第9話 覚醒
サリアの町で一夜明けて、次の日。俺達は依頼を受けていた。よくあるモンスターの討伐の依頼だ。
『ルドシシ』
と言われている。まぁ、黒い大きな猪というイメージだろう。魔力を多く持っているのが特徴で、【強化】と言われるスキルも併せて持っている。強化は魔力を消費して身体能力を上げるスキルなのだが。
ルドシシはそのスキルを使い体を強化して突進してくる厄介なモンスターである。
そんなモンスターの依頼をギルドで受けることにした。冒険者はギルドから依頼を受けることができるのだが、そこでも彼女は差別対象だった。
この町でもかぁ……分かってはいたけど。
普段と一緒で可哀想って言うのもあったのだが、それ以上に危ないと感じた。ここには強い冒険者が多い、アニメでも殴られたりしてたり、かなりの怪我をする場面があった。
人間虐めて良いとなるとどこまでも、甚振る。アニメ通りなら、と考えてもいたし、危ない場面は俺が回避するとかも思っていたが。
「さっさと力を得る方がいいか」
「え?」
いずれ最強になると知っている彼女だが、今はそうではない。今は危ないのだ。だからこそ、さっさと強くなってしまった方が良いのではないかと俺は思いなおしていた。
そんな考えをしながら『サリアの森』と言われる場所に入っていく。ここにルドシシが多く出没しているらしいのだ。
サリアの森は巨大な木々に囲まれ、昼間であっても葉などによって日の光が遮られて薄暗い。
足場も悪いが、ところどころにモンスターの足跡がある。
「ルドシシのだな。近くにいるかもしれない」
「油断しないようにします!!」
やる気十分という表情のシエラ。むん! という表情の彼女は可愛い。この子、黒髪に青目じゃなければ本当にモテただろな。
顔はお世辞抜きで超可愛いし、胸も……でかくね? あれ、15歳……15歳か!?
アニメでも巨乳キャラっぽかったけどな。うむ、デカい……流石に口には出さないけどな。
「ん?」
急に彼女は足を止めた……
まさか、俺の思考が読まれた!? やましいことを考えていたとバレてしまったのか……。
「これって……ミクスさん、ちょっといいですか?」
「まさか、胸か!?」
「……え? 違いますけど……あの、ちょっとこっちの道行ってもいいですか?」
「あ、うん」
良かった。胸じゃなかったようだ。彼女は急に森の中をそさくさと進み始めた。
どうした? そう疑問に思いながら彼女に連れられ進んでいくと、薄暗い森の先に黄金に輝く木の実がなっていた。
「これ、ステータスアップの木の実ですよね……やっぱりあった……」
「……何で分かった?」
「なんか、他の木の実とは違う感じがしたんです!」
「マジで? そういうので分かるのか……俺全然分からなかったんだけども……凄いなおい」
「……えっと、勘? 農民スキルの副次的効果ですかね?」
「え、副次的効果強すぎだろ」
なんで分かるんだよ……。そう言えばアニメでもステータスアップの木の実を急に見つける様子があったな。
「なんと言うか、植物の気配が分かると言うか……」
うーん。この意味不明具合……いやいや、ツッコミ所が多すぎて笑えてくるんだけど。
うん、チートスキルなのは知っている。いや、だとしても凄すぎない!? 植物の気配が分かるってなに!?
植物に気配とかあるの!?
「これ、すっごい不味いんですよね? 私は食べたこと前にあるんですけど。恥ずかしい話なのですが……その時は嘔吐してしまって……無駄にしてしまいました」
「うん、これは凄く不味いからな。しかも吐いたら吐いたで効果も無しになってしまうからなぁ」
さて、アニメでも登場するこのステータスアップの木の実。確かに食べることでステータスが上がる。だからこそ、高値で取引もされる非常に希少な食材。
しかし、この木の実……
ステータスがアップする代わりに……とんでもなく不味い。ゲロまずい、まるでゲロを煮立てて、ゲロをかけて濃縮をさせたような感じの味と言われている。
俺も偶々食べたことあるけど、マジでまずい。ただ、レアなのは代わりない。冒険者はこれを泣きながら食べるのが様式美なのだが……
大体の連中は吐いてしまうのだ! 俺も一回食べたが、なんとか飲み込んだ!
