188 甘美な朝の衝動とPC王との謁見
翌朝。
カーテンの隙間から漏れる朝の光が、部屋を淡く照らしていた。カリナは微睡みの中、温かく柔らかな感触に包まれて目を覚ました。重いまぶたをゆっくりと上げると、目の前には無防備なサティアの寝顔があった。そして、視線を少し下げると、寝ている間に着崩れたナイトドレスの胸元が大きくはだけ、そこから豊満な巨乳がこぼれ落ちているのが見えた。雪のように白く、滑らかな肌。その頂点には、熟した果実のようなピンク色の蕾が、あどけなくも妖艶に咲き誇っている。
ドクン、とカリナの心臓が大きく跳ねた。理性が働くよりも先に、身体の奥底から突き上げてくるような、どうしようもない衝動が全身を駆け巡る。甘えたい。触れたい。それは、カリナの精神が、この十代半ばの少女の肉体に強く引っ張られている証拠だった。不安定なホルモンバランスと、無意識下に潜む愛情への欠乏感。アバターの年齢設定がもたらす幼児性が、大人の理性を凌駕していく。
カリナは抗うことができなかった。吸い寄せられるように顔を近づけ、その愛らしい蕾をぱくりと口に含んだ。
「んっ……ぁ……」
舌先で転がし、唇で優しく吸い付く。ちゅう、ちゅう、と甘い音が静かな部屋に響く。無意識に求めていた母性のような、あるいはもっと根源的な安心感が、口の中から全身へと染み渡っていく。
「ぁ……っ! んんっ……!」
サティアの身体がビクンと震え、朝のベッドに甘い喘ぎ声が漏れた。彼女は夢うつつのまま、胸に顔を埋めるカリナを強く抱き締めた。豊満な肉がカリナの顔を包み込み、窒息しそうなほどの密着感と幸福感が押し寄せる。
しばらくの間、カリナは無心でその甘いピンクの蕾を吸い続けた。頭の中が真っ白になり、ただひたすらに温もりを貪る。
「ぁん……っ、カリナさん……っ! そんなに、そこを吸われたら……っ!」
サティアの上擦った、明らかに感じている声。その響きに、カリナはハッと我に返った。慌てて口を離す。プハッ、と息を吐き、見上げると、そこにはとろんとした瞳で涙目になっているサティアの美しい顔が間近にあった。頬は紅潮し、吐息は熱い。
「す、すまない……!」
カリナは顔を真っ赤にして謝った。サティアは荒い息を整えながら、潤んだ瞳でカリナを見つめた。
「どうしたんですか……? カリナさんが、そんなことを急にして来るなんて……。嫌ではないですけど、驚いちゃいました……」
甘く、少し鼻にかかった声が鼓膜を震わせる。カリナは両手で顔を覆った。
「いや、何だか自分でも変なんだ……。身体が勝手に……何だか自分の精神がこの肉体に、精神状態が引っ張られてしまうような感じがして……。無性に甘えたくなってしまって……。すまない、変だよな……」
自己嫌悪に陥るカリナの心は乱れていた。中身は男であるはずなのに、少女の肉体が求める「甘え」の欲求に抗えない自分が情けない。しかし、サティアはふふっと優しく笑った。彼女はカリナの手を取り、顔を覆うのをやめさせた。そして、その美しい顔を両手で包み込み、至近距離で見つめた。
「大丈夫ですよ……」
慈愛に満ちた聖女の微笑み。そこには一点の曇りもない受容があった。
「その身体はまだ幼いですから、甘えたいという衝動が起こっても不思議じゃないです。その身体になってもうそれなりに時間も経ちましたし、本当ならまだ親に甘えている年頃です。だから謝らないで下さい。私で良ければいつでも甘えていいのですから」
その言葉は、カリナの心の澱を優しく溶かしていった。
「そうか……この身体になって時間も経つもんな。だから理性が抗えなかったのか……。でもごめん、こんなことをしちゃダメだよな。気を付けるよ」
カリナはしょんぼりと眉を下げた。そんな小さな身体で、性の揺らぎと葛藤に苦しんでいるカリナ。サティアの胸に、どうしようもないほどの愛おしさが込み上げた。守ってあげたい、全てを受け入れてあげたいという母性本能が刺激される。ぎゅっとサティアはカリナを強く抱き締めた。
