第51話 幹部
魔族。とある錬金術師により1000年前に作られた存在。
本質は破壊と破滅であり、人間を根絶やしにすることを本能としている生物である。
そんな魔族達は焦りを持っていた。理由は魔王が復活をしたにも関わらず、魔王が自ら生み出した側近であり、幹部である【十二凶】が既に四体、倒されてしまったからである。
「これは由々しき事態である」
暴殻帝。グラン=クラスト。魔王軍幹部の彼は重々しく、告げた。
黒曜石の甲殻を持つ巨人。腕は鋏状で、背中には山のような甲羅を持っている魔族だった。一見すると蟹に近い、魔族だった。
「魔王軍幹部、十二人のうち、既に四人はやられた。そのうち、三体は復活した魔女によって倒された。そして、もう一人は人間の男によって殺されている」
「…………それって、まずい?」
暴殻帝。グラン=クラスト。
その幹部と話すのは、同じく幹部の一人。燃えるような角を二本持つ筋骨隆々の戦士。体には傷や裂け目が沢山あり、その裂け目から爆炎が漏れ出す。
身長は160センチほどの大きさの魔族。顔は羊のような容姿を持っていた。
爆槍覇バルメリア。
「まずいだろうな。幹部はここまで欠けてしまったのは歴史上稀である。今すぐにでも更なる手を打たなくてはならん。魔女も侮れないのは勿論だが……ミクスという冒険者も注意する必要も出てきた」
「……幹部を一人倒した人間」
「現在、アルヴェニア王国とフェリア王国の交易の祭り。そこに放っていた魔族三人もすでにやられた。その場所には、ミクスがいたらしい」
「……その人間がやった?」
暴殻帝グラン=クラストは、そのミクスという冒険者についてまとめられた資料を読んだ。
「この人間、どうやら黒髪青目を持っているシエラという冒険者と共に行動をしているらしいな。理解に苦しむが……」
「……フェリア王国は魔女の噂を沢山流したのにね」
「にも関わらず、行動を共にするとはな……。フェリア王国には悪評を広め尽くしたはずだが……異端な存在が出てくるとはな」
グラン=クラスはミクスという冒険者に対して、疑問を持っていた。なぜ、あれほどまでに災厄の魔女が嫌われている国で、あの男は同じ容姿を持つシエラと一緒に行動をしているのか。
「その噂は今でも語り継がれている。なのだがな……ふむ、災厄の魔女と同じ容姿を持つ人間シエラ。全員、殺しておかなくてはならん」
「……祭りに侵入させてた三人は死んでるけど、どうする? あれが人間同士を混沌に陥れる策略の一個でしょ」
「我が放った三体の魔族、アルヴェニアの王子を殺し、シエラとかいう人間を更に人間社会から孤立させるためだったが。それも既に消えた……。相手を侮っていたわけではないが、我自身が行かなくてはならんようだ。バルメリア、もう一人幹部に声をかけろ。我ら三人で……祭りに出向き、事をなす」
「……わかった」
◾️◾️
災厄の魔女であるリーネと話しをしたが、どうやら滅ぼすを先送りにしてくれそうだ。
「それなら、2000年後くらいでどうだろうか」
「妾を舐めておるのか? そんなの待てぬわ」
「……そうか。ただ、やはり俺としてはシエラと生きたいからさ」
「……ふむ、妾も滅ぼしたいからの」
リーネも恨みはあるのだろう。ただ、人間と魔族が争い、その最後に漁夫の利を得て全部を滅ぼす、みたいな事を言っていた。
でも、彼女ほどの力があれば、そんなの関係なく全てを滅ぼせるのではないだろうか? 頭など使わず、遠慮もせず、ただ、残虐をすれば済む気がする。
わざわざ、魔族と人間の戦いを眺めているのは本人に迷いがあるから。だから、滅びを先送りにしていると俺は感じた。
──もう少し、説得を……意外といけそうな気がする
「ん?」
そのタイミングでリーネは首を傾げた。時計塔の内部で茶をしていたが、そこから飛び出し、そのまま先ほどと同じように上から都市を見下ろしている。
「どうした?」
「魔族がまた、入りおった。しかも、幹部クラスじゃな」
「マジか」
アニメだとそんな展開はなかった気がしたけど。幹部とかがわざわざこんな都市に来ることはなく、雑魚魔族に王子が襲われたのをシエラが助けるみたいな流れだった。
あれか、俺が魔族を早めに倒したから、次なる刺客を送ってきたのか。
「幹部となると、一筋縄では行かないな。場所ってわかるか?」
「あの辺りじゃな。人が多く集まってる場所じゃ」
都市では野菜コンテストと言われるイベントがあるらしい。名前の通り、育てた野菜を出品し、誰が一番美味しいのを作るのか審査するだけだ。
そこにはレオン王子も居るらしく、コンテスト上位になると表彰をしてくれるらしいのだ。
今、リーネが指差しているのはそのコンテストが行われる場所だ。人が数百人規模で集まっており、壇上にはお偉いさんが座っている。その壇上を見上げるように人がたむろしている。
そう言えば、レオン王子が襲われるのもコンテストの最中とかじゃなかったか?
