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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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102  復活と新たな旅へ

 地獄のような一週間が過ぎ、ようやく体調が完全に回復したカリナは、その足でカシューの執務室を訪れた。  


 この一週間、彼女はベッドの上で、人生で初めて経験する「女性特有の苦しみ」と向き合い、悶絶し、そして悟りを開くかのように耐え忍んだ。その顔色は、まだ病み上がり特有の白さが残るものの、瞳には生気が戻っていた。


 コンコン、と軽くノックをして重厚な扉を開けると、そこにはいつもの――そして、現在のエデン王国を支える中枢メンバーが集まっていた。


 執務デスクで書類の山と格闘している国王カシュー。そして、部屋の中央に置かれた豪奢な応接用ソファーセットには、優雅に足を組んで紅茶を啜るエクリアと、その向かいにカグラとサティアが座っている。


「みんな、心配かけたな。もうすっかり元気だ」


 カリナが、少し照れくさそうに笑顔で挨拶し、いつもの定位置へと歩み寄ると、全員の視線が一斉に集まった。


「あ、カリナちゃん! もう大丈夫なの? 顔色は……うん、だいぶ良さそうね」


「本当に良かったです。一時はどうなることかと心配しました。お体、もう痛みはありませんか?」


 カグラとサティアがパッと表情を明るくし、駆け寄って来る勢いで安堵の声を上げる。その声音には、心からの親愛と心配が滲んでいた。カリナは二人に近づき、深々と頭を下げた。


「ああ、おかげさまでね。カグラ、サティア、二人には本当に世話になった。あの地獄の最中、忙しいのに何度も部屋まで様子を見に来てくれて……本当にありがとう。二人の顔を見るだけで、どれだけ心強かったか」


 その言葉に、カグラはふわりと艶やかに微笑み、手に持っていた扇子でカリナの頭を軽くポンと叩いた。


「何言ってるのよ。あなたは私の大事な妹分なんだから、当然でしょう? 姉が妹の看病をするのに、理由なんていらないわ」


「ええ、そうです。友人として、大切な仲間として当然のことをしたまでです。お礼なんていりませんよ。それに、ルナフレアさんの献身的な看病に比べれば、私達なんて……」


 サティアも柔らかく微笑む。二人の温かい言葉と優しさに、カリナの心がじんわりと温かくなった、その時だった。


「いやー、良かったなーカリナちゃん。初めては辛かっただろー?」


 ソファーでふんぞり返っていたエクリアが、ニヤニヤしながら口を挟んできた。手には紅茶のカップを持ち、どこか他人事のように楽しげだ。その美しい見た目とは裏腹に、中身の軽い口調が炸裂する。


「俺もさー、この姿で現実世界になって長いけど、アレだけは未だに慣れねーんだよなー。毎月きついし、憂鬱になるぜ。でもま、無事に終わってよかったじゃん。これでお前も、本当の意味でこっちの世界での『大人』になったってわけだな、うんうん」


 まるで先輩風を吹かすような、それでいてデリカシーの欠片もない口調。カリナはげんなりとした顔で肩をすくめ、ソファーにどかっと腰を下ろした。小柄な身体が深く沈み込む。


「ああ、マジできつかった……。あれが毎月来るとか、冗談抜きで地獄だろ。今まで知る由もなかったが、女性の苦しみが骨身に沁みてよくわかったよ。世の女性を心から尊敬する。……エクリア、お前よく平気な顔してられるな」


「慣れだよ、慣れ。ま、ウェルカム・トゥ・ヘルってやつだ」


 ケラケラと笑うエクリアに対し、心底懲りた様子のカリナ。そんな二人の様子を見て、デスクのカシューは苦笑しながらペンを置き、ソファーの方へと体を向けた。


「まあ、男の僕には想像してあげることしかできないけど……。とにかく、元気になってよかったよ。君が倒れていると、やっぱり城の中が静かで寂しいからね」


 カシューがデリケートな話題をサラリと流して労ると、カグラとサティアはジロリと冷ややかな視線をエクリアへと向けた。


「カシューを見習いなさいよ。……相変わらずデリカシーがないネカマね。カリナちゃんは初めての経験だったのよ? もっと労わる言葉はないの?」


「本当に……。冗談でもエクリアさんはもう少し言葉を選んで下さいよ。私達も心配していたんですから」


「あーもう、悪かったよ。怖いなあ、これだから女子会は恐ろしいぜ」


 エクリアが肩をすくめておどけてみせる。  


 そんなPC同士のいつもの軽妙なやり取りに、カリナは「戻ってきた」という実感を噛み締めていた。中身が何だろうと、この世界で生きていく以上、この身体と付き合っていくしかない。そして、それを笑い合える仲間がいることのありがたさを再確認する。


