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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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17  死者の間

 迷宮の扉を開けて中へと入ると、地下へと続く広い通路に階段がある。そこを降って行くと迷路の様に広がる巨大な階層へと到達した。


 VAOの頃からこの迷宮は地下7層まである。その下には地底湖が広がっていて調度良い休憩場所にもなっていた。そして7層にある死者の間には巨大な鏡があり、そこでは死者に会えるという設定があった。ゲームの頃にはただの設定だったが、今や現実となったこの世界では、本当に死者に会えるのかも知れない。カリナの目的の一つは、その鏡の前で過去に死に別れたある女性との再会が可能かどうかを確かめることだった。


 一行が迷宮を進んで行くと、前方から魔物の気配が近づいて来た。


「おいでなすったぜ、死者の迷宮の定番。グールにスケルトンだ」


 ロックがそう言って二刀のナイフを抜く。他のメンバーも戦闘の準備に入り、襲い来る魔物達をなぎ倒していくのだが、カリナは後方でヤコフの側に白騎士を待機させて眺めていた。


「張り切っているなあ。このままでは私の出番はないかもしれない」


「カリナお姉ちゃんも戦いに参加したいの?」


「うーん、あのぐじゅぐじゅしたアンデッドに関わりたくはないのが本音かな……。できれば触りたくない、臭い」


 現実となった世界では、この死者の迷宮内部の腐臭は酷いものだった。鼻がひん曲がりそうである。アンデッドが湧き続ける限り、この悪臭が続くのかと思うと、気が遠くなりそうになった。それにこのまま素直に正攻法で攻略していては時間がかなりかかりそうである。ヤコフの両親の安否も気になるため、カリナは一気にこの迷宮の魔物を掃除することに決めた。


 その場で両手を広げ、魔法陣を展開させて詠唱の祝詞を唱える。


「遥かヴァルハラへと繋がる道を護る者よ、炎を纏う戦乙女よ、その姿を現せ!」


 重ねた魔法陣が地面へと移動し、そこから白いロングスカートに全身鎧を身に纏った戦乙女、ワルキューレが姿を現した。


「お久し振りでございます、主様。ワルキューレ、ヒルダ。ここに参上致しました」


 戦闘を終えて戻って来たシルバーウイングの面々も初めて見る召喚魔法とその召喚体の美しさに目を奪われている。


「ああ、久し振りだな。どうやら長い時間お前達を放置してしまったみたいだ。申し訳ない。いつの間にか時が流れていたみたいでな」


「いえ、こうしてまた呼んで頂き光栄でございます。さて、此度の御用は如何なものなのでしょうか?」


 恭しく跪いて頭を垂れる、その燃える様な赤いロングヘアーをした美しい女性に、カリナ以外の一同は言葉が出ない。湧き出すオーラからこの女性が凄まじい力を秘めていることだけは理解できる。


「ここは死者の迷宮と言って、まあ感じる通りアンデッドまみれで臭い。そこでヒルダ、お前の炎の剣で此処から7層までの全ての敵を掃討して欲しい。全てを灰にしてくれ」


「畏まりました。このヒルダにお任せ下さい」


 一礼をすると同時に飛び出したヒルダは、途轍もないスピードで迷宮内を飛び回り、抜いた炎の剣で7層までの全ての敵をあっという間に掃討してしまった。数刻程で帰還した彼女は、再びカリナの前に跪いて頭を下げた。


