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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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117  アリアとカリナ

 闘技場が水を打ったように静まり返る中、真紅の『女神』アリアと、対戦相手の剣士が舞台の中央で対峙した。  


 陰陽国ヨルシカの剣士コテツ。逆立てた黒髪と、和風の侍装束が特徴的な若き天才剣士だ。腰には一振りの業物を帯び、その眼光は鋭くアリアを見据えている。対するアリアは、真紅のロングコートに身を包み、左腰の剣の柄に手を添えたまま、優雅に佇んでいる。


『Dブロック一回戦第一試合! 謎の『女神』アリア選手! 対するは、陰陽国ヨルシカより参戦、疾風の抜刀術士、コテツ選手!』


 マグダレナの実況と共に、二人は水晶に魔力を注ぐと光が灯る。だが、ここで会場にどよめきが走った コテツが鯉口を切り、姿勢を低くして臨戦態勢に入っているのに対し、アリアは剣を抜こうともせず、あろうことかその瞼を閉じていたのだ。


『おっとぉ!? アリア選手、抜刀しません! しかも目を閉じているぅ! これはどういうことだぁ!? 相手を見ずして戦うというのでしょうか!?』


『ふむ……。舐めているわけではないようだが……。彼女には「何か」が見えているのかもしれんな』


 レオン王が興味深そうに身を乗り出す。だが、対峙するコテツにとって、それは最大の侮辱に他ならなかった。額に青筋が浮かび、握る柄に力がこもる。


「……ッ! 陰陽国の剣技を、随分と甘く見られたものだ……!」


『始めッ!!』


 開始の銅鑼が打ち鳴らされた瞬間、コテツの姿が霞んだ。 ヨルシカ剣術特有の、変幻自在の歩法だ。


「まずは挨拶代わりだ! 霞斬!」


 霞のように揺らぐ軌道で、コテツの刃がアリアの首筋へと迫る。観客が悲鳴を上げかけたその瞬間。アリアは目を開くことなく、風に揺れる柳のように優雅に首を傾けた。  


 ヒュンッ!  


 刃は空を切り、アリアの真紅の髪の毛一本すら傷つけられない。


「なっ……!? 偶然か……!?」


 コテツは即座に踏み込む。影が伸びるような素早い一歩。


「影走りからの――風裂ッ!」


 神速の横薙ぎ。そして風を裂く鋭い切り払い。だが、アリアはまるで舞踏を踊るかのように、最小限の動きでそれら全てを回避していく。上体をわずかに逸らし、半歩下がり、時には回転してスカートの裾を翻しながら、刃の切っ先をかわし続ける。


 それは、彼女が持つ固有の神技によるものだった。  


 『神眼(しんがん)』――目を閉じることで視覚情報に惑わされることなく、聴覚、触覚、そして魔力感知といった五感を極限まで研ぎ澄まし、周囲の気配を完全に掌握する『明鏡止水』の境地。  


 さらに『未来視(プリディクト・アイズ)』――相手の筋肉の微細な収縮、視線の動き、魔力の流れから、数秒先の未来を確定的に予知する絶対的な先読みの力。


 アリアにとって、コテツの動きは数秒前の過去を見ているに等しい。


「くそっ、なぜだ! なぜ当たらないッ!」


 焦りを募らせたコテツが、技のギアを上げる。


「龍牙閃ッ! 風車乱舞ッ!!」


 龍の牙を振り下ろすような重斬撃。そして、回転しながらの全方位連続斬り。嵐のような刃がアリアを包囲する。逃げ場などないはずだ。  


 しかしアリアは、嵐の中を舞う蝶のように、刃の隙間を縫って歩を進める。コテツが剣を振るうその軌道上に、彼女は既にいない。


「ば、馬鹿な……ッ! 目を閉じているのに、全部見切っているというのかッ!?」


 コテツの驚愕は、観戦しているカリナ達も同様だった。貴賓席の空気が凍りつく。


「強過ぎる……。まさかこれほどまでとは……」


 カリナが呻くように呟く。アリアの不可解な回避能力に、戦士としての本能が警鐘を鳴らしていた。


「あれに一太刀入れるなんて、無理ゲーに近いんじゃないの……?」


 カグラも扇子を握りしめ、顔を引きつらせている。


「コテツ選手だってAランクでもかなり上位の実力者よ? それをあんな、散歩でもしてるみたいに……」


「ああ。動きに無駄がないどころじゃない。……最初から『知っている』動きだ」


 カリナの額に冷や汗が伝う。


 舞台上では、コテツが距離を取り、納刀していた。肩で息をしながらも、その瞳には決死の覚悟が宿る。


「ならば、これならどうだッ! 間合いの外から切り裂く!!」


 コテツの纏う空気が張り詰め、周囲の音が消えたかのような静寂が訪れる。全身の神経を一点に集中させる、必殺の構え。


「奥義……虚空一閃ッ!!」


 神速の抜刀。  


 宙を切り裂く不可視の斬撃が、物理的な間合いを無視してアリアを襲う。回避不能、防御不能の必殺技。  


 だが――。


 一瞬。アリアの姿がブレたように見えた。


 パァァァァァァンッ!!