「さて……。生理もおさまったことだし、王命の休養期間も終わりだろ? 予定通り旅に出ようと思う。まずは西の武大国アーシェラに向かうつもりだ」


 カリナが今後の予定を告げると、カシューが「あ、ちょっと待って」と手を挙げた。


「その件なんだけどね。実はさっき、この国の北の隣国……『騎士国アレキサンド』から書簡が届いたんだよ」


「騎士国アレキサンド? この大陸の中心の隣国か?」


 カリナが眉を上げる。その国名には、カリナにとっても、カシューにとっても、特別な響きがあった。


「そうだよ。この国からは北に位置する隣国であり、大陸全土の中心。……そして何より、僕や君、それに君のメインキャラであるカーズにとっても、チュートリアルでスタートした『初期五大国』の一つだ」


「世界樹の森に向かう途中にもちらっと見たが、懐かしいよな。……まあ、現実となって100年が経過しているこの世界じゃ、かつて私達がプレイしていた時代のNPC達は既に世を去ってるだろうから、国王も代替わりしてるんだろうな」


 カリナが遠い目をして呟く。ゲームの中の思い出と、今の現実が交差する瞬間だ。カシューは頷き、デスクの上の封書を手に取った。


「そう、代替わりした今の国王、レオン・アレキサンドからの直筆だ」


 カシューは封を開き、内容をかいつまんで説明し始めた。


「内容は主に感謝状だね。以前君がアレキサンド領内の『ザラーの街』で悪魔を討伐してくれたことへの礼。そして今回、エデン、ルミナス、ヨルシカが同盟を組んで『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』を討伐し、世界の危機を救ったことへの称賛が綴られている」


「私達の戦果と情報共有が役に立ったってことになるのか?」


「その通り。どうやら僕達が送った情報のおかげで、アレキサンド国内に潜伏していた組織の残党や支部の殲滅にも成功したらしい。そのお礼も兼ねて、是非一度王城に来て欲しいと招待状が入ってるよ」


「へぇ、そいつは重畳だ。今の王様はなかなか義理堅いみたいだな」


 カリナが感心すると、カシューはさらに重要な案件を付け加えた。


「それでね、これを機にアレキサンドも魔導列車の計画に参加したいと言ってきているんだ。大陸の中心であるアレキサンドが加われば、物流と人の流れは劇的に変わる。その詳細を詰めるためにも、カリナ、君に外交の橋渡しをお願いしたい」


「なるほど、外交案件か。……まあ、初心者時代の里帰りついでと思えば悪くないな。アレキサンドの街並みも、どう変わったか見てみたいし」


「それと、もう一つ。……近々、騎士国で大規模な『剣術大会』が開かれるらしいよ。君なら興味あるんじゃないかい? 良ければ参加してみてはどうかという提案も書かれているよ」


「剣術大会……!?」


 その単語を聞いた瞬間、カリナの美しい瞳が、獲物を見つけた肉食獣のようにギラリと輝いた。武大国での捜索も重要だが、魔法剣士として、そして純粋に強さを求めるゲーマーとして、恐らく大陸中の猛者が集うそのイベントは魅力的過ぎる。


「それは……面白そうだな。レオン王の顔も立てなきゃいけないし、近くだから寄ってみるのも悪くない。いや、ぜひ行きたいな」


 あからさまに乗り気になったカリナを見て、カシューは「やっぱりね」と楽しげに笑い、デスクの引き出しから小さな箱を取り出した。それをテーブルの上を滑らせて、カリナの前へ差し出す。


「じゃあ、これを持って行ってくれるかい?」


 カリナが箱を開けると、そこには耳に装着するタイプの、小型で洗練されたデザインの新型通信機が大量に収められていた。


「ん? 何だこれ、通信機じゃないか。ずいぶんと多いな」


「ああ、エデンの職人達が改良した最新型だよ。左耳に装着するこれまでと同じタイプで、会話を繋ぎたい相手を任意で選んで通信できる優れものさ。これから君は各国の国王や要人と会う機会も増えるだろう? その時にこれを渡してくれれば、僕とのホットラインがすぐに構築できる」