「討伐完了致しました。これで7層までの道のりには何の障害もございません」


「ありがとう、ヒルダ。ご苦労だった。また近い内に呼ぶかもしれない。その時はまた頼むぞ、休むがいい」


 カリナが礼を言うと、ヒルダは顔を上げて笑顔を見せ、光の粒子となって消えていった。一連の流れを見ていた他のメンバーは驚き、次の瞬間には歓声を上げた。


「す、すげえー!」


「ええ、すごいわ! これがカリナちゃんの召喚術なのね!」


「ああ……、これほどまでとは。驚いたな。あんな速度で全ての魔物を討伐してしまうとは……。お嬢ちゃんは本当に凄腕の召喚士なのだな」


 ロックにエリア、アベルが次々に称賛の声を上げる。


「召喚士の凄さを分かってくれて良かったよ。まあ、あのワルキューレはちょっと別次元の実力だけどな」


 これまで散々絶滅危惧種などと言われて来た召喚士の力を見せつけることができて、カリナは嬉しくなり、ふふんと鼻を鳴らした。


「どうだ、ヤコフ。召喚術は凄いだろう?」


「うん、あの綺麗なお姉ちゃん凄かったね。あんな人を使役できるなんて、カリナお姉ちゃんは凄いよ!」


 ヤコフも興奮気味に声を上げた。カリナはますます得意げになり、胸を張った。


「それにしても、こんなに小さくて可愛いのにとんでもない召喚士だし、エデンの任務をやっているとか言うし、カリナちゃんは一体何者なの?」


 セリナがずっと気になっていたことを聞いて来た。まあ、この者達なら信用が置けるだろうとカリナは思ったため、少しは話しても構わないかと思った。それでも大半は嘘になるのだが。


「お前達はエデンのカーズ王国騎士団長を知っているか? 私は彼の妹だ。カシュー王とも顔馴染みでな。行方不明の兄に代わって色々と王国の任務を担っているところなんだよ」


「ええっ? あのカーズ騎士団長様? 勇猛果敢で有名な高名な聖騎士(パラディン)よね? まさかこんな幼い妹がいたなんて……」


 セリナが驚きの声を上げる。一同も「そうだったのか」と相槌を打ち、「なるほど」と頷いている。


「カーズ騎士団長様はエデン傘下のこのチェスターの街でも有名人だ。俺も彼の様な勇猛な戦士に憧れている」


「俺も好きだぜ、カーズ様。王国の防衛なんかで何度も活躍してる人だからな」


「それに彼は剣技も素晴らしい腕前だったって聞くわ。会ったことはないけど、私も憧れの人物よ」


 アベルにロック、エリアも次々と賛辞の言葉を述べる。それは本当はカリナ自身のことなのだが、こうも褒められると赤面してしまう。余りの賛辞に顔が真っ赤になったカリナはふいっと顔を逸らした。それを見逃さなかったセリナがここぞとばかりに口を開く。


「カリナちゃん顔が赤くなってる。可愛いわぁー」


「う、うるさいな。そこまで褒められるとさすがに兄のこととは言え恥ずかしくもなる」


「それにしてもカーズ様の妹で凄腕の召喚士、魔法剣士で格闘もできるなんて。しかもこんなに可愛いとか、天は二物も三物も与え過ぎよ。羨ましい……。ああ、私もそういう繋がりがあったらあの災害級の魔法使いエクリア様にも会えるかもしれないのになぁ」


 セリナはあのエクリアに憧れているのかと知ったカリナは、微妙な表情になった。生粋のネカマである。だが可愛いもの好きなところは通じるところがあるのかもしれないとは思った。でもこの二人がコンビを組んだらきっと面倒臭いことになるとも思ってしまった。


「あー、エクリアはやめておいた方がいい。きっと後悔する」


「ええー? どういうこと?」


「言葉通りの意味だよ。さて、時間を無駄にするわけにもいかない。先を急ごう。ヤコフの両親の安否も気になる」


 一同はそうだったと思い直し、先を急ぐことにした。魔物がいなくなった通路を歩く。至る所に砂の様に灰になった魔物の亡骸が積み上がっている。その中に魔法石が光る度に、ロックが喜んで拾っていたが、無駄に時間がかかるので、エリアに注意されていた。



 ◆◆◆



 7層に到達したが、何の気配も感じない。カリナの探知にも何の生体反応も引っ掛からない。この層の下には地底湖が広がっているだけである。しかし、ここまで来たらそこも探索しなければなるまいと、カリナは思った。それにもし高位の悪魔なら探知に反応しないように気配を消しているのかもしれない。


「さて、この下には地底湖が広がっているだけだが……。今のところ何の発見もないな」


 行き詰まったアベルが溜息交じりに言う。それを聞いたヤコフの顔が暗くなる。


「お父さん、お母さん……。どこにいるんだろう」


「大丈夫よ。まだ下の地底湖があるから。そこまで行ってみましょう」


 エリアがそう言ったが、ここまで来るのに多少の疲労もある。それにカリナにはこの7層にある祭壇の様になっている死者の間に用事もあった。


「とりあえず、ここで少し休憩しよう。もしかしたら下に何かがあるかもしれない。私は少し用がある。お前達はそこで休んでいてくれ」


 そう言って、カリナは死者の間の祭壇へと駆けて行った。


「わかったわ、できれば早めに戻って来てね」


「ああ、すぐ戻る」


 エリアにそう答えて、祭壇の階段を駆け上がる。マップを展開すると、近くにトイレが設置されている。もしもの場合のために用を足しておくかと、通路の脇に設置されている小部屋に入った。そこには和式の便器が一つだけあった。