しかし、その代償は大きくその日は何も食べることができず、次の日に熱も出るくらいに体が拒絶反応を出した。人間不味すぎるのを食べると体が反応してしまうんだろうな!
だが、ステータスアップの木の実、市場に出回る以外で見るのは人生で2回目だ。そもそも、珍しいと言うのもあるが、この木の実はすぐに枯れてしまうのだ。
見つけたらすぐ食べないと、すぐ落ちて土に還ってしまう。
冒険者は人生に3回しか、この木の実に出会えないと言うくらいには珍しい。
「私、吐いてから、50回は見つけてるのですがその度にスルーしてるんですよね。ステータスアップの木の実はどうせ食べても吐いてしまいますし」
「……え?」
おい、ステータスアップの木の実はそんなポンポン見つからないんだよ。俺もこの世界で22年間生きてきたけど、市場に売られている以外には
森で1回しか見たことねぇよ!! 冒険者は大体生涯で3回は出会うって言う話があるのを軽く越えるなよ!!
おい50って、多過ぎだろ!
「50も見つけたのか」
「はい!」
いや、そんな元気よく返事されても……なんで収穫して売らなかったんだ? 高値で売れるはず……
あ、そうか。アルドとか、他の冒険者に大金持ってたら取られるし、黒髪青目の女からそもそも買い取る人間も居ないのか。
だから、スルーしてたのね。うーん、しかし50回も出会うってやばすぎだろ!!
どう考えてもチートスキル過ぎて笑えるんだけど!!!
これ追放したやつバカだろ(爆笑)
「そうか、うん50回も出会えるのって才能だろ。やば過ぎる」
「そ、そうですか? 私凄いですか? あ、あんまりピンとこなくて」
無自覚チート主人公特有の、鈍感やめて。どう考えてもやばい才能だよ。正直引いてます!
「とんでもないよ、流石だ! シエラ!!」
「そ、そんな!! ミクスさんにそう言われたら調子に乗っちゃいます!」
「これは調子に乗ってもいいと思う」
「でも、私は所詮Gランク冒険者ですから……」
いや、そこで謙虚になる必要ある!? もう、ちょっと逆に嫌味に見えちゃうよ。
これで追放されるって……
アニメでもステータスアップの木の実を見つける描写は確かにあった。でも、生で見ると普通に凄過ぎて意味わからん。
うん、意味わからんわ。やはり主人公か、流石すぎる主人公だな。
これはいずれチート最強主人公になりますわ。
失礼な態度をとっていた【救済の光】が本当に可哀想に可哀想(そんなことは微塵も思ってない)
いやー、いずれ世界最強になる存在を追放して、虐めてたわけでしょ?
他国の王子とかも惚れて、結婚迫るでしょ? この後すぐにSランク冒険者の公爵家とも知り合いになって好かれるでしょ?
マジでウケるんだけど笑。救済の光、マジで可哀想、不憫だね(そんなことは微塵も思ってない)
俺の事をモテないとかバカにしてたのも、これからの彼等の境遇を考えると許してやってもいいかもな(許すとは言ってない)。
「いや、凄いよ! 流石だぜ。シエラ!」
「へへ、そ、そうですかぁ?」
「いや、凄いよ(ドン引き)」
「え!? な、なんでそんな引いた顔してるんですか!?」
「いや、ついね」
いやね、これだけでも驚きな農民スキルなんだけどね。
とんでもないことに……これを彼女は農民スキルで量産出来る。アニメでも量産してた。
え、これって量産できるの? いや、俺もアニメ知識だから当たり前のように語ってるけど、ステータスアップの木の実を量産出来るって
ちょっとやば過ぎない?
