第三十七話 祭りのあと
河川敷で花火を見届けたあと、最寄り駅へ向かう道すがら。
「やっぱ特等席の花火は最高だったなぁ」
「そうね。よかったわ、いい場所を見つけられて」
周囲には夏祭りの参加者たちがまばらに歩いているのだが、盛り上がる拓弥や鷹木さんと違って俺はいまいち乗り切れずにいた。
せっかく拓弥と鷹木さんが見つけてくれた特等席で満開の花火を目にしても、俺はずっと夏向とのことが引っかかっていて、十分に楽しめなかったから。
「新太、ありがとうな。いい感じに二人きりにしてくれて」
拓弥が寄ってきて、耳打ちしてくる。
今となっては、余計なことをしてくれたな、と思うのだが、拓弥の提案を引き受けたのは他ならぬ俺の意思なのだから、八つ当たりなんてしたらダメだ。
「それで、新太の方はどうだったの?」
声を潜める拓弥。
同時に、俺の視線は鷹木さんと一緒に前を歩いている夏向の方へ向かってしまう。
「どうって?」
「夏向ちゃんとのことだよ。二人きりになっただろ? なんか進展あったのかと思って」
「……やっぱりそういうつもりか」
「あらら、バレてたの。でも美夜子ちゃんと仲良くなりたいのはオレの本心だよ」
相変わらず本心がわかりにくい拓弥が、へらへらしていたのもここまでだった。
「上手く行かなかったっていうなら、先に謝っておくよ」
俺の葛藤を見抜いているのかもしれないと思えるような真剣な視線を向けてくる拓弥。
「……別に、拓弥を責めるつもりはないって」
夏向の件で気になってしまうまでは、俺は上手いこと夏祭りを楽しめていたと思う。
それは、こういう場に引っ張り出してくれた拓弥のおかげだ。
ケチが付いてしまったのは、他の誰のせいでもなく俺のせい。
夏向相手に気になっていることを口にすることができず、踏み込むこともできず、モヤモヤしているだけの俺が悪い。
「拓弥、お前は――」
夏向のことを女の子だと疑っているフシがある拓弥に訊ねれば、俺のモヤモヤも晴れるかもしれない。
けれど答えを知れば、俺はますます夏向とどう関わっていいかわからなくなりそうだ。
それなら……曖昧なままでも、現状維持でいた方がいいんじゃないか?
「新太~、どうしたの?」
俺がもたもたしているうちに、夏向がこちらにやってくる。
夏向を前にするだけで、少し前の俺と違って身構えるようになってしまった。
「いや、どうもしないけど?」
今のところ、すぐバレるような反応はしちゃいないけど、これまでは大丈夫だったはずなのに、とうとう夏向がそばにいるときでも呼吸が苦しくなり始めていた。
「そっか……無理はしないでね」
俺のことを心配してくれているらしいだけに、申し訳無さはある。
ふと視線を感じて振り返ると、拓弥が首を傾げていた。
「なんだ?」
「ああ、ちょっとね」
拓弥にしては珍しく深刻そうな雰囲気を出してくる。
俺の迷いが伝染でもしたのだろうか?
「まあいいや。今日は美夜子ちゃんといっぱい話せてさ、新太のおかげだよ。お礼に今度新太に何かあったら、ガッツリ相談に乗ってあげるから、何でも言ってね」
「……ありがとうな」
拓弥は察しが良いから、もしかしたら気を遣わせてしまったかもしれない。
俺だって、いつまでもいじいじしていたら余計に事態が悪化することくらいわかってる。
真相はどうあれ、夏向は俺のかつてのライバルで、仲間ってことに違いはない。
だからこそ、早急にどうにかしたかった。