 乾いた破砕音が響き渡り、コテツの背後にある水晶が粉々に砕け散った。コテツは抜刀の姿勢のまま硬直し、アリアは……コテツの背後に立ち、既に剣を鞘に納め終えていた。  すれ違いざまの、神速の一太刀。誰も、彼女が抜刀する瞬間すら見えなかった。


『しょ、勝負ありぃぃぃぃッ!! アリア選手、一歩も動かぬまま……いや、最後の一瞬だけ動いて勝利です!! あまりにも速いッ!!』


 会場が静まり返る。あまりの出来事に、歓声すら上がらない。アリアはゆっくりと目を開き、呆然とするコテツに歩み寄ると、優しく手を差し伸べた。


「……良い太刀筋でしたよ」


「あ、あんた……。俺は……」


 コテツはガクリと膝をつき、震える声で言った。


「余りにも……力の差があり過ぎた……」


「ふふ、まあ相手が悪かったですね」


 アリアは悪戯っぽく微笑み、コテツの手を取って立たせた。その光景を見て、ようやく観客達は現実に戻り、爆発的な大歓声が巻き起こった。


 貴賓席では、全員が言葉を失っていた。


「僕達の知っている強さの尺度じゃないね……」


「ああ、世界には化け物がいるんだな……」


 カーセルが冷や汗を拭い、カインが呆れたように呟く。カリナは、じっと舞台上のアリアを見つめていた。


 私は……あれと戦うことになるのか。その背中のあまりの遠さに、武者震いが止まらない。しかし、恐怖ではなかった。湧き上がるのは、あの高みへ届きたいという渇望。



 ◆◆◆



 会場の興奮が冷めやらぬ中、次の試合の準備が進められる。スタッフが素早く水晶を交換し、舞台を清める。いよいよ、カリナの出番だ。


『さあ! 続いての試合も大注目です! ここアレキサンド領、ザラーの街を救った英雄! 可憐なる戦乙女、召喚魔法剣士カリナ選手ぅぅぅッ!!』


 マグダレナの紹介と共に、カリナが舞台に姿を現す。フリルとリボンが舞う紫のロングコートに、凛とした表情。その美しさと強さを知る観衆から、割れんばかりのカリナコールが沸き起こった。


「「「カリナ! カリナ! カリナ!」」」「キャーッ! カリナ様ーっ! こっち向いてーっ!」「可愛いーっ!! 頑張ってーっ!!」


 黄色い声援が飛び交う。特別席のレオン王も満足気に頷いた。


『うむ。私が一番期待している選手だ。彼女の剣技、とくと見せてもらうとしよう』


 貴賓席からは、仲間達のエールが飛ぶ。


「カリナちゃん! ガツンといってらっしゃい!」


「隊長! かっこいいとこ見せてほしいにゃー!」


「カリナちゃん! 応援してるよ!」


 カグラ、隊員、そしてカーセル達が手を振る。カリナは小さく手を振り返し、対戦相手に向き直った。


『対するはカリンズより参戦、美しき女剣士、ビビアン選手ぅぅッ!』


 歓声の中、対戦相手のビビアンが登場した。紫の巻き髪をなびかせ、身につけているのは青いビキニアーマー。豊満な肢体を惜しげもなく晒したその姿に、会場の男性客からどよめきが上がる。


「うおおおっ! すげぇ美人!」「セクシーすぎるだろ!」「たまらんっ!」


 ビビアンは観客に投げキッスを送りながら、余裕の笑みで舞台に上がる。武器は片手剣と盾。オーソドックスだが隙のない構えだ。彼女はカリナの前に立つと、懐かしそうに目を細めた。