いや、でも流石にそれは無理でしょ?(盛大なフリ)
だってね、俺のはアニメ知識だし。アニメと現実は違うよね、流石にさ(盛大なフリ)
いや、無理だと思うなー。でも、一応、ステータスアップの木の実を量産できるか。聞いてみる?
「あのさ、シエラさ。このステータスアップの木の実、農民スキルで育てられる?」
「え? ま、まぁ。多分? 出来ると思います」
「えぇ……(ドン引き)」
「だ、だから、なんでそんな引いた表情するんですか!? ミクスさんにそんな顔されるなら、これいらないです」
「いや、とんでもない才能だから大事にした方がいいと思う!」
「はい! ミクスさんがそう言うならやっぱり大事にします!!」
うむ、良い返事だ。それはそれとして出来るのかよ!?(分かりきってた驚愕の事実)。うーん、この圧倒的チート感。
マジで!? アニメの知識で知ってたとしてもとんでもないぐらいの衝撃なんだけど。
おいおいおいおいおいおい、これ許していいの? おい作者、いくらなんでも無茶苦茶だろ!!!!
自重しろ!!!!
「で、でも量産してもそんな食べれないですし。不味いですし……吐きますし。私じゃ売れないですし……誰も買ってくれないし……」
「なるほど、確かにその悩みはもっともだ」
彼女の悩みも最もだ。確かに彼女はアニメで最強格になる。俺が見たのはアニメワンクール12話までと、動画サイトの解説動画と少し。
どちらでも彼女は最強という存在になっていたし、そのように説明されていた。
ステータスは5桁になっていた(俺は4桁)
だが、ステータス数値5桁になるとは言っても……すぐになる訳ではない。
それは先ほどにもあった不味いと言う理由がどうしても絡んでくる。
彼女も1度食べて嘔吐をしてしまったと言うくらいだ。嘔吐したら効果は消えてしまうし、こんなのポンポン育てられたとしても普通食べられない。
なら、アニメの彼女はそれをどうしていたのか。
なんと……それを泣きながら彼女は食べたのだ。と言う描写が回想で繰り広げられるだけだった。
気合いで食ったらしい。まぁ、彼女の場合は誰にも頼れない状況だったらかやるしかないと覚悟がガン決まっていたんだけどね。
追放されて、サリアの町に来たのは良いけどパーティーを組んでくれる人が居なかったから。
そうするしかないってなるんだけど。木の実は吐いて、食べて、育てて、食べて、吐いて、食べての無茶苦茶な方法でステータスを上げたらしい。
吐いたら効果は消えるけど、それ以上に食って育てるって凄いな。
まぁ、吐いたら効果消えるからそう簡単にポンポン上がっていた訳ではないらしいんだけどね。
さて、話が逸れたな。要するにステータスアップの木の実を育てるのは流石に無法だよねって事なんだよね。
「あ、これ木の実の中には種子が入ってるんだ。まぁ、普通に育てても、育つことはほぼないんだけど……シエラこれを農民スキルでちょっと、育ててみてくれ」
「え? あ、はい」
そう言って、彼女は木の実を割って中にある種を土にまいた。割った瞬間、異常な臭みと匂いがきてる、正直吐きそう……
しかし、これはちょうど良い機会だ。アニメでもこの木の実を見つけるのはもう少し先だったけど!!
でも、早めに彼女が見つけることができたのだから、ここでステータスアップの木の実を育てても良いかもしれない!!
それにしても、臭い……ステータスアップの木の実はやはり、とんでもなく臭い。これを俺が一度とは言え1回食ったのは凄いわ。
我ながらよく食ったねこれ(自画自賛)
「お、おえー」
「シエラ大丈夫か。おえー」
「は、はい、あの、逆に大丈夫ですか?」
「余裕だね」
「あ、顔色悪いですよ。無理しないでくださいね。えっと……種まいて……えい!!!」
彼女は種を蒔いて、自身の手を地面に置いて力を込める。辺り1体は森であり、薄暗いのだが、大地が光り輝き少し眩しい。
そして、信じられないことに木が1本急に生えて、そこからどんどん木の実が実っていく。全てステータスアップの木の実だ。
黄金色のりんご型木の実である。
「あ、できましたね」
「えぇ……マジかよ!?」
いや、やらせておいてなんだけど……なんで出来るんだ!!