「ありがと、ちょっと行ってくる」
「そうかの」
「因みにだけど、どれか分かる?」
「……うむ、気配はあそこからあるが、上手いこと紛れておるの。人が集中しすぎてわからぬ」
「そうか。ありがとう。本当に助かった」
いや、本当にリーネはチートだな。そう言えばシエラもコンテストには出るとか言ってたな、本当は出たくないけど、ユルレが勝手に申し込んでいたらしい。
──さっさと行くか。魔族に好きにさせるとシエラのせいになったりするし。
「おい、さっさと戻って来い。茶がなくなったからの」
「うん、わかった」
俺は野菜コンテストが行われている場所に向かって動き出した。時計塔から飛び降り、すぐさまその場所に走る。
確かアニメだと、表彰式が終わった後に魔族が王子を襲うんだよな。
◾️◾️
コンテスト会場に到着した。確かに人が多いな、ここから魔族を見つけるのはだいぶ、難しいぞ。
リーネに本当は手伝って欲しかったけど、今の彼女には頼んでも無駄そうだよな。ただ、流石に一人では難しいと思ったので……ダークフォックス二体に手伝ってもらうことにした。
ステータスアップ木の実をずっと食べさせてるからな。もう立派な戦力だろう。この間、戦ったユルレの領地に現れた魔王の幹部、それよりは絶対に強い。
さて、そんな二体のフォックスを倉庫から一旦連れてきて、コンテスト会場を回る。
「ミクスさんー」
「シエラ」
そのタイミングでシエラが俺を見つけてこちらに駆け寄ってきた。やはりシエラもこの会場にいたらしい。
「ミクスさんもコンテストきたんですね。用事は終わったんですか?」
「あぁ、終わったからさ。シエラはコンテスト出るんだろ?」
「いえ、その話だったのですが……なんだか、この会場、何か紛れ込んでそうなのでユルレさんに代わりに出場してもらいました。私は、このまま会場を回って、怪しそうな人を倒していくことにしました!」
「なるほど、俺も魔族がいると聞いたからさ。ブラックとホワイトを連れてきた、どうやら三体いるらしい」
「流石です、私はそこまで気づきませんでした!」
まぁ、リーネに聞いたんだけど。シエラも感知していたのか。アニメの時よりもステータスが上がってるから感知能力も上がってるんだろうな。
「壇上に居るのはレオン王子だな。今食べるのはシエラのじゃないか?」
「あ、そうですね」
「美味しそうに食べてるな。絶賛してるじゃないか」
「あ、そうでしたか」
シエラ……レオン王子に興味なさすぎではないだろうか。ステージでは王子やら色んなお偉いさんっぽい人が並び、運ばれてきた野菜を食べている。
「なんだこの野菜は……旨い。リューゼン家の令嬢の作物か……」
「味、鮮度、全て素晴らしいな。それでいて、食べると活力が湧く感覚さえある」
「これは素晴らしいですよ。既に優勝は決まったのでは?」
おお、さすがはシエラの野菜だな。絶賛されてるじゃん。当の本人は全く興味なさそうにしてるけど。
「んー。ミクスさんの匂いがする……んふふ」
最近スキンシップが本当に増えたな。そろそろ俺も我慢できなそう。まぁ、最近は恋人だし、そういう行為をしてもおかしくないとも思ってたりもしている。
「……うぅ、本当は匂いをもっと堪能したいですが、魔族を先に対処しないといけません」
そうだな。イチャイチャとかって、夜部屋で出来るからね。
さて、この大量の人の中から魔族を見つけるか。前にリューゼン家であった魔族は魔力の感じが変だった。
俺もあの時よりはステータスが上がっている。
集中して、この辺り限定で感覚を研ぎ澄ませれば分かるか?
「ブラックとホワイト、シエラ、俺で探せるだけ探してみよう。恐らくだけど、相手はレオン王子を狙ってる」
「そうなんですか?」
「あぁ」
アニメの知識だけど。でも、確かに魔族も人間の同士撃ちを狙っていると考えるのが筋通るんだよな。
人間と魔女の両方、魔族も対処するのは難しいだろうしな。人間はせめて、同士で戦わせたいと思っていても不思議じゃない。それなら、わざわざ人にも化けないだろうし。
だから、狙ってくるならレオン王子だろうと思うけど……。
──そう思いかけた時、シエラの姿をした存在が壇上に上がっているのが見えた。




