第46話 邂逅する王子
──また、私は見知らぬ場所に立っていました。
「ミクスさん……どこですか?」
隣にはいつも一緒に居るはずのミクスさんが居ませんでした。これは、きっといつもの夢だ。
妙に生々しく、いつもいつも最悪な景色しか見えない、あの夢だ。
「初めまして。私はレオナート=ヴァルグレア。今回は助かりました。あのままでは私は魔族にやられていたでしょう」
「……いえ。別に……それでは」
大きな町、いや都市でしょうか。人も沢山歩いていたり、私や彼に注目をしている人が沢山います。
レオナート=ヴァルグレア。確か隣国の第一王子の名前でしたか。
なるほど、確かに高貴な服装に身を包み、後ろにも沢山の近衛騎士と見られる人達が佇んでいます。
これは、もしかして、交易祭の夢なのでしょうか。他国の王子が来るとかなんとかミクスさんも言っていましたし。
私はどうやら、他国の王子様を魔族から救ったようで感謝をされています。
「本当に助かりました。ぜひ、お礼がしたいところ、あなたの名前はなんと言うのですか?」
相当に感謝をされているようですが、王子の後ろの騎士や付き人は怪しむような視線を向けています。
「王子、あまりこの者と絡むのは控えた方が」
「……この方は私の命の恩人だ。そのような言い方はするな」
「しかし、この者が魔族を操ったのかも知れませぬ。王子に取り入るために。最近、黒髪に青目をした女が魔族を引き連れると言う事件もあるとか」
「……ただの噂に過ぎないだろう」
私はどうやら、他国からもあまり良い印象が持たれていないようですね。
災厄の魔女の噂は隣国にまで響いているのですか。魔女が現れたのはこの国であって、そちらの国ではないのですけどね。
ただ、こうも嫌われていると
ますます、ミクスさんが私に対して酷い仕打ちをせずに、守ってくれたので聖人に思えます!
毎度の思うのですが、私の彼氏かっこよすぎ……
「あの、私はもう、これで……」
夢の中の私も、毎度思うのですが目が死んでます。この夢、見るたびにその目の死に具合が深くなっている、ような気がするのは気のせいではないのでしょう。
──足早に私はその場所を去る。
そして、また景色が切り替わります。
目の前では、とある小屋に大量の死体が転がっていました。
「は……?」
夢の中の私も、いきなりの衝撃な光景に思わず声を出してしまっていました。頭と体がバラバラになっており、何人が死んでいるのかは分かりません。
しかし、少なくとも10人弱は居るように見えました。
「な、なんだこれは……誰の倉庫だ!?」
「リューゼン家の倉庫ではないかこれは……」
「黒髪、青めの女……」
ざわざわ、と私が発見したタイミングを狙い澄ましたように人が集まってきました。
そして、誰もが私に対して疑惑を目を向けていました。
「ち、違います。私は……」
弁明をしようとしますが、そこで私は下を向いて黙ってしまいました。そして、その時の顔は泣いてるわけでもなく、怒ってるわけでもなく、無表情でずっと、俯いていたのです。
──この時、なぜ私が弁明をやめたのか、その理由がすぐに分かりました。
この状況に何を言っても無駄だから。何を言っても私のせいになるし、何も言わなくても私のせいになる。
だから、黙っている方がまだ、疲れないし、無駄なこともない。
「──ちょっとまってください」
その間に、聞き覚えのある声が割って入った。視線を向けると、見知った存在がありました。
ユルレ・リューゼン。
リューゼン家のお嬢様であり、私を交易祭に誘った人です。彼女が私を守るように、私の前に立ちました。
「この場はリューゼン家で預かります。また、彼女が犯人であるならば、第一発見者となる事は避けるでしょう。それに、もし殺しているのならば、彼女の見た目がある以上、どう考えても逃亡するでしょう」
彼女は淡々と評価を下し、周りを黙らせました。気づけば一才の音が聞こえて来ず、噂話も、咳ばらいすらも聞こえません。