 カシューはニコニコと笑いながら説明する。カリナはその箱を受け取り、呆れたように、しかし感嘆の眼差しを向けた。


「お前なぁ……。相変わらず準備が良いというか、抜け目がないというか……。私が旅に出るのを見越して、こんなものまで用意してたのか?」


「ははは、備えあれば憂いなしだよ。エデンのネットワークを広げるチャンスだからね。情報は鮮度が命だ」


 先を見据えて手を打つカシューの国王としての手腕に、カリナは改めて舌を巻いた。この男は、いつだって数手先を見ている。カシューはさらに、「ああ、後これを忘れずにね」とアレキサンドの国王からの招待状も手渡した。


「剣術大会、か……」


 そこで、今まで静かに話を聞いていたカグラが、パチリと扇子を開き、口元を隠して楽し気に笑った。


「面白そうね。私も見に行こうかしら」


「え? カグラもか?」


 カリナが驚いて振り返ると、カグラは涼しげな瞳で頷いた。


「ええ。各国の猛者が集まる大会なんて面白そうだし、見逃せないわ。私は術士だから剣術大会には出ないけどね。でも元『相律鎮禍連』の棟梁としては、アレキサンド国内の『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』残党の討伐状況も、自分の目で確かめておきたいのよ。……それに」


 カグラは扇子を少し下げ、悪戯っぽくカリナを見つめる。


「カリナちゃんが外交だなんて、ちょっと心配だしね。私が一緒なら謁見のサポートもできるでしょう? ……まあ、一番の理由は、可愛い妹分のカリナちゃんと一緒にいたいから、だけどね」


 そう言ってカグラは後ろから、小柄なカリナの両肩から抱きしめるように腕を回す。甘い香りがカリナを包み込む。


「カグラらしいな。ま、国王相手のロールプレイはお手の物だから心配いらないが、カグラが一緒なら心強い。ぜひ頼むよ」


 カリナが笑って答えると、カグラは嬉しそうに目を細めた。そんな二人のやり取りを、横で羨ましそうに見ていたサティアが、小さく溜め息をついた。


「いいですね……。私も、カリナさんやカグラさんと一緒に行きたかったです……」


「サティアは……やっぱり無理か?」


 カリナが気遣わしげに尋ねると、サティアは寂しげに、しかししっかりと首を横に振った。


「はい。教会での任務が溜まってしまいますから……。騎士国アレキサンド、私も行ってみたかったのですが、今回は諦めます」


「そうか……。残念だが、サティアの分まで土産話を持って帰ってくるよ」


「はい、楽しみにしていますね。……くれぐれも無茶はしないで下さいね、カリナさん」


 サティアの優しさにカリナが頷いていると、横から不満げな声が割り込んだ。


「あーあ、いいなーお前らは。剣術大会かよ」


 エクリアがテーブルに突っ伏し、だらけきった様子でぼやく。


「なんで魔法大会じゃねーんだよー。剣ばっかり優遇されやがって。俺だって今回は留守番だったし、次は派手に暴れたかったのによー」


「あら、アンタはここで大人しくカシューの補佐と防衛をしてなさいな。それが一番の貢献よ。それに騎士国で魔法大会はないでしょうよ」


 カグラがピシャリと言うと、エクリアは「ちぇっ」と唇を尖らせた。


「まあ、どの道連れて行くにしても一人だけだよ。悪魔の脅威がある以上、エデンの特記戦力が何人も国から抜けるのは困るからね」


 カシューが釘を刺すと、エクリアは諦めたように溜め息をついた。


「わーってるよ。ま、カリナ。俺の分までその大会とやらで暴れてこいよ。優勝したらなんか美味いもんでも奢ってやるからよ」


「ほほう、言質取ったぞ。高いスイーツでもねだるとするかな」


 カリナは笑い、改めて仲間達の顔を見渡した。信頼できる仲間、帰るべき場所、そして新たな冒険への予感。


「よし、決まりだ。まずは隣国、騎士国アレキサンドへ向かう! 魔導列車の件も、残党狩りの確認も、そして剣術大会も……全部まとめて片付けてくる!」


 カリナが高らかに宣言し、イヤホンを装着すると、カシュー、エクリア、カグラ、サティアはそれぞれの表情で、新たな旅立ちへのエールを送るように頷いた。

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