「苦しいよ、サティア……。でも、もしまた変な衝動が起きたらそのときはごめん。本当はこんなことするつもりはないんだよ……」
「カリナさん……」
サティアはカリナの背中を優しく撫でた。
「益々愛おしさが込み上げます……。今はその肉体の甘えたいという衝動のせいなのですから、カリナさんの人格の問題ではありません。私で良ければ、いつでも甘えて下さい」
そう言うと、サティアは自ら胸を差し出し、カリナの口元にその綺麗な蕾を含ませた。
「んぐっ……」
カリナは抗おうとしたが、目の前の甘美な誘惑と、身体の奥底から湧き上がる衝動には勝てなかった。再び吸い付いてしまう。ちゅう、じゅるり、と水音が響く。朝からサティアの甘い声が部屋に響き渡る。カリナは無我夢中で吸い続け、サティアは快楽と母性に身を委ねてカリナの頭を抱き締める。やがて、カリナの中の甘えたい衝動が、波が引くように収まっていった。
「ぷはっ」
カリナが口を離すと、銀色の糸が引いた。サティアは肩で息をしながら、乱れた髪を直した。
「はぁ……はぁ……。おさまりましたか?」
荒くなった声で囁くサティアに、カリナは恥ずかしさで爆発しそうだった。
「す、すまない……ありがとうサティア。御陰でおさまったよ……」
「ふふ、いいんですよ」
サティアは慈愛を込めて、カリナの頭や髪の毛、背中を撫でた。
「きっとこんなカリナさんは、ルナフレアさんやカグラさんも知らないのですから。何だか私だけ特別になった気分です」
「ごめんな……自分でも御せなくなってきているなんて、何だか情けないよ……」
「謝らないで。私は大丈夫ですから。いつでもあなたの側にいますからね」
チュッ。サティアは聖女の微笑みを浮かべ、カリナのおでこに優しくキスをした。
「……朝から変なところを見せたな。さて、着替えようか」
二人はベッドから起き上がった。カリナはネグリジェを脱ぎ、ショーツ一枚になる。サティアもナイトドレスを脱ぎ捨てたが、なぜかショーツまで脱いでしまった。
「……なんで下も脱いだんだ?」
カリナが呆気にとられて尋ねる。サティアは頬を染め、恥ずかしそうに太ももを合わせた。
「もう……カリナさんがあんなに胸を吸えば、下着も……濡れてしまいますよ……」
「ッ!?」
その言葉の意味を理解し、カリナは顔を真っ赤にした。
「そ、それはすまなかった……! くそ、何なんだよこの身体は……!」
「ふふ、仕方ないですよ。それが女性の身体ですから」
サティアは笑いながら、新しいレースのショーツを足に通した。白くなめらかな太ももを通り、ふっくらとしたヒップを包み込むように生地が引き上げられる。その一連の動作すらも、洗練された色気を放っていた。
気を取り直して、着替えだ。カリナがアイテムボックスから取り出したのは、ルナフレアが用意したメイド隊の衣装セット。
「手伝いますね」
サティアは本当の姉のように、愛おしそうにカリナに近づいた。まずはブラジャーだ。サティアはカリナの背中に回ってホックを留めると、脇や背中に逃げたお肉を丁寧に集め、カップの中へと収めていく。
「はい、ぐっと持ち上げて……。カリナさんの胸も、こうしてちゃんと寄せてあげると、綺麗な谷間ができるんですよ」
サティアの手によって整えられた胸は、カップに収まりきらないほどのボリュームを主張し、美しい谷間を描き出した。
「……ありがとう。自分じゃなかなか上手くできないから助かる」
カリナは照れくさそうに礼を言った。続いて衣装を着せていく。インナーは、水色に黒と黄色のデザインのリボンがたくさんついた、タイトなチューブトップワンピース。身体のラインがはっきりと出るデザインだ。
その上から、リボンとフリルがたくさんついた紫に白の裏地のロングコートを羽織る。太ももまでの長さがある、リボン付き紫に白のデザインのロングニーハイソックスに、ガーターベルト。袖はフレアなデザインで、裾や袖口にはたっぷりとフリルがあしらわれている。髪飾りは紫の花を模しており、足元は白地に黄色のデザインが入ったショートブーツだ。
