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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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114  意外な参加者

 エデンの悪魔撃退の報せから数日後。 騎士国アレキサンドの騎士団演習場。


「はぁ……はぁ……ッ! そ、そこまでッ!!」


 王国騎士団長ガレスの枯れたような叫び声が響き渡る。 その場にいた騎士団員達は、まるで糸が切れた操り人形のように次々と地面に膝をつき、あるいは大の字になって倒れ込んだ。 全員が肩で息をし、全身から湯気を立てている。 だが、その中心に立つカリナだけは違った。


「ん? もう終わりか? まだいけるだろ」


 額にうっすらと汗を浮かべてはいるものの、呼吸は整っており、涼しい顔で木剣を構えている。


「い、いえ……これ以上は……我々の体が持ちません……」


「そうか、すまないな。毎日稽古とは言え付き合わせてしまって」


 カリナは木剣を下ろすと、申し訳なさそうに頭を下げた。ガレスは荒い息を整えながら、敬服の眼差しを向ける。


「とんでもない……。カリナ殿のような手練れと立ち会えることこそ、我々にとって得難い経験。……しかし、底なしのスタミナですな……」


「いや、これくらいやらないと実戦じゃ役に立たないからな。私は……、もっと強くならないといけない」


 その言葉には、静かな焦燥と決意が滲んでいた。 演習場の高台にある見学席では、カグラとケット・シー隊員がその様子を眺めていた。


「カリナちゃん、ちょっと根詰めすぎじゃないかしら。ここ数日、鬼気迫るものがあるわ」


「隊長、ちょっと頑張りすぎにゃ。心配にゃ……」


 カグラは心配そうに眉を下げ、隊員も耳を伏せてオロオロしている。 カリナは一息つくと、タオルで汗を拭うこともなく演習場の外周を指さした。


「よし、クールダウンにランニング行こう。軽く30周だ」


「「「えええええええッ!?」」」


 騎士達の悲鳴が上がる。 だが、走り出したカリナの背中を見て、ガレスが奮起した。


「弱音を吐くなッ! 英雄に遅れをとって、アレキサンドの騎士が務まるか! 総員、続けェッ!」


「「「うおおおおおおッ!!」」」


 死に物狂いでカリナを追う騎士団。こうしてその日も鍛錬に稽古は終わった。



 ◆◆◆



 その日の演習を終え、カリナ達が城内のロビーへと戻ってきた時のことだ。 入口付近が何やら賑やかな様子だった。


「おや? あれは……」


 見覚えのある装備、見覚えのある顔ぶれ。


 レオン王への謁見を終え、退出してきた二つの集団があった。 チェスターのAランクギルド『シルバーウイング』と、ルミナス聖光国のAランクギルド『ルミナスアークナイツ』の面々だ。


