第5話 フォックス!!
俺が普段拠点している場所
ヌルの町に到着した。夜なのだが、なんとか無事に到着する事ができてよかった……
いやね、夜になると視界が悪くなったりするし、さっさと町に明るいうちに本当は入りたかったんだよね。
休憩はとったけど、大分急いだと思うんだよね……なのに夜に着いてしまった。
結構急いだんだぞ? でも、村の人とシエラが結構長めに話してるからさ。特にヨイって幼女がやたら長いこと話してるからさ……
『お姉ちゃん、恋話しよう!!』
『え、えぇ……ま、まぁ、いいですけど』
『あのかっこいい人は、お姉ちゃんのゴニョゴニョ』
『うわああああ!!?』
すっごい長いこと話してたよね……アニメではこんなに長いことなかったんだけど……
「ふぅ、なんとか町についたな」
「あ、ありがとうございます! ここまで護衛とかも」
「いや、気にしないでくれ。取り敢えず、今日はここで泊まってから明日また出発しよう」
「はい!」
モンスターとかもそれなりに湧いていたが、それらはちゃんと討伐しておいた。まぁ、これでもBランク冒険者だからね?
「いえ、気にしますよ!! ミクスさんって……最近Bランクになったんですよね? な、なんか、アルドさんとかより、強そうに見えるというか……本当はもうちょっとステータスとかも上なんじゃ……」
「ははは、それは過大評価さ。俺はそこそこBランク。これより上には行けそうにないかな」
この世界、冒険者なんて荒くれ者が存在してるわけなんだけど。普通国がそんな力を持っている集団を野放しにするわけがないんだよね。
だからこそ、というべきか。高ランクになると貴族になれとか、貴族と結婚したらという誘いが来たりする。
それがAランクくらいから頻繁に声をかけられるようになるらしいからな。そういうのは面倒なのでこれ以上は上げるつもりもない。
「さて、話はこれくらいにしてさっさと入ってしまおう」
「は、はい!」
ヌルの町はかなり大きな町なのだが、それ故にちゃんと門番がいる。Cランク冒険者とかだったかな?
俺達が町に近づくと入り口に立っている冒険者二人が通せんぼをするように立ち塞がる。ここって結構大きい町だから、門とか町が壁で囲われてるんだけど……
住民がその分多いから、門番厳しいんだよね。俺は基本ここで寝泊まりしてるから顔見知りみたいなもんだけど。
「どうも、レイスさん」
「お、ミクスさんですか? 今日もお疲れ様です」
「通っていいですか? 隣の子も知り合いなので一緒に」
「ふむ、まぁ、ミクスさんはいいですが……一応、フードをとっていただけますか?」
門番のレイスにそう言われると、シエラは少し震えながらもフードを外した。するとレイスともう一人の門番はギョッとした表情となる。
確かアニメでもそんな感じだったな。どの町でも、なかなか入れてもらえない。
あれ、そう言えばヌルの町で一晩休もうとしたけど……入れなかったんじゃなかったっけ?
門前払いされて、仕方なく野宿したとかなんとか……
「黒い髪に青い瞳……名前は?」
「え、えとシエラと言います……」
「……ふむ、君も町に……少々お待ちください。我々は冒険者でギルドからの依頼にて、門番をしているものですから……怪しいものをそう簡単に入れるわけには」
「あ、は、はい」
黒髪青目って、本当にこういう差別されるから可哀想だよね……
アニメの時だと……こういう主人公にヘイトが向く時間、ヘイトが溜まる展開とかって
──回想とか、ダイジェストで終わるんだよな。
急に主人公がいちゃもんつけられて、殴られまくったり、殴られました、あれは辛かったですみたいな。
確か、この作品って追放ざまぁ作品ではあるけど。毎回主人公はちゃんと傷つくんだよな。
多分、ざまぁをスカッとさせるためのヘイトを貯める時間なのはわかるんだけどさ。
それが結構、ダイジェストとかでエグいから肌に合わなくて1クールでアニメ見るのやめたんだよな。
確か、動画サイトの解説動画で見たけど元の原作小説だともっといじめ描写とかエグくて、アニメで規制入ったり緩和したりしたんじゃなかったっけ?
