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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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104  騎士国アレキサンド

 エデンを出発してから数時間。  


 ガルーダの背に揺られ、適度な休憩を挟みながら空の旅を続けていた一行の視界に、夕闇に染まり始めた壮大な石造りの街並みが見えてきた。


「見えてきたぞ。あれが騎士国アレキサンドだ」


 カリナが指差す先には、湖畔に広がる堅牢な城塞都市があった。エデンのような近代的な魔導都市とは趣が異なり、質実剛健な石造りの建物が整然と並ぶ、まさに「騎士の国」と呼ぶに相応しい景観だ。  


 そして街の北側、少し小高い丘の上には、街を見下ろすように巨大な王城が鎮座している。夕日を反射して輝くその威容は、大陸の中心国家としての威厳を放っていた。


「へぇ、立派なものね。質実剛健、武骨だけど美しいわ」


 カグラが扇子で口元を隠しながら感心する。


「到着にゃ! お腹空いたにゃー!」


 ケット・シー隊員が身を乗り出す中、カリナはガルーダに指示を出し、城下の南門前にある広場へと降下を開始した。


 ズズーンッ……!


 巨大な黄金の鳥が舞い降り、風圧と共に着地すると、南門を守っていた衛兵たちが槍を構えて大騒ぎになった。


「な、なんだあの怪鳥は!? 敵襲か!?」「ま、待て! 背中に人が乗っているぞ!」


 騒然とする衛兵達の前に、ガルーダが翼を収め、カリナ達が降り立つ。カリナはガルーダを送還すると、警戒する衛兵達の前へと歩み出た。


「怪しいものじゃない。私は冒険者のカリナ。エデンのカシュー国王の使いで、レオン・アレキサンド国王陛下に招かれて来たんだ」


「ぼ、冒険者だと……? だが、今の巨大な鳥は……」


 衛兵隊長らしき男が困惑していると、カグラが優雅に歩み寄り、艶やかな笑みを浮かべた。


「あらあら、驚かせてごめんなさいね。この子は私の妹分で、凄腕の召喚術士なのよ。ほら、これが身分証よ」


 カグラに促され、カリナは懐から冒険者の組合カードを提示した。そしてカグラもまた、自身のカードを取り出して提示する。カリナのカードには、燦然と輝く『Aランク』の刻印と、『カリナ』の名が刻まれている。


 隊長がカードを受け取り、その名前を確認した瞬間、彼の目が驚愕に見開かれた。


「カ、カリナ……? まさか、あの『ザラーの街』を襲った悪魔と魔物の大軍を、たった一人で殲滅したという……あの英雄か!?」


 その言葉に、周囲の衛兵達もざわめき立つ。ザラーの街の防衛戦は、アレキサンド国内でも今伝説として語り継がれている。その英雄が、目の前の可憐な少女だとは夢にも思わなかったのだろう。


