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第三十話 どうも怪しいな……

 大学の廊下で、俺は不思議な頼みごとをされてしまった。


「頼む! 新太! お前も協力してくれ!」


 次の講義を受けるために講義棟内を移動していた俺を呼び止めたのは、拓弥だった。


「協力って、何を?」


 その逆はよくあることなのだが、拓弥から協力を要請されるなんて珍しい。


「ほら、今度、河川敷の夏祭りがあるだろ?」

「ああ、この間話してたヤツか」

「そうなんだよ。一緒に来てくれ」

「……俺と拓弥で一緒に行くのか?」


 男二人で夏祭りか……。

 なんだか大学生の夏祭りっぽくないんだよな。小学生の縁日感があるよ。まあ拓弥と一緒ならそれなりに楽しめるだろうけど。


「ちがーう。いやキミとも行きたいけどさ!」

「ありがとうな」

「オレは、この間のほら、美夜子ちゃんと一緒に行きたいんだよ」

「じゃあ直接鷹木さんを誘えばいいだろ?」

「鈍いなぁ。オレが美夜子ちゃんを誘えると思うか? ドキドキしちゃって無理だよぉ」

「アホか。俺じゃあるまいし。下手な演技はやめろ。……ていうか、お前、鷹木さんのこと好きなの?」

「きゃ~! こんなところで言うなよな! 恥ずかしいだろうが!」


 はしゃぐ拓弥の横で、俺はすんっ、って表情が消えた。

 なんか、怪しいな……。


 ぶっちゃけ、拓弥はモテる。

 俺が知る限り、拓弥が異性の前で慌てたことなんて一度もない。


 どちらかというと、異性の方が拓弥を前にして緊張してるのかも? って思うくらいだ。


 そんな拓弥が、異性を誘うのに俺に協力を求めるか?


 これは何か企んでる香りがする……。


「わかった。俺はいいから、お前と鷹木さんで楽しんでこい。大丈夫、お前が誘えばオーケーしてくれるよ。俺が保証するから。じゃあ、次の講義があるから」

「待て待て。美夜子ちゃんと二人きりとか恥ずかしいだろ! 新太と一緒に夏向ちゃんも呼んで、ダブルデートをするって言ってくれるまでオレはキミを話さないからね」


 拓弥は、レスリングのごとく俺の胴体をしっかり腕でホールドしてくる。

 講義棟の中なだけに、当然のことながら周囲では学生たちが頻繁に行き交っている。


「あれ、なに?」

「痴情のもつれ?」

「ああ見えて、きっとあっちのイケメンくんよりデカい子の方が受ける側ね!」


 白い目ならまだしも、好奇の視線を向けられるのはちょっとばかり不本意である。


「おい、やめろ。わかったよ……」

「おお、やっぱりキミに頼んでよかったよ! 心の友!」

「まあ、お前には世話になってるから」


 どう考えても、鷹木さん目当てってところは怪しいにも程があるけど。

 とはいえ、拓弥が誘ってくれてよかったのかもしれない。

 こんな機会でもない限り、夏祭りなんて行くことはないから。


 夏祭りなんて、同年代の女子が殺到するスポットで、俺にとってはアジア予選における中東並の超絶アウェイな環境だ。


 この前のカラオケのときの四人で行くとなれば、俺でも迷惑をかけることなく楽しめるかもしれないという期待があった。


「じゃ、夏向ちゃんには新太の方から話しといてくれよ!」

「えぇ、俺が?」

「だってオレじゃ、夏向ちゃんは嫌がるからさ! 大丈夫! 新太が夏向ちゃんとデートしたいって言ったら、喜んでくれるって」


 嫌がる姿は想像できないけれど、夏向とデートねぇ。

 夏向が相手となると、俺が思い描いていた夏祭りデートのイメージではなくなるのだが、これも親友のためだ。


「わかったよ。伝えておく」

「頼むぜー」


 拓弥は俺の肩をポンと叩き、忙しそうに去っていく。


「鷹木さん狙いだなんてウソって決めつけてるけど、そういえば俺、拓弥の本心まで把握してるってわけじゃないんだよなぁ」


 誰とでも仲良くできる拓弥だからこそ俺には把握できていないところがあって、もしかしたら本気で鷹木さんのことが好きだったりするのかもしれない。


「やば。俺も急がなきゃ」


 講義室へ向かうべく、俺は階段を駆け上がった。

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