……えぇ、緩和されてあれなのかよ。じゃ、もうアニメ観れねぇよ!!! もっとゆるふわと思ってたわ!!!
そういえば、さっきの村でも救ったのにまだ嫌な顔する村人とかもいたな。あれって、原作小説だとそういう展開だったのかも……俺が見たアニメではカットされたのかなって。
おっと、そんなことを言ってる暇もない。
もう、単純に可哀想だし見てられないんだよ。俺って日常系のアニメが一番好きだったしね。
ほんわかしてる空気感が好きだからさ。こういう可哀想な感じはやめてよ。
「いや、彼女は大丈夫ですよ。俺が保証します」
「ふむ、ミクスさんがそういうなら……まぁ、大丈夫でしょう」
「ちょ、ちょっとレイスさん。いくらなんでもそれは……そもそもこの人は誰なんですか?」
俺の顔見知りのレイスさんは、もう通ってもいいよという感じらしい。だが、もう一人はちょっと疑っているようだ。
「【黄金】のミクスって名前くらい聞いたことはあるだろう? それがこの人なんだ」
「……Bランク冒険者のッ!? 錬金スキル使い……では、この人がAランクにもなり得ると言われてる……」
「この町でも、ミクスさんの弟子が沢山いるだろ。錬金スキルは使い手が少なく、それ故に指導者も少ない。さらに仮に指導者を雇うとなると高額の金がかかる……そこでミクスさんが他の錬金スキル保持者を指導したほどだ。ギルドも重宝している人間だ」
「──ミクスさん!? そ、そんなこともしてたんですね!」
いや、シエラも驚いてるけど。まぁ、そんな大層なことはしてないんだけどね……
俺としては簡単にいうと仲良くするための、挨拶みたいなもんなんだ。この町はそれなりに大きいから、内情とか知りたかったし、それに他の錬金スキルの使い手とかからの情報が欲しかったからね。
正直、情報交換の一環だったんだけどね。
もっと言うと……錬金スキルの使い方を教えたと言ってもポーションとか、モンスター避け道具、魔力回復ポーション、冒険用のバッグとか。初歩の初歩的なのの作り方教えただけだぞ。
普通に作り方とかって本とか売ってるし、そう言うのをじっくり読めば分かるんだけど……ちょっと本を再解釈とかすれば分かる内容なんだけど……
「なるほど……貴方が【黄金】でしたか。それでしたら、通ってください」
「ミクスさん、お時間取らせました。それとウールがまたご意見が欲しいと言ってましたので、またお時間あれば」
「いえいえ、こちらこそ。ありがとうございます。ウールさんには時間取らせてもらうとお伝えください」
ウールって、前にスキルの使い方を教えてあげた冒険者の子か。あぁ、レイスとは同じパーティーだったっけ。
それくらいはいいか。
「ミクスさん、あ、ありがとうございます。ミクスさん居なかったら……た、大変だったなと」
「気にしないでいいから。ああいうのは時間の無駄だし。そもそもここに寄らないといけないのは俺の事情だしね」
「……ど、どうも」
うーむ、俺としてもおこぼれが欲しいと言うもあるけど……普通に可哀想って言うのもあるんだよな。
追放アニメ世界って気づく前から、同じパーティーメンバーとして過ごして可哀想だなって思ってたし。
「私、迷惑かけてばかりで……すいません」
「助け合いさ。それにシエラが笑ってくれた方が嬉しい。悲しむところなんて、見たくない」
「ええ!?」
うむ、まだこの子15歳でしょ……。俺が中学3年生の時、もっと馬鹿だったぞ。あまりに自分と境遇違いすぎてさ。
無論、あまり入れ込みすぎても危険だな。この子は成り上がっていくから、ずっと一緒にいたら受けられる恩恵も計り知れないだろう。
やっぱり思うけど、あまりに目立ちすぎるとお金もらえるけど、それ以上に厄介事が多そうなんだ。
年収1億円と年収700万。どちらが良いかと聞かれて、大抵は前者と答えるだろう。
だがしかし、働く日数や時間が、前者だとあまりに多くなる場合は別だ。700万でも十分生活できるし。ワークライフバランスがしっかりしてれば自分の時間も使える。
