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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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120  エリアの死闘

 コロシアムの熱気は、先ほどのカリナの試合を経て最高潮に達していた。実況のマグダレナが、魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げる。


『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われる二回戦、第二試合! これまた注目の好カードです!』


 腰まで届く艶やかな黒髪を靡かせ、白と銀を基調とした軽装鎧に身を包んだエルフの剣士エリアが舞台に上がる。その腰には『光の精霊剣』が帯びられている。


『まずはエデン領はチェスターの街が誇る実力派ギルド、『シルバーウイング』副団長! 精霊の加護を受けし光の剣士、エリアーッ!!』


 エリアが観客席に向かって手を振ると、割れんばかりの歓声が上がる。対する別の貴賓席からも、一人の女性が静かに舞台に歩み出た。


『対するは五大国の一つ、武大国アーシェラより参戦! Aランクギルド、『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 変幻自在の刃を操る技巧派エルフ、ディードォォッ!!』


 現れたのは、淡い浅黄色のミディアムヘアを揺らす、知的な顔立ちのエルフの女性だ。彼女の腰にある剣は、一見すると美しい装飾が施された片手剣だが、その柄や鞘の形状は特異で、異質な気配を放っている。その名は『ライトローズウイング』。


 解説席のレオン王が、興味深そうに身を乗り出した。


『ほう、エルフ同士の対決か。エリアの剣は純粋な剣技を極めた正統派だが、ディードの武器は厄介だぞ。「蛇腹剣」あるいは「連接剣」と呼ばれる代物だ。間合いの読み合いが勝負の鍵を握るだろうな』


 舞台中央へと歩みを進める二人。エリアとディード、二人のエルフが対峙する。


「まさか、二回戦で他国のエルフの方と当たるなんてね。光栄よ」


 エリアが不敵な笑みを浮かべて話しかける。ディードは品の良い所作で、丁寧に頭を下げた。


「ええ、私もです。シルバーウイングの副団長とお手合わせできるなんて、武者震いが止まりませんね。……ですが、勝たせていただきます」


「ふふっ、言うわね。受けて立つわ!」


『両者、準備はいいですね!?』


 マグダレナの声が響く。エリアとディードはそれぞれのコーナーにある水晶に手をかざし、魔力を注ぎ込む。二つの水晶が強く脈動し、試合の準備が整ったことを告げた。


『では、礼!』


 二人は深く一礼をし、顔を上げると同時に互いの武器の柄に手をかける。殺気が爆発し、空気がビリビリと震えた。


『それでは――始めッ!!』


 開始の合図と共に、エリアが疾風の如く踏み込んだ。同時に鞘から『光の精霊剣』を抜き放つ。


「先手必勝! スラッシュエッジ!」


 片手剣の基本にして極意。鋭い斬り上げがディードの懐を狙う。だが、ディードは慌てる様子もなく、滑らかに愛剣を抜き放ち、手首を軽く返した。


「甘いですね。チェイン・スラッシュ」


 ジャラッ!! という不穏な金属音。ディードの剣が突如として鞭のように伸長し、予測不能な軌道を描いてエリアの斬撃を弾き飛ばした。


「なっ!?」


「まだ終わりません」


 弾かれたエリアに対し、伸びた刃が生き物のように襲い掛かる。


「サーペント・ダンス」


 蛇のようにうねる刃が、上下左右、あらゆる角度からエリアを切り刻もうと迫る。エリアは即座にバックステップを踏み、精霊剣で迎撃する。


「くっ、厄介ね……! ブレードワルツ!」


 エリアも負けじと剣を舞うように振るい、迫りくる刃の先端を弾き返す。  


 ガギィッ! ズガガガガッ!!  


 金属と金属がぶつかり合う激しい火花が散る。


 貴賓席で見守るカリナが、目を細めて呟いた。


「……相性が悪いな」


「ええ。エリアちゃんの得意な近距離に持ち込ませてもらえないわね」


 隣のカグラも同意する。ロックは心配そうに身を乗り出した。


「おいおい、あの剣、どこまで伸びるんだ? エリアの剣じゃ届かねえぞ」


「連接剣……またの名をガリアンソードとも言いますね。遠距離と近距離をスイッチできる、非常に操作難度の高い武器です」


 テレサが冷静に解説する。その横で、セレナは魔法使いらしい真剣な眼差しで戦況を見つめていた。


「厄介ですね。あの刃の軌道、物理法則だけでなく魔力による制御も加わっています。予測して避けるのは困難でしょう」


「どうする、エリア……」


 アベルが腕を組み、唸る。舞台上では、エリアが防戦一方に追い込まれていた。


「そこです! スネア・カーネージ!」


 ディードが剣を一閃させると、伸びた刃がエリアの足首に絡みつこうとする。拘束されれば終わりだ。エリアはとっさに跳躍し、これを回避する。


「おっと! 危ない危ない!」


「逃がしません。スパイラル・ギロチン!」


 ディードが剣を振り上げると、刃が上空へ舞い上がり、螺旋を描きながらエリアの頭上から落下してくる。まさに断頭台の一撃。


「チッ……! ライトニングピアス!」


 エリアは空中で身体を捻り、切っ先で迫りくる刃を突き弾く。だが、衝撃で体勢を崩したところへ、ディードの追撃が迫る。


「ウィップ・ブレイカー!」


 巻き付くような軌道で放たれた一撃が、エリアの肩当てを強打する。  


 バシィィンッ!!  


