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第四十五話 ぼくだけが知ってる秘密(夏向視点)

 窓の外から差し込む光が眩しくて目を覚ますと、隣に座っている新太が爆睡していた。


「……やっぱり、夢だったのかなぁ」


 あのとき、ぼくは眠っていたはずだったんだ。

 昨日っていうか、今日の明け方はほとんど寝られなかったから。

 でも、頭の中に響いたんだよ。


『――何かあったら今度は俺が味方になってそばにいてやるからな』


 あれは確かに、新太の声だった。

 新太検定一級のぼくが、新太の声を間違えるわけないからね。


「……そのわりには、妙にハッキリ聞こえたんだけどなぁ」


 爆睡してる新太のことをじっと見ても、答えなんて出そうにない。

 もしかして、ぼくの願望が夢の中に現れちゃったってこと?


 嫌だなぁ、そういうの。

 夢じゃなくて現実で起きてほしいから。


 でも、今のぼくは以前ほど不安になったり焦ったりしていないんだ。

 この思わぬアクシデントの小旅行を乗り越えたことで、これまでのぼくたちとはまた違う関係性になれた気がするから。


 なんとなくだけど、今後同じように変な空気になっちゃったとしても、もう一緒にいられなくなるくらい最悪なことにはならないと思うんだ。


 ぼくが恐れていたような、ぼくが女の子だってバレてしまうことによって距離を置かれるって心配は、もうしてないんだ。

 まあ新太は混乱するだろうけど、ぼくと向き合うことを放り出すようなことはしないと思う。


 今すぐ告白することは、ぼくの願いが届く近道になるのかもしれない。

 それでも……もうしばらく、このままの曖昧な関係性でもいいかなって思うんだ。

 本当のぼくのことが新太にバレてしまうことに、今は不安以上にワクワク感がある。


 いつ、ぼくの正体に気づいてくれるんだろうって。

 ドキドキを楽しめてしまっている自分がいるんだ。

 少し前のぼくなら、新太から距離を置かれることを気にして、そんなのんきな気持ちを抱えることなんてできなかったよ。


 突然の大嵐は、ぼくの不安や焦りまで洗い流してくれたのかも。

 ちらっと隣に視線を向けると、相変わらず呑気に目を閉じている新太がいる。


 新太がお隣さんでいる限り、そんなに焦ってないんだよ。

 じっくりぼくのことを好きになってもらえればいいし。


 でも、新太のためにぼくはこれまで頑張ってきたわけだし、ちょっとくらいご褒美があってもいいと思わない?


 ぼくは、周囲の視線がないことをきょろきょろ確認すると。


 身を乗り出して、新太の頬にちゅってしちゃった。


 途中で起きちゃったらすっごく恥ずかしいから、ほんの一瞬だけどね。

 それでも、席に腰を下ろしたぼくは、背筋がピンと張っちゃって、自分の意思でやったことだっていうのにとんでもなくすごいことをしちゃったんだって緊張に襲われてしまった。


 新太からしてくれたら、ぼくと新太でドキドキをはんぶんこできて気持ちが楽になるのに。


 しばらくは、ぼくの独り相撲で終わっちゃいそう。

 ぼくの本心は、まだまだ新太にはぜーんぜん伝わっていないけれど、新太の恋人役ってポジションは、ぼくだけのものだ。


 役でしかない偽物の関係が、本物になってくれるまで、ぼくは新太のそばにいたいから。


 今は新太の隣で、新太の夢にぼくが登場して少しでもぼくのことを好きになってくれることを願いながら、ぼくは目を瞑るのだった。


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