「勝手に犯人を決められると、こちらとしても処理に困ります。誰がやったのか、なぜ、このようなことをしたのか、我が家で調べます」
淡々と、事実を告げて彼女はその場を収めた。そして、人々を散らした後、私の手を握り、連れ出すように歩き出しました。
「ちょっと、付き合って」
足取り軽く、彼女は歩き出すと人通りが少ない場所まで走っていきました。そして、置いてあったベンチに座りました。
横並びになり、暗い顔の私に対してユルレさんは笑顔でした。
「大丈夫? ほら、パンでも食べて」
「……いえ、今は……」
「そうだよね……。一応、僕はシエラさんは犯人じゃないと分かってるよ。あれはどう考えても、シエラさんを陥れるための罠でしょ」
「……そうですか」
「……うん、大丈夫? 心ここに在らずって感じが……」
「大丈夫です。こう言うの慣れてますから……前も、こう言うのって何回もありました」
あぁ、そっか。今でこそ、そう言う経験の記憶が薄れつつありますけど。でも、こうやって嫌がらせされるの多かったですもんね。
猫の死骸が寝る場所に置いてあったこともありますし。
「そ、そっか……で、でもさ、人生きっと、良いこととかもあると思うし。そのほら、う、運命の人とかもあるって言うしさ。シエラさんは恋愛とか興味ある?」
「……私を好きになってくれる人はきっといないです」
「そう、かな? シエラさんは素敵な人だから、きっと……」
「そうですかね。まぁ、興味は正直ないです。逆に、ユルレさんはどうなんですか? 貴族ならお見合い結婚とかありそうですけど」
なんだか、この光景は以前にも見たことがある気がする。私がユルレさんに、恋愛の話をすると、彼女は気まずそうにしながら語り出した。
「あ、あのさ……別に自慢とかじゃないんだけどさ……」
「あ、はい?」
「僕、結婚することになってさ」
「そう、ですか。おめでとうございます……」
「うん……だから、ごめんね。この間、一緒に別の町に旅行に行こうとか話したけど、難しくなりそうなんだ」
あぁ、そうですか。これは以前にも見たことある光景ですが、ここにつながるのですね。
あの時の、リューゼン家にてユルレさんが死んでしまう夢は、この後の話だったと言うわけですか。
──そこで、私ははっと目を覚ました。
隣にはミクスさんが寝ていました。その事実に安心し、ほっと一息をつきます。私は汗を大量にかいており、目覚めはあまり良くありませんでした。
「あれは、ただの夢ではないのかもしれないですね……」
私は暗い気持ちを消すために、隣で寝ているミクスさんのほおを触りました。その後は、頭の匂いを嗅いだり、首を舐めたり、匂いを嗅ぎながら愛撫をしたりして、なんとか精神を回復させました。
はー、ミクスさんが隣で寝てくれるだけで幸せです。これは最高過ぎて大抵のことはなんとかなります!
最近は同じベッドで寝てますから、多少のスキンシップはして当たり前ですから。恋人なのでイチャイチャも当たり前です。
怖い夢を見たと思えないぐらい気持ちが爽やかです。私の彼氏に文句も不満もありません。
あ、た、ただ……1個だけ気になるのは
私の理性がいつまで持つのかと言うことです。一緒に寝ていると足が当たったり、匂いが近くなったり、すごーくゾクゾクするのです。
これ、いつまでもつのか自分でも分かりません。正直ここまで襲わないで居た自分が偉過ぎて褒めてしまいたいです。
でも、私の都合にこれ以上ミクスさんを突き合わせるのを忍びないですし……。
『あぁぁぁぁ、だめぇぇぇ』
『へへへ、ここがええんやろ』
相変わらず、狐どもの喘ぎ声が聞こえてきますし。はぁ……これは多少、私も誘惑とかした方がいいんでしょうか。
ミクスさんも欲求がない訳じゃなさそうですし。
──交易祭なら、えっちな下着とか売ってるでしょうか。
夢の内容も気にしつつ。エッチで誘惑する下着も買う方向で祭りを進めていきましょう。
私は、そう決めると再び寝るのでした。




