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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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99  相律鎮禍連解散と新たな闇

 翌日。  


 祝勝パーティの熱気が心地よい余韻となって残る中、エデン王城の一角にある広間に、カグラと、ベルガーの護送や戦闘の後方支援を担った『相律鎮禍連(そうりつちんかれん)』のメンバー達が集まっていた。


 窓からは明るい日差しが差し込み、整列した精鋭達の顔を照らしている。彼らの表情は晴れやかでありながらも、一様に緊張感を帯びていた。  


 その視線の先に立つのは、彼らの長であり、エデンの特記戦力であるカグラだ。彼女はいつものように扇子を弄びながら、しかし真剣な眼差しで部下たちを見回した。


「みんな、集まってくれてありがとう。……昨日の祝宴、楽しめた?」


 カグラが問いかけると、最前列にいた部隊長格の男が一歩進み出て頷いた。


「はい、カグラ様。エデンの皆様の温かい歓迎、そしてカシュー陛下の寛大なご配慮、一同心より感謝しております」


「ん、ならよかったわ」


 カグラはふわりと微笑むと、パチンと扇子を閉じた。その音が合図のように、場の空気が引き締まる。


「さて、本題に入るわね。……今回の戦いで、私達の宿敵だった『ヴォイド・リチュアル・サンクトゥム』の中枢は壊滅した。災禍伯メリグッシュ・ロバスも討ち取られ、あの組織は事実上崩壊よ」


 カグラの言葉に、メンバー達が静かに頷く。それは彼らにとって、長きに渡る戦いの終わりを意味していた。


「もちろん、まだ世界各地に支部や残党は残っているわ。でも、それはもう各国の軍や組合が連携して対応することになってる。私達が闇に潜んで、命を削ってまで追い続ける必要はなくなったの」


 カグラは一度言葉を切り、全員の顔を一人ひとり確認するように見渡した。


「だから――『相律鎮禍連』は、ここで解散とするわ」


 その言葉が広間に響いても、動揺の声は上がらなかった。彼らも薄々、その時が来たことを悟っていたからだ。


「今まで、私の我が儘に付き合ってくれてありがとう。みんながいてくれたおかげで、私はここまで戦ってこられた。……これからは、それぞれの道を歩んでちょうだい。故郷に帰るもよし、新たな場所で力を活かすもよし。みんななら、どこへ行ってもやっていけるわ」