「久しぶりね、いや、実際は初めましてかしら、カリナ」


「あんたは……?」


 カリナは微かに見覚えのあるその顔を見つめ、記憶の糸を手繰り寄せた。確か、堕落男爵ベロンが支配していたカリンズの地下迷宮で……。


「思い出した? あの時、地下迷宮の壁に取り込まれていた私達を助けてくれたでしょう?」


 そう、あの時の彼女は衰弱しきっていたが、今は生命力に溢れ、剣士としての自信に満ちている。


「あの時はありがとう。あなたのおかげで、こうしてまた剣を握ることができたわ」


「そうか。元気そうで良かったよ」


 カリナが微笑むと、ビビアンは剣を抜き放ち、挑戦的な笑みを浮かべた。


「でも、勝負は別よ。今日は恩人相手でも、思い切りぶつからせてもらうわ!」


「ああ、望むところだ」


 二人は水晶に魔力を注ぎ、一礼する。


『始めッ!!』


 開始の合図と共に、ビビアンが疾走した。見た目の派手さに反して、その踏み込みは鋭い。


「はぁぁぁっ! ブレードラッシュ!」


 高速の突き。カリナは右腰の天羽々斬(あまのはばきり)を抜き放ち、その刃を軽く叩いて軌道を逸らす。


「くっ! 速いわね……なら! ツインカッター! クロススラッシュ!」


 ビビアンの連撃は鋭い。左右からの斬り裂き、そして十字の斬撃。Aランク大会に出場するだけあり、その技量は確かだ。  


 だが、カリナにとっては全てがスローモーションのように見えていた。悪くない動きだ、とカリナは冷静に分析する。だが、それだけだ。


 カリナは最小限の体捌きで全ての攻撃を躱し、あるいは刀の峰で受け流す。その動きは流水のごとく滑らかで、美しい舞を見ているようだ。


『ビビアン選手、猛攻を仕掛けるが当たらない! カリナ選手、涼しい顔で全て捌いています! なんて華麗な剣捌きだぁ!』


「そこだッ! ファングストライクッ!!」


 ビビアンが渾身の力を込め、防御ごと貫く鋭い突きを放つ。それは彼女の最大の一撃だった。タイミングも、速度も完璧。  


 しかし――その一瞬の隙こそ、カリナが待っていたものだった。


「もらった」


 カリナは半身になって突きを回避すると同時に、深く踏み込んだ。左手が鯉口を切り、音すら置き去りにする神速の抜刀術。


薄氷抜(はくひょうばつ)


 交差する一瞬。氷が割れるような、鋭く、澄んだ音が遅れて響いた。


 ――パキィンッ!


 カリナが振り抜いた刃が鞘に納まる、キィン! という音と共に、ビビアンの背後にある水晶が、粉雪のように砕け散った。それはあまりにも鮮やかな、一瞬の決着だった。


『勝負ありぃぃぃッ!! カリナ選手、神速の抜刀術で圧倒的な勝利です!!』


 ワァァァァァァッ!!  カリナコールが最高潮に達する。


 カリナは刀を納め、呆然とするビビアンに手を差し出した。


「いい突きだったよ」


「……はは、完敗ね」


 ビビアンは苦笑しながらその手を握った。


「全然見えなかったわ。さすがね、カリナ。あなたはやっぱり英雄よ」


「よしてくれ。私はただの冒険者だよ」


 二人は互いの健闘を称え合い、ガッチリと握手をした。


 カリナが貴賓席に戻ると、仲間達が興奮した様子で出迎えた。セレナが両手を合わせて目を輝かせている。


「はぁぁぁんっ! カリナちゃん素敵ぃぃっ! あの抜刀の瞬間、ゾクゾクしちゃったわ! エリアの時もすごかったけど、やっぱりカリナちゃんも最高よ!」


「まったく、セレナは……。でも、さすがだ。無駄のない、完璧な太刀筋だった」


 重戦士のアベルが腕を組み、感心したように頷く。


「カリナちゃん、おめでとう! すごかったよ!」


「ええ、相変わらず凄まじいですね。瞬きする間に終わってしまいました」


 ユナが満面の笑みで駆け寄り、テレサも敬服の眼差しを向ける。そして、カグラが満面の笑みで飛びついてきた。


「カリナちゃん! 素敵だったわよ!」


「おっと、危ないって」


「さすが隊長だにゃ! 瞬殺だったにゃ!」


「ああ、見てて安心感が違うね」


 エリアやカーセル達も口々に称賛する。


『さて! これにて一回戦の全試合が終了いたしました! 選手の皆様、観客の皆様、ここで一時休憩とさせていただきます!』


 マグダレナのアナウンスが流れ、会場は昼食休憩に入った。貴賓席には、豪華な食事が次々と運ばれてくる。


「うわぁ、美味しそう!」「戦った後はお腹が空くもんな!」


 焼きたての肉料理、新鮮な魚介のマリネ、色とりどりのサンドイッチに、冷えた果実水。カリナ達は円卓を囲み、仲間達と賑やかなランチタイムを過ごすことになった。


「ほらカリナちゃん、あーんして?」


 カグラがサンドイッチを手に、ニコニコと迫る。


「自分で食べれるってば……」


「いいからいいから! 頑張った妹分へのご褒美よ!」


「そうだよカリナちゃん、甘えとけば?」


 カーセルもクスクスと笑う。カリナは観念したように口を開けた。


「もう……あーん」


「はい、よくできました~」


 カグラに世話を焼かれ、照れながらサンドイッチを頬張るカリナ。その様子を仲間達が微笑ましく見守る。  


 嵐の前の、束の間の穏やかな時間が流れていた。

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