「はっ! 失礼致しました! 英雄殿とは露知らず、槍を向けるご無礼を!」


 隊長が慌てて姿勢を正し、ガシャリと音を立てて最敬礼を行う。部下たちもそれに続き、一斉に敬礼した。


「いや、気にしないでくれ。事前に連絡はしてあるはずだが、通してもらえるかな?」


「もちろんであります! ようこそ、騎士国アレキサンドへ! ……ただ、王城への報告と手続きがございますので、正式な謁見は明日になるかと思われます」


 隊長の言葉に、カグラが「そうね」と空を見上げた。


「もう日も落ちるし、今日はお城に行くのはやめておきましょう。どこかで一泊して、旅の疲れを落としたいわね」


「そうだな。……隊長さん、この辺りで評判の良い宿を知らないか?」


 カリナが尋ねると、隊長は即座に答えた。


「それでしたら、『潮騎士亭(しおきしてい)』がお勧めであります! この街の西側、湖に面した場所にありまして、料理も風呂も一級品です」


「湖畔の宿か、いいな。ありがとう、行ってみるよ」


 カリナ達は礼を言い、開かれた門をくぐってアレキサンドの街へと足を踏み入れた。



 ◆◆◆



 マップ機能を開き、教えられた『潮騎士亭』を目指して石畳の道を歩く。街は夕刻の活気に満ちていたが、すれ違う人々は皆、振り返っては足を止めた。


「おい、見たか? すげぇ美人だ……」「あの赤い髪の子、お人形さんみたい……」「隣の和装の女性も色っぽいなぁ……って、あの猫、二本足で歩いてるぞ!?」


 いつものことだが、美少女と美女、そしてマスコットという組み合わせは目立ち過ぎる。ケット・シー隊員は「ふふん、おいら達は人気者にゃ」と胸を張っているが、カリナは居心地悪そうに視線を彷徨わせた。


「いつものことだが、さすがに目立つな。ジロジロ見られるのは落ち着かないんだよ」


 カリナがぼやくと、隣を歩くカグラが余裕の笑みで返した。


「あら、気にせず堂々としてればいいのよ。見られるのは華がある証拠だもの。胸を張っていなさい」


 カグラの凛とした態度に、カリナは苦笑しつつも頷いた。


「それもそうか。コソコソする方が怪しいもんな」


 やがて到着した『潮騎士亭』は、湖の上に張り出すように建てられた、木造と石造りが調和したお洒落な宿だった。一階が広々とした食堂になっており、二階から上が客室になっている、この世界では一般的な造りだ。


「いらっしゃいませ! えーと、三名様ですか?」


 カランコロンとベルを鳴らして入店すると、活気ある店内で給仕の女性が笑顔で出迎えてくれた。


「ええ。宿泊と、あと食事をお願いしたいの」


「畏まりました! お席へご案内しますね」


 案内されたのは、窓から月明かりに照らされた湖が一望できるテーブル席だ。ここでも周囲の客――鎧を脱いだ騎士や商人たち――の視線が一斉に集まるが、カグラは慣れた様子で優雅に座る。


「あのー、この猫ちゃん用の椅子は……」


 給仕が困ったように隊員を見ると、カリナが苦笑した。


「ああ、すまない。子供用の高い椅子があれば借りられるかな?」


「はい! すぐに!」


 運ばれてきた子供椅子に座らされ、テーブルに顎を乗せる隊員。その姿に、近くの席の女性客から「かわいい~!」と黄色い声が上がる。


「とりあえず、この店のお勧めを頼む。腹が減って倒れそうだ」


 カリナの注文により、次々と料理が運ばれてきた。ここアレキサンドの名物『湖魚のムニエル・焦がしバターソース』に、厚切り肉がゴロゴロ入った『騎士のスタミナシチュー』、そして焼きたての黒パン。


「ん~っ! 美味しいわね! この魚、身がふわふわよ」


「はふっ、ふーっ……、シチューも濃厚で最高だ。バターの香りがたまらないな」


「おいらもお魚をもらうにゃ! 骨まで食べるにゃー!」


 三人は旅の空腹も相まって、夢中で食事を楽しんだ。  周囲の視線も気にならないほど、料理の味は絶品だった。



 ◆◆◆



 食事を終え、部屋の鍵を受け取った一行は、まずは旅の汗を流すべく大浴場へと向かった。隊員は「おいらは男湯にゃ!」と言って男湯へ。カリナとカグラは女湯の暖簾をくぐった。


 脱衣所で服を脱ぎ、湯気が立ち込める浴室へと足を踏み入れる。石造りの広い浴場には、豊富な湯量を誇るお湯が満たされていたが、まずは体を清めなければならない。


「さあ、カリナちゃん。ここに座って?」


 カグラが洗い場の椅子を指し示し、妖艶な笑みを浮かべて手招きする。嫌な予感がしたカリナが「い、いや、自分で洗えるから……」と断ろうとするが、カグラは聞く耳を持たない。