 カグラは憑き物が落ちたような、晴れやかな笑顔で告げた。  


 しかし――誰も動こうとはしなかった。静寂の中、先ほどの部隊長が口を開いた。


「……カグラ様。解散の命、確かに承りました。ですが、一つ訂正させて頂けますか?」


「訂正?」


「はい。我々は、単に組織の目的のみに縛られていたわけではありません。我々が付き従ってきたのは、組織だけではなく……カグラ様、貴女自身なのです」


 部隊長の言葉に、背後のメンバー達が一斉に頷く。その瞳に宿る熱は、忠誠と敬愛そのものだった。


「私達は、貴女の強さに、優しさに、そしてその志に惹かれて集まりました。組織がなくなろうとも、その心が変わることはありません」


「あなた達……」


「ですから、どうかこれからもお傍に置いてください。貴女がエデンのために戦うというのなら、我々もまた、エデンのために剣を取り、術を振るいましょう」


 一糸乱れぬ彼らの意志に、カグラは呆気にとられ、やがて目頭を押さえて苦笑した。


「はぁ……本当、あなた達ってば物好きね。せっかく自由になれるって言ったのに」


「ふっ、貴女に縛られているくらいが心地良いのですよ」


 メンバー達が珍しく悪戯っぽく微笑む。カグラは「しょうがないわね」と呟くと、扇子を広げて口元を隠した。だが、隠しきれない喜びが目元に溢れている。


「分かったわ。……でも、これからはエデンの一員として働くことになるわよ? 今まで以上に厳しいかもしれないわ」


「望むところです!」


 全員の声が重なった。


「よし! じゃあ、まずはけじめをつけなきゃね」


 カグラは懐から無数の人型をした紙――式神を取り出し、宙に放った。彼女が印を結び、魔力を込めると、式神達は淡い光を帯びて生き物のように舞い上がる。


「各地に散らばっているメンバー達へ伝令。『相律鎮禍連』は本日をもって解散する。これより先は、己の意志で生きよ。……自由を、あなた達に」


 カグラの想いを乗せ、無数の式神が窓から空へと飛び立っていく。それはまるで、白い鳥の群れのように青空へと吸い込まれていった。


「さあ、それじゃあカシュー陛下に直談判しに行くわよ! ついて来なさい!」


「「「「「ハッ!」」」」」



 ◆◆◆



 場所を移して、エデン王城、玉座の間。  


 威厳ある玉座に座るカシュー王の前には、カグラと、その後ろに整列した元『相律鎮禍連』の精鋭達が控えていた。玉座の傍らにはアステリオンが立ち、特記戦力であるカリナとサティア、エクリアも見守っている。  


 そして、カグラの傍らには、エデンの相克術士代行としてカグラを補佐する金髪のハーフエルフ、ユズリハも待機していた。


「――カシュー陛下。申し上げます」


 カグラが一歩進み出て、臣下の礼をとり、恭しく頭を下げた。公の場における「ロールプレイ」だ。


「ここに控えますは、かつて私が率いておりました組織の者達でございます。彼らは裏の世界で戦ってきた実力者揃い。術の扱いはもちろん、情報収集や隠密活動にも長けております。必ずや、エデンの大きな戦力となりましょう」


 カグラの言葉に、カシューは興味深そうに精鋭達を見つめた。


「なるほど。カグラがそこまで推挙するほどの者達か。……だが、彼らの忠誠は、カグラだけでなく、このエデンにも向けられるものなのか?」


 王としての鋭い問いかけ。部隊長が一歩進み出て、その場に跪いた。それに続き、全てのメンバーが膝をつき、恭しく頭を下げる。


「カシュー陛下。我々はカグラ様の剣であり、盾です。カグラ様がこの国を愛し、守ろうとするならば、我々の命もまた、エデンのためにあります。……昨日の祝宴で、この国の民の笑顔を見ました。我々も、あの笑顔を守る力になりたいと、強く願っております」


 部隊長の言葉には、一点の曇りもなかった。カシューはしばらく彼らを見下ろしていたが、やがて満足げに頷き、口元を緩めた。


「うむ、良い面構えだ。先日の戦いにおける戦闘に後方支援は勿論、ベルガーの護送任務の手際も見事であったと聞いている」


 カシューが玉座から立ち上がり、力強く宣言する。


「良かろう! 本日より、そなたらをエデン王国軍、カグラ直轄の『特務術士部隊』として正式に迎え入れる! その力、エデンの平和と、未だ脅威となる悪魔への対抗手段として存分に振るうがいい!」


「ハッ! ありがたき幸せ!!」


 部隊長達の声が玉座の間に響き渡る。それは、闇に生きた彼らが、エデンという光の下で新たな居場所を得た瞬間だった。


「やりましたね、カグラ様」


 カグラの横で控えていたユズリハが、嬉しそうに微笑んだ。


「ええ。ユズリハ、アンタにとっても頼もしい部下が増えたわよ。こき使ってあげなさい」


「ふふ、お手柔らかにお願いしますね、皆様」


 ユズリハが部隊長達に会釈すると、彼らもまた、新たな上官の一人となるユズリハに敬意を表して礼を返した。


「良かったな、カグラ」


 見守っていたカリナが嬉しそうに声をかける。


「ええ。……これでまた、賑やかになりそうね」


 カグラは扇子をパチンと鳴らし、頼もしい仲間達を誇らしげに見つめた。エデンの戦力はさらに盤石なものとなり、来るべき未来への備えは着々と整いつつあった。



 ◆◆◆



 世界の南西に位置する、魔大陸と呼ばれる小さな大地。  


 かつてPCが治めていたが、悪魔の軍勢によって地図から消し去られた小国の成れの果て――その廃墟と化した城の深奥に、常闇が支配する『玉座の間』があった。


 窓から光が差し込むエデンの広間とは真逆の、希望など欠片もない漆黒の空間。その淀んだ空気の中、かつての栄華を象徴する玉座に鎮座するのは、禍々しい深淵のオーラを全身から噴き上げる支配者、深淵公ネグラトゥス・ヴォイドロードである。