「あ! カリナちゃんにカグラさんじゃない!」


「やあ、奇遇だね!」


 気づいたのは『シルバーウイング』の副団長、剣士のエリアと、『ルミナスアークナイツ』の団長聖騎士カーセルだった。 互いに駆け寄り、再会を喜び合う。


「久しぶりだな、みんな。元気そうでなによりだ」


「ふふ、皆様もお変わりないようね」


 カリナとカグラが挨拶を交わす。そこにはスカウトのロック、重戦士のアベル、魔法使いのセレナ、そして槍術士のカイン、陰陽術士のユナ、神聖術士のテレサも揃っていた。


「あれ? セリスはいないのか?」


 カリナが周囲を見回して尋ねると、 エリアが肩をすくめて答えた。


「団長なら今回はパスよ。こういう見世物じみた大会は好きじゃないらしいし、何よりギルド本部をずっと留守にするわけにいかないから」


「そうか……。話したいことがあったんだけどな」


 少し残念そうな顔をしたカリナだったが、すぐにアイテムボックスから小さな機械を取り出した。 カシューから大量に渡されていた予備のイヤホン型通信機だ。


「ならエリア、帰ったらこれをセリスに渡しておいてくれないか? 遠距離でも会話できる魔道具だ」


「へえ、すごいわね。分かった、責任を持って渡しておくわ」


「私もセリスさんに会えるの楽しみだったのになあ」


 カグラも残念そうに呟く。気を取り直して、カリナが尋ねた。


「で、誰が大会に出るんだ?」


 まずエリアが胸を張る。


「ウチのギルドからは、私が出るわ」


 続いて、カーセルが穏やかに微笑んだ。


「僕達のギルドからは、僕が出る予定だよ」


「なるほど、二人が出るのか」


「今回は純粋な剣術大会だからなー。俺の槍じゃ参加資格がないんだよな」


 カインがやれやれと槍を叩く。


「俺の斧もダメだ。規定外だとよ」


「俺のナイフもだけど、短剣扱いになるから微妙に違うんだとさ」


 アベルとロックも苦笑いだ。ユナやテレサ、セレナ達魔法職はそもそも論外である。と、その時。 セレナが、ふらりとカリナに近づいた。その瞳が、獲物を狙う肉食獣のように妖しく光る。


「あらん、カリナちゃん……。うふふ、演習帰りかしら? その汗でしっとりと湿った肌……光を弾いて極上の輝きだわぁ……ハァハァ……」


 セレナの手が、カリナの二の腕に伸びる。


「ちょっと触らせてぇ……その聖なる汗を私に……」


 ――ドゴォッ!! ――バキィッ!!


「「ぶべラッ!!」」


 鈍い打撃音が二つ、同時に響いた。背後からはエリアの強烈なストレートが後頭部に。正面からはカグラの鋭い前蹴りが顔面に。見事なサンドイッチの刑を受け、セレナはその場に崩れ落ちた。


「アンタは毎回毎回いい加減にしなさいよッ! 王城で何やってんの!」


 エリアが拳を振り上げて怒鳴る。そしてカグラは、ニコニコと笑顔を浮かべながらも、背後にどす黒いオーラを立ち昇らせていた。


「ねえ、セレナちゃん? 前から思ってたけど、次に私の可愛い妹分にそんな目で迫ったら……灰にしてあげるわよ?」


「ひぃッ! ご、ごめんなさいぃ!」


 カグラの指先には、すでに呪符が挟まれている。本気だ。セレナは涙目で土下座した。


「でも、せ、せめて会話くらいはさせてくださいぃ……!」


「はぁ……。まあ、そのくらいなら構わないけど」


 カリナが呆れたように言う。


「ただ、変態的に絡むのは勘弁してくれ。普通に話すだけなら歓迎するよ」


「本当!? なら良かったわぁ!」


 パッと顔を輝かせるセレナに、周囲のメンバーは一斉に頭を抱えた。そんな騒ぎの中、陰陽術士のユナがカグラに歩み寄る。


「カグラさん、またお会いできて光栄です。……あの、もしお時間があれば、陰陽術のご指導をお願いできないでしょうか? カグラさんの術にずっと憧れていたんです」


「あら、ユナちゃん。ええ、いいわよ」


 カグラは快く頷いた。


「大会までは毎日、この演習場でカリナちゃんが騎士団に稽古をつけてるから。その見学中ならいくらでも教えてあげるわ」


「本当ですか! ありがとうございます!」


「ちなみに私達は国賓として城に滞在してるんだけど、みんなはどうなんだ?」


 カリナが聞くと、カーセルが困ったように笑った。


「僕達はあくまで一出場者だからね。城下町の宿をとってあるんだ。城への出入りも制限があるみたいだよ」


「なんだ、それは不便だな。なら、私からレオン王に言っておく。訓練にも付き合って欲しいし、パスを出して貰えるように頼んでおくよ」


「助かるよ! さすがカリナちゃん、顔が広いね!」


 こうして、翌日からの合同訓練が決まった。



 ◆◆◆



 翌日。演習場。


 そこには、ボロ雑巾のように地面に転がるエリアとカーセルの姿があった。


「ぜぇ……ぜぇ……、なんだこの練習量は……ッ!」


「カリナちゃん……、相変わらず強すぎるよ……ッ!」


 アレキサンド騎士団との合同演習に加え、カリナとの直接の立ち合い。 三国の連合軍で戦い、Aランク冒険者としても相当な実力を持つ二人でも、カリナのペースには到底ついていけなかった。


