第二十一話 大学内で一番つるむ機会が多い友達
その日、午後の講義が始まる前に腹ごしらえということで、俺は大学内の学食にいた。
「――最近の新太ってさ、初めて会ったときより楽しそうな顔すること多くなった気がするんだよね」
俺の向かいの席に腰掛けている、拓弥が言った。
拓弥は短めの黒髪をしていて、前髪は真ん中で分けている、シュッとしたタイプのイケメンだ。スマートな体型をしており、俺ほどではないがそれなりに身長もあった。
楠野拓弥とは、大学生になったばかりの頃のオリエンテーリングで隣同士の席になった縁で話すようになり、今も仲良くしている。
見た目はいかにもチャラいのだが、大学内で目立つ存在じゃない俺が相手でも親切にしてくれる義理堅いヤツだ。
「えっ、そうかな?」
そんな相手から変化を指摘されるのだから、俺だって真面目に受け止めるというもの。
「そうだよ、絶対変わったって。わかった、ほら、あの子だ。新太がよく話してる、あの夏向って子のおかげなんじゃん?」
拓弥には、夏向のことを話していた。
「ああ、夏向の……」
確かに、それはあるかも。
気楽ながら責任も伴う一人暮らし! と構えていたところに、かつてのライバルがお隣さんで、当初思っていたよりずっと賑やかな生活を送っているのだから、以前の俺とまったく同じというわけにはいかないだろう。
「やっぱ、新太みたいなカタブツを変える力があるのは女の子だよなぁ」
「いや待て」
盛大な勘違いをしていやがる。
「悪いが、夏向はそういう対象じゃない。前にも散々話して聞かせただろ?」
何かとグイグイ来る夏向のことを、拓弥には話しているのだけど、そのたびに拓弥は夏向を女子だと勘違いして、恋愛方面のトークに持っていこうとするのだ。
拓弥はいい奴だけど、ちょっとばかり恋愛脳なところが玉に瑕だ。
「はいはい、その夏向ちゃんは『男の子』だって言うんでしょ? ごめんごめん、オレってばうっかりしてたわ」
「なんか納得してくれてないっぽい言い草だな……」
何故か拓弥は夏向のことを女子だと思い込みたいらしい。
何度か写真を見せたことがあって、同性だと言っても信じていない感じだったから。
確かに事情を知らない人間が夏向の見た目だけを目にしたとしたら、女子と勘違いしたって全然おかしくはない。拓弥に限らず。
けれど、夏向が女の子じゃないってことは、俺の体が知っている。
本当に女の子だったら、夏向とあんなにぴったり密着できないのだから。
夏向は限りなく女子に近い男子。
それが、最も自然に近い結論なんだよ。
「新太、提案なんだけどさ」
「なんだ?」
「一度、オレにもその夏向ちゃんと直接会わせてくれない?」
「……何故?」
「おいおい、警戒しないでよ。だって、新太と会うたびに話しに出てくるんだから、どんな子なのかオレだって興味持つよ」
「まあ、それもそうか……」
「それに、親友の昔の友達がどういう人か、純粋に興味あるしね! ああ、安心してよ。新太が一緒にいるときでいいから。二人きりで会ったりなんかしないよ。新太の大事な『友達』を奪っちゃうようなことはしないからね」
今まで散々夏向の話をしておいて、会わせないというのも変な話に思えた。
拓弥にはあまり隠し事はしたくないし。
「わかった。今度夏向に都合のいい日を聞いておく」
「ありがと。やった、ついに噂の夏向ちゃんに会えるよ!」
「お前のことだから大丈夫だと思うけど、いらんことは言わないでくれよな」
「わかってるって。これでもオレは、新太からの信頼を大事にしてるんだからさ!」
拓弥がそう言うのなら、妙なことにはならなさそうだけど。
あとは夏向の都合がつくかどうか。
あいつは普段は暇そうだけど、バイトに大学生活に、と忙しいときもあるから、早めに連絡をしておくとするか。