 この姿で和式は初めてだが、仕方ない。下着を脱いでしゃがみ込んだ。


「我慢がまんガマン……」


 そう唱えながら、ちょろちょろと流れる小便が収まるのを待った。アイテムボックスからティッシュを出して拭き、何故か迷宮内にもちゃんと備えられている洗面所で手を洗った。


「ふぅ、いい加減慣れないといけないな……」


 気持ちを切り替えて通路に戻り、死者の間の扉を開ける。その祭壇の一番奥にある巨大な鏡の前に立った。果たして会えるのだろうか? この現実となっているVAOの世界の中で、現実世界の中で失った大切な人に……。


「やはりだめなのか……」


 そう諦めかけたその時、鏡が輝き始める。そしてそこにはカリナが和士(ナギト)のときに失った大切な女性の姿が映し出されていた。


「え? ナギ君……、なの?」


 鏡の中の女性が口を開く。だが、よく見るとその女性は現実世界での記憶の姿とは少々異なっていた。赤茶色だったロングヘアは銀髪で、着ている服はまるで中世世界の王族や貴族のそれの様で華やかなものだった。


「あ、(アヤ)なのか……? そう、俺だよ、和士だ。今はゲームの世界に閉じ込められていてこんな女の子の姿だけど、和士だよ!」


 涙が頬を伝う。最後に会いに行ったときはもう手遅れだった。プロになって迎えに行くと言って、結局怪我で約束を果たせなかった悔しさや無念さが込み上げて来る。


「何泣いてるの? もう、本当に泣き虫なんだから。私は元気だよ。女神様に別の世界に転生させてもらったの。今はこれでも、とある王国の第二王女なんだよ」


「何だよ、それ……。まるでおとぎ話みたいじゃないか」


「そうだね……。でもゲームの世界に閉じ込められるのもおとぎ話みたいだよ」


「はは、そうかもな。でも別の世界でも元気そうで良かった」


「うん、ナギ君のこともその女神様は探してるみたいなことを言ってたよ。だからもしかしたら……、こっちの世界で会えるかもしれないよ。だから、もう泣かないで。私まで悲しくなってくるよ」


「そっか、俺のことも探してるのか……。だったらいつか会えるのかも知れないな。でも、元気そうで良かった。もう体調は悪くないのか?」


「ああ、そっちの世界では因果が正しく回っていないんだね。私はもう大丈夫、元気だよ。きっとナギ君がトラブルに巻き込まれるのも因果が正しく巡っていないからだと思う。って私が言えるのはこれくらいだけど、また会えるといいね」


「因果……? まあ、何のことかはわからないけど、ゲームの中に入ることだってできたんだ。いつかきっとその女神を見つけてそっちに行ってみせるよ。だから、それまで元気で」


「うん、少しの間でも話せて嬉しかったよ。そしてあの世界で私のことを大切にしてくれてありがとう。ずっと大好きだったよ。じゃあ、いつかまた会えるのを楽しみにずっと待ってるから……」


「ああ、それまで、待っててくれ。さよならだ、彩」

 

 光が消えると同時に彼女の姿も消えた。失った人、彩は別の異世界で元気に暮らしている。そしてその転生させた女神は自分を探している。だったら自分でもその女神を探さなくてはならない。でもどうやって探せばいいのかわからない。今の自分はゲームの世界に囚われている存在に過ぎない。


 だったら、多くの任務をこなすことや人々を助けることがこの世界から抜け出すことに繋がるかもしれない。そして暗躍する悪魔共。奴らが何かの鍵を握っている可能性もある。


 カリナは涙を拭いて、パンパンと両頬を叩き、気持ちを切り替えた。大切な人との再会は叶った。次はヤコフの両親を救い出す。ふっ、と息を吐き、気合を入れ直したカリナは、エリア達が休憩している7層、地底湖への入口付近まで引き返すのだった。

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