俺は食べ物の研究とかもしたいからな。そこそこ、Bランク維持して、おこぼれを貰ったらどこかの小さめの町に移住したい。
それでBランクで、顔だけはミクスは良いから結婚できるだろうし。そんな感じでゆるーく暮らしたい。
世界の危機とかあるかは知らんが、それなりにこの世界は敵がいたはず。それはこの子がなんとかしてくれるだろうしな。
だからこそ、それくらいまでは面倒見てもね……
「夜は遅いから、今日は俺の部屋に泊まっていきな」
「えええええ!?」
この子、基本どこも泊めてくれる場所がない。だから、町とかだと適当な場所で座って寝るらしいけど……財布か何か盗まれるのも多いらしい。
いや、ええて。そういうのは……早く他国の王子様とかSランク冒険者とか貰ってあげて。
しかし、これだとまるで俺がやらしいことをするために部屋に誘っていると誤解されかねない。
「あぁ、大丈夫。やらしいことはしないから」
「……そうですか……しないんですね」
ふっ、急に落ち着いたようにテンションが下がったな。我ながら、紳士過ぎるだろう。
全然関係ないが、そのうちに世界の聖女とか、豊穣の女神となった彼女を昔救ったんだよねと自慢話をすることもできる。
将来的に間接的に虎の威を借りることもできるからな。
◾️◾️
宿屋に到着し、2階の左端の部屋に入った。ここが俺の部屋なのだ。シンプルにベッドと机とかあるが綺麗だし、まぁまぁ広い。
俺の家は普通に宿屋の一室なのだが、それを借りている。これは実は先ほどもあった、錬金スキルの情報交換をしている際に良い宿屋がないかと相談していたところ、ここを教えてくれた。
いやー、この宿屋結構良い場所なんだよな。
やはり人と縁を紡いでおくのは大事だ。まぁ、だからと言ってただ働きはごめんだからね。
シエラと俺の違いはそこだろうな、この子は100の善意で動く、俺は先を見据えた打算で動く。
「まぁ、それなりの場所だから」
「す、すごい立派な場所ですね……」
「借りてるだけだけど」
一室の部屋を開ける。すると、家から黒い毛並みの狐が飛び出してきた。
「コンっ」
「ブラック、ただいま」
「ミクスさん、その子は!?」
「家族だ。モンスターのダークフォックスなんだけど。懐かれたから、家の門番として飼ってる」
本来、モンスターは駆除対象なのだが俺みたいにテイムしている場合だと、家族として迎え入れる場合がある。
「か、可愛いですね……」
「コン!!」
「うわ!? ちょ、ちょっと警戒されてますか?」
「誰でも警戒するんだ。錬金スキルの家だと盗人が多いからね。全員誰であろうと警戒するんだ。でも、大丈夫、俺の反応を見て警戒を解くから……俺のブラックはすっごく頭がいいんだ。IQ53万なんだ、おーほっほっほ」
「……そ、そうなんですね?(急に令嬢みたいな笑い方……ど、どうしたんでしょう? そもそもIQとは?)」
ふ、この宇宙の帝王のような笑い方は異世界人には分からなかったらしいな。前世の知り合いである山田くんも笑わなかったけど……これはすごく面白いんだがな。
「コン……」
「ど、どうも、シエラと言います」
「コン」
「あ、えと、同じパーティーメンバーで……お世話になっておりまして」
「いや、ブラックにそこまで仰々しく挨拶しなくてもいいけど」
ダークフォックスというモンスターだが、黒い毛並みが特徴なのでブラックという名前にしてる。
それと頭が良いとは言ったけど、そんなに頭下げなくて良いよ。ブラックも調子に乗って、前腕をシエラの頭に乗せてるし
「こ、これは認められたってことでしょうか!? なんかポンポンってちょっと馬鹿にされてるような気もするのですが!?」
「……多分、俺の手下と勘違いしたんだろうな。ここに来るのって基本錬金スキルを覚えてる人しか来ないから」
ブラック、この人はお客さんだから。
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