幕間 フォックス
「アンリミテッド・ロスターナ。それが妾の母親の名前じゃ」
妾がその名前を発した時、ミクスは微かに反応をした。そして、シエラも名前を知っていたかのように、瞳を開いた。
「なんじゃ、知っておったか」
「俺が錬金スキルを使う時に、よくその錬金術師の本を参考にしているんだ。その著者がアンリミテッド・ロスターナなんだ」
ふむ、そう言うことか。だから、知っておったのか。これは偶然か、運命なのか、まさか、この二人が知っておるとはの。
「その錬金術師さんはリーネさんの母親だったんですね」
「うむ、話した事はないが日記などは見た事がある。妾では全くわからぬ錬金の情報がまとめてられておった。そして、その母親は妾を錬金にて作り上げた」
「錬金で、ですか。凄いですね……」
「俺とはレベルが違うな」
シエラは錬金スキルで人間を作り出すと言う事実が信じられないのだろう。ミクスの場合は、同じ錬金スキルを持つ身として、その凄まじさを感じているのじゃろう。
「その、なぜリーネさんの母親は錬金で人工的に人間を作ろうとしたのでしょうか?」
確かにシエラの言う通り、なぜ錬金で人工的に人間を作ろうとしたのか。
それは当然の疑問じゃろう。
これは話すかどうか、本当にギリギリまで悩んでおったが、妾としてもこやつらから聞きたいことは聞いた。だから、それに応える必要もあろう。
それに、他にも気になることもあるからの。妾が話せば、またあちらも話してくれよう。
話すのもやぶさかではない。
「──うむ。妾の母親は元々は双子を腹に抱えておった。しかし、両者共に死産となり、それが諦めきれず、研究を開始した。死んだ人間を蘇らせる研究を」
「……それで作れるもんなのか?」
「我が母も天才だったと言うことじゃ。そこに加えて、元々、魔族を作った錬金術師の情報を参考にしたらしいからの」
「……なるほどな」
今の話で、ミクスも察したのじゃろう。
──妾を作るのに、母が魔族を作った錬金術師を参考にした……
つまりは妾と魔族は肉体構造的には変わりないと言うことでもある。この事実は話した事がない。
下手に恐れさせるのを避けると言うのもあるが、そもそも話すような相手が居たこともなかった。
魔族と似たような体の構造……これを聞いて恐れを持つ人間が多いじゃろう。だからこそ、脳天を割かれて、肉体を全て焼かれても生き返れたんじゃがな。
とは言っても、それは普通の人間と比べて明らかに異常な体質。
妾も災厄の魔女と言う蔑称も、あながち間違いでもないとも思うこともあるからの。
だから、言わなかったと言うのもあるが。
「そうか。リーネにそんな秘密があるとは……そんな重要な事実俺達に言ってもよかったのか? 別に適当なことを言って、俺たちの情報だけ取ればいいんじゃないか」
「お主たちだけに本当の話をさせて、こちらが嘘を言うのも筋が通っておらんからの」
「なるほどな。それなら俺達も誠意で応えないとな。何かあれば聞いてくれ」
ミクスは質問をしろと言うが、それは今日でなくても良いじゃろうて。これから、知りたくなれば聞いていけば良いからの。
机の上には食事があるしの。
「今はいい。食事をしたいからの。また聞く機会はある」
「そうか、気になったら聞いてくれ。そうと決まれば冷めないうちに食ってくれ」
ミクスに促されたので、妾も食事をすることにした。妾が食べる目の前では、シエラとミクスがイチャイチャしながら食事を始める。
「はい、あーん」
「あーん」
「美味しいですか?」
「美味しい、やっぱり美人な恋人の食べさせてもらうと余計に」
「えへへー、もー、上手なんですからー」
なんじゃこれ……。こやつらめっちゃイチャイチャしておるんじゃが。互いにあーんしたり、口に運びあったり、何ならキスしちゃうぐらいなんじゃけど。
「流石にリーネの前だからキスはな」
「そうですね……残念ですね。あ、いや、リーネさんが迷惑とかじゃないんですけど!」
え? なんか急にお邪魔虫的な瞳をされたんじゃけど。黒髪青目とか関係なく、普通にカップルのイチャイチャを邪魔する存在として疎ましく思われているんじゃが?
