第52話 VS幹部
「ミクスさん。あれ、私と同じ姿……前にお会いした、災厄魔女のリーネさんとかでしたっけ? 彼女では……なさそうですよね?」
「あぁ……魔族が化けているのかな? 化けの皮を剥がす薬を用意しておくか」
リーネとは多分違うだろう。魔族がシエラの姿に化けていると解釈するのが普通だな。
シエラに化けている魔族は、壇上をゆっくり歩きながらアルヴェニア王国、第一王子の元に向かっていく。
急に現れた偽シエラに、王子やその近衛騎士が反応し、王子の前に立った。そして、王子のも元に歩き続ける、偽シエラの歩みを止めようと声をかける。
「ちょっと君、ここは関係者以外は来てはいけない。今すぐ、壇上を降りなさい」
「……わかった、降りる……殺してから」
──話し方もシエラと違う、そしてリーネとも全く違う。
ここまで近い距離で直視すれば、流石に魔族特有の魔力の歪さがわかる。正体がわかった以上、さっさと退場願おうかな。
偽シエラが右腕を振り上げたので、振り下ろす瞬間に剣で受け止める。咄嗟に割り込んだことで、近衛騎士や魔族は驚いているようだ。
その微かな隙の間に、薬を偽シエラとぶつける。すると、案の定、顔が温められたチョコレートのように溶けていき、魔族の顔が顕になる。
「……あれ、なんで皮が……? あれあれ? そう簡単に解けるわけがないんだけどな……あれ? その顔って……うわ最悪。人間界でも最高戦力じゃん」
魔族は俺を見るとそう呟いた。どうやら、俺も魔族側で随分と名前が売れているようだ。
「な、なんだ、人間じゃないのか!!?」
「噂の魔族……!?」
「お、王子、我々の後ろに!」
「……あれが魔族というのか」
俺がこれから戦う魔族だが、どうやら雑魚ではないな。先日のユルレの領地で戦ったのは幹部と言っていたがそれと同格以上の力を感じる。
「……あれ、強いな。一人じゃ無理かも……グラン、バロトール、手伝って」
「ん?」
俺は相手の振り下ろされた腕を剣で切り飛ばした。しかし、その次の瞬間に背後から、俺を狙うかのように攻撃が開始された。
「ミクスさん……!」
「コン!!」
「コーン!」
魔族の残り二体も攻撃をしかけてきたが、それはシエラとブラックとホワイトによって、無に帰った。ブラックとホワイト戦うの久しぶりに見たな。
さて、出てきた魔族の三体とも、だいぶ強そうであるし、幹部なのだろう。だが、負ける気はしない。ホワイトとブラックはステータスアップ木の実の成果を見せてくれ。
「ほう、これは災厄の魔女と同じ容姿……さっさと片付けなければならん。我が名魔王軍幹部。暴殻帝グラン=クラスト」
「同じく幹部。吾輩は轟地蹄バロトール」
俺の背後から攻撃してきたのは、両方幹部のようだ。
「……あぁ、わたしも幹部。……爆槍覇バルメリア」
俺に攻撃をしてきたのも幹部のようだ。二本角を持ち、羊の顔を持っている魔族。バルメリアというらしい。筋肉質な体だが、大人しそうな話し方であった。
シエラが攻撃を無効化した魔族……暴殻帝グラン=クラストと名乗る魔族は。黒曜石の甲殻を持つ巨人。腕は鋏状で、背中には甲羅がある、蟹みたいな感じか?
ブラックとホワイトと対峙している魔族は轟地蹄バロトールと言うらしい。牛頭の巨体の魔族。ひづめは岩石化しており、その足にて地面を叩いている。牛人間のイメージである。
「シエラとブラックとホワイト、そっちは任せる。俺は……その羊を狩る」
「……あぁ、面倒だけど、一人でやるかぁ。グラン、バロトール。そっち終わったらこっちきてね」
羊の魔族か。魔力が多いけど、どんな能力があるのか分からないな。その魔族はすぐさまこちらに向かって、猪突猛進に向かってきた。
これまで、これほどまで早い突進は見たことない……!!!?