 しかし今、その玉座の前には誰もいない。広い空間には、ネグラトゥスの焦燥と苛立ちだけが重く充満していた。


「……役立たずどもが」


 ネグラトゥスは玉座の肘掛けをきしりと握りしめ、虚空を睨みつけた。


「堕落男爵ベロン、獄炎騎士アグノス……そして災禍伯メリグッシュ・ロバス。奴らは皆、あの人間の小娘、カリナと対峙し、その手によって消滅させられた……」


 彼の手駒であった幹部達は、ことごとく敗北し、塵となって消えた。そして唯一生き残った影霊子爵ヴァル・ノクタリスもまた、無惨な敗北を喫して逃げ帰り、現在はその失態を咎められ、謹慎処分として別室に幽閉されている。


「手駒は失った……。そして何より、集められた『負のエネルギー』がまるで足りぬ」


 精霊から奪った力、人間達の悪意、そして冒険者達から奪い取った生命力。それらはこの城の地下に設置された魔導炉へと蓄積されているはずだった。  


 だが、度重なる敗北とエデンと他国の抵抗により、供給は滞っている。彼らの『主』の復活に必要なエネルギーは、その膨大な要求量に対し、未だにわずかな量しか満たされていない。


「これでは……我らが主が目覚めるのはいつになることか。エデンという目障りな光が、我等の悲願を阻んでいる……ッ!」


 ネグラトゥスの苛立ちが頂点に達し、周囲の闇が荒れ狂おうとした、その時だった。


「――随分と苦戦しているようだな、深淵公? 貴様の溜め息で、この城が腐り落ちそうだぞ」


 不意に、玉座の間の扉が独りでに開き、凍てつくような、それでいて圧倒的な重圧を伴う六つの影が現れた。  


 ネグラトゥスですら思わず眉をひそめるほどの、異質な気配。それは単なる悪魔の枠組みを超えた、魔界最高位の実働集団――『災禍六公(さいかりっこう)』であった。


 先頭を歩くのは、漆黒と深紅の豪奢な長外套を纏った、魔王貴族ごとき風貌の男。『背徳支配と蹂躙』の災禍、アスモディル・ヴェイン。六公の首魁である彼は、玉座に座るネグラトゥスを見上げても、敬意など微塵も感じさせない嘲笑を浮かべていた。