 鎧自体は破損しないが、その衝撃は魔力変換されて水晶へと飛ぶ。


「ぐっ!」


 エリアのコーナーにある水晶に、大きな亀裂が走る。ダメージの代償として水晶が砕けていく。


『ああっとエリア選手、防戦一方だ! ディード選手の変幻自在の剣技に、間合いを詰められない! このまま押し切られてしまうのか!?』


 マグダレナの実況に、観客席からも悲鳴交じりの声援が飛ぶ。  


「頑張れエリアー!」「あの鞭剣、強過ぎるぞ!」


 ルミナスアークナイツのカーセルも、真剣な表情で見つめていた。


「あの武器、盾持ちの僕でも対処に困るよ。防いでも巻き付いて背中を斬られる可能性がある」


「どうすんだよ、エリア……」


 カインが拳を握りしめる。だが、カリナだけは冷静だった。


「いや、まだだ。……見ているぞ、刃の『継ぎ目』を」


 その言葉通り、舞台上のエリアは額に汗を浮かべながらも、その瞳の光を失っていなかった。伸びる瞬間、戻る瞬間、必ず「カチリ」という微細な接続音がする。そして魔力の通り道が一瞬だけ途切れる瞬間がある。エリアはその一点を見逃さなかった。


 エリアはニヤリと笑った。ディードが優雅に微笑む。


「しぶといですね。ですが、これで終わりです。ファントム・ラッシュ!」


 視認できない速度で刃を伸縮させ、無数の刺突と斬撃の嵐を放つ大技。回避不能の死の雨がエリアを襲う。


 だが、エリアは退かなかった。むしろ、その嵐の中へ自ら飛び込んだのだ。


「そこよッ! ソニックセイバーダンス!!」


 エリアの剣が音速の域に達する。光の残像を纏いながら、迫りくる連接剣の刃を一つ一つ、正確無比に弾き飛ばしていく。  


 ギギギギィィン! ガガガガッ!! 


 鼓膜を劈くような激しい金属音が連続して響き渡る。


「なっ……全て、弾いた!?」


 ディードの表情に初めて焦りの色が浮かぶ。エリアはその隙を見逃さない。


「あなたの剣、仕組みは分かったわ! 距離を潰せば、ただの脆い剣よ!」


 エリアは一気に距離を詰める。


「ブレードラッシュ!」


 高速の突進。ディードはすかさず剣を収縮させ、近距離形態のソードに戻そうとする。しかし、その一瞬の遅れが命取りとなる。


「遅いわッ! ツインカッター!」


 エリアの連撃が、ディードの剣を弾き、胴へと吸い込まれる。  


 ドォォン!!  


 ディードの身体に衝撃が走ると同時に、彼女のコーナーにある水晶に亀裂が入る。


「くっ……! 近距離なら負けません! ヴァリアブル・エッジ!」


 ディードも意地を見せる。硬剣形態と鞭剣形態を目まぐるしく切り替え、防御と奇襲を同時に行う高等技術。だが、一度火がついたエリアの勢いは止まらない。


「もう見切ったって言ってるでしょ! クロススラッシュ!」


 十字の斬撃が、うねる刃を強引にこじ開ける。エリアの光の精霊剣が輝きを増していく。


「いくわよ! トライストライク!」


 斬撃、刺突、切り返しの三連撃が一瞬で決まる。ディードは受けきれず、ジリジリと後退する。


「なんて圧力……!」


 ディードは歯噛みし、最後の賭けに出た。連接部に残った魔力を全て注ぎ込む。


「させません! ラスト・リインフォース!」


 一撃限りの超長距離斬撃。会場の端まで届くほどの巨大な刃が、エリアを両断せんと迫る。受ければ身体ごと両断される衝撃で、水晶も粉砕される絶体絶命の一撃。


 エリアは不敵に笑い、剣を天高く掲げた。


「上等よ! 真正面から叩き潰してあげるわ!」


 精霊剣に膨大な光が集束する。それは天を衝く光の柱となり、会場全体を白く染め上げた。


「我が剣に宿れ、聖なる光! 団長直伝の必殺技、受けてみなさいッ!」


 エリアが叫ぶ。ディードの刃がエリアに届く寸前、光の刃が振り下ろされた。


「奥義――ヘヴンフォール・レイブレードォォォッ!!!」


 ズドオオォォォォォォンッ!!!


 天から降り注ぐ光線の如き斬撃が、ディードのラスト・リインフォースごと、舞台の上を真っ二つに断ち切った。光の奔流がディードを飲み込む。


 パァァァァァンッ!!