これで追放とかされるのマジで意味わからん!!! もしかして、あの【救済の光】とか言うパーティーは節穴しか居なかった?(今更)
あと、これくらいは割と当然みたいな反応なの怖いんだけど……
「えっと、これ、食べられそう?」
「……わ、私はあまり匂いがその……で、でも、ミクスさんが食べろと言うなら食べますし、舐めろと言うなら舐めます! 咥えろと言うなら咥えます!!」
「そうか……ん? 後半は……まぁ、いいや」
不味くて沢山食べられないって言うのがこの木の実の悪い所なんだよね。まぁ、そもそも沢山食べるって場面に普通は巡り合わないんだけどさ。
そして、臭いからと言って嘔吐をしたらステータスは戻ってしまう。
──その時、俺の脳内に電流走る!!
「……あ、臭みを抽出すればいいのか」
「え!? そ、そんなのできるんですか!?」
「いや、もしかしたらだけど。出来るかもしれない」
「ええ、それ出来たら超凄いですよ。でも、抽出って結構難しいって聞きますし、慣れてない素材でないと更に難しいって聞きます」
「あー、でも、俺は成功確率は割と高いと思うよ。ずっとこれやってるしね」
美味しいご飯作りたかったからね。植物や動物肉からの抽出はずっとやってきてるからね。これくらいは出来るさ。無論、確率100%ではないけどね。
他の錬金スキル持ちよりは高い自負がある。まぁ、普通こんなこと錬金スキル持ちはしないからね。
他の魔剣とか特別な鉱石とかから、抽出するのが普通でありそこから道具を作るのが錬金スキル持ちの常なのだ。逆に俺はこの辺が一切できない!!!!!!
だから、割と年収低めなのだ!!!!(だから、おこぼれ欲しい)
「そんじゃ、取り敢えずチャレンジ精神って事で、抽出するわ」
このステータスアップの木の実、普通は抽出なんて出来ない。抽出はどうしても失敗の確率があるからな。
抽出は失敗すると、元の素材の効果とかをぶっ壊してしまうから。高級な素材、貴重な道具とかでは絶対に試せない。
まぁ、何事にも例外はいる。彼女みたいに量産ができるなら、失敗してもポンポン新しいのを出せるみたいだし。
失敗してもリスク無しだね
「【抽出】」
「おお!! す、凄い!」
──俺のスキル
「錬金」
・魔力を消費して、物質創造ができる
・作られる物質によって、魔力消費が大きい
・素材同士を調合もできる。魔力を消費する。また、失敗する可能性もある
・素材から抽出もできる。抽出した場合は結晶となる。また、還元も可能
抽出は失敗の確率がある。しかし、これは何度もトライする事で失敗の確率を無くすことができる。
俺は多分、凡人タイプだからこそ失敗をしない、と言うのは出来ない。
だがしかし、失敗の確率を低くするのはできる。それに加えて、美味しいご飯食べたくて植物、動物の肉、などは沢山抽出をしてきた。
木の実を両手で包んで、対象から一部を抜き取る感じ。適切に抜き取らなければ失敗するし、抜き取る対象を間違えた場合でもそれを知る術はない。
もしかしたら、ステータスアップの木の実のステータスが上がる特性だけを抜き取る、と言うのも出来るかも! と一瞬思ったが、
これ、抽出ってスキルの説明欄には書いてないけど、抜き取る要素の概念効果が大きければ大きいほど失敗確率上がるんだよね。これは本とかに書いてないけど、多分そう(独学)
ステータスアップなんて、無茶苦茶な効果を取ろうとしたら誰でも失敗する。それに俺は食事の為に抽出をしてたからね。
慣れてる臭みとか、香料、旨み、そう言うのを取るのが得意なだけなんだよ。
「おっと、出来たわ……なるほどね。ここらへんの感覚は普通の果物と同じなのか」
ステータスアップの木の実の上に、結晶が1つ置いてあった。多分、臭みが抽出されてる。結晶の中に閉じ込められてる。