「うん、今日も可愛いですね」
サティアが満足気に頷く。続いてサティアの着替えだ。彼女もメイド隊作成の新しい衣装を取り出した。
鮮やかなブルーのポンチョのような短いマントは同じだが、銀のカチューシャ型のサークレットだ。淡いピンクを基調に、白と黒のデザインが入った清楚な長袖の法衣。膝下丈のスカートには深いスリットが入っており、歩くたびに太ももが覗く。足元は白にピンクのデザインが入ったショートブーツ。
「ピンクの衣装か。法衣だと何だか新鮮な色だな」
カリナは言いながら、サティアの巨大なブラを手に取った。背中のホックを留め、その溢れんばかりの果実を両手で持ち上げるようにしてカップに収める。ずっしりとした重量感が手に伝わる。
「よいしょ……っと。やっぱり凄いな、これ」
はみ出そうになる肉を丁寧にカップ内に詰め込み、形を整える。カリナは法衣も着せてやり、サティアは嬉しそうに微笑む。
「派手かと思いましたけど、これはこれで新鮮で可愛いですね」
サティアは鏡の前でくるりと回り、満足気に微笑んだ。部屋のトイレで用を足し、洗面台で顔を洗った。サティアはカリナの髪を丁寧にブラシで梳かし、自身の長い黒髪もいつものように三つ編みに編み込み、最後に二人は武器を装着した。
「おい、隊員。朝だぞ、朝食だ」
カリナはまだ丸まって寝ている毛玉を揺すった。
「むにゃ……おはようにゃ……」
隊員は目を擦りながら起き上がり、いつものマントと赤いブーツにシルクハットを身につけた。
三人は忘れ物がないか確認してから一階へ降りた。
食堂では昨夜の給仕の女性が笑顔で出迎えてくれた。
「おはようございます! 朝食ですね、こちらへどうぞ!」
案内されたテーブルで、ボリューム満点の朝食をしっかりと取る。厚切りのベーコン、ふわふわのスクランブルエッグ、焼きたてのパン。エネルギーを充填し、支払いを済ませて宿を出た。
「いってらっしゃいませ!」
元気な声に見送られ、外に出る。サティアから自然と差し出された手を、カリナは握り返した。ケット・シー隊員を連れて、王城へと向かう。
城下町の人々は、朝から活気に溢れていた。そして、カリナ達の姿に釘付けになっていた。
「おい見ろよ、すげえ美人だ……」「可愛いな……冒険者かな?」「猫が二足歩行してるぞ!?」
そんな声を浴びながら、三人は北にある城門へと到着した。門番達に声をかける。
「昨日書簡を届けたエデンから来た使者だけど、謁見はできるかな?」
「はい! お話は聞いております!」
門番は姿勢を正し、敬礼した。
「どうぞ中へ! ご案内致します!」
重厚な門が開かれ、カリナ達はフィン王城へと足を踏み入れた。
城内はエデンのそれと似た、白亜の壁と柱で構成された美しい空間だった。天井には魔法ランプのシャンデリアが輝き、床は大理石で磨き上げられている。壁にはこの国を建国したPCであるドルガンとその王妃レイラの大きな肖像画や、美しい風景画が飾られていた。PCは変化しないため、歴史を感じさせる肖像画の列はないが、その分、今の王への親愛と威厳が示されている。
荘厳でありながら、どこか機能的で洗練された雰囲気は、やはりPCが関わっていることを感じさせた。
近衛兵に案内され、長い廊下を進む。やがて、巨大な両開きの扉の前へ。扉が開かれると、そこには赤い絨毯が敷き詰められた広大な謁見の間があった。
その最奥。
一段高くなった場所に置かれた玉座には、一人の男が座っていた。グリーンの短髪に、精悍で若々しい顔立ち。PCの国王、ドルガンだ。その隣には、ブルーのロングヘアを優雅に流した美女、王妃のレイラがドレス姿で座っている。彼女の膝の上には、幼い少女が抱かれていた。この世界で二人が結婚し、成した子供なのだろう。
ドルガンは入室してきたカリナ達を見ると、すぐに人払いを命じた。
