第49話 魔族側
「【十二凶】が既に四人やられた……」
とある地下の根城。そこには闇に包まれた人の形があった。その存在は玉座に座り、苛立ちを隠さない。
その者の前には多数の魔族が膝をついていた。その数は百を余裕で超えており、全員が玉座に座るものに逆らう気配すらない。
「なぜだ。なにゆえ、十二凶がやられた。我が直々に生み出した眷属であるはずだが……」
「恐れながら……十二凶様、その三人を討ち取ったのは……災厄の魔女でございます」
災厄の魔女という名前が出た途端、玉座の者は顔を顰めた。
「我が復活する二百年の間、あいつは何をしていた?」
「……災厄の魔女も、魔王様と同じように復活する機会を伺っていたようで……」
「……我を倒した後、何者かに倒されたというのか。信じられぬ。あの女を倒せる化け物がいるのか」
玉座に佇む存在は……魔王と言われた。そう言われるだけあり、他者とは魔力の質が全く違う。
量も数倍、数十倍を保有しており、全身から迸っている。
「災厄の魔女は魔王様を倒された後、他の魔族も壊滅させました。しかし、その強さを恐れた人間により、背後から頭蓋骨に剣を刺され、死亡をしています」
魔王に対し、一人の魔族が災厄の魔女について説明をした。彼女は魔王を倒した後に、人間によって殺されてしまった。
それが真実であり、災厄の魔女が人間を恨む理由でもあった。
「死亡したのか。なるほどな、人間を守ろうとして人間に殺されるとは皮肉なものだな。しかし、大樹を息をすように生み出し、作物も当然のように実らせる神のような化け物が……人間に殺されるとはな」
「しかし、その後、脳天を切り刻まれ……全ての肉片を燃やされた魔女ですが……、驚異的な再生能力によって、灰から蘇りました。しかし、流石に魔女といえど再生には二百年をかけたようですが……」
「……そこまでされても蘇れるとはな。化け物ぶりは健在か」
「魔王様も災厄の魔女に倒され、肉片となっていたと言うのに復活をなされています。さすがは魔王様」
魔王もまた、極限の状態から復活を果たしていた。しかし、魔王の場合は、魔女によって倒された肉片一部の魔族が持ち帰り、錬金スキルや再生スキル、回復スキル、などを使い、再生させたのだ。
魔王も魔女も驚異的な生命力と、ステータスによってなんとか生き延びていた。
「そうは言うが……【十二凶】もすでに三体倒されたか。やはり魔女は侮れんな」
「そこでご報告なのですが……災厄の魔女と同じ容姿を持つ人間も確認しております。その者は魔女と同じような能力も持っていまして」
「……あの魔女と同じような人間……。すぐに叩き潰すしかあるまい」
「ご安心ください。人間社会からはすでに孤立しており、さらに孤立を深めるように策を練っております。魔女と同じように人間により、殺されるように……」
「……そうか、人間を上手く使え。下等な種族も、争わせ混沌をもたらせば、魔女も動きにくかろう」
──魔王はそう呟き、魔族の手下に再び命令をした。
「災厄の魔女と、その酷似した人間を潰すように動け……」
◾️◾️
妾は都市クスロの時計塔の上で、ミクスという男を見つけた。妾としては、シエラがどうなっているか気になっておったが……
その前にこの男も、注意しておかなければの。
シエラはこの男と恋仲と言っておったが……普通に考えて黒髪青目の女を好きになる男はいない。
妾は二百年前に殺されて、復活した。復活をしてから、妾が自身が災厄の魔女と言われ、世界を滅亡に導いたなどと言い伝えられており、驚愕した。
まさか、ここまで人間が妾を裏切ってくるとは……
だからこそ、妾と同じ見た目を持っているシエラが愛されているはずがない。きっと、あの男はシエラを利用しているか、何か他にわけがあるんじゃろう。
「……祭りが終わったら、少しお茶でもどう?」
なんじゃと……? 妾をお茶に誘うじゃと……? シエラと付き合ってるわけではないのか?
恋人がいるのに、別の女をお茶に誘うじゃと……? 妾も利用しようとしておるのか?