「だーめ。昨日まではルナフレアに洗ってもらってたんでしょう? 今日は私、お姉ちゃんの番よ。ほら、大人しく座りなさい」


 カグラは有無を言わさぬ圧力でカリナを座らせると、自身の豊満な肢体をカリナの背中に密着させ、後ろから抱きすくめるような体勢でスポンジを滑らせ始めた。


「ん……ちょ、カグラ、近い、近いって!」


「あら、恥ずかしがらなくていいのよ? 可愛い妹分の肌だもの、隅々まで綺麗にしてあげなくちゃ」


 カグラの手が、首筋から鎖骨、そして胸の膨らみへと伸びる。その手つきは優しく、しかしどこか愛玩動物を愛でるような執拗さがある。


「うぅ……くすぐったい……。あんまり変なところ触るなよ……」


「ふふ、カリナちゃんの肌は本当に滑らかで綺麗ね。ずっと触っていたくなるわぁ」


 カグラは楽しそうに笑いながら、カリナの二の腕や太ももをぷにぷにと突っつく。見た目は同性とはいえ、カグラのような圧倒的な美女にこれほど過度なスキンシップをされると、カリナはどうしてもドギマギしてしまう。だが、抵抗すればするほどカグラが喜ぶことを知っているカリナは、顔を赤くして耐えるしかなかった。


 全身をくまなく洗い上げられた後、ようやく解放されたカリナは、逃げるように広い湯船へと浸かった。


「ふぅ……。心臓に悪い……」


 肩までお湯に浸かり、ほうっと息を吐く。広い浴場ならではの開放感と、石造りの浴槽から伝わる温もりが、旅の疲れをじんわりと溶かしていく。


「あら、待ってよー」


 しかし、その安息も束の間。悪びれもせずカグラが入ってきた。お湯が波打ち、カリナの隣――というより、ほぼ重なるような距離にカグラが腰を下ろす。


「カグラ、広いんだからもう少し離れても……」


「あら、肌と肌が触れ合うくらいが丁度いいのよ? ……ほら、気持ちいいわよ」


 カグラはカリナの腕に自分の腕を絡ませ、しなだれかかるように密着する。濡れた肌同士が触れ合う滑らかな感触と、カグラの豊満な柔らかさがダイレクトに伝わってくる。


「お前なぁ……」


「ふふ、いいお湯ねぇ。空の旅で冷えた体が芯から温まるわ」


 カグラはお湯を手ですくい、カリナの肩に優しくかける。  湯気の中で微笑むカグラの顔は、湯あたりしそうなほど艶っぽく、美しい。カリナは観念したように力を抜き、カグラの体温とお湯の温もり、その両方に身を委ねてゆっくりと時間を過ごした。



 ◆◆◆



 十分に温まり、浴場から上がって脱衣所へ。火照った体を冷まそうとしていると、ここでもカグラの世話焼きが発動した。


「さ、じっとしててね」


 カグラは大きなバスタオルを広げると、カリナを包み込むようにして丁寧に体の水滴を拭き取り始めた。まるで小さな子供をあやすかのような手つきだ。


「ちょ、自分で拭けるって!」


「いいからいいから。湯冷めしちゃうわよ?」


 抵抗も虚しく、体だけでなく髪の毛までワシャワシャとタオルドライされる。櫛を使って濡れた髪を梳かし、丁寧に乾かしてくれるカグラの横顔は、本当に妹を可愛がる姉のようだ。


「……まったく。過保護過ぎるだろ」


「ふふ、可愛い妹分のためだもの。苦じゃないわ」


 部屋に戻ると、先に鍵を渡しておいたため、隊員は既に部屋の隅にあるエキストラベッドで丸くなって寝息を立てていた。  


 カリナは、出発前にルナフレアから「旅先で着てくださいね」と渡された包みをアイテムボックスから取り出して開けた。中に入っていたのは――シルクのような光沢を持つ、透け感のあるセクシーなネグリジェだった。


