第53話 他国の王子
魔王幹部は千手観音、二体によりあっけなく消えた。千を越える腕を持つ化け物にあれだけ殴られたらね。
因みにだけど、千手観音が殴ってる最中に腹から人間の死体が出てきたから。人間を食っていたんだろうな。
なんて言うか、魔族とは本当に話ができなそうだ。
野菜コンテストの会場に戻ると、ホワイトとブラックが既にもう一体の魔王幹部を始末していたようだ。なるほど、流石はシエラのステータスアップ木の実を食べているだけはある。
魔王軍幹部くらいは朝飯前なのだろう。
一応、これで騒ぎは終了かな。魔王軍幹部以上のビッグネームは……もう魔王くらいなんだろうけど。復活したばかりらしいし、すぐさまここに来ることはないだろうさ。
「すまない。少々、時間いいだろうか」
もう今日はこれで終わりかな? そう思ったタイミングで俺に声をかける人が一人。
そこには超絶イケメン、まさしく高貴な身分といった服装をしている男性が立っていた。おっと、これは他国の王子、通称レオン王子ではないか。
「私はアルヴェニア王国、第一王子、レオナート=ヴァルグレア。貴方はフェリア王国Aランク冒険者、ミクス殿とお見受けする。先程の魔族との戦い、感服するほかなかった」
「あ、どうもレオン王子にそういって頂けるとは光栄です」
「先程の戦いを見て、どうしても話を聞きたくなった。時間をくれないだろうか」
うん、まぁ、王子の頼みを断るわけにもいかないか。王子には取り巻きと思われる、近衛騎士とか、従者とかが何人も周りにいる。
「構いません。どこでお話をいたしますか?」
「……なるべく人には聞かれなくないことなんだ。私が用意した、部屋で構わないか?」
「はい」
別に話は構わない。これってシエラも同席して良いのだろうか。大事な話なら一緒に聞きたいが。
「ミクスさん? 王子とお話ですか?」
「あぁ、レオン王子。私の彼女なのですが、同席しても良いでしょうか? 察するには魔族関連である気がしますので」
「無論だとも、先程の魔族と彼女も戦っていたのは見せてもらった。彼女にも話を聞いて欲しい」
リーネも一緒に聞いてもらおうかな? とか思ったけど、気づいたらどこかに行ってしまっていた。
あれー、お礼とか言おうと思っていたんだけどなぁ。
そんなことを考えていると……
「──いけませんぞ、王子」
その瞬間、王子の従者と思われる初老の男性が話に割り込んできた。どうやら、俺とシエラを疑っているようだ。
「その者達は信頼できるか、わかりません。それに黒髪青瞳は魔女の特徴! 災厄の魔女の噂は隣国に住む我々も聞いたことがあったでしょう」
「……私達は先程、ミクス殿たちに救われた。どう考えてもあのままでは死んでいただろう」
「しかし、王子に取り入ろうとしてる可能性もあるはずですが」
俺の事は、悪く言っても良いがシエラのことは悪く言われるのは素直に不愉快だよな。だって、あの魔族はシエラではないと倒せなかったはず。
確かに疑ってしまうのは仕方ないかもしれない。王子の従者であるなら、神経質なのも仕事かもしれん。
でも、嫌なのは嫌である。
「王子。私を疑うのは構いません。しかし、私の彼女が傷つくようなことは、言わなように従者の方にはお話願いたい。そうしなければ、私は話はきません」
「すまない。従者も魔族関連で疑いが深くなってしまっている。本当に申し訳ない。私から、従者や騎士には話をさせてもらう。少し待っていてくれ」
王子はそう言うと、騎士や従者に話をしているようだ。今俺が言ったように、シエラのことについてなど、伝えているようだ。
「ミクスさん、ありがとうございます」
「いいさ、彼氏だしさ……」
「……えへ、私の彼氏、カッコ良すぎて嬉しいです」
シエラはスキンシップが多い。もう、手を握ったり頬を肩に擦り付けたり。周りの目もあってもあんまり気にしてないようだった。
「ミクス殿、話をつけた。少し、場所を移そう」
王子は従者を説得してくれたようだった。その後は何も従者は言うこともなかった。しかし、怪しむ視線は変わらず、と言った感じだ。