急に匂いが消えたのが良い証拠だ。ふむ、この世界の果物は臭みとかが強いのが多いからだけど、成功した時の感触と今抽出し終わった感覚は似ている。
つまりは成功って事だ。
ふっ、流石俺だな……と言いたいけど、シエラとか言う才能の前だと何も言えない。ここまで大きい才能の前だと調子に乗れんのだ。
メジャーリーガの前で草野球でちょっと活躍してた奴がイキっても恥ずかしいみたいな感覚だわ。
「お、多分成功した。食べてみな」
「は、はい! ……こ、これは美味しいです!!」
彼女は黄金のリンゴを食べる。目を見開きながら、彼女は驚愕のように告げた。更に、彼女の体からも黄金の光が溢れ出している。
これはステータスアップの証の光だな。前に俺も食べた時も同じような症状が出来た。うん、あの時はあまりに不味過ぎて気絶しそうだったけどね。
さて、どんどん抽出しよう。
「はい、これも抽出成功」
「た、食べて良いんですか?」
「おう、当然だ」
「あ、ありがとうございます! ステータスアップの木の実って、それをめぐってパーティー内で争いが起きるって聞いたことあるくらい貴重なのにそれを私にくれるなんて!!!」
「いや、シエラが育てた木にあと10個くらいなってるし。争うことじゃ……(冷静なツッコミ)」
それにしても後、10個くらいなってるんだけど……嘘でしょ。ええ、12個? 俺もこれで人生で13個の木の実と巡り合ったことになる訳?
まぁ、農民スキルに何を言っても無駄か。
ふむ、だがしかし、割と上手くいくようだな。アニメだと彼女は1日1個食べるだけで精一杯だがこの時点で2個食べられてるぞい!!
もう、魔改造してしまおうか……
「ステータスどれくらい上がった?」
「えっと……2つで400くらい攻撃上がってます!!」
「……あ、そうなんだ」
え、えぇ……怖いんだけど。いや、これを提案したのも俺だし、やらせたのも俺なんだけどさ。
俺のステータスで今、平均6000弱くらいだよ? アニメのミクスの平均が4000前半代だったはず。
俺、これでも頑張って努力してるんだけども。だがしかし、この一瞬で400って……
俺も前に一度食べたことあるけど、その時は1個で100程度だったはず。やはり彼女が作った果物は普通より美味しいから、彼女が作ったステータスアップの木の実も美味しいってことかな?
「どんどん食べていこう」
「はい! で、でも、私ばかり上げても……」
「いや、俺は良いから、そんな事よりステータス上げな」
「は、はい! ありがとうございます!!」
どんどん食べさせよう。このサリアの町は昨日情報屋に聞いたけど、治安が悪い部分も多いらしい。
アニメでは描いてなかった部分のエグい目にあうかもしれない、俺が見ていたアニメだけど、元は原作小説らしいからそっちの方が基準となっている気がするし。
アニメより酷い目に遭うらしいし。
「この木の実、臭みとると美味しいですね!」
「大体、この世界って、どの食材も臭みとると食べられるんだよね」
「……この世界?(やっぱりミクスさん、この世界って言い方しますね)」
どんどん、食べさせて良いかもしれない。むしゃむしゃ、と笑顔で彼女は木の実を食べ続けていく。
ちょっと気になったので、彼女のステータスプレートを見させてもらった。
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20→20
【生命】200 → 220
【魔力】200 → 200
【攻撃】50 → 450
【防御】80 →90
【俊敏】70 → 90
【スキル】
「農民」
・植物の成長速度を上げる
・土地を肥沃化させる
・魔力を消費する
「魔物念話」
・特定のモンスターと会話できる
おいおいおい、どんだけこの短期間で上がってんだよ……リンゴ2つ食っただけだぞ!!
攻撃が50がいきなり450になってるだと!? レベルアップもしてないのに!!?