──と思ったが、この間部屋に帰った時、裸エプロンのシエラが突進してきた方が3倍くらい早かったのを思い出した。
あれは、色んな意味でやばかった。自らの欲求を抑えるのもギリギリだったしな。
「羊猛進突進」
「今の俺には、遅く見えるな」
「……は、あ、あれ? 受け止められた……?」
──俺はすぐさま、錬金術でもう一本剣を作り出し。そのまま一刀両断するため、腕力を込めて振り下ろした。
「よいしょッ!」
「……あ、あれ、体が崩れて……」
魔王軍幹部である、羊の魔族は俺が一刀両断して、ぶっ倒した。魔王軍幹部もこれくらいなら、問題なく倒せるな。
俺が強すぎる気もしなくもないが、これはシエラのステータスアップの木の実の力なのだろう。
「まさか、バルメリアが一刀で両断……これは益々危ない存在だ。巨蟹武神」
シエラが相手をしてた魔族がそう唱えると、腕のハサミが巨大化する。いきなり、四メートルほどになり、次に足が巨大化していく。
「これ、ちょっと吹き飛ばしますね」
このまま巨大化されては厄介だと悟ったシエラは、蟹の魔族の脚を一瞬でつかみ取った。
次の瞬間、彼女の全身から解き放たれた怪力がうねりを上げ、魔族の巨体は大砲の弾のように空を裂いて吹き飛ぶ。
その軌跡は街の屋根を飛び越え、数百メートル先の都市外へと叩きつけられた。
――いや、どんな腕力があればそんな離れ業ができるんだよ。
やはり、シエラ、シエラが最強。シエラ強すぎだわ。ただ、飛ばされた魔族を追わないとな。
羊の魔族はもう倒したわけだし。離れても大丈夫だろう。もう一体幹部はいたけど……
「コン」
「コン!」
「くっ、な、なんだこのダークフォックスは!!? 強すぎる!!?」
ブラックとホワイトももう一体の幹部をちゃんと抑えてくれてるみたいだし。あの吹き飛ばされた方を追うかな。
互いにステータスの高さで相手をかき乱し、ホワイトは束縛するスキルや、スキルを妨害するスキルを使いまくり、ブラックは只管に突進する。
「ぐっ、動けん! それにスキルの発動が遅くッ!? このダークフォックス、複数のスキルを同時に使用できるのか!?」
束縛と妨害、しかもそれぞれ何種類のスキルを複合的に使っている。
あそこから抜けるのは容易ではないだろう。勝負あったな。完璧に抑え込んでる様子だし。安心である。
あ、でも、一般人とかは、勝手に逃げるだろうけど……大丈夫かな?
「すいません、一般の方の避難などをお任せしますね」
「あ、あぁ、わ、わかった」
近衛騎士も居るし、ここは任せておくか。シエラが投げ飛ばした魔族に逃げられる方が面倒だしな。
「ミクスさん、あの魔族巨大化が出来るんでしょうか?」
「そうみたいだな。どこまで巨大になれるかは分からないけど」
「私が投げ飛ばして、空中を飛んでる間も大きくなってるみたいです」
「倒せそうか?」
「余裕です」
あ、余裕なんだ。巨大化する敵って、面倒な印象があるんだけど。
──俺達も都市から飛び出し、吹き飛ばされた蟹の魔族の元に辿り着いた。
驚くことに魔族は、ぐんぐん巨大化し、巨大ロボットくらいの大きさへと変わっていた。全長三十メートルはあるぞこれは……。
ただ、ここは周りは荒野なので幸いなことに人は居ない。巨大化しても近くの人間が潰されるとかはなさそうだ。
しかし、巨大化すると体積が増える。つまりは力だって増えることになるだろう。
「クククク、こうなってしまえば我の勝ちだ。元あるステータスは二万、それが今や体の大きさと共に増加し、四万を超える!! 今や、人間など、虫と変わらぬ!!!」
なんて巨大なんだ……!! これは流石にシエラでも……
「ミクスさん、ここは私に任せてください」
シエラは木の枝を地面に刺した。おっと、これは一体……?
「樹海観音」
シエラが木の枝から手を離すと、枝から幹へと急激に成長をし、それがぐんぐん伸びていき、三十メートル……四十、五十……
いや、六十メートルくらいになったんだが……。
あれ、あの蟹の魔族小さくね?