「……あいつ、またこんなものを……」


 カリナは頭を抱えたが、他の着替えを持参していない以上、これを着るしかない。観念して着替えると、薄い生地が肌に吸い付き、ボディラインを露わにする。


「あら~、素敵じゃない。幼さの中に大人の色気が漂ってるわよ、カリナちゃん」


 既に浴衣のような寝間着に着替えていたカグラが、目を輝かせて手招きする。


「ほら、こっちにいらっしゃい」


 部屋には大きめのベッドが二つ並んでいる。当然、一人一つずつ使うものだと思っていたカリナだったが、カグラは自分のベッドの布団をめくり、ポンポンと隣を叩いた。


「……カグラ? ベッドは二つあるんだけど?」


「何言ってるの。可愛い妹分と一緒に寝たいに決まってるじゃない。ほら、冷えないうちに入って?」


「いや、狭いだろうし、私は寝相が悪いかもしれないぞ?」


「大丈夫よ。私がしっかり抱きしめててあげるから」


 カグラの満面の笑みと、有無を言わさぬ圧力。カリナは小さく溜息をつき、諦めてカグラのベッドへと潜り込んだ。  瞬間、カグラの腕が伸びてきて、抱き枕のようにギュッと抱きしめられる。


「ん~、いい匂い。温かいわねぇ」


「……苦しいぞ、カグラ」


「我慢なさい。……おやすみ、カリナちゃん」


 カグラは満足そうに目を閉じ、すぐに安らかな寝息を立て始めた。カリナの顔のすぐ近くに、カグラの整った寝顔がある。柔らかい感触と、石鹸の香り。


 一人っ子だった和士(ナギト)としての記憶にはない、姉という存在の温かさ。もし自分に本当に姉がいたとしたら、きっとこういう感じなのだろうか。そんな想像をしてしまうほどの安らぎに包まれながら、カリナもまた深い眠りへと落ちていった。



 ◆◆◆



 翌朝。


「……んっ……」


 カリナが微睡みの中で目を開けると、視界いっぱいにカグラの美しい顔があった。鼻先が触れそうな距離で、カグラが微笑んでいる。


「おはよう、カリナちゃん。よく眠れた?」


「うわっ!? ち、近い……!」


 カリナが飛び起きると、カグラはコロコロと鈴を転がすように笑った。


「ふふ、可愛い寝顔だったわよ。さあ、支度をしましょう。今日は国王陛下への謁見だもの、気合を入れないとね」


 カリナはルナフレアに用意してもらった、昨日と同じ紺色のコートと冒険者ドレスに着替える。一方、カグラは昨日の活動的な狩衣とは打って変わって、謁見に相応しい装いに着替えていた。  


 藤色を基調とした、上品で格調高い振袖のような着物。帯には金糸が織り込まれ、髪も簪を使って丁寧に結い上げられている。その姿は、どこぞの高貴な姫君か、あるいは女神そのものといった神々しさだ。


「どう? 変じゃないかしら?」


「いや……すごいな。見惚れるよ。これならどこの国の王族に見せても恥ずかしくないだろうな」


 カリナが素直に称賛すると、カグラは嬉しそうに扇子を開いた。


「ありがとう。あなたの隣に立つのだもの、これくらいはね」


 身支度を整えた二人は、まだ眠そうな隊員を起こして一階の食堂へと降りた。朝の光が差し込む食堂は、爽やかな空気に包まれている。


「おはようございます! 朝食はいかがなさいますか?」


 昨日の給仕が元気よく注文を取りに来る。カリナ達はメニューを広げ、注文する。


「そうだな……しっかり食べておきたい。厚切りベーコンとスクランブルエッグのプレート、それに焼きたてのクロワッサンと、ホットミルクを頼むよ」


「私は和風の定食があれば嬉しいのだけれど……なければ同じものでいいわ」


「あ、和食もありますよ! 焼き魚とお漬物に、味噌汁と白米のセットですね」


「おいらはミルクとフィッシュパイがいいにゃ!」


 運ばれてきた朝食は、期待通りのボリュームと味だった。  ふわふわの卵、カリカリのベーコン、そしてバター香るクロワッサン。カグラも焼き魚に満足そうだ。


 支払いを済ませ、店を出ると、朝のアレキサンドの街は清々しい空気に満ちていた。湖から吹く風が頬を撫でる。


「さて、行くか。レオン王が待ってる」


「ええ。行きましょう」


 フリフリの衣装のカリナと雅な着物姿のカグラ、そして小さな紳士のような隊員。道行く人々の注目を集めながら、一行は街の北にそびえる巨大な王城を目指して、石畳の道を力強く歩き出した。

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