無茶苦茶すぎるだろ……
お、俺もそれなりに高いはずなのに直ぐに追いつかれそうな気がする。
自分のステータスプレートを確認する。
【ミクス】
【ステータス】
【レベル】54
【生命】6700
【魔力】6000
【攻撃】6600
【防御】5800
【俊敏】6800
【スキル】
「錬金」
・魔力を消費して、物質創造ができる
・作られる物質によって、魔力消費が大きい
・素材同士を調合もできる。魔力を消費する。また、失敗する可能性もある
・素材から抽出もできる。抽出した場合は結晶となる。また、還元も可能
「幻影」
・魔力を消費し、自身の影を操ることができる。
・本人の影に持ち物を格納できる。
・格納している場合、または取り出す際に魔力消費。更に、保存中も魔力を消費する。効果併用してる場合は消費魔力が3倍となる。
・格納には制限がある
・格納が多ければ多いほど、ステータス俊敏が落ちる。
「回復」
・魔力を消費し、他者を回復させる
・魔力を消費し、他者の傷を癒す
これでも十分高いんだけど……それに22年の俺の集大成とも言える数値なのだけど……他のBランクなんて、アルドだって平均5000後半ってとこだろうよ。まぁ、あいつは勇者のスキルで更にステータスは上がるだろうけど……
いや、今はあいつはどうでもいいか。問題なのは、こ、こんなあっさり上がるもんなのかよ……!!?
確かにレベルアップ時にステータスが上がる値には個人差があったりする。レベルアップした時に平均で50上がる人と、平均300上がる人もいる。
でも、レベルアップも無しにこんな一瞬で上がるもんか。だって、リンゴ2つ食べただけで!?
「あ、ミクスさんも食べますか?」
「……いや、俺は良いわ。そこそこで良いんだ。それよりも、ほらこの5つの木の実も抽出しておいたから」
「は、はい! ありがとうございます!(これで強くなったらミクスさんの役に立てますし、隣に立てる資格も……)」
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20→20
【生命】220→330
【魔力】200→400
【攻撃】450→560
【防御】90→110
【俊敏】90→210
いやー、上げ過ぎって訳でもないか!!! まぁ、どっちにしろ5桁とか余裕で行くし、強くなるのが少し早くなるだけか!!
「これ、どんどん食べよう!!」
「はい! 私、沢山食べて強くなります!!!」
まぁ、大丈夫か。それに町は危険だ、これくらいのステータスでもまだ油断もできない。黒髪青目の差別もあるだろうしさ。
「よし、それならどんどん食べよう。さっき農民スキルで育ててしまった木の実は収穫してと……これ、また量産できるか?」
「はい、できます!」
そう言うと彼女は再び、ステータスアップの木の実を量産した。うん、段々このスキルのチートにも慣れてきたぞ!
一々、驚かないからな!
さて、一般の錬金スキル使いは臭みを抽出しますよっと! あ、2つほど失敗しちゃった! でも大丈夫、まだまだ木の実は沢山あるからね!!
抽出に成功した木の実を複数個彼女に渡す。すると、彼女はすぐさま木の実を食べた。そして次の瞬間には体からステータスが上がった時に出る光が強く溢れ出した。
「ふっ、どうやら、ステータスが上がっているようだな」
「は、はい! 流石です! ミクスさん」
「いや、凄いのは俺でないと思う……」
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20→20
【生命】330→800
【魔力】400→430
【攻撃】560→760
【防御】110→220
【俊敏】210→220
ステータス上昇値、トータル700オーバーだと……。た、たかがリンゴみたいな木の実を食べるだけでだと!?
