第54話 愛している
「なるほど。黒髪青目の偏見の払拭か。私が出来うる限り、尽力することを約束しよう」
レオン王子に黒髪青目の偏見を払拭することを条件に、魔族についての対策で協力することを約束した。
なぜ、アルヴェニア王国の王子にそんなことを頼んだのか。その理由は二つある。一つは、災厄の魔女の言い伝えは、俺達が住んでいるフェリア王国で強く根付いているからである。
確かにアルヴェニア王国でも、災厄の魔女の言い伝えは知られている。しかし、フェリア王国ほどではない。
実際にシエラの野菜はかなり売れているようだった。シエラの売店の様子を見ていたが、全員が拒否反応を持っているわけではなかった。
ならば、せめてアルヴェニア王国の噂ならば解消できると考えたのだ。
もう一つは単純に王子の権力が高いから。彼に色々と動いてもらえれば、噂なんてすぐに払拭できるだろう。俺が言っても効果ない。何を言うかよりも誰が言うかが重要なのである。
「約束してくれるのであれば、私も魔族への対抗策をお約束します」
「分かった。ミクス殿、宜しく頼む」
軽く握手を交わし、レオン王子からアルヴェニア王国の現状について聞いた。やはり、アルヴェニア王国では貴族の不審死が多発しているらしい。
また、妊娠をした女性の腹から化け物が生まれたという話もあった。とんでもない話だ。ただし、生まれた化物はすぐに死んでしまうらしいのだが。
「……魔族が人として、国に大量に入り込んでいる。それで間違い無いでしょう」
「やはり、そうか……時に一つ、先ほど魔族の姿を簡単に看破しているように見えた。あれはいったいどのような技術を使ったのだ」
「魔力の流れ、それを見ると言う感じでしょうか。俺と、彼女であるシエラぐらいしか、分からないでしょうが」
「やはり気付けるのは強者のみか。それではあの魔族の化けの皮を剥がしたのは……」
王子は、今度は簡単に人間に化けていた魔族の姿を元に戻す方法に興味があるようだ。
「【ミエルーバの薬】と言うのですね。俺の彼女のシエラが作った、【ミエルの実】から更に錬金スキルを使うことで作ることができます」
「ミエルの実か、聞いたことがないな。我が国は作物が中々取れなくてな、そう言うきのみについては詳しくない。フェリア王国ではよく取れる果物なのか?」
「……いえ、それほど多く採取はできないです。と言うか、ミエルの実を積極的に育てる農家がいないと言う感じでしょうか」
「なるほど……ミクス殿の彼女であるシエラ殿はその実を普段から育てているのか?」
ふむ、これは困った質問だ。シエラのことはどの程度まで言うべきか。シエラのスキルを使えば、確かにミエルの実は大量に作れる。だが、下手に言って利用されたりすると……
でも、アニメだと他国の王子はそんな事をするような感じには見えなかった。黒髪青目の悪評を払拭すると語った彼に嘘があるようには見えない。
それならば、スキルについては話すべきか。どうするべきか。仮に他国の王子は問題ないとしても、他の誰かが王子からスキルについて聞いて、シエラに不都合がかかると言う可能性もあるか。
「ミクスさん。私なら大丈夫です。スキルのことも話したとしても」
「……そうか?」
「はい。ミクスさんが私に気を遣ってくれたのはわかります。でも、私にも覚悟があります。ミクスさんが王子に頼み、噂を払拭するとお願いしてくれたのであれば私も覚悟で答えます」
「分かった」
シエラは俺が何に悩んでいたのか、お見通しだったようだ。
「王子。実は……彼女は、ほぼ無条件に植物を生み出し、成長させることもできるのです」
──そこからはレオン王子に説明をした。
野菜や果物を無条件に魔力を消費して作れること。魔力を消費すると言っても、彼女自身が多大な魔力を持っており、ほぼ無限であること。
それによってミエルの実は大量に作れる。また、先ほどのデカい千手観音は彼女が作った物でもあることも。
