第45話 ユルレはメンタルが強い
「あーーーーー!!!! また来た!!」
「いぇーい、また来ちゃったー」
パンを焼き終えて、影に格納をしたあと俺は宿屋へと戻った。
ユルレも無論ついてきたので、案の定シエラとユルレが喧嘩みたいになるのだった。いやまぁ、喧嘩というか修羅場というか。
俺もシエラの彼氏である以上、あんまり異性との絡みは無くすべきなんだよな。
「あ、ここがミクス様とシエラさんの愛の巣かー」
「知ってますよね? 前も来てますし。それに愛の巣なので部外者は消えて欲しいのですが」
「ふーん、まぁ、僕の家の方が立派かな。それに僕の方が可愛いし」
「わ、私の方が可愛いですけど? 黒髪青目ですけど……」
シエラ、そんな所で不安にならなくてもいいんだぞ。
「俺はシエラの黒髪と青目も好きだからさ」
「きゅんとしました。これは……恋人の絆の勝ちです!」
「いいなー、僕もきゅんとしたいなぁ」
「他の貴族様とかとしてどうぞ?」
「それがさ、お父様がミクス様を本当に気に入っちゃってるから断ってるんだよね。どうにからならないかな?」
「なりません。どっか行ってください」
シエラは本当にユルレが苦手のようだ。さて、ユルレもここに無駄話をしに来たわけではないのだろう。
いやまぁ、多少はするつもりだったのかもしれないが、他にもあるだろう流石に。
それに、俺もちょっとルディオのことを聞いてみたいとすら思っている。
「ユルレ」
「はい? どーしたの?」
「ルディオって、弟がいるのか?」
「……居るけど、それがどうしたの?」
そうか、やっぱり居るよな。アニメでもチラッと話していたし、先程も何か気にかけるような雰囲気を出していたし。
「いや、少し気になってな。どういう人なのか知ってるか?」
「うーん。ミクス様が知りたいっていうなら教えてあげてもいいけど。その代わりデートして」
「はい、ミクスさん。この話は聞く価値がありません。それとユルレさんもさっさと帰ってくださいね」
シエラがユルレの腕を掴んで、勝手に宿屋の外に出そうとしている。
まぁ、デートとかをするつもりは全くないけども。しかし、少し話は聞いておきたい。
何らかのストーリーに関する人物な気がするし、この作品の最後を俺は知らない。
だから、知っておきたいのだ。そもそも、この世界を作った作者は、結末はハッピーエンドにするとか言っていたと聞いたことはある。
でも、急に路線変更する人も居るだろうし。また、ハッピーエンドにするとか言っててどんでん返しする人も居るかもしれない。
また、俺が居ることで何かしら原作が変わる可能性がある。というかシエラに関してはだいぶ変わってるし。
「デートはしないけど、話は聞きたい。この間の恩もあるだろ」
「えー、それ言われちゃうと弱いなぁ。じゃ、話すよ」
まぁ、前回頼まれ事を聞いてあげたからね。これくらいは返しても欲しいものだ。
「あぁ、助けたからな」
「体で返してもいいんだけど?」
「吹き飛ばしますよ。首を」
「いや、怖いなぁ。魔力が凄まじいくらい荒ぶってるよシエラさん」
た、確かにシエラの魔力がとんでもなく荒ぶっているのが分かる。頼むからシエラを刺激するようなことは言わないでくれよ。
この子はもう、ラスボスをステータスだけなら多分超えている子だぞ。
ってか、ユルレはなんでそんなヘラヘラしてるんだ? あの魔力が怖くないのか?