「全然、今日は泊まっていってくださいね!」
シエラがそう言うが、普通に帰った方が良いのかもしれんの。しかし、妾と同じ顔をしているシエラにそう言われるのも、何とも言えない気分じゃな。
「いや、妾帰ろうかの」
「いえいえ、泊まっていってください。ベッド大きいの二つありますし!」
「あぁ、リーネも泊まっていってくれ」
う、うむ、そうは言われたが……どうなんじゃろうか。カップルの邪魔になる気もするが。
「大丈夫です! 気にしないでください!」
シエラはニコニコ笑顔でそう言うけども、気にするんじゃけど。しかし、シエラは何度も気にしなくて良いと言うので妾もそれに押された。
「では、寝る時は隣の部屋を借りようかの。流石に睡眠は同じ部屋では出来ぬからの」
食事を取り、いろんな話をした後、夜も周り睡眠の時間がやってきた。
◾️
夜の静けさが戻った頃、妾はベッドの上で寝たころがっていた。不思議な一日じゃっと、振り返りながら眠くなるのを待つ。
さて、寝るか……と思ったのじゃが、隣の部屋から、何やら甘い空気が漂ってくる。
「……ミクスさん、今日は本当に嬉しかったです」
「気にすんな。お前のこと、放っておけるわけないだろ」
……うわぁ。隣の部屋から声が消えるぞ。いや、これは妾のステータスが高すぎるからか。普通は聞こえんじゃろうな。
しかし、声だけでもわかるぞ、なんじゃこの距離感。完全に恋人のそれじゃろ。いや、恋人だったわ。
耳が勝手にぴくぴくと動いてしまう。聞きたくないのに、聞こえてしまうのじゃ。いや、別に聞きたいわけじゃないがの。たまたま聞こえてしまうだけじゃ。これも高いステータスだからしたかないのじゃ。
布の擦れる音がして、二人が寄り添った気配がした。息が混ざるような距離……たぶん、抱き合っておる。
う、うわ……そんな近くで……。妾、隣の部屋なのに、顔が勝手に熱くなっていく。
「ありがとう、ミクスさん……」
「ありがとなんていらないさ。俺も当然のことをしただけ」
「えへへ、嬉しい。私……ミクスさんのこと、愛してます」
な、な、なにそれ……!?
こんなことを面と向かって言うのか!?
甘すぎるじゃろ! 心臓に悪い!
布団の中で顔を真っ赤にしながら、妾は必死に寝息を装う。でも、もう無理じゃ。頭の中がぐるぐるしておる。
……ちょっと、待て。
「はぁはぁ」
「あん、ん」
息が荒いぞ。
動いておる音も……これ……え、えっちなことしておるのでは……!?
こ、こいつら……!
まさかほんとに……!
妾は壁に耳を当てて、固まったまま、心臓の鼓動がバクバクとうるさいほど鳴っておる。
あ、あわわ……どうしよう……耳ふさがなきゃ……でも気になる……
……気になる。
だって、妾だって女じゃからの。どんなことをしておるのか、少しだけ、ほんの少しだけ……気になるのじゃ。
ただひたすら聞き耳を立てるしかなかった。気になるのも無理がないじゃろ。
だって、シエラは妾と容姿が似て、声の質も似ている。隣の声は
まるで、妾とミクスが交わっているかのような感覚さえ……
夜は長く、そして妾にとって地獄のように落ち着かぬ時間だった。
──そして朝。
眩しい光が差し込み、妾は一睡もできぬまま布団から顔を出した。朝食を用意してるというので、隣の部屋を訪ねる。ミクスは爽やかに笑い、シエラは頬を紅く染めておる。
「おはようございます、リーネさん。よく眠れましたか?」
「あ、あぁ……ぐっすりじゃったわい」
「それはよかったです!」
よくそんな平然とした顔ができるの、シエラよ。お前の喘ぎ声でこっちは寝れなかったのじゃが。
聞こえてないと思ったいたようじゃが、ガッツリ聞こえておるわ! まぁ、妾が高いステータスなのも悪いかもしれんが、
「リーネ、朝ごはん作っておいたぞ」
「うむ」
ミクスも何事もなかったように朝食を用意しておる。こやつら……本当によく何事もないかのような顔ができるの!!
夜だけでなく、朝も早起きして二人で交わっておったくせに……。
ふたりは見事なまでに平然としておる。
まるで、何もなかったかのように……。
それにあとダークフォックスの二匹、妾のスキル魔物念話で聞こえてきたわ!! がっつり、イチャイチャしおって、ボケが!!
何じゃこの部屋、妾以外、全員が恋人がおるじゃと……!
耳を塞いだら狐の声が、塞がなければミクスとシエラの声が……これで寝れるわけないじゃろ。
しかし、流石にそれをいうわけにもいかないので黙って朝食が置いてある席に妾はついた。
妾は紅茶を口にしながら、内心で小さく呟いた。
――こ、こやつら……フォックスしおって……独り身の気持ちを考えろ、ボケ共が




