は大人のはずなのに。歴戦の英雄であるはずなのに。こんなにも脆く、幼い自分に成り下がってしまったことが情けなくて堪らない。
だが、サティアはそんなカリナを優しく抱き寄せた。
「いいんですよ、カリナさん」
聖母のような微笑み。
「その年代の少女なら、甘えたくなるのは当然です。それに……カリナさんはリアルでもご両親とは死別しているのでしょう? 今までずっと、一人で頑張ってきたのですから」
サティアの手が、カリナの頭を優しく撫でる。
「私がいくらでも受け止めてあげますから。……泣きたい時は泣いて、甘えたい時は甘えて下さい。それに、カグラさんやルナフレアさんも、きっと今のカリナさんを受け入れて、受け止めてくれますよ」
その言葉は、凍てついた心を溶かす陽だまりのようだった。カリナはサティアの胸に顔を埋め、声を殺して泣いた。サティアは何も言わず、ただ優しく背中を撫で続けた。
やがて、泣き疲れたカリナは、サティアの包容力と温もり、そして母乳の甘い香りに包まれて、深い眠りへと落ちていった。規則正しい寝息が聞こえ始める。
サティアはそっと身体を起こし、イヤホン型の通信機を取り出した。魔力を込め、遠く離れたエデンの友に連絡を取る。
『……もしもし? どうしたのサティア、何かあった?』
エデンにいるカグラの声だ。
「はい、カグラさん。……カリナさんのことですけど」
サティアは声を潜めた。
「少し……、彼女は少女の身体のホルモンバランスや精神状態に、影響をかなり受けているようなんです」
『えっ? 何、どういうことなの?』
カグラの声色が心配そうなものに変わる。
「はい。まだあの身体は成長期の少女のものです。だから、自分の本来の人格とかに関わらず、精神状態が不安定になって泣いたり、無性に甘えたくなるときがあるみたいなんです」
サティアは眠っているカリナの横顔を愛おしそうに見つめた。
「今も眠ってはいますが……その前に、甘えたい衝動に抗えなくて、私の胸を吸って甘えていました」
そして、少しだけ誇らしげに付け加えた。
「まさか、私から母乳が出るとは思いませんでしたけど……」
『はあ!?』
通信機の向こうで、カグラが素っ頓狂な声を上げた。
『アンタ、母乳が出たの!? それをカリナちゃんに吸わせたの!? ……な、なんて羨ましい……!』
悔しそうな声だが、すぐに真剣なトーンに戻った。
『いや、それよりもちょっと心配ね。本来の人格が少女のアバターのものに引っ張られているんだわ。……あの姿でもうかなり経つものね』
カグラは溜め息を吐いた。
『心配だわ。ルナフレアには伝えておく。……戻るまではサティア、あなたがカリナちゃんを支えてあげて。あんなに小さな身体で世界の命運を握る力を持っているんだから、本人は自覚がなくてもそのプレッシャーは相当なはずだからね』
普段は豪快なカグラだが、仲間を思う気持ちは人一倍強い。
『でもいいなあ……私のおっぱいも、帰って来たら吸わせてあげるわ! 母乳が出たらいいなあ……』
最後はカグラらしく、あっけらかんとした答えが返ってきた。
「ふふ、そうですね」
サティアはクスリと笑った。
「はい。この旅の間は私がカリナさんを支えますから。……帰国したら、みんなでカリナさんをたっぷり甘やかしましょうね」
『そうね! そのときは私にもしっかり甘えさせてあげるわ。頼んだわよ、サティア』
「はい、任せて下さい」
二人は互いのカリナを想う心を確かめ合い、通信を終えた。
サティアは通信機を外し、再びベッドに横たわった。すやすやと眠るカリナを抱き締め、その柔らかな髪を撫でる。
「カリナさん……。あなたのその苦しみは、私達が癒してあげますからね」
サティアは聖女の慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、静かに詠唱した。
「ララバイ・オブ・アエテルナ……」
淡い光の粒子が部屋を満たす。怒り、恐怖、不安といったネガティブな感情を消し去り、魂を安寧へと導く聖女の神聖術。カリナの表情が、さらに穏やかなものへと変わっていく。
サティアもまた、愛しい存在の体温を感じながら目を閉じた。祝宴の始まる夜まで、もう少しだけ、この穏やかな時間を二人で過ごそう。二人は寄り添い合い、静かな眠りへと就くのだった。