「皆、下がれ。ここからは私的な話になる」
家臣達が一礼して退出し、扉が閉まる。広い空間に、PC達だけが残された。
「人払いも済ませた。PC同士だし、楽にしてくれ」
ドルガンは威厳のある表情を崩し、気さくな笑みを浮かべた。
「召喚魔法剣士のカリナと、聖女サティアだな。サティアはPvPで何度か会っているが……やはりPCだな。100年経っても姿が変わらないのだから」
「お久しぶりです、ドルガンさん」
サティアが丁寧に一礼する。
「カシューから話は聞いてる。カリナは、あの化け物聖騎士カーズの妹らしいな?」
ドルガンの視線がカリナに向けられる。
「あいつはこの世界には来ていないのか?」
その問いに、カリナは瞬時に状況を理解した。カシューはうまく誤魔化してくれているのだと。
「はい。私は妹ですが……兄はこの世界には来ていません」
カリナは淀みなく答えた。
「そうか……。あの化け物にはPvPでは毎回煮え湯を飲まされたからなあ」
ドルガンは苦笑しつつも、どこか懐かしそうな目をした。
「でも、この世界に来ていないのは少し残念でもあるな。あの戦力は異常だったからな。味方になればこれほど心強い存在はいなかっただろう」
「……カーズは何だか嫌われてるなあ」
カリナが小声で呟くと、サティアは苦笑した。
「仕方ないですよ。常に前線で敵をなぎ倒していましたから。相手からすると、悪夢のような存在だったでしょうからね」
「さて、本題に入ろうか」
ドルガンは姿勢を正した。
「カシューは魔導列車を実装したらしいな。この国も駅で繋ぎたいと言って来ている。ウチとしてもエデンとの国交はありがたい。だが、すぐに会話ができないのは不便だよな」
「そう来ると思って、待ってましたよ」
カリナはニヤリと笑い、アイテムボックスからイヤホン型の通信機を取り出した。
「これを。左耳に装着して魔力を注げば、すぐにカシューと繋がりますよ」
カリナは近づき、それをドルガンに手渡す。
「ほう、さすがアイツだな。こんなものまで作っているとは」
ドルガンは感心しながらイヤホンを耳に装着し、魔力を流した。ザザッ……というノイズの後、クリアな音声が脳内に響く。
『……もしもし? ドルガンかい?』
「おお、繋がったか! カシューか、久しぶりだな。お前の国のPC達が来てくれたぞ」
『やあ、無事に着いたみたいだね。元気だったかい?』
PC同士の、気楽な会話が始まった。王としての堅苦しい言葉遣いではなく、かつてのゲーム仲間としてのフランクな口調だ。
「ああ、元気だとも。魔導列車、この国も是非繋いでくれ。人や物の行き来が盛んになれば、この国にとっても大きな利益になるしな」
『そうだね。繋がれば、内陸のそっちでも新鮮な海鮮料理が食べられるようになるよ』
「それは魅力的だな! ははは!」
二人の王の会話は弾む。その様子を見て、王妃のレイラがふふっと微笑んだ。
「こうしてこの世界でも電話のようなことができるなんて、エデンの技術は凄いですね」
「カシューはこういうのに熱心だからね。御陰で各国も魔導列車で繋がって、交通は便利になったよ」
カリナが説明すると、サティアがレイラの膝の上の少女に視線を向けた。
「そのお子さんが、お二人の娘さんですか? ……PC同士の子供は、どういう扱いになるんですか?」
レイラは少女の頭を撫でながら、少し複雑そうな顔をした。
「恐らく……NPC扱いなんでしょうね。ちゃんと成長しますし、歳も取りますから」
彼女は慈愛に満ちた眼差しで我が子を見つめ、そして少しだけ不安気に眉を寄せた。
「私達は姿が変わらないので……この子が将来どうなるのか、まだ分からないのは不安ですけどね。私達だけが取り残されて、この子だけが老いていくのかもしれない……」
その言葉には、この世界に閉じ込められたPCならではの、切実な悩みが滲んでいた。フィン王国の謁見の間でのPC同士の会話は、まだまだこれから深く、そして長く続きそうだった。