王子にシエラと共についていくと、彼が休憩場所に予約していた宿屋に辿り着いた。この都市は相当大きい、だからこそ、立派な宿屋もあるようだ。
サリアの町で俺が使っているのとは、全然違う。
石造りの外壁は白く輝き、窓には色硝子がはめ込まれている。入り口には従業員が二人も立っていて、まるで城門の門番のように来客を迎えていた。
俺が普段泊まる安宿なんか、戸口の板すらギシギシ鳴っていた時もあるというのに、ここは違う。
玄関を踏み入れた瞬間、靴底が吸い込まれるような厚い絨毯が広がり、頭上には眩いシャンデリア。天井が高すぎて、思わず口を開けて見上げてしまった。
王子は慣れた様子で歩みを進め、従業員たちは深々と礼を取る。その背中を追う俺とシエラは、どうにも場違いな気分を隠せない。
鼻孔をくすぐるのは香油の甘い匂い。壁には豪奢な絵画や彫像が並び、ひとつ売れば俺の稼ぎが何年分にもなるだろう。
二階に通され、突き当たりの扉が開かれた。そこはもう部屋ではなく広間だった。天蓋付きの寝台、磨き上げられた机、果物の盛られた銀皿。庶民の俺には夢のような光景だった。
「普通に日本の一流ホテルみたい……」
こんな感想をこぼしてしまった俺は間違ってないだろう。さて、その豪華な部屋で俺とシエラは王子と共に席に着く。
「先程は助かった。貴方達の活躍がなければ私は死んでいただろう」
「いえ……そのような勿体無いお言葉」
「ミクス殿の噂は聞いていた。リューゼン家に入り込んで魔族を見破り、討伐をしたと。正直に言えば魔族と言われる、怪物の存在の真偽。私も半信半疑であったが、今日魔族を見たことで確信に変わった」
確かに魔族はずっとおとぎ話の存在くらいにしか、言われてなかったからな。最近になって、存在が出てきたみたいな感じだ。
「我が国では貴族の不審死が、昨今問題となっていた。その原因については全く解明などされてもいない」
そこまで話を聞いて、俺は察した。それはユルレの時と同じだろう。貴族の近しい場所に魔族がいると言うことだ。
「きっと魔族が付近にいる可能性が高いでしょう。先ほどもご覧になったと思いますが、魔族は人間に化けられます」
「……やはり、そう思うのか? 私も魔族については、何もわからない、だからこそ、先程のミクス殿の戦いと動きを見て声をかけさせてもらったのだ」
「なるほど。アルヴェニア王国に入り込んだ、魔族の対処についてですか」
「その通りだ。恥ずかしいが魔族に普通の人間は敵わないだろう。ステータスが違いすぎる。恥ずかしい話だが、ミクス殿の戦いは次元が違う、としか思えなかった。そこに人に化けると言う能力もあるのならもう手はつけられない」
確かにな。正直、俺はシエラが作る植物で魔族の姿を見破る術がある、ステータスアップのおかげで戦える、さらにその恩恵で魔族の魔力の流れがおかしいと気づける。
ただ、これってシエラのおかげで普通の人間には無理だ。
「そこで、我が国のため、力を貸して欲しい」
そう言えば、アニメだとレオン王子はシエラに魔族に対して対抗するために力を貸して欲しいとか言ってたか。
ただ、1クールだとその先はやってなかったので、魔族についてはそこからどう協力してたのはか知らんけど。でも、アルヴェニア王国は植物が育ちにくい傾向があって、シエラが国に出向いた時、枯れた土地に野菜とか実らせて、
豊穣の女神とか、言われてた。
そこでアニメ終了だった気がする。
「協力はしても構いません……ただ、条件があります」
「聞こう」
「黒髪青瞳、が忌避されてる現状について私はよく思っておりません。なので、それら全てを払拭するためにご協力願いたい」
──シエラの見た目で差別されてる現状を変えたい。王子なら、なんとかできる気がする。
「ミクスさん……」
「……そんなことも考えったのか、びっくりじゃ」
あれ? リーネの声がした気がしたが……気のせいか? 気づいたら消えていたが、実はずっと近くにいたのかもしれないな。
まぁ、いいや、王子に話を続けよう。