それを聞いたレオン王子は……分かりやすく驚いた表情をしてた。
「え、えぇ……? そ、そうか、そんなの……あ、アリなのか……? いや、ミクス殿が嘘を言っているとは思えんが……いや、その、そう言うのってアリなのか? あまりに強すぎると言うか」
「王子が驚くのも当然です。最初は俺も同じような物でしたから」
「それにして落ち着いているようだが」
「俺は彼氏ですし。ずっとそばで見てきましたから」
「な、なるほど……これほどの逸材がいるとは」
「えぇ、これほどの逸材なのですが彼女は冒険者パーティーを追放されています」
「追放した連中はよほど見る目がないようだ」
「えぇ、全く」
本当にシエラが追放されたのは信じられないよな。まぁ、それはアルド達が見る目がなかったと言うことだな。
「ミクスさんも同じく追放されてますよね。全く、あの人たちは見る目がないです」
「ミクス殿も追放されているのか」
「私達追放カップルなんです」
「追放カップル……そうか。フェリア王国にはそのようなものが」
無いけど。まぁ、それは一々、訂正しなくても良いだろう。
その後、王子は再度、黒髪青目の噂払拭を約束してくれた。そして、後日、我が国に来てほしいと語っており、それについては手紙を出すと伝えて別れることになった。
アニメでもシエラがアルヴェニア王国に行く感じだったけど、それを辿るような感じになっているな。まぁ。この時点で魔王軍幹部が七人消えているわけだから、いまさらって感じだけど。
「ミクスさん、ありがとうございます!」
「あぁ、別に気にするな」
「いえ、私はどうしても感謝しています! 実と言えば黒髪青目であることに、もうそこまでマイナスな感情はありませんでした。だって、ミクスさんが彼氏ですし。でも、私のためにミクスさんが動いてくれたことが嬉しかった……私もミクスさんに恩を返せるように頑張ります!」
「そんな気にしなくてもいいけど。でも、どういたしまして」
帰り道、シエラと一緒に俺は歩いていた。
普段ならサリアの町に帰るが、現在は交易祭をやっているので都市内の宿屋で泊まることにした。ブラックとホワイトも宿屋の一室に泊まらせるので、一緒に宿屋までを目指す。
「ミクスさん、あの」
「どうした?」
「さっきから誰かが……いえ、リーネさんと言う方が後をつけて来ているんですがどうしますか?」
歩いている最中にシエラが俺にそう言った。そうか、幹部を倒した後から急に姿が見えなくなって、その後、王子の宿屋で声が聞こえた気がしたけど。もしかしたら、ずっとどこかで見張っていたのだろうか。
「シエラ、気配がわかるのか」
「はい。ただ、大分気配を消すのが上手いですね。ここまでは……未だかつて見たことがない感じです。少し前の私なら全く気づくことすらできないと思います」
「そこまでなのか」
シエラのステータスはまだまだ上がり続けている。そのシエラがようやく気付けるほどに、隠れる技術が高いリーネか。
やはり、戦うことは避けたいな。できるのであれば穏便な解決がしたい。王子に噂の払拭を頼んだのも、リーネとの交渉が可能となる可能性もあったからだ。
「シエラ、リーネも一緒に夜食を食べてもいいか?」
「……まぁ、いいですけど。ユルレさんはやめてください」
「なぜ、リーネはいいんだ?」
「私と顔が似てるので……ミクスさんが仮にリーネさんを好きになったとして、私と系統が似てるからかな? とちょっとだけ擁護できます」
「擁護できるのか。ただ、好きになったとかじゃなくて。魔族とかで共闘したいだけなんだけど」
「勿論です。私も出来れば二人きりがいいので……」
シエラには申し訳ないけど、リーネとは親密になっておきたいからな。さて、近くにいるのであれば彼女を呼ぶか。
「リーネ、居るなら出てきてくれ。一緒にご飯でも食べよう」
「……仕方ないの」
そう言うと……やれやれ、と言った表情でリーネが姿を現れた。