「あ、ミクス様。僕は魔力量の威圧は慣れたから大丈夫だよ」
「はい、では次は関節技決めますね」
「あ、ちょ、やめ、痛い痛い痛い!!? ご、ごめんって、彼氏誘惑してごめんって!!」
あ、流石に関節技を決められたら焦るようだ。お、あの関節技は前に俺が教えてあげたやつだな。
なんて、感心してる場合じゃないか。さっさと情報をもらおうか。
「そのまま話してくれて構わないんだけど、ルディオの弟はどんな感じ?」
「ちょっと!? 彼女どうにかしてくれる!? それから話をするって! 先に彼女をどうにかしてって!!」
あ、そうか、関節技を先に解いてあげないといけないのか。
「シエラ、少し緩めてあげて」
「はーい」
「ちょっと!? 全部、全部解いて!!」
──仕方ないので、一度全部解いてあげた。その後、お茶を入れて、パンなどを用意してあげた。
「わぁ、美味しそ。頂きます」
「それで?」
「焦らないでよ。今から話すから。ディオルド・ローゼンベルク様。現在は14歳、ルディオ様よりは1歳下だね」
「1歳下か」
「まぁ、年齢は下なんだけどね。才能とかにはルディオ様よりも……数段上って言われてるんだ」
へぇ、あのルディオよりも才能があるのか。マジか、って事は相当にステータスも高いって事なんじゃないか。
「ただ、ルディオ様のように外に出て冒険者活動とかしてないから、そんなに噂が広まってるわけではないんだけどね」
「なるほど。だから、俺やシエラが知らないわけか」
「まぁね。ってか、シエラさんベタベタだね」
現在机を挟んで俺達は話をしている。椅子に座っているが、隣にはシエラも座っており彼女はずっと俺の腕にセミのようにくっ付いている。
「まぁ、最近はこんな感じ」
「へぇー、ラブラブかぁ、羨ましいねぇ。まぁ、それは置いておいて。ディオルド様はマジで圧倒的らしいよ。現時点で、最もこの国で強いとすら聞くよ」
「そうか」
「まぁ、ミクス様も最強の候補ではあると思うけど。他にも強者は数名居るんだけどさ。その数多の強者の中の頂点の可能性と聞いてるって感じだね」
「……なるほど。何となく分かった気がする」
強すぎる弟に対するコンプレックスみたいな事だろうか。
ユルレにも噂が回ってるという事は、貴族内では割と有名な話なのだろうな。
そういう話が嫌でも聞こえたりするから、ルディオも色々と心理的に負担があるって訳か。
強くなる秘訣を焦りながら聞いていたのは、弟よりも強くなりたいとか、そういう思いだろうさ。
ユルレの話を聞きながら、俺的にそんな予想は立てて入るけど。こういうのは本人でないとわからないことか。
「僕が知ってるのはこれくらいだよ」
「そうか、ありがとう」
「あぁ、一つだけ、今度【武闘大会】っていうのがあって、そこに……そのディオルド様が出るらしいよ」
「……葡萄大会ですか。美味しそうですね」
「シエラさん、ちょっと黙っててくれる? 乳に栄養がいきすぎて頭悪いのは知ってるから」
「はい? おいこらぁ、ちょっと場を和ませようとした私の配慮が分からないんですか?」
「うわ、怖いなぁ。彼氏さん。彼女さんめっちゃ怖いですよ」
「わぁー、嘘ですー。私、超ゆるふわ彼女ですよー」
この子達、やっぱり仲が良いんだろうか。悪いんだろうか。よく分からないな。
さて、武闘大会ね。アニメではそんな話は出てこなかったから。2クール目の内容なのかな。
「さて、そんなゆるふわ彼女さんは置いておくとして僕が知ってるのはここまでだよ。悪いねこの程度で」
「いや、本当に助かった。因みにだが会った事はあるのか?」
「一回だけ、チラッと見たくらい? まぁ、ルディオ様と見た目は似てるから血縁だったら分かると思うよ。ルディオ様そっくり」
「そっくりかぁ。武闘大会見てみようかな」
「それなら案内するよ。っていうかミクス様が出場した方が面白い気がするけど」
そう言ってユルレはお茶を飲み干した。さて、俺も聞きたい話は聞けたし。
「ありがとう。お土産にパンでも持って行ってくれ」
「あ、さっき祭り用に買ってくれたやつだね。ありがと。ねぇー。また、家来なよー。使用人とか領民も喜ぶし」
「なぜ? 使用人や領民も」
「そりゃ、僕の夫が優秀な人ならそれだけ領地も潤うし、使用人は安泰な家に支えられるし嬉しいからだよ。ミクス様は魔族を取り押さえて、打破してる現在有名人だよ。是非とも我が家に来て欲しいって皆んな思ってるよ」
「へぇ。それなら行かないか」
「なぜ!?」
まぁ、俺は貴族とかと縁を結ぶつもりがないからな。そんな俺が行っても騒ぎを起こすだけだ。
「はい、さっさと帰ってくださいね。もう話は終わりましたし。お皿とコップ片付けますね」
シエラはもう話が終わりだから帰れと言いたげだ。もう片付けてるし。
「はいはい、今日は帰りますよ。それじゃ、交易祭でまた会おうねー!」
ユルレはそんなシエラの態度にニコニコ余裕の態度を示しながら、帰る支度を始めた。
ユルレは本当にメンタルが強いな。
──そして、ユルレは今日は割とあっさり帰って行った。
こうして、そこから時間は少し経ち……交易祭がやってきた。
遂に俺は他国の王子と会うことになるのだ。