 水晶が砕け散る音が響き、強烈な閃光が収まると、そこには剣を振り抜いたエリアと、へたり込んだディードの姿があった。


『しょ、勝負ありィィーッ!! 大逆転! 勝者、エリアァァァーッ!!』


 一瞬の静寂の後、会場が揺れるほどの大歓声が爆発した。


「はぁ、はぁ……! やった……勝ったわ!」


 エリアは剣を収め、ガッツポーズを作る。そして、倒れ込んでいるディードに手を差し伸べた。


「大丈夫? すっごい変則的な剣技で、ヒヤヒヤしたわよ」


 ディードは呆然としていたが、エリアの手を取り、苦笑しながら立ち上がった。


「……完敗です。あの状況から間合いを詰め、最後は力技でねじ伏せるなんて……。さすがはシルバーウイングの副団長、お見事です」


「ふふ、ありがとう! ディードも強かったわ!」


 二人は笑顔で握手を交わす。レオン王がマイクを取り、満足げに頷いた。


『見事だ。ディードの技巧も素晴らしかったが、それを上回るエリアの胆力と瞬発力。最後の一撃は、まさに天を断つ光であったな』


 大歓声の中、エリアは誇らしげに手を振りながら退場し、貴賓席へと戻った。


 貴賓席に戻ると、そこには満面の笑みの仲間達が待っていた。


「ただいま! 見た見た!? 勝ったわよー!」


「エリアちゃん、お疲れ様! 最高にかっこよかったわよ」


 カグラが拍手で出迎える。ロックが興奮気味にエリアの背中を叩いた。


「すげえよエリア! あんな鞭みたいな剣、よく捌ききったな!」


「ああ、最後のヘヴンフォール・レイブレード。痺れたぞ」


 アベルも深く頷く。セレナは、魔法使いとしての見地から興奮気味に語りかける。


「エリア、素晴らしい魔力制御でした! あの土壇場であれほどの極大剣技を制御するなんて、さすがね!」


「ふふ、ありがとうセレナ」


 エリアは笑って、カリナの元へ歩み寄る。カリナは腕を組み、ニヤリと笑っていた。


「やるじゃないか、エリア。最後の一撃、セリスを思い出したぞ」


「へへっ、でしょ? これで約束通り、ベスト8でカリナちゃんと戦えるね!」


「ああ。楽しみにしてる」


 二人は拳をコツンと合わせ、互いの健闘を誓い合った。ルミナスアークナイツの面々も、エリアの勝利を祝福する。


「エリアさん、おめでとう。あの距離の詰め方、勉強になったよ」


「すごいねエリアちゃん! 私もハラハラしちゃった!」


「おめでとう、エリアちゃん。次はカリナちゃんとだなんて、とんでもないカードになったな」


 カーセル、ユナ、カインが口々に称賛する。  


 和気あいあいとした空気が流れる中、トーナメントは進んでいく。


 その後も二回戦の試合が次々と行われた。各国の猛者達が激突し、会場はその度に熱気に包まれる。  


 だが、その中でも異彩を放っていたのが、やはりあの人物だった。


『さあ、注目の二回戦最終試合! 女神を名乗る謎の美女、アリア選手の登場です!』


 アリアが貴賓席から優雅に舞台へと降り立つ。対戦相手は、Aランクの歴戦の冒険者ガルドス。巨大な大剣を構え、殺気を漲らせている屈強な男だ。しかし、アリアはまるで散歩にでも来たかのように、にこやかに微笑んでいる。


『始めッ!!』


 開始の合図と共に、ガルドスが吼え、大剣を振り下ろした。だが、アリアの姿が陽炎のように揺らぐ。


「遅いですね」


 アリアの声が、ガルドスの背後から響いた。いつの間にか抜き放たれていた剣が、鞘に納められる音だけがカチリと響く。


「え……?」


 ガルドスが振り返ろうとした瞬間、彼の背中に見えない衝撃が走る。  


 ドゴォォォォッ! 


 ガルドスは弾き飛ばされ、舞台の端まで吹き飛んだ。同時に、彼に与えられたダメージを肩代わりした水晶が、耐えきれずに粉々に砕け散った。


『しょ、勝負ありィィーッ!? またしても一撃! アリア選手、目にも止まらぬ神速の剣技で秒殺です!!』


 会場が静まり返り、その後、爆発的な悲鳴と歓声が混ざったどよめきが起こる。


「……おいおい、今の見えたか?」「いや、剣を抜く動作すら見えなかったぞ……」


 貴賓席から舞台を直視していたロックとカグラが、顔を引きつらせる。カリナは無言で舞台上のアリアを見つめ、拳を強く握りしめた。  


 ハンデありとはいえ、あの強さは紛れもない脅威だ。だが、やるしかない。彼女の瞳には、アリアに一太刀入れるという決意の炎が揺らめいていた。



 こうして、波乱と熱狂に満ちた二回戦の全試合が終了した。


『以上を持ちまして、ベスト8が出揃いました! 次戦、準々決勝の組み合わせは、カリナ選手対エリア選手! 選手の皆様は、準々決勝開始までしばし休憩となります!』


 マグダレナのアナウンスが流れ、会場は一時的な休息の時間に入る。  


 だが、貴賓席の空気は、来るべき準々決勝、特にカリナとエリアの友人同士による対決、そして底知れぬアリアの存在に向けて、心地良い緊張感を孕み始めていた。

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