「二人とも、もうバテたのか? まだ昼前だぞ」


 カリナは涼しい顔で、塩とハーブを漬け込んだ特製の水筒を煽っている。


「いや、カリナちゃんがおかしいのよ……!」


 エリアが涙目で抗議する。 一方、観覧席では。


「なるほど、そこで式神の構成を二重にするんですね……!」


「そう。そうすると術の強度が上がるのよ」


 カグラによるユナへの陰陽術講座が開かれていた。初めて本格的に学ぶカグラの術理に、ユナは目を輝かせて感激し、熱心にメモを取っている。その横で、見学組のロック達が眼下の惨状を眺めていた。


「相変わらずすげぇ動きだな、カリナちゃんは」


「全くだ。わかっちゃいたが、あのエリアとカーセルが手も足も出ない」


「もしトーナメントであの二人がカリナちゃんと当たったらどうなると思うよ?」


 ロックの問いに、カインがニヤリと笑う。


「まあ、そうだな。一太刀入れられたらマシなんじゃないか?」


「そう思います」


「違いないわね」


「カリナ嬢ちゃんは別格だな」


 テレサとセレナが同意し、アベルも豪快に笑う。そんな賑やかな日々が数日続き、いよいよ明日は剣術大会当日となった。



 ◆◆◆



 その夜。城内の大浴場。


 湯気が立ち込める広い浴槽で、カリナとカグラは二人きりの時間を過ごしていた。


「ん~、カリナちゃん、お肌ツルツルね」


「カグラ、くすぐったいって……」


 カグラがカリナの背中に回り込み、スポンジで丁寧に肌を滑らせる。 連日の過酷なトレーニングで張った筋肉を、カグラの指先が優しく、慈しむようにほぐしていく。


「明日のためにしっかりリフレッシュしましょうね。私の可愛い妹分が一番輝く日なんだから」


「ああ……ありがとな、カグラ」


 カリナはカグラに身を預け、ふぅと深く息を吐き出した。湯に溶け込んだ薬草の香りが、高ぶっていた神経を鎮めていく。 カグラの手が、カリナの濡れた赤い髪を梳く。


「……いよいよ、女神アリアとの決戦ね」


 カグラがぽつりと呟いた。その言葉に、カリナの瞳に鋭い光が宿る。


「ああ。絶対に負けられないし、勝てないまでも必ず一太刀浴びせてやる」


 その言葉の強さに、カグラは胸が締め付けられるような思いがした。


 カグラにとってカリナは、共に戦場を駆ける同志だ。血の繋がりこそないが、それ以上に深い、実の姉のような情愛が根付いていた。 この身が砕けても守り抜きたい。そう誓っているのに、彼女はどんどん強くなり、危険な場所へと足を踏み入れていく。 誇らしくもあり、同時にたまらなく不安でもあった。


 部屋に戻ってからも、カグラの甲斐甲斐しい世話は続いた。濡れた髪をタオルで丁寧に拭き、櫛を通す。その手つきは、宝物を扱うように慎重で、優しい。


「はい、これでよし」


「ん、ありがとうカグラ」


 ベッドに入ると、カグラは当然のようにカリナを抱き寄せた。いつもより少し強く、確かめるように腕に力を込める。


「……カグラ? 苦しいんだけど」


「いいのよ。……ねえ、カリナちゃん」


「なんだ?」


「無理はしないでね。……なんて言っても、あなたはしちゃうんでしょうけど」


 カグラはカリナの頭に顎を乗せ、独り言のように呟く。


「でも忘れないで。あなたが傷ついたら、私が一番悲しいんだから。……私の大事な、実の妹みたいに可愛い妹分なんだからね」


 その声は震えてはいなかったが、切実な祈りが込められていた。 カリナは少し目を見開き、それからカグラの腕の中で小さく身じろぎした。


「……分かったよ。無茶はしても、無謀はしないよ」


「ふふ、約束よ」


 カグラは愛おしげにカリナの額にキスを落とした。


「よしよし、いい子いい子……」


「……だから、子供扱いするなよ」


「ふふ、今日は特別よ。明日、頑張ってね。おやすみ、カリナちゃん」


「ああ……おやすみカグラ」


 カグラの柔らかい温もりと、心からの愛情に包まれ、カリナは静かに瞼を閉じた。姉のような温かさが、戦士の昂る心を穏やかに鎮めていく。心地良い眠りが、二人をゆっくりと満たしていった。


 そして翌朝。 雲ひとつない快晴の下、アレキサンド剣術大会の幕が上がろうとしていた。

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