それとも……この男、気が多いのか?
「……浮気か?」
「違う」
まぁ、黒髪と青目の女を好きになっているわけがない。妾にも擦り寄って利用しようとしておるのかもしれん。
「単純に仲良くしたいだけなんだ。魔族とかも対策するのに共闘とかも出来るかもしれないし」
「妾は共闘などするつもりはない」
「……そ、そうか。でも、シエラ気にかけてるみたいだし」
「別に気にかけておらん」
気にかけておるのは事実だが、それがバレると弱みにつけ込まれるみたいになるからの。
「うーん。でも、リーネも悪い人には思えないし。協力して欲しいんだ。無論、俺達も助ける」
「……そう言って以前も裏切られたの」
「そうだったのか。でも、俺は裏切ったりしない。どちらにしろ、魔族は共通の敵だからさっさと片付けた方が良くないか?」
「いや、魔族を滅ぼすなら妾だけでも出来る。しかし、人間もついでに滅ぼしたいのでの。両方とも共倒れしたところを狙わせてもらおうか」
「それって……言わない方がいいんじゃ」
「……」
そうか、言わない方が良かったのかの……。
「取り敢えず、落ち着いたら一回ゆっくり話さないか?」
「……はぁ、意味がないことと思うがの。それにお前には恋人がおったじゃろ」
「いや、これは浮気とかじゃないしな」
「そもそも、本当に愛しておるのか? 利用をしようとしておると思えるが? 黒髪に青目の女を好きになる理由があるのかの?」
「うーん、俺は別に黒い髪も青い目も嫌いじゃないからな、後、シエラ顔が可愛いし……」
……あ、そう。
いや、別に妾が褒められたわけじゃないが? なんともいえない気分になるの。
「あと声とか……あと……いや、なんでもない」
「体か? 体がいいんじゃな?」
「……いや、まぁ、顔も体も声も、あと性格とか」
「……そうか、まぁ、そうか……」
なんじゃ、こいつ……よく舌が回る男じゃの。嘘であると分かりきってしまうの。そうは言ってももう少し詳しく聞いてやるかの。
「まさかとは思うが、キスとかはしてないじゃろ?」
「……まぁ、それくらいはね。恋人だし」
「……え、えぇ!? じゃ、じゃあ、舌は入れたのか……?」
「まぁ」
「……あぁ!! そ、そんな事にまでなっておるとは……」
そ、そうか、そこまで行っておるとは。随分と嘘を突き通すために色々をしておるようじゃの。
「むっつりか」
「ち、違う! 妾は単純にお前が騙しておるじゃろうと思って」
「シエラと同じでむっつりか」
「だから、違うと言っておるじゃろうが!」
この男、妾をむっつりとか言い寄って……。妾が本気を出せば、一瞬で粉々にできるんじゃがの。
「さて、俺は一旦用事があるから」
「なんじゃ、用事とは」
「……まぁ、色々とね」
「ほう、悪だくみか」
「違うって……魔族が居るから、探してるんだ。多分、シエラを狙ってるからさ」
「……そうかの」
「恋人だしさ。傷つけるわけには行かない」
こいつ、本気でシエラが好きなのか……? 黒髪青目じゃろ……?
いや、もしかしてそういう性癖の可能性がある? 世の中には色々な変態がいると聞くが、こいつもその類かもしれん。
となると……
「それが終わったら、お茶しよう」
妾も狙われておるのか……? シエラだけではなく、妾も恋人の一人でもするつもりなのか?
節操なしなのか……?
はぁ、どちらにしても、こやつからもう少し話を聞かんといけん。十二凶の一体を倒したのはこの男、シエラもこの間よりはるかに強くなっておった。
理由も聞かなければならんしな。
仕方あるまい、茶に付き合ってやるかの。
「ほれ、男、魔族ならあそこにおるぞ」
「え? わかるの?」
「妾くらいになればの。仕方あるまい、少し話を聞いてやる」
本当に仕方あるまい、さっさと魔族は消してもらうとするかの。その後は仕方あるまい、茶に付き合ってやるかの。