「誰の許しを得てここへ来た? アスモディル」


「許し? ハッ、笑わせるな。我が行く道に許しなど必要ない。あるのは『ひれ伏す』か『砕かれる』か、その二択のみだ」


 アスモディルは優雅に、しかし尊大に広間の中央で足を止めた。その背後には、異様な存在感を放つ五人が控えている。


 白銀の肌と氷晶の長髪を持ち、周囲の空間すら凍てつかせる『凍絶と静寂』の女、グラシエラ・ノクス。


「……騒がしいわね。無能な敗北者の嘆きほど、耳障りなものはないわ。全て凍らせてしまえば、美しい静寂が訪れるのに」


 肉体と鎧が融合し、背中に歪んだ因果紋章を背負う『因果逆転と報復』の異形、ザルバディオ・カルマ。


「……因果は巡る。貴様が部下を死なせたのではない。彼らの弱さが、死という結果を引き寄せたに過ぎない。……だが、その均衡は我が正そう」


 巨躯に鉄色の肌を持ち、巨大な鎖杭を引きずる『暴虐と重圧』の化身、バルザ・グラウス。


「御託はいい。目障りなものは潰す。それだけだ。」


 目隠しをした黒衣の預言者、手に古き黙示録を携えた『沈黙と終末預言』の男、ネフロス・オルディナ。


「……その結末は、既に定まっている。書かれざる未来など存在しない。我等はただ、その終焉のページをめくる指に過ぎないのだから」


 そして――銀髪に、片翼は光、片翼は影という相反する翼を持つ、清楚で気品あるドレス姿の女。『調律と背反』の災禍、ミュリエル・エリュシオン。  


 彼女だけは、他の悪魔とは異なり、静かで理性的な瞳をしていた。


「……私は、無意味な殺戮は好みません。争いは何も生まない……。ですが、世界の歪みを正すためならば、運命には抗えないこともあるのでしょう」


 アスモディルが、空席となった部下達の立ち位置を一瞥し、鼻で笑う。


「見かねた我らが、主の復活のために力を貸してやろうと言っているのだ。跪いて感謝するがいい、深淵公」


「何だと……?」


 ネグラトゥスの目が剣呑に光る。だが、六公の実力が侮れないものであることは彼自身が一番理解していた。今の枯渇した戦力と、一向に溜まらぬエネルギーを考えれば、彼らの手を借りるほかないのも事実だ。


「……フン、良かろう。ならば行け、災禍六公よ! エデンを焼き払い、精霊王の加護を受けたあの小娘――カリナの首を我が前に並べて見せよ! そうすればエネルギーなど瞬く間に満ちる!」


 ネグラトゥスが命令を下す。しかし、アスモディルは動じないどころか、心底可笑しそうに肩をすくめた。


「勘違いするなよ、深淵公」


 アスモディルの背後から伸びる巨大な黒翼が、バサリと威圧的に広げられる。


「エデン……か。フン、面白そうな場所ではある。だが、我等は勝手にやらせてもらう」


「……何?」


「我らが動くのは、あくまで『主』のため。貴様の命令などで動く駒ではないということだ。奴らをどう料理するか、あるいは泳がせて絶望を深めるか……全ては我等が決める」


 アスモディルは愉悦に歪んだ笑みを浮かべ、深淵公を一瞥した。


「焦るな。楽しみはこれからだ。最高の舞台で、最高の絶望を与えてやらねば、主への供物として相応しくないだろう?」


「……チッ。ならば好きにせよ」


 ネグラトゥスは忌々しげに吐き捨てた。彼らが自分に従順でないことは癪だが、その強大な力が解き放たれれば、いずれ世界は混沌に包まれる。今はそれでよしとするしかなかった。


「行くぞ」


 アスモディルが短く告げると、六人の姿が空間の歪みに溶けるように消えていく。最後に残ったミュリエルが、憂いを帯びた瞳で一瞬だけ虚空を見つめ、静かに姿を消した。



  ◆◆◆



  一方その頃。城の地下深くに位置する、冷たい石造りの一室。謹慎を命じられた影霊子爵ヴァル・ノクタリスは、暗闇の中で独り、自身の傷を癒やしていた。


 カリナのスカーレット(真紅の)スティンガー(一刺)を十四発も浴びた体は未だ完全には戻っていない。だが、彼の内側で燃え上がる炎は、傷の痛みを凌駕していた。


「おのれ……召喚術士カリナ……聖女サティア……ッ!」


 脳裏に焼き付いているのは、屈辱的な敗北の記憶。人間ごときに命乞いをした己の無様さと、それを冷徹に見下ろした彼女達の視線。その屈辱が、古傷のように疼き続ける。


「この屈辱、決して忘れぬ……!」


 深淵公からは「大人しく反省しておけ」と命じられている。だが、ヴァル・ノクタリスにとって、その命令など何の意味も持たなかった。彼のプライドを粉々に砕かれた恨み、そして復讐への渇望は、主君への忠誠すらも焼き尽くすほどに膨れ上がっていた。


 あの災禍六公とかいう連中が動き出した、今こそ好機。奴らが派手に動いてエデンの目を引きつけている隙に、我の手で、あの小娘達を確実に葬り去る――。六公の手柄になどさせてたまるものか。奴らの首を獲るのは、このヴァル・ノクタリスだと。


「我の手で……必ず殺す……!」


 ヴァル・ノクタリスはゆらりと立ち上がった。その瞳には、理性を焼き尽くすほどの怨嗟の炎がどす黒く燃えている。


 謹慎の身でありながら、彼は影に溶け込むようにして部屋を抜け出した。新たな脅威『災禍六公』の始動。そして、復讐に狂った影霊子爵の独断専行。


 エデンとカリナ達に迫る闇は、静かに多方面からその牙を剥こうとしていた。


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