しかもシエラが作ったのは、ただの巨木ではなく、千手観音のような神々しい存在。背中から腕が千ほどに伸びている。
「あ、これは前にミクスさんが教えてくれた。千手観音をモチーフにしてて」
「解説は大丈夫……いや、これはずるくね?」
「勝てばいいんですよ。因みにミクスさんが死んだら、これで世界を壊します」
「……あれ? 魔女よりもこっちを説得する方が先かな?」
──蟹の魔族も流石にこれは……って顔をしている。
「な、なんだこれは……あまりに人の手に余る、力……まさか、災厄の魔女と容姿だけでなく、力さえも……」
驚愕してるよ。いや、流石にね、これはびっくりするよね。俺もびっくりしすぎて、何も言えねぇ。
──そう思っていると、その場に新たに人がやってくる。
「なんじゃこれ……」
おっと、災厄の魔女リーネだったようだ。災厄の魔女もドン引きしてる表情だけど。
そして、リーネが現れたことで蟹の魔族は益々驚愕の表情をする。
「お、お前は災厄の魔女!?」
「うむ、確か……魔王軍幹部の一人じゃったか? 妾を覚えておるか」
「当然だ、忘れるものか! くっ、まさか災厄の魔女が二人もいるとは!」
「妾はひとりじゃがの。それにしても……なんじゃこれ……」
リーネも流石に傍観するとは言ったけど、こんな千手観音が現れたらびっくりするよね。気になって見にきたようだ。
「あ、えっと、リーネさんでしたっけ?」
「シエラか、久しぶりと言っておこうか」
「あ、はい。久しぶりです」
「しかし、なんじゃこれ……?」
「千手観音です」
「……なんじゃそれ?」
「千手観音です! 私も詳しくは知りません」
まぁ、シエラは観音を詳しくは知らないよね。って言うか、俺以外には誰も知らないだろうし。
「くっ……魔女さえも現れるとは」
「妾は何もせんよ。しなくてもお主は死ぬだろうがの」
「……こうなれば……おい、ミクスとやら」
「なんだ」
どうやら蟹の魔族は苦し紛れに俺に助けを求めるようだ。俺にどうにか出来るわけないだろ、と思ったが情報とかもらえるかもしれないし。話だけは聞いておこう。
「我々と手を組まないか。災厄の魔女は嘗て、世界を滅ぼそうとした存在。それくらいは知っているだろう。何か、腹に考えがあるは察しがつく。お前がそのシエラとやらに味方する理由も何かあるのだろう」
「……」
「だから、我々と手を組め。お前の願いなら叶えよう。このまま、その魔女を野放しにすれば……世界を再び滅ぼそうと動くはずだ。金も女も好きなだけ与えよう!」
「……うーん。いや、やめておく。シエラは彼女だし」
「馬鹿か! そうか、そうやって取り入って後で頭をかち割るつもりなのだな! 嘗ての災厄の魔女のように!!」
いや、そんなつもりはないけど……。普通にシエラと付き合って楽しいからなぁ。
「そんなことしない。彼女だし。好きだし」
「……きゅん! ミクスさん、きゅんきゅんしました!」
「……ば、馬鹿か? お前は、それの何がいいと言うのか。ならば……せめて、そっちの災厄の魔女ならば始末すべきだろう。そいつこそが元凶、二百年前に人間を滅ぼそうとした存在だ。必ずやまた滅ぼすために襲ってくるはず! シエラとは違い、そいつは年老いた老婆も当然、魅力などないはずだ! 危険な存在なだけだ!!」
ふむ、リーネはそんなことない気がするけどなぁ。そう思ってリーネを見たら、なんだか怒ったような様子をしていた。
「そろそろ五月蝿いのぉ。たかが魔族の分際で……」
そう言ってリーネは木の枝を地面に突き刺した。そして……
「なんじゃったか? 千手観音……?」
そう適当に唱えると、シエラと同じように全長五十メートルくらいの、巨大な千手観音が顕現した。
えぇ……二体目……?
「作っておいてなんじゃが……なんじゃこれ……?」
「あれ、リーネさんも出来るんですか?」
「まぁの、しかし、なんじゃこれ……?」
「千手観音です!」
これはもう二千手観音だな……ふっ、今のちょっと面白いな? あ、でも全然笑えないな。
なんだか、魔族が可哀想になってきたし。さっさと倒してあげてくれ。
なんかもう、絶望を通り越して虚無の表情になってるし。
前世で、FXで全財産溶かした人みたことあるけど、あんな顔してた気がする。
自分の運命を悟ったのか、無言になっちゃったし。
終わらせてあげよう。そんでもって野菜コンテストの会場に戻ろう。
あっちの会場にはブラック達が抑えている、幹部がもう一体いるしな。
さぁ、さっさと戻ろう……蟹の魔族に合掌……観音だけに。