だけどまぁ、この程度は彼女なら普通かもな(冷静じゃない)
「もう少し、上げてみるか。まだ食べれそう?」
「はい!!」
そう言う彼女は再び、木の実を手のひらに乗せて口元に運んでいく。
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20→20
【生命】800→1030
【魔力】430→600
【攻撃】760→900
【防御】220→400
【俊敏】220→500
「うーん、もうちょっと上げてみるか。もう少し食べれそう?」
「はい!!」
そう言う彼女は再び、木の実を手のひらに乗せて口元に運んでいく。
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20→20
【生命】1030→1300
【魔力】600→900
【攻撃】900→1200
【防御】400→700
【俊敏】500→560
「うーん、もうちょっと上げてみるか。もう少し食べれそう?」
「あ、えと、は、はい!」
「お、そっか。それならまだまだ食べよう」
「あの、ミクスさん。これってジュースみたいに絞って、それを飲んでも効果あるんでしょうか?」
「なるほど……その手もあるかもしれないな。試してみよう」
「はい!」
そう言う彼女は再び、木の実を掴み口元に持っていき
「えいッ!!」
──それを片手で握りつぶして、果汁を飲んでいた。
あ、そう言う絞り方するんだ……。いや、うん、良いんだけどさ。攻撃力も上がってたし。でも急に食べ方と言うか飲み方がパワフルになったな……。
いや、寧ろ主人公はこれくらいぶっ飛んでないとな。寧ろこれが普通かもしれないな。あれ、普通ってなんだっけ?
シエラが意味不明なくらいに凄くて、凄さの基準が分からなくなってるかもしれん。
しかし、もう結構食べてたし、そろそろお腹いっぱいじゃないだろうか?
「お腹いっぱいじゃない?」
「えと、私結構大食いでして……その、食べれる時に食べておかないと、いつ次にご飯にありつけるかわからない状況でしたので……」
「なるほどね、それはステータスアップ木の実ジュースを飲むのに適した体だね(自分で言ってて何言ってるんだか理解してない)
「そ、そうですね!!(ステータスアップ木の実ジュースを飲むのに適した体ってどう言う意味なんでしょうか……聞いた事ない単語ですけど、ミクスさんが言うならそんなんでしょうね! ミクスさんは物知りですから!!)」
なるほどね、ステータスアップ木の実を飲むのに適した体なわけだ。しかし、果汁がどうしても多少こぼれてしまって勿体無い。
「さて、ここに大きな瓶がある」
「あれ、ミクスさんそれどこから?」
「あ、影に格納してるんだ」
「あぁ! 救済の光の冒険の時もたまに使ってましたね!」
因みにアニメの時のミクスは、農民厄災に全部荷物は持たせれば良いだろと言って影に荷物を格納できるスキルがあったのに使わなかったらしい。
うーん、このポンコツ具合。
さて、彼女にこれを貸してあげよう。この中に果汁を入れて飲むと良い!!
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20→20
【生命】1300→1500
【魔力】900→1200
【攻撃】1200→1500
【防御】700→1000
【俊敏】560→900
「うーん、もうちょっと上げてみるか。もう少し飲めそう?」
「はい!」
そう言うので彼女は再び、木の実を手のひらで握りつぶして(以下略)。
「ふぅー、お腹いっぱいです」
「そっか、それならこれくらいにしておこう」
「へへ、こんなお腹いっぱいで幸せな気分は初めてです!!」
どうやら、凄く嬉しそうだ。さて、ステータスはどれくらいになっていたんだっけかな?
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20→20
【生命】1500→2300
【魔力】1200→1900
【攻撃】1500→2100
【防御】1000→1500
【俊敏】900→1650
ふーむ、これはちょっと上げ過ぎたかもね(唐突な冷静)。
うん、サリアの町に来て2日目。
しかもその午前中にするような内容ではなかったかもしれないな。
うん、このペースだと彼女はとんでもない化け物になってしまうかもしれない。どうしようか……
えっと、元のステータスが確か……
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20
【生命】300
【魔力】550
【攻撃】50
【防御】80
【俊敏】70
ふむふむ、低いな。それで今はどうだっけかな?
【シエラ】
【ステータス】
【レベル】20
【生命】2300
【魔力】1900
【攻撃】2100
【防御】1500
【俊敏】1650
ふーむ、これはちょっと上げ過ぎたかもね(2度目の確信)。
俺は自らの